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第71話 坂の途中と、外での並び

朝、空は淡く曇っていた。

 光は弱いが、冷えはやわらいでいる。

 雪は残っていない。


 台所で湯を沸かす。

 火の音が、今日も同じように広がる。

 味噌桶の蓋を開けると、匂いが落ち着いている。


 縁側に出る。

 坂の上と下を、ゆっくり見る。


 戸の音。

 佐伯さんが外に出てくる。


 今日は、一人。


 こちらに気づき、軽く会釈する。


 「おはようございます」

 「おはよう」


 少しして、坂を上がってくる。


 縁側の前で止まる。


 「今日は、少し歩こうかと思って」


 少し意外な言葉。


 「どこまで」


 「そのまま上まで」


 坂の先。


 普段はあまり行かない方向。


 少し考える。


 「一緒に行きますか」


 言葉が自然に出る。


 佐伯さんが少し驚く。


 「いいんですか」


 「たまには」


 靴を履く。

 外に出る。


 冷たい空気が、少し強い。


 二人で坂を上がる。


 足音が二つ。


 並んで歩くが、

 少しだけ間がある。


 それがちょうどいい。


 途中で、子どもが下から走ってくる。


 「おはよう」


 私が言う。


 子どもが一瞬止まり、

 少しだけうなずく。


 そのまま通り過ぎる。


 「元気ですね」


 佐伯さんが言う。


 「そうですね」


 坂を上り続ける。


 息が少し上がる。


 でも、無理ではない。


 「こういうの、久しぶりです」


 佐伯さんが言う。


 「歩くの」


 「はい」


 少しだけ笑う。


 「前は、あまり外に出なかったので」


 風が通る。


 上に行くほど、空が近い。


 坂の上に着く。


 見渡せる景色。


 村の屋根。

 細い道。

 遠くの木。


 「広いですね」


 「広いです」


 言葉はそれだけでいい。


 少し沈黙。


 でも、苦しくない。


 並んで立つ。


 家の中とは違う並び。


 外の空気の中で、

 距離が少し変わる。


 「ここ、いいですね」


 佐伯さんが言う。


 「いいですね」


 同じ言葉。


 でも、少しだけ響きが違う。


 しばらくして、下りる。


 坂を下る足音。


 今度は少し近い。


 家が見える。


 縁側の戸が、少し開いている。


 「戻ってきた感じしますね」


 「しますね」


 それだけでいい。


 戸をくぐる。


 中の空気が、やわらかい。


 炬燵が、待っている。


 外で並ぶと、

 中での並びも、少し変わる。


 冬の村は静かだが、

 歩くことで、

 少しだけ広がる。

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