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意識を取り戻した時、私は幾重もの綿や布で包まれ、その上を縄で縛られているようで、痛みは無いけれど、身動きが取れませんでした。。
首を巡らせると、そこにはエイリーク王子、梅ちゃん、なんか名前忘れたけどメガネ、そしてマリンが居た。
エイリーク王子と梅ちゃんは、私と視線を合わせようとしない。
メガネはレンズの反射でどこ見てるのかわからない。
マリンだけが、私の視線を受け止めた。
「フーゴを……オーク達を、どうしたの?」
マリンは邪悪な笑みを浮かべた。
「皆殺しにした、と言ったら、お前はどうするんだ?」
私は拘束を解こうと暴れたが、どうにもならず、「じゃあ私も死のう」と、単純にそう思った。
舌を噛み切ろうと思ったが、口を開け、舌を出した途端にマリンに素早く口の中に布を詰め込まれた。
「すまなかった。 軽口が過ぎたようだ。 神に誓って、彼らに手出しはしていない。 ただ、お前らを連れ出しただけだ。 その他の事はスムゲルア王国内の問題だろう。 私らは何もしていない。 お前達を連れ出しただけだ」
梅ちゃんに視線を移すと、梅ちゃんは泣きながら言った。
「本当です。 皆さん、師匠の強さを感じ取ったらしくて、なんの抵抗も無く、私達を帰して下さいました。 でも、皆さん、泣いてました。 身を引きちぎられるような、悲し気な声で、ぷぎぃぃぃっって」
梅ちゃんが忠実にその時の声を再現してくれたおかげで、私はその意味が理解できた。
それは、どんな言葉でも無く、ただただ、悲し気な鳴き声だった。
いつか、帰ろう。
絶対に。
フーゴだけでは無い。
あそこには、私が命を預け、そして命を預けられた仲間が居るのだ。
いつか、必ず、あそこに帰る。
それが私の、今後の人生の目標だ。
「それよりも、見ろ! すごいぞ! 我が国は携帯電話とやらの開発に成功したのだ!」
マリンは巨大な5頭立て馬車から伸びたカップに向かい、話し始めた。
「あ、あ、あ~、もしもし? こちらマリン。 アンジェラ奪還に成功した。 これから帰る」
しばらくしてから、馬車の上に付けられているラッパのような部分から「了解」と聞こえた。
帰り道、御者はロープを巻き取りながら進んでいく。
そして、要所要所でどんどん馬車が増えていく。
携帯電話、多分、有線。
糸電話。
しかも、携帯……気軽に携帯はできない感じ。
やはり梅ちゃんの持ち込んだ携帯電話は再現できなかったのだろう。
そこで、原理だけを採用して魔法でなんとかしちゃったのが、これなんだろうなぁ。
馬車の中には何か小難しい仕組みと魔石が満載、って感じなのかな。
まぁ、最初がコレでも、そのうちどんどん進化はしていくのだろう。
グランテスト王国に帰り、学園に復帰したが、さすがに1年近くの休学での進級は認められなかった。
権力や金力にも限度があるらしいです。
また2年生からの再開です。
ええ、何度も脱出を試みましたが、最近私の周りには、マリンを筆頭とする忍者軍団が潜んでいるのです。
ずっと梅ちゃんにべったりと見張られ、梅ちゃんに一服盛って逃げ出そうとしても、どこからともなく忍者軍団が現れて、数人がかりで抑え込まれるのです。
先日捕縛された時に、どんな寝技か知りませんが、私を抑えつけながら顎に一撃の蹴りを入れたのをよっぽど周りに自慢しているらしく
「アゴだ! アゴが弱いぞ! アゴを狙え!!」等と言う言葉が飛び交っていました。
公爵令嬢の顔を狙うなんて、とんでもない奴らです。
留年組は全員が同じクラスに編入させてもらったけれど、新しく同級生になった子達は、私達には遠慮して話し掛けても来ない。
元々陰キャではあったが、相手はみんな年下。
いや、前世の年齢を考えれば、前の同級生たちも10歳年下なのだけれど。
そこで、ふと思ってしまったのです。
うん、前世も陰キャだったけど、ここいらで陽キャにジョブチェンジしてもいいのでは? と。
もういいじゃん、ハジけようよ、と。
なんで? と問われても、答えられません。
自分でもよくわからないのです。
だって、ここにはフーゴが居ないから。
フーゴが居ないなら、私にはもう何も無いじゃない、って。
もうどうでもいいから、このまま死んでもいいんだし、それなら今を楽しく過ごしたいじゃない、って。
刹那的な気持ちになってしまったんです。
ただ、陽キャって何なのかよくわかりません。
パリピでウェーイな感じ。
そして、ウェーイな学校行事と言えば、学園祭、修学旅行!
でも、この学園にはそんな行事はありません。
だから作っちゃおうと思いました。
そんなもの、お父様の権力を借りたらすぐ実現出来ちゃいます。
お父様で無理なら、ジークフリート王子に言わせればいいんです。
ジークフリート王子は私が帰って来てからは、我儘も言わずに、むしろ私を気遣って私の我儘を聞いてくれている状態です。
なんだかちょっと寂しいんですけどね。
前のおバカで我儘なジークフリート王子のほうがかわいかったな、って思います。
まぁ、それはどうでもいいんですが、私的ウェーイを実現するために、私は生徒会長になる事にしました。
学園の規則を書き換えるのです。
私自身が学園の権力を手に入れれば、後はお父様の権力でいかようにでもできましょう。
どこぞのメガネ君とは格が違うのですよ。格が。
そういえば、どこぞのメガネ君……最近は生徒会長じゃないんですよ。
メガネ君も、私の捜索のために1年近く休学してしまったので、代行で他の方が生徒会長の座に就いていらっしゃいます。
とりあえず生徒会を乗っ取るための準備です。
私がウェーイに過ごせる未来のために。
「アンジェラ嬢、概要は資料で大体わかりましたが……何をしているのですか?」
エイリーク王子の問いに、水の入った桶のロープを咥え、持ち上げ、降ろす動作を続けながら答えます。
「あ~お~お、ひ~は~へ~へ~ふ~ほ(顎を鍛えてるの)」
そう、私は今、アゴを鍛えています。
正確には、首の筋肉を。
いつか、忍者どもに打ち勝って、彼に会いに行くために。




