ポーション売りの少女。
町の外で出会った二人の子供。
大きい方はエレンと言うらしく、おそらく十歳ぐらいだろう。
次いでニコがいるのだけれど、ニコはまだ幼稚園を卒業したばかりぐらいの幼さだ。
何故にこんな小さな子供達が町の外にいて、私たちに付いてきたのか話を聞いた。
「……つまり、私たちのおこぼれを手に入れようとしてたんだね」
「……うん」
私の言葉にエレンが頷き返事をする一方で、ニコは心配そうにエレンの背後に隠れているままだ。
「何でそんなことをしているの? 町の外は危険なんだよ?」
「そんなことわかってるよ。でもボクたちがお金をかせぐ方法はこれしかないんだ」
「……どうして、君たちはお金を稼がないといけないの? 危険なことをしてると、お母さんやお父さんが心配するよ」
「…………オレたちに親はいないよ」
「えっ……」
まさかとは思ったが、悪い予想が当たってしまう。
彼らは親を亡くしてしまった浮浪児なのだ。
「オレたちのお父さんとお母さんは、魔物に殺されたんだ。だから自分たちでお金を稼がなくてはいけない。でも子供が出来る仕事なんてないし、お金になる素材を集めるしかないんだよ……」
「……だから私たちの後を付けてきたの?」
「うん。お姉ちゃんたちなら他の冒険者と違って怖くなかったから、怒らないかなと思って……」
「そっか……」
確かにいかにも冒険者っぽい格好をしてる人達って、見た目も厳つい人が多いからね。
その人たちを避けて私たちに付いてきたのは何となく分かる気がする。
でもこんなことを続けていたらいつか危ない目に合うに決まっているから、何とか出来るのであれば何とかしてあげたい。
本来であれば彼らのようなことにならないように、市民を保護するのが貴族の役割だ。
それなのに王都から遠く離れているので恩恵を受けられなくても当然、というのは余りにも可哀想。
彼らのような子供達には何の罪もないというのに、生まれた境遇で辛い人生を送らないといけないなんて変えなくてはいけない。
「ねぇ、ラインハルト。彼らのような子供達を保護する仕組みを作れないかな?」
保護施設とまではいかなくてもいい。せめて彼らのような子供が、命の危険に晒される仕事をしなくても良い仕組みが欲しい。
「そうだね……君たちは何が出来るのかな?」
子供だからという理由で仕事が出来ないというのは不公平だが、そもそも何も出来ないのであればそこを変えなくてはいけない。
もし何かしら得意なことがあれば、それを活かしてお金を稼ぐことの方が彼らの為にもなる。
「オレはこの剣を扱える。そしてニコはポーションをつくれるんだぜ!」
「へぇそれは凄い……って、ニコちゃん、ポーションを作れるの!?」
しっかりと生きる力を持った逞しい二人に驚くも、その中でも私が気になるのはニコだ。
「……うん」
ニコはエレンの後ろで頷く。そして身に付けている鞄の中から自作のポーションを取り出してくれる。
「見ていいの?」
「……はい」
ニコは恐る恐る私の前に歩いてきてくれて、ポーションを手渡してくれる。
瓶はどこかで拾ったリサイクル品なのだろうから古いが、問題なのは中身だ。けれども外観からだけでは判断出来ない。
「どう思う、ラインハルト?」
ポーションをラインハルトに渡して確認して貰う。
しかし見た目だけではやはり分からないようで、ニコに開けてみていいかと訊ねる。
ニコは頷いて了承してくれるのだが、ラインハルトが開封したのに合わせて指を五本立てた。
「……代金は銀貨五枚です」
「えっ! そんなにするの!?」
私がギルドに納める際に貰っているのは、一本につき銀貨一枚だ。
買取額と販売額の差かもしれないけど、単純に五倍の差があるなんて……。
「ク、クーリングオフ出来ない?」
一応は尋ねてみるけど、消費者保護の考えなんてこの世界にまだ無いので、当然に通じる訳がない。ニコは意味が分からないようで首を傾げる。
「ごめん、なんでもないわ。はい、どうぞ」
思わぬ出費だけれども払わない訳にはいかないので、銀貨五枚をニコに手渡す。
「うん、どうやら本物みたいだね」
「そうなの?」
ラインハルトは手に少量取り出してみて、品質に問題なさそうなことを確認してそう告げてくる。
私もラインハルトから小瓶を受け取り直し中身を確かめると、確かに低級品ではあってもポーションに間違いない。
「本当だ……」
小さな女の子がポーションを作れると聞いて半信半疑だったけれど、これは紛れもなくポーションだ。
「本当にこれをニコちゃんが作ったの?」
「……うん。お父さんに作り方をおしえてもらって作ってみたらできたの」
「そうなんだ。凄いねニコちゃん」
褒めてあげるとニコちゃんは警戒を和らげて笑顔になってくれる。
でも褒めたのはお世辞ではなく、本当に凄いと思ったからだ。
幾ら作り方を教えてもらったからと言っても、そう簡単に作れるものではないのだけど……。
「君たちの家系には貴族がいたのかい?」
ラインハルトがおもむろに質問をする。
「……そうよね。ニコちゃんがポーションを作れるだけの魔力があるということは、その可能性が高いかも」
しかしその予想は外れたようで、エレンは首を横に振るう。
「オレたちは普通の平民だよ。貴族様なんて、全く縁がないね」
「そう……」
つまり何が切っ掛けか分からないけど、ニコちゃんは突然変異的に魔力が高く生まれたのだろう。
しかしその魔力を狙って良からぬものが近寄ってくる可能性もある。
まさかニコがポーションを作っているとは思わないので気付かれていないだけだろうが、強い魔力を持っているというのはこの世界では貴重なのだ。
そうなってくると、今度は別の意味で彼らを放っては置けなくなる。
「ねぇ、ラインハルト。彼らを……」
「そうだね、私もそう思っていたところだよ」
ラインハルトは私の意図を汲み取り頷くと、エレンたちの顔の高さまで腰を降ろす。
「君たちさえ良ければ家に招待したいのだけれど、付いてきてくれないか?」
これからどうすればいいのかは分からないけれども、このまま放置することだけは出来ない。
「美味しいお菓子もあるわよ?」
悩んでいる二人をお菓子で釣る。
なんだか不審者染みているけど、切っ掛けなんてなんでもいい。
「「お菓子!?」」
甘いものはこの世界ではまだまだ貴重なので、二人の食い付きは抜群だった。
「ええ、とっても甘いお菓子があるわよ。それに温かいご飯もご馳走するわ」
「「行きます!!」」
つい先程まで不安そうにしていた二人が嘘のように目を輝かせてくる。
それを見て何だか悪いことをしている気もするけども、私たちは二人を家に迎えることになったのであった。




