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第24話 磔刑の歌姫

「大変だ!」


 カローナの叫ぶような声で、僕とケーナは目を覚ました。急いで声をした方へ向かうと、食堂にカローナとキャーラがいた。


「何かあったんですか?」


 僕がそう聞くと、カローナは青ざめた顔で「これだ」と紙を見せてきた。


「い、今から読み上げる……」


 カローナはかなり動揺しているのか、数回深呼吸をした後、そこに書かれている内容を読み上げた。



前略 

カローナ、キャーラ、ケーナ、カース、コナへ


 私のせいで、迷惑をかけてしまって、ごめんなさい。

 このままだと、みんなの将来が危うくなるので、私はこの国の習いに従います。

 これから大司教の所に行って、罪を認めます。

 もちろん、下される判決は決して軽いものではないと思います。

 でも、覚悟は出来ています。

 みんな元通りの日常を過ごすためならば、この命惜しくないです。



 二枚目は僕やカローナ達へ向けたメッセージが書かれていた。



 カローナ姉さん、常に領民や私達の事を気にかけてくださる尊敬する姉です。

 あなたがいればこの国は変えられると思います。

 どうか、変な思想に毒されず、権力に屈せず、立派な指導者になってください。

 キャーラ姉さん、私も学園の教員になって、これからっていう時なのに、こんな事になってごめんなさい。

 生徒や教員には事故にあって死んだとか適当な理由をつけてください。

 ケーナ姉さん、あなたはカースの母親代わりです。

 何があっても彼を守ってください。

 ですが、ほどほどにしてください。

 愛は行き過ぎれば、毒に変わります。

 周りの人も同じように愛してください。

 コナ、あなたはもう少し姉達と仲良く、特に弟ともっと積極的にコミュニケーションを取ってください。

 それが出来なくなったと感じた時には、もう手遅れです。

 カース、あなたは私にとってこの世で一番の弟です。

 こんな事になるんだったら、もっと一緒にいてあげたら良かったです。

 どうか自分を責めすぎないで。

 あなたの人生はまだまだこれからだから。

 いつまでも過去を引きずらずに、素敵な人生を送ってください。

 姉弟(きょうだい)全員で一緒に過ごしたピクニックが懐かしいです。

 ですが、それはもう叶いません。

 家族がバラバラにならない事を祈っています。

 クーナ。



 この手紙を聞いた僕は居ても立ってもいられず、飛び出した。すると、蛇のように長い人だかりが出来ていた。


 掻き分けていくと、先頭に大司教がいた。彼と同じ服を着た男達が付いていくように歩いた後、馬にまたがったクーナを見つけた。両手が縛られていた彼女は誰の眼も合わせずに揺れていた。


「あれが魔物の子か……」

「やっぱり、大司教様の話は本当だったんだな」

「じゃあ、カローナ様も魔物の子?」

「いや、大司教様曰く、それは無いらしい」

「という事は、養子か?」

「そうかもな」


 ヒソヒソと話す領民達の声が痛い。


(どんな手段を使ってでもクーナを助け出してやる)


 その気持ちを胸に一歩前へ出た――が、誰かに掴まれて、引き戻されてしまった。見ると、いつの間にかカローナが側で立っていた。かなり走ってきたのか、呼吸が乱れていた。


「正気か」


 彼女はそう言って僕を睨みつけた。


「今、飛び出したらクーナの覚悟を踏みにじる事になるんだぞ」


 この言葉に僕は衝動的に行動してしまった自分を恥じた。が、もどかしい思いは残っていた。



 クーナを乗せた馬は大広場まで来た。いつもは歌や踊りで賑わうこの場所も今日は葬式のように静まっていた。


 クーナは馬から降ろされるや否や、頭から液体をかけられた。匂いから察するに、油だろう。


 大司教の従者や騎士達が彼女を(はりつけ)にしている間、雪が降ってきた。半裸状態のクーナから白い魂が漏れているように見えた。


 そして、木に四肢を縛られたクーナは見せつけるように高く上げられた。足元には布や木が置かれ、従者の一人がまた油をまいていた。


「では、これより魔物の子の公開処刑を開始する」


 大司教が偉そうに声を張ると、従者と目を合わせた。中年の従者が松明に火を付けると、ゆっくりと近づいた。僕はこれから起こる悲劇を目を背けるように床に視線を逃した。


「……春になれば」


 すると、どこからか綺麗な歌声が聞こえてきた。見上げると、クーナが歌っていた。



春になれば

心は晴れ晴れ

笑顔で宴を開く

信じている事を

咎める事なく

争いは無くなる


雪降る夜は

孤独になり

不安に駆られるけど


後悔しないで

(ねた)まないで

憎まないで


殺意も嫉妬も自己嫌悪も

全て凍らせてあげよう


陽の光に暖められて

正しい自分に戻れるから



 まるで白鳥が死に際に鳴くような儚く美しい歌声だった。街の時間が止まったかのように、大司教や従者、領民達はジッと彼女の歌を聞いていた。


 すると、誰かが「春になれば」と口ずさめば、次第に連鎖していって、街全体に響き渡るような大合唱が起きた。


 昨日酒場で歌った陽気さは消え、今日はまるでお経を唱えているみたいだった。


「ええい、何をしている?! 早く火をつけないか!」


 我に返った大司教が声を荒げて従者に命じた。クーナの歌声に聴き入っていた中年の従者はハッとなって、慌てて松明を布に近づけた。


 火はメラメラと燃え上り、彼女の脚まで侵食してきた。これに領民達は小さな悲鳴を上げて、歌うのをやめてしまった。しかし、クーナは身体に炎を纏ってもなお、歌い続けた。



春になれば

雪は溶け

新芽が顔を出す

凍える寂しさも

震える悲しさも

雪解けと共に消える


春になれば小鳥は……



 僕はジッと燃えゆくクーナを見続けた。歌声は炎に包まれても聞こえていた。同じ歌詞を何度も繰り返しながら。次第に咳き込んだりする事が多くなった。声もドンドン弱まっていった。そして、何も聞こえなくなった。炎が消えた後に現れたのは、醜い塊だった。それを覆い被さるように雪は増していった。


 大司教や従者達は、「これでこの地に平和が訪れた」と手の甲で拍手をしていた。カチカチと鳴る拍手は、骨がぶつかり合っているように聞こえた。大司教が王都に帰り、僕とカローナ達がクーナの遺体を埋葬した頃には、辺り一面銀世界だった。これが魔物の子の祟りなのだろうか。

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