手紙
私たちはエレンとニコを家に招待し、手料理を振る舞った。
するとお腹が一杯になった二人は安心してくれたのか、フェリと一緒に仲良く揃って寝ている。
「……これからどうすればいいのかな?」
私はラインハルトに訊ねる。
このまま二人を放っておけば良からぬことが起きるかもしれない。
かと言って今の自分達に出来ることなんて限られている。
「エリスはどうしてあげたいの?」
「私は……彼らが何不自由なく暮らせるようにしてあげたい。その為にも、やっぱり特技を胸を張って活かせるようにしてあげたい」
エレンのように剣が得意ならそれを伸ばせるように手を貸すべきだけど、平民では大人になるまではそれが認められないし、活かし伸ばせる場所がない。
ニコのポーションを作れるという特技は更に問題で、私も直面した自由に売買出来ないこともあるし、魔力持ちとして狙われる可能性が出てしまう。
彼らが気兼ねなく過ごせる環境を作ってあげたい。
「難しいだろうね。エリスも身に染みて分かってるだろうけど、特にポーションに関してはね……」
「それはそうかもしれないけど……制度を変えるのは難しいよ。特に既得権益があるポーションに関してはね」
ポーションの販売に関してラインハルトにあらためて調べて貰ったら、そこには貴族が絡んでいた。
魔力がなければ作れないのだから当然なのだけれども、ギルドの上の方と貴族が結託して今の状況を作ったようだ。
独占販売するということは売値も買値も自由に決められるということであり、つまりボロ儲けが出来ちゃうということである。
「国王様に陳情して、制度を変えることが出来ないかしら。確かに冒険者ギルドで売買されているのは便利かもしれないけど、その数が制限されるべきではないわ。ポーションがもっと多く売られた方が冒険者が活躍できると思うの」
「そうですね。ではコーネリア様に御手紙を書いて、お願いしてみては如何でしょうか?」
「……そうね。御母様であれば国王様に陳情してくれるかもしれないしね。とりあえず、お願いしてみるわ」
自由販売に踏み切って貰える可能性は低いかもしれない。
けれども侯爵家からの陳情であれば少なくとも検討はして貰えるはずだ。
ポーション販売に関する実情、そして販売の自由化という要望を手紙にしたためる。
「それなら、お願いね、ラインハルト」
「ええ、任されました」
郵便の制度なんて、この世界にはない。
手紙を届けるためには信頼の置けるものに託すか、ギルドを介して依頼として届けてもらう方法があるのみだ。
けれども侯爵家の家の者に手紙を届けることは普通の人には難しい。
門番に手渡すことは出来るだろうが、紛失しないように本人への手渡しが原則なのである。
だからこそ直接に渡すことの出来るラインハルトに頼むしかないのだ。
「遠距離通信が出来る手段があればな……」
電話の仕組みを魔法で再現出来ないものなのだろうか。
もしも作れたならば、世界が変わる大事件になりそうだけれども。
しかし今は当然に無いので翌朝になり、ラインハルトは私の手紙を携えオルタスの町を出発して王都へと向かう。そしてその間にも私はやることがあって……。
「さぁ、ニコちゃん。一緒にポーションを作りましょう!」
「は、はい!」
昨日に採集した薬草が山積みになっているのだ。
それを手早く処理しなければ邪魔で仕方がない。
それにニコが本当にポーションを作れるのか、この目で確かめたいというのもある。
「エレン君も手伝ってくれるかな?」
「……でも、オレはポーションなんて作れないよ?」
「大丈夫だよ。やって貰いたいことは山ほどあるんだから。一緒に作業しましょ? 終わったら、うんと美味しいお菓子を作ってあげるから、ね?」
「本当か? よし、それなら頑張ります! 何から手伝えばいいですか?」
やはり物で釣ってしまうのが手っ取り早いね。
エレンは不安そうな顔から、一気にヤル気に満ち溢れた顔になった。
「それならまずは、皆でこの薬草たちを洗って汚れを落としましょう。そうしたら、必要な部分とそうでない部分を取り分けていくわよ」
「「はーい!」」
エレンは慣れない手つきだけれども、ニコに教えて貰いながら一生懸命に頑張ってくれる。
そしてニコは私もビックリするぐらいしっかりとしていた。
やはりしっかりとしたポーション作りの指導を受けているかどうかは大事なんだろうね。
「あっ、エリスさん。そこの部分は使えますよ?」
「えっ? あ、そうなの? ありがとう」
私は普段は乾燥まで処理をされた薬草からポーションを作っていた。
だから加工前の薬草から作業を始めるのは初めてなのだけれども、まさか逆に教えてもらうことになるとはね……。
こうして小一時間ほど分別作業を続けニコに任せても問題無さそうなことが分かったので、私は二人の為にお菓子のクッキーを焼き始める。
「二人とも、キリの良いところで終わりにして、お菓子を食べましょう?」
「「はーい!」」
二人は無邪気にクッキーに飛び付いてくれる。
甘いものをなかなか食べられないから当然なのだけれども、その一枚一枚が銀貨一枚もするなんて伝えたらビックリするんだろうな……。
「食べ終わったら、続きをやるから。しっかりと元気を蓄えておいてね?」
「うん、わかった。おいしいね、エリスさん!」
ああ、クッキーを幸せそうに頬張りちょっと大きめなマグカップを持つニコのなんて可愛らしいことか。
「ちょっとエリスさん、食べにくいですよ?」
いけない、いけない。あまりにも可愛いので思わず抱き締めてしまった。
「ごめんなさい……でもこれで私も元気が出たわ。さぁ、続きを頑張りましょう!」
こうしてラインハルトが戻ってくるまでの間、三人でポーションづくりに励むのであった。




