第25話 お前のせいだ
クーナ処刑から一周間が経った。キャーラは教員の仕事があるので、王都に戻った。カローナはいつも通りに執務をしていた。
いや、そう過ごしているつもりだが、顔にはどこか陰がかかっていた。僕はケーナの所に頻繁に通うようになった。彼女の店はいつも繁盛していた。ケーナ自身は相変わらずおしゃぶりをチュパチュパしながら接客と調理を担当していた。
僕を見つけると、ケーナは喜んで案内して、とびきり美味しい料理を食べさせてくれた。
僕の心は変わらず空っぽのままだが、常に腹を満たしてくれる彼女に、感謝してもしきれなかった。
※
僕は気を紛らわせるために、奴らについて現時点で分かっている情報を整理する事にした。
〜怨霊について〜
・どういう経緯で怨霊が異世界にやって来たのか?
→前世で呪いのビデオを見たから
・なぜ怨霊が自分の命を狙うのか?
→正確な理由は不明。
『見ると死ぬ』的な呪い?
・怨霊の種類
①怨霊A→髪と舌が長い。無数の牙がある。脚が早い。首が180度曲がる。魔物を呼び出す能力を持つ(?)
②怨霊B→目が無い。無数の歯がある。おかっぱ頭とサスペンダースカート(トイレの花子さんっぽい)。キツネ風の手のポーズで、物を浮かせたり組み合わせたりして攻撃する。基本的に浮かんでいる。
・怨霊の共通点
①異世界の人には見えない(ただし、自分が怨霊の話をすると見えるらしい?)
②基本的に魔法や武術、剣術、弓矢は効かない(光魔法が有効?)
③透けている(壁や天井を通り抜けられる。基本的に掴めない)
④僕の前以外には現れない。
→だが、酒場の時は大勢の人間の前で大暴れしていた。個体によって違うのか?
・誕生から9歳までは怨霊Aがずっと監視するようにいたが、ビーラとの戦いの後、姿を消し、代わりに怨霊Bが現れた。
その後、三年ぐらいは現れず、クーナが酒場で歌った瞬間、怨霊Bが現れた。
最初は同一個体だと考えていたが、怨霊AとB同時に現れたので、別々の個体だと分かった。
もしかしてあの呪いのビデオには複数の怨霊が閉じ込められていたのか?
そうなるとまだ怨霊が……考えたくもない。
紙に一通りしたためてみると、改めて怨霊の恐ろしさが分かる。奴らを倒すには、光魔法が有効的か。今、僕はそれを取得できていない。
呪文を知っていても発動できないと考えると、何か魔法を発動するには詠唱以外に条件があると考えられる。
これを知るためにはやはり、王都にある学園に入学し学ばなければならないのか。
カローナ曰く、入学から半年前に試験があるから、この二年ぐらいは試験合格のための特訓をした方が大切だと言っていた。
だから、騎士の特訓が試験対策になるとも言っていた。頑張らないと。
※
そう思っていた矢先、コナがいきなり屋敷にやってきた。走って何度も雪で転んだのか、制服が泥で汚れ、雪解け水でビシャビシャになっていた。
僕はたまたま屋敷で雪掻きをしていたので、コナを見つけた時は目を丸くした。
「ど、どうしたんですか?」
僕はそう聞いてみたが、コナは睨んだだけでズカズカと屋敷に上がり込んだ。慌てて、僕も中に入る。
「カローナ! カローナ! どこにいるの?!」
屋敷中に響き渡る声で、カローナの名前を呼び始めた。すると、この騒ぎにカローナが飛ぶようにやってきた。
「こ、コナ? どうしたの?」
カローナが見るからに戸惑った顔をしていた。
「クーナのお墓はどこ?」
コナがそう尋ねてきた時に、ようやくここに来た目的が分かった。クーナのお墓参りか。恐らく国外研修から帰ってきて、キャーラにクーナが処刑された事を知って、超特急で馬車で駆けつけて来たのだろう。
カローナはまだクーナの処刑の傷が癒えていないのか、「案内する」と声のトーンが低くなった。
※
クーナのお墓は屋敷から少し離れた墓地で埋められた。墓石には『クーナ・カーメラー』と書かれていた。これを見ると、最後に会った夜を思い出し、胸が痛くなる。
コナは目を合わせるようにしゃがみ、「姉さん……」とか細い声で墓石を撫でていた。カローナも僕もジッと彼女の様子を見守っていた。
コナは顔を俯き、次第に身体を震わせていた。そして、急に立ち上がったかと思うと、僕を見た。
「全部お前のせいだ」
獣が唸るように言ったコナの双眸は、一緒に特訓してきた時とは比べ物にならないほど、憎悪に満ちていた。




