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閑話 ラインハルトの冒険 その2


 まだ多くの人が寝静まっている時間。

 ラインハルトとフェリはオルタスの町を出発した。

 目的はもちろんレッサードラゴンを討伐し、その素材を手に入れる為である。


「山を二つほど越えた辺りにレッサードラゴンはいるらしい。少し走るが構わないよね?」

『うん、もちろんだよ。ラインハルトの方こそ、付いてこれなくても知らないよ』

「ハハ、そうならないよう頑張るよ」


 山を2つ越えなくてはいけないというのは、トンデモなく大変なように聞こえる。

 しかしラインハルトは魔力を操ることで身体強化をすることが出来るのだ。

 それにより通常では考えられないほどの早さで移動することが出来、一時間と掛からず山越えを果たす。

 フェリも当然に同じようなことが出来るのだが、少し消耗した色を見せるラインハルトと違い、山越えした後も平然とした様子である。


「凄いな、フェリは」

『これぐらいは当然だよ。ラインハルトの鍛え方が足りないんだよ』

「それは手厳しい……これでも鍛練は欠かしていないんだけど、次からはフェリに手伝って貰おうかな」

『うん、いいよ。エリスを守ってくれるなら、僕は幾らでも手を貸すよ』

「ありがとう」


 会話をしながら少し休憩を挟んだ二人は、いよいよレッサードラゴンを探しに向かう……と言っても、フェリがその場所を既に見つけているのであるが。


『こっちにいるよ。戦闘する準備はもう出来てる?』

「ああ、いつでも構わないよ」

『分かった。それなら僕に付いてきて!』


 フェリはラインハルトを気遣ってから走り出す。

 そして目の前に現れたのはそびえ立つ崖であり、その崖下には大きな亀裂が走っている。


「あの中にいるのか?」

『うん、そうみたいだね。どうする? 中に入ってみる?』

「いや、それは止めておこう。洞窟内に住み着いているという情報もあったからね。準備はしてきているよ」


 ラインハルトは鞄から丸い玉を取り出す。


「ちょっと臭いがキツいから、フェリは離れていてくれるか?」

『何なのそれ?』

「臭い玉だよ。火をつけると魔物が嫌う臭いを放つアイテムだよ」

『何それ、サイアクだね……わかった、臭いが消えるまで逃げておくよ。それまでに殺られてしまわないよう気を付けてね』

「ああ、当然だ」


 ラインハルトはフェリが離れていくのを見届けてから臭い玉の導線に火を付け、崖の亀裂の中に投げ込む。

 しばらくすると亀裂から白い煙が溢れだし、そして中から叫び声がする。


「グキャアァァァ!」


 怒りに身を任せ地響きを轟かせながらレッサードラゴンが姿を表す。


「出たなレッサードラゴン。寝てた所を起こしたのかしれないけど、悪いが大人しく狩られてくれると助かる」


 ラインハルトは剣を構え、レッサードラゴンに向かい立つ。

 しかし怒り狂ったレッサードラゴンが大人しくするはずが無く、ラインハルトを敵と見定めて突進を始める。


「──っ、速い!?」


 見た目の大きさに反して素早い動きを見せるレッサードラゴン。

 翼を持たずともランクAに分類される魔物である。そう簡単に倒せる相手ではないのだ。


「くっ……まだまだ!」


 ラインハルトはレッサードラゴンの動きを止めようと、少しずつ足を狙い体力を削っていく。

 大きな体躯を支えるためには、それに見合うだけの筋力が必要になる。

 筋の一つでも断ってしまえば、レッサードラゴンは走ることが出来なくなるだろう。

 しかしレッサードラゴンの表皮は、ラインハルトの剣を通すことなく弾き返す。

 そしてラインハルトは何とか剣で交わそうとするも、レッサードラゴンの突進で弾き飛ばされてしまう。


「くっ……」


 明らかな劣勢でこのままではレッサードラゴンを倒すことは叶わず、むしろ殺されてしまうかもしれない。

 そう、このままであればだ。


『助けに来たよ、ラインハルト。苦戦しているみたいだね』

「あはは、想像していたよりレッサードラゴンが強かったよ。悪いけど力を貸してくれるかい?」

『当然! 僕がアイツの動きを止めるから、トドメは君に任せるよ?』

「ああ、分かった」


 フェリが前に現れてから、レッサードラゴンは警戒して動きを止めた。

 見た目は脅威に値しないのだが、本能が危険だと告げているのだ。

 しかし近づいてくるフェリを見て、考えている間も大人しく殺られることも出来ないと判断し、直ぐ様に攻撃に移り始めた。


「凄いな、レッサードラゴンが付いていけていない……」


 レッサードラゴンは突進を加えようとするも、フェリは全く意に介さず交わす。

 そして周囲を周り撹乱すると、レッサードラゴンはその動きを捉えることが出来ずに目を回してしまう。

 それを見てフェリは自慢の鉤爪で、レッサードラゴンの足を削っていく。


『後は任せたよ、ラインハルト!』


 レッサードラゴンを充分に足止めし、フェリは離れる。

 そして少し離れていた所で待機していたラインハルトは剣に魔力を溜めており、それを見たレッサードラゴンは回避しようと逃げ出す。

 しかしその足は既にボロボロで、今までのようなスピードは出すことが叶わない。


「これで終わりだ!」


 ラインハルトが振るった剣はレッサードラゴンの首を斬り落とす。

 そしてレッサードラゴンは地に沈んだ。


『やったね、ラインハルト』

「ああ、フェリのおかげだよ。ありがとう」

『どういたしまして。それより、ラインハルトは解体を出来るの?』

「あっ……」


 倒した魔物をそのまま運ぶことは出来ない。

 血を抜き、解体をして、必要な部分だけを持ち運ぶ必要がある。

 しかし当然ながらにそんな経験はラインハルトには無い。


『……どうするのさ? 適当にやってみる?』

「いや、それは止めておこう。革が傷物になって使い物にならなくなったら困る」

『じゃあ、どうするのさ?』

「それは……ああそうだ、あの人に頼んでみよう」

『あの人? ああ、あの人にね。分かった、連れてくるよ』


 フェリはその場を離れ、オルタスの町の方向に走り出す。

 そしてその中間辺りで息を絶え絶えに走っている男を見つける。


「はぁ、はぁ、ラインハルト様、はぁ、はぁ、どこへいるのですか……」


 町を出発したラインハルトを追いかけるも、その早さに追い付けずにいたのだ。


「ガウ!」


 フェリは男の前に立ち、一声吠える。


「うわぁあ! ワイルドウルフ!?」


 男は突如に現れたフェリに驚き、尻餅をついて後退りを始める。

 このままでは埒が明かないので、エリスに他の人には口を開いては駄目と言われているが喋り駆ける。


『落ち着いて。ボクは君をラインハルトの所に連れていってあげるだけだから』

「……って、君はあの時の! それより、なぜ喋って……」

『それは秘密だよ。口外するなら、ボクは君を……ね?』

「わ、分かった。誰にも明かさないと誓おう。それより、ラインハルト様の元に連れていってくれるんだな?」

『うん、君が来るのを待っているよ』

「はい?」


 男は訳も分からず、フェリの後を付いていく。

 そして到着した先にいたラインハルトと、その傍らに倒れているレッサードラゴンを見て驚愕する。


「こ、これは一体……どうなっているのですか、ラインハルト様!?」

「やぁ、クラッツ。待っていたよ」

「ハッ、遅くなり申し訳ありません。ですが、これは一体どういうことなのですか?」

「見ての通り、倒したんだよ。そして君にはその解体を頼みたい。やったことはあるかい?」

「え、ええ、解体なら……しかし、ラインハルト様がレッサードラゴンを?」

「ああ、私とフェリの二人でね。なら、解体は任せたよ」

「それは構いませんが……」


 クラッツはどうしてラインハルトがレッサードラゴンと闘う必要があったのかなど、様々なことを質問したいと思うも、キズつき消耗したラインハルトを見て口を閉ざす。


「……分かりました。今すぐに処理を致しますので、ラインハルト様は木陰で休まれて下さい!」

「そうか? 悪いな……それなら御言葉に甘えてそうさせて貰うよ」


 こうしてラインハルトとフェリのレッサードラゴン討伐は完了し、三人は素材を担いでオルタスの町に戻る。

 そして討伐の証明として必要な魔石は受付嬢であるミーアの机に密かに置いておいたので、最強の受付嬢がいると暫くのあいだ噂になった。

 そして手に入れたレッサードラゴンの革で、エリスの防具が作られたことは言うまでもない。

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