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第26話 道連れだ

「いきなり、何を言っているんだ?」


 突然の僕への敵対心にカローナは動揺した様子で、妹に聞いていた。コナはジッと僕を見たまま「コイツのせいで、クーナは死んだ」「私の家はメチャクチャになったんだ」と言って、制服のジャケットの裾から短刀が出てきた。


 小ぶりだが鋭利な刃がキラッと光り、それが自分の方に向けられていると思うと、ゾクッとした。


 カローナはすぐにコナがこれからやる事を察し、「馬鹿な真似はやめなさい!」と彼女の腕を拘束しようとした。


 が、それよりも僅か早くコナが動き出し、僕に刃を向けた。僕は転がるように横に飛び乗った。幸い雪があるおかげか、良いクッションとなって怪我にならずにすんだ。


 が、危機はまだ去らない。コナはすぐさま態勢を立て直して、また僕の方に向かってきた。すぐに逃げようとしたが、今度は雪が罠みたいに手脚の自由を奪っていた。刃は今にも僕を捕らえようとしていた。


「ハァッ!」


 誰かが叫んだと同時に、僕の目の前に短刀が突き刺さった。全身に鳥肌が立った。背後から「やめて! 離して!」とコナが叫ぶ声が聞こえてきた。


 どうにか立ち上がって見てみると、コナがカローナに羽交い締めにされていた。コナは「離して! 離して!」と子供が駄々をこねるようにジタバタしていた。


「弟に刃を向けるなんて、気でも狂った?!」


 カローナがそう言うと、コナが突然ピタッと動きを止めた。


「弟……? あんな呪いの子が?」


 呪いの子――その言葉を聞いた瞬間、悪寒がはしり、心臓がえぐりだされたのかと思うほど胸が痛くなった。


「……どういうことですか?」


 僕が声を震わせながら聞いた。コナはケダモノを見るような眼で睨みながら答えた。


「お前さえいなかったら、パパもママも姉さんも死ぬ事は無かったんだ! お前さえ家に来なければ、今頃あの屋敷で仲良く暮らしていたのに!」


 信じられなかった。コナは本当に僕を憎んでいるんだ。反抗期とかではなく、心の底から。ショックのあまり今にも倒れそうだったが、さらに追い打ちをかけるようにコナの僕への憎しみは止まらなかった。


「そもそも弟を養子する事が間違っていたのよ! 跡継ぎが欲しいから孤児を拾って……」

「黙りなさい」


 カローナの威圧するような声に、コナも怯えた様子で急に黙ってしまった。カローナはハッとなって、僕を見た。


「カース、今の話はその……」


 僕は何だか怖くなり、少しずつ後ずさりして、逃げてしまった。



 僕の脳内はコナの言葉が何度も再生されていた。


 養子? 跡継ぎ? 孤児?


 まさか僕があの家の本当の子じゃないとは。嘘だ。そんなの嘘だ。心の中でそう唱えながら街を抜け、森に入った。森も雪がかなり積もっていて、足場が悪く、うまく歩けなかった。


「キシャアアアアア!!!」


 すると、聞き覚えのある声が聞こえた。一瞬だけ背後を確認すると、髪の長い怨霊が駆けてきた。雪なんかものともせずに、ドンドン迫ってくる。


「ボラ! ボラ!」


 僕はすぐさま火の魔法を唱えて、雪を溶かして道を作った。ガムシャラに走った。とにかく森の奥へ奥へと走っていき、ついに崖まで来た。滝が流れている。どうやら下は滝壺らしい。このまま飛び込んだら思うと、ゾクッとした。


「ケケケケケ……」


 しかし、振り返るとヤツがもう来ていた。


「キシャアアアアア!!!」


 ヤツは飛び掛り、僕の首を()めた。苦しかったが、コナに言われた言葉に比べれば、大したことなかった。僕はジリジリと後退していった。すると、ヤツが絞めるのを止めて、ジッと僕を見てきた。


(まずい。気づかれる)


 僕はすぐさま後ろ向きで飛んだ。みるみるうちに落ちていく。この事態にさすがの怨霊も赤い目を丸くしていた。落ちているはずなのに、スローモーションのようにゆっくり感じられた。


 僕は目をつぶった。生まれてきてから、今までの思い出が走馬灯のように過ぎった。コナの言う通りだ。僕さえいなければ、みんな死なずにすんだ。


 クーナが命をかけて僕達を守ってくれたように、僕もこれ以上の死者が出ないように犠牲になるよ。


 だが、怨霊(おまえ)も道連れだ。キッと奴と睨んだ瞬間、滝壺に落ちた。眼もまともに開けられず、耳もうまく聞こえない。何より全く息ができない。


 しかし、ヤツは全然平気らしく、まるで魚みたいに滑らかに泳ぐと、また首を絞めだした。


「ゴハッ!」


 僕はもう呼吸が出来なくなった。


 でも、これでいい。僕が消えれば、怨霊も消えるから……。

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