25
あれから2つの集落を襲ったが、援軍はまだ現れない。
だが、変化は突然訪れた。
「うぉお~、わ~、うぉ~、わ~」
アンジェラ嬢が両手を上に掲げ、魔法で水をダラダラと流しながら叫んでいる。
彼女の奇行はいつもの事だが、ウメ嬢までもが興奮気味に走り回っている。
桶に水を汲んできたウメ嬢が、それをアンジェラ嬢にぶっかけている。
「そう、そうよ! 水よ! ウォーター! それが名前!」
「うぉお~、わ~、うぉ~、わ~」
何か新しい遊びかと思って眺めていると、アンジェラ嬢が突然、滑らかな人間語を発したのだ。
「寒いわ」
そりゃあそうだろう。 南国とは言え、朝夕はもう冷える時期だ。
「やりましたね! アンジーさん!」
「うるさいわね、耳元で叫ばないでちょうだい。 あんたのせいでびちゃびちゃよ。 風邪引いちゃうじゃない」
「大丈夫ですって! 早く着替えましょう」
「何が大丈夫なのよ。 私の事をバカだって言いたいわけ?」
女性達は姦しく騒ぎながらテントへと入っていった。
アンジェラ嬢が・・・・・・、アンジェラ嬢が、人間語を取り戻した!
記憶はどうなのだろう? すぐにでも学園に戻れるだろうか?
いや、その前に、彼女の誤解を解かなければならない。
彼女を罠に掛けたのが私では無い、と。
それから、私の気持ちを彼女に・・・・・・。
色々と考えながら、落ち着き無く彼女たちが入っていったテントの入り口でウロウロと歩き回る。
なかなか出てこない。
いや、レディーの着替えには時間が掛かるものなのだ。
いや、でも、南国の簡易な服の着替えにこんなに時間が掛かるものだろうか?
中で何かあったのかもしれない。
ちょっとだけ。 ちょっとだけ覗くくらいなら……。
もしアンジェラ嬢が着替え中でも、これは事故。 不幸な事故なんだ。
安否確認をするだけなので、そっと覗いて、無事なら何事も無かったかのようにこの場を立ち去ればいい。
そう、彼女たちに余計な手間を掛けさせないように、気付かれないように、そっと……。
「ぐはぁっ!!」
テントに手を掛けた途端、何か棒状のもので腹を突かれ、私は意識を手放した。
気付くと日は既に暮れており、私は自分のテントに寝かされていた。
「誤解だ、アンジェラ嬢、誤解なんだ」
呟きながらテントから這い出し、四つん這いのままでアンジェラ嬢のテントへと向かった。
腹が痛くて立ち上がれないのだ。
「話を聞いてくれ、誤解なんだ」
テントの中からアンジェラ嬢が出て来てくれたが、まるで虫けらでも見るような目で私を見つめている。
「あら、覗き王子様、何か御用かしら?」
まずは誤解を解かなければ。 彼女を陥れたのが私では無いという事と、覗き……は、もし見れたら僥倖、という思いが無かったわけでは無い。
いや、でもそんな事を言うわけにも行かない。 ちょっと頭を整理しなければ。
「あ……すまないが、その前に水を1杯もらえないだろうか? あと、できれば何か食べるものを。 こんな有様なので、自分で取りに行けないんだ」
途端に彼女の表情が緩む。
慈愛に満ちた聖母のように、彼女は微笑んだ。
「仕方が無い人ですね。 少し待っていてくださいね」
あぁ、すぐに彼女に求婚しなければ。
いや、その前に、誤解を解いて……いや、それよりも先に、記憶の確認を……。
頭の整理をするには今しばらく時間が掛かりそうだった。




