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第35話 学園へ

 食事後、キャーラが勤務しているランタンドン学園に向かった。ケーナが事前に入らせてもらえるよう頼んでおいたらしい。


 僕は歩くのに慣れてきて、ペンギン並の歩幅ではなくなり、多少は自力で動かせるようになった。


 それでも多少の手助けは必要だったけど。正門からだと多くの学生に見られる事になり色々面倒が起きそうなので、特別に裏門から入らせてもらった。


 チラッと学園の外観を見たが、小さな城が二、三個あるのかと思うくらい高い建物が並んでいた。


 裏門は豪華な正門とは反して、鉄の門があるだけの質素な外観だった。高い建物のせいで影になっているからか、油断していたら通り過ぎてしまうほど門の場所が分からなかった。


 けど、全身に鎧を装着した番兵が立っていたので、案外早く見つけられた。番兵は僕達を見るや警戒するように、持っていた斧を向けてきた。


「私はキャーラ学園長に会いにきました」


 ケーナがおしゃぶりを外して、そう説明するが、番兵は「立ち去れい!」と斧を振りかざそうとした。


「コラッ!」


 すると、門の方から鼓膜を刺すような尖った声が聞こえてきた。その声を聞いた番兵はたちまち斧を降ろして、姿勢を正しくした。


 ゴゴゴという音と共に門が(ふすま)みたいに横にスライドして開かれた。現れたのは、深緑のお団子頭で、丸縁眼鏡をかけた女性だった。衝撃的だったのは、下半身が蛇みたいにウネウネとした身体だった事だ。


 上半身は至って、胸元にリボンを付けたシャツというごく普通の格好で、その姿から察するに教員だと分かった。


 ケーナはたちまちおしゃぶりを付けて威嚇するかのようにチュパチュパしていた。丸眼鏡の女性は僕達を見ると、ペコリとお辞儀をした。


「うちの番兵がご迷惑をおかけしました。

 彼は誰であろうと門に近づく者には容赦なく攻撃してしまうので……。

 ほら、謝りなさい」


 丸眼鏡の女性に促された番兵は静かに頭を下げた。彼女はヨシッと満足した様子で番兵の頭を撫でた後、僕達の方を見た。


「ジャーメラです。この学園の教員をしています。

 ケーナ様とカース様ですよね?

 学園長から話は聞いています。

 ご案内しますので、付いてきてください」


 ジャーメラという丸眼鏡の女性はクルッと背を向けると、下半身をウネウネさせながら学園内に入っていった。


 僕とケーナは不安げに顔を見合わせた後、恐る恐る付いていく事にした。



 学園内は外観以上に広かった。まずは裏門から校舎に入るまでの間、庭と言うべきなのだろうか、ジャングルみたいに木々や草花で覆われていた。


 地面が土ではなく石畳で舗装されているから学園内だと認知できるが、それが無かったら完全に秘境だった。


 ジャーメラ曰く、侵入者を校舎まで入れさせないようにするためだと言った。


 このジャングルは『悪食(あく)い森』と呼ばれ、良からぬ事を企む悪者達が入ってくると、木が襲い掛かってきて食べてしまうらしい。


 逆にそうでない者は素直に校舎まで案内してくれるそうだ。ちなみに悪食(あく)い森に生えている植物は全て毒なので、むやみに触らない方がいいとのこと。


 だから、僕とケーナは寄り添うようにくっ付きながらジャーメラの後を付いていった。


 やがて、校舎らしき建物が見えてきた。石壁に取り付けられた扉以外全て木や枝で覆われていたため、見上げても校舎全体の大きさが把握できなかった。


 石壁には(つる)が巻かれていたり、苔が生えていたので、まるで古代遺跡に入っていくような心地だった。


 ジャーメラはドアの前に立ち、そこに付けられている輪っかをトントンと叩いた。


「誰?」


 すると、どこからともなくしゃがれたお婆さんの声が聞こえてきた。


「ジャーメラです。これからケーナ様とカース様を学園長室までご案内させます」


 彼女がそう言うと、「入ってよろしい」と勝手にドアが開いた。お先にどうぞと促されたので、ケーナと僕はゆっくり中に入っていった。


 しかし、真っ暗で何も見えなかった。唯一外への明かりが僕達の足元を照らしてくれたが、ジャーメラが入ってきた途端、急にドアが閉まって辺りは暗黒に包まれた。


 僕はたちまち怨霊達が襲い掛かってくるのではないかという妄想が働き、思わず奇声を上げてしまった。


「大丈夫ですよ〜! もうすぐ明るくなりますからね〜!」


 ジャーメラは僕の発狂に気にする素振りを見せる事なく、なぜか楽観的な言い方をしていた。


 すると、彼女の言う通り、いきなりパッと明るくなったかと思うと、いつの間にか長い廊下が広がっていた。


 洋館風の内装で、壁にランタンが等間隔で取り付けられていた。このランタンが全部ついた事によって、明るくなったのだろう。


「学園長室はこの廊下を渡った奥になります」


 ジャーメラはそう言って、真紅の絨毯が敷かれた床を歩いていった。僕はヨタヨタしながらも頭の中は疑問符でいっぱいだった。


 あの声は一体何だったのか。スイッチも無くランタンがついたのはどういう原理なのか。


 その疑問に答えるかのようにジャーメラが「ビックリしたでしょ。この校舎、生きているんです」と話し始めた。


「二年くらい前に王都襲撃で学園がメチャクチャになって、カーメラーに移設してから警備が厳重になったんです。

 侵入者から徹底的に守るために、魔法で校舎に自我を持たせ、生徒と教員の名前を覚えさせたんです。

 万が一それに該当しない者が侵入してもドアを開かなくさせたり、さっきみたいに真っ暗闇にして閉じ込めたりするんです」


 自我を持つ校舎――安全そうではあるが、もし暴走したらどうなるのだろうか。僕の心情を察して、ケーナがおしゃぶりを外して聞いていた。すると、ジャーメラはピタッと立ち止まると、ゆっくり振り返った。


「それを防ぐのも学園長の務めなんです」


 先程までの楽観さとは打って変わって、その声はどこか沈鬱さを感じられた。

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