閑話 ラインハルトの冒険 その1
エリスがポーション作りに励むなか、ラインハルトは冒険者ギルドにやって来ていた。
「ミーアさん、一つ頼みごとがあるのですが」
「はい、何でしょうか?」
受付嬢に声を掛けたラインハルトは、一つの依頼書を受け渡す。
冒険者は掲示板に貼り出された依頼書から自分が受けたい依頼書を取り、受付嬢に渡すことで受理が行われるのだ。
冒険者にはそれぞれランクが設定されるのだが、依頼にもランクが設定される。
それぞれの冒険者が自身のランクに適した依頼を選ぶのだが、ラインハルトが持ってきた依頼はというと……。
「ちょっと、ラインハルトさん! この依頼はAランクですよ!?」
ラインハルトが受付嬢のミーアに渡した依頼書に記載されたランクはAなのだ。
つい先日に冒険者登録したばかりのラインハルトのランクは未だにEであるにも関わらずである。
「ええ、分かっています。だからお願いをしに来たのですよ」
「……駄目です。Eランクの冒険者にAランクの依頼は斡旋出来ません!」
ミーアがそういうのは当然で、ランクに見合わない依頼を受けさせると失敗される可能性が高い。
だからこそ受けることが出来る依頼は、譲歩しても自身のランクの一つ上までである。
つまりミーアが感情的に拒否した訳ではなくて、これはギルドが定めたルールなのだ。
「それは分かっています。依頼の受注という形は取らなくて構いません」
「では何をお望みなのですか?」
「私が教えてもらいたいのは情報です」
「……どういうことですか?」
ラインハルトが望んだのは、依頼書に記載された魔物の情報だ。
本来は依頼を受けることで、ギルドにもたらされている情報が伝えられる。
依頼書に書かれた情報はかなり簡略化されており、そこからは詳細を知ることは出来ないのだ。
「私は報酬ではなく、この魔物の素材が欲しいのです。協力して頂けないですか?」
「そうなのですか……話は分かりました」
「──では!」
「いえ、残念ですが協力は致しかねます」
ミーアは首を横に振る。
「……それは何故なのですか?」
「当然のことですよ。もしも情報を教えて、ラインハルトさんの身に何かあったら大問題ですから」
「どうにかなりませんか? ギルドに迷惑を掛けるつもりはありません。ただ何処にこの魔物が現れたのかだけでもいいのです」
「……どうしてラインハルトさんは、そうまでしてこの魔物の素材が欲しいのですか?」
ラインハルトがどうしてそんなに魔物の素材を欲しがるのか、気になったミーアは理由を訊ねる。
「レッサードラゴンの革で防具を作りたいのです。エリスが今後、町の外に出るときの為に良質なものを用意しておきたいと思ったのですよ」
レッサードラゴンはドラゴンと名が付いているが、本当のドラゴンでは無い。
一見すると翼がなく空を飛ぶことが出来ないドラゴンであり、地竜のように四本足で駆けることも出来ない。
けれどもレッサードラゴンから取れる素材はドラゴンの素材に匹敵すると言われており、その革で作られた防具は一流の冒険者も愛用する最上級の品である。
「……愛されてますね、エリスさん」
ミーアは思わず口に出す。
男が女の為に命の危険を犯してまで、プレゼントをしたいと言っているのである。
そこには並々ならぬ感情があると思うだ。
「エリスには感謝してもしきれないぐらい感謝していますから。エリスはもう、覚えていないかも知れませんがね」
「そうですか……分かりました」
「──では!」
「いえ、私が教えることは出来ません」
「……どういうことですか?」
ミーアはニヤリとしながらラインハルトの耳元で囁く。
「私はカウンターに資料を広げて片付け忘れてしまう気がします。それを誰かが見てしまっても、それは仕方がないことですよね?」
そういってミーアは立ち去る。
「ありがとう」
ラインハルトは頭をさげて感謝し、資料に目を通す。
そしてレッサードラゴンを討伐する為にギルドの外に出る。
するとそこに待っていたのは……。
「フェリ! どうしたんだい、こんな所で?」
『ラインハルトはエリスの為に頑張るつもりなんでしょ? それなら僕も手を貸すよ!』
「ハハ、君には隠し事が出来ないね。うん、助かるよ」
こうしてラインハルトとフェリはエリスにプレゼントをするために、レッサードラゴンを討伐しに向かうことにしたのであった。




