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第83話 親友と恋人の価値

ケン=マッケンジーが、リエリス=キュンメとサーラ=キュンメ、2人のうら若き人間族の女性達と新たな関係を築き始めてから約5カ月が過ぎていた。

サーラは既に士官学校を卒業していて、新人士官として明日の朝、首都ネオジャンヌを離れて任地に向かう。

ケンとサーラは、昨日の夜にプレイを終えた後、正式に臨時パートナーを解消していて、今2人の関係はただの親友である。


彼にとって彼女はネオジャンヌに来てから初めて出来た何でも話せる親友であり、覚悟していたとはいえ彼女との別れは辛かった。

それに、臨時パートナーの解消も地味のこたえていた。

彼女は彼の知る限り、最も魔力体の相性が良いパートナーであり、特に性欲過剰な今の状態では、すごくありがたい存在だったからだ。

魔力体の相性が良い相手とは発情周期が合いやすく、しかもプレイ後の充実感が全然違うのだから、一刻も早くこの状態を抜け出したい彼が残念がるのは当然だろう。



そんなケンにとって特別な存在であるサーラが、最後に会える日に望んだ事は真剣勝負の一対一の戦闘だった。

この5カ月間、2人はかなりの回数の模擬戦をこなしてきた。

その戦いを通じてお互いを高め合った2人は、自然な流れで親友になって行ったと言ってもいいくらいだ。

最近の勝率は、6対4でケンが勝ち越しているが、これは彼が実力を抑えて戦っているからで、本来なら2人の実力差は相当離れている。

それを当然彼女も知っていて、最後だけは全力のケンと戦いたいという彼女の真剣な願いに彼が応えたから、この対戦は実現する運びとなった。



2人が戦う場所はいつものトレーニング施設では無くて、ヨシトとの修行で使っているネオジャンヌの街から10kmほど離れた、低い山の向こうにある原っぱだ。

ここなら、例え魔術を思いっきり使っても問題ないという理由からである。

以上の話は全てサーラから言いだした事だが、それに対してケンが提案したのは、彼の師匠であるヨシト=ウッドヤットの力を借りる事だった。

万が一の事故に備える為に立ち合ってもらう必要があるし、自家用飛空車で送り迎えをしてもらう為である。

そして、彼女になるべく大怪我をさせない為に、優れた防具の作成もヨシトに頼んだ。

それを聞いたヨシトは、「任せておけ! 趣味と実益を兼ねた物を造ってやる。俺からのプレゼントだから、お代は必要ないぞ」と軽く請け負ってくれた。

事が事だけに、さすがのケンも師匠の好意に甘える事にした。


そんな訳で、ケンとサーラはヨシトが運転する新車の自家用飛空車で、戦いの場所に向かう事になった。

ただ、ネオジャンヌの西門付近から飛び立った自家用飛空車の中にはもう1人いて、後部座席のサーラの横に座っている。

その人はリエリス=キュンメ、今はケンの臨時パートナーの1人であり、サーラと仲が良い義理のいとこである。

これはサーラが彼女の立ち会いを望んだからで、リエリスもそれを断らなかったからだ。

2人には、それぞれ何か秘めた思いがある事だけは間違いないだろう。


地球人の感覚では信じられないが、飛空車の後部座席では昨日までケンの臨時パートナー同士だったサーラとリエリスが、和気あいあいと話をしていた。

戦いの当事者であるサーラは、これから真剣勝負をするとは思えない程すごく楽しそうに助手席に座っているケンに話しかけてくる。


「私は今日の為に、ケンに勝つ方法を色々と考えて来たよ。簡単にはやられないから覚悟しておけ」

「それは楽しみです。ヨシト先生、審判をよろしくお願いします」

「まかせておけ。俺の造った防具で脳と魔蔵は守られるはずだから何をやってもいいぞ。悔いの残らないように思いっきりやれ!」

「ちょっと、ウッドヤットさん。致死性の攻撃は無しにすべきです。それに、上級魔術以上の攻撃は禁止にして下さい。ケン君はともかく、サーラは明日の朝から最前線に向かうんですよ!」


リエリスの厳しい言葉が、ヨシトの後頭部に浴びせられる。

だがこれは、一般的に見れば彼が悪くて彼女の言い分が正しい。


士官学校の卒業生は、少尉として軍に入隊する訳だが、その配属先は、ある程度本人の希望が認められる。

キュンメ家の家訓に従ってサーラが望んだ赴任先は、魔物との戦いの最前線だった。

いくら人間族でも、手足が完全に吹き飛んだりすると完治するまでには1週間近くはかかる。

再生魔術を使った場合、見た目は異常が無いように見えるので、とても本調子といえない状態でサーラが魔物との戦闘に巻き込まれる危険性は確かにあるだろう。

だから普通ならリエリスの意見は当然で、ヨシトが無茶を言っているようにしか聞こえない。


「…だってさ、2人ともどうする?」と、完全に他人事のヨシト。

「僕はどっちでも構いません。でも、リエリスさんの言うように歯止めが無いと確かに危ないかもしれませんね」

魔蔵と脳さえ無事なら、ヨシトが即座に完璧に治癒出来る事を知っているケンは、本当にどっちでもいいようだ。


「ケンがそう言うなら私もそれでいい。それくらいのハンデが無いと、私の勝ち目は無いからな。でも、それ以外の条件は無しで行こう」

横に座るサーラの意見を聞いたリエリスは驚いたように問いかける。


「…サーラ、あなたまさか『拘束』ギフトを使うつもりなの? 自分で言っておいて何だけど、中級魔術までの制限付きじゃあ、いくらなんでも勝負にならないわよ。…まあ、それの方が手っ取り早くていいけどね」

サーラのギフトの威力を知っていて、ケンのギフトの真の力を知らないリエリスは、安心半分、不満半分と言う感じだ。


「リエリス姉さま、ケンはギフトを使っても、私なんかよりずっと強いですよ。勝負を見ていただければ解ると思います」

「…ちょっと信じられないけど、サーラが言うならそうなんでしょうね。つまり、『曲折』ギフトには隠された力があるって事なのね。楽しみにしているわ」


リエリスは、今まで2人が戦っている所を見た事は無い。

サーラもケンのギフトの秘密を話すような口の軽い女性では無いので、2人が戦闘訓練を一緒にしている程度しか彼女は知らなかった。

ケンだって、ヨシトに『拘束』ギフトについての詳しい話はしていない。

これは相手を信頼をしていない訳ではなく、暗黙の了解だからだ。

隠された能力に関する事は、本人が相手に直接言うべきなのは常識である。



それから間もなくして、飛空車は戦いの場所に到着する。

4人が草むらに降り立つと、ヨシトがケンとサーラに向かって話しかける。


「2人とも、今から防具を着てもらうよ。かなりの防御力と魔素耐性がある俺の自信作だ」

そう言って彼が飛空車の後ろ扉から取り出したのは、不思議な光沢を放つ金属製のフルフェイス型のヘルメットと胸当て、薄手のブラウンのニット帽と丈の短いタンクトップの様なインナー防具だった。

ケンが手に取ると驚くほど軽くて、明らかに複雑な加工が施されているのが解る代物しろものだ。


「先生、これってどこかで見たような…」

ケンの力ない突っ込みを無視して、ヨシトは満面の笑みで話し出す。

「若いのに戦おうっていう、酔狂な君たちへの俺からのプレゼントだ。サイズは合っていると思うが、一応確認してみてくれ。インナーは下着の上から付ければいい。それと、帽子の上からヘルメットをかぶってくれ。そうすれば上級魔術の直撃にも耐えられるはずだ」


サーラは驚いてヨシトの顔を見る。

並の防具なら初級魔術を防ぐ程度なので、かなりの高級品と言う事になる。


「…あの、お気持ちはありがたいんですけど、貸してもらうならともかく、受け取る理由がありません」

「…そう言ってもな、それはオーダーメイド品だから返してもらっても困るんだ。それに、メンテナンスや修理の際にはきっちり代金をもらう。俺以外で直せる職人はケンぐらいしかいないはずだから、面倒でもウッドヤット商会の2階に来てもらう必要がある。それと、製作者の名前は明かさないでいてくれると嬉しいな。…まあ、気に入らなかったら捨ててくればいい」

ギョッとした表情で、ケンは弁明する。


「先生、僕だって壊れたら完全には直せませんよ。出来るのは、せいぜい簡単な修理やメンテナンス程度です」

「今はそうかもしれないが、情けない事を言うな不肖ふしょうの弟子よ。お前がそんな気持ちじゃ、マイスターの資格推薦は無しだぞ。…そんなに心配しなくても、ケンが成人まで修業を続ければ、同等品くらいは造れるはずだ」

「…了解しました。精進します」


ヨシトの造ったチートな最高級品から見ればワンランク落ちる品物なので、確かにケンでも不可能ではないだろう。

ただし、ヨシトが秘匿している製造方法を知っていて、職人としての最高の腕を持っていないと造れないランクの魔道具だから、ケンが弱気になるのは仕方が無い。

2人の会話を聞いたリエリスも、興味深そうにサーラが受け取った防具一式を手に取って調べている。


「さあ、とっとと着替えないと日が暮れるぞ」とヨシトがうながすと、今まで黙っていたリエリスが冷静に突っ込む。

「サーラはどこで着替えるんですか? まさか、あなたの目の前で下着姿になれとでも言うんですか?」

ヨシトは、「うっ!」と言葉につまると、恐る恐るリエリスに話す。


「えーっと、服の上から着てもらうっていうのは…」

「あら、さっきウッドヤットさんはサイズが合っているか確かめるように言いましたわ。服の上からなんて、正確にサイズが合っているかなんて解りませんもの。まさか、サーラに黙って体のサイズを測った訳ではないでしょ? そんなのは、変質者がする事ですよ?」

「…車の中で着替えてください。俺は上空から人が見ていないか確認していますから」


ヨシトは肩を落として、浮遊魔術を行使すると上空へ浮かび上がった。

ケンは苦笑してリエリスの方に顔を向ける。


「あんまり先生をいじめないでくださいよ。悪気は無いんですから」

「私は常識を言っただけよ。夫婦でも無いのに、女性の体を無断で探るなんてあり得ないわ」

「リエリス姉さまに賛成。言われるまで気付かなかったけど、ケンの恩人じゃなけりゃひっぱたいてやったよ!」


(すいません先生、かばい立て出来ません)

ヨシトはサーラを驚かそうと思って、彼女がケンの部屋に遊びに来た時に黙って体をトレースした訳だが、悪意があろうと無かろうと、明らかに一線を超えている。

これは完全はヨシトの落ち度なので、ケンとしてはフォローのしようがない。

いくら人間族が性に開放的だとは言っても、男女に関係なく相手の体を無断で探る行為は非常識なのだ。


「じゃあ、僕は向こうで着替えて来ます」

「何言ってるのよ。あなたには、サーラの装着具合を確認してもらうわよ」

ケンは驚いて、リエリスとサーラを交互に見る。


「いえ、普通に着れば問題ないと思いますよ」

「これって、普通のタンクトップじゃないのよ。伸縮性もあまりないからどうやって着たらいいか解らないわ」

何の事かと思ってケンが自分のタンクトップを見てみると、何と前開きのファスナーが付いてある。

ファスナーは、ヨシトの発明品で一応特許を取ってはいるが、一般的には普及していない。


(…先生は凝り性だからな。魔術刻印が重ならないようにする意味もあると思うけど、僕が使い方を説明するしかないか)

ケンは軽く息を吐くと、「じゃあ、今から説明します」と上着を脱ぎ始めた。


「どうせなら、車の中で見せて。いくら人目が無くても、こんな開けた場所で異性の下着姿を乙女が見ているのは、ちょっとはしたないわ」

これも常識だが、一応彼は反論する。


「リエリスさんならともかく、サーラさんとはパートナーを解消してますから、常識でいえばまずくないですか?」

「今更何言ってるのよ。下着どころか全部見てるでしょ」

「そうだよ、ケンは水臭いよ。私は全然気にしないから3人で車の中に入ろう」


ケンは2人のキュンメに強引に飛空車の中に引っ張り込まれる。

『リア充爆発しろ!』

何だか、上空にいるヨシトの心の叫びが聞こえた気がした。



防具を装着し終えたケンとサーラが飛空車から出てくると、ヨシトは上空からゆっくり下りて来た。

ケンは微妙な表情で彼に近付くと、こっそりと文句を言う。


「先生、これってやっぱりパクリですよね。…ちなみに僕のは何座ですか?」

「ペガサスに決まっているだろ。しかもアニメ版だ。初期型は評判が悪いが、機能的には優れているからな」

「そんなマニアックな情報はいりませんよ。…じゃあ、サーラさんは?」

「アンドロメダを参考にした。本当はへびつかい座にしたかったが、いくらなんでも胸が強調し過ぎで下品になるからな」

「…腐れオタク」

「言ってろ。そもそも頭部と胸のパーツだけだし、大胆にアレンジしたからそれほど違和感は無いだろ?」

「…まあ、僕はともかくサーラさんは似合ってますよね」

「そうだろ、あの赤紫の色を出すのには苦労したんだ」

「…もういいです。サーラさんも気に入っているみたいですから」


ケンは、サーラ達の方を見る。

「とても綺麗な色ね。サーラの黒髪に似合っているわよ」

「すごく軽いのがいいです。まるで体の一部みたいに重さを感じません」

キャッキャと嬉しそうに騒いでいる2人を見て、ケンはこれ以上文句を言うのをやめた。

ヨシトは満足そうに頷くと、サーラに声をかける。


「さあさあ、本題に移ろうか。軽く体をほぐしてから模擬戦を始めよう」

「はい、ウッドヤットさん、素敵な装備をありがとうございます。ケン、軽く準備運動をしよう。ストレッチにも付き合ってくれ」

「わかりました。じゃあ、先生とリエリスさんはちょっと待っていてくださいね」


ケンとサーラがいつものように準備運動を始めると、リエリスはヨシトの横に並んで、2人の様子を見ながら話し出す。


「ウッドヤットさんは、どちらが勝つと思います? あなたも、2人が戦うのを見るのは初めてですよね?」

「…ケンだ。サーラさんに勝ち目はない」

「でも、サーラは士官学校でもトップクラスの実力ですよ。もちろん『拘束』ギフトを使わない条件でもです」

「彼女のギフトを詳しくは知らないが、初見ならともかく、ケンのギフトで対抗出来るはずだ」

「サーラは、策を練っていると言ってましたわ。それに、キュンメ一族は勝ち目のない戦いはしません。ケン君が勝ったとしても、かなり苦戦するはずです」

「…そんな展開にはならないさ」


それからは、ヨシトとリエリスは言葉を交わさずに、仲良く笑いながら体を動かしているケンとサーラを眺めている。

頃合いを見て、ヨシトは2人の側に近付いて行く。


「…始めようか。今からルールを確認する」

「「はい!」」

「俺の開始の合図とともに模擬戦を開始する。それまでの間は、意思付けと魔術の構築を禁止とする。距離は双方が20m離れた位置で開始するが、その後は自由だ。ただし、山影から出ないようにする必要があるから。高く飛ぶのは禁止とする。それと、リエリスさんの意見を取り入れて、魔術は中級まで、致死性の攻撃を構築した時点で、即座に反則負けとする。2人とも、何か質問はあるか?」


ケンとサーラからの返事は無い。

それから2人は黙って距離を取る。

サーラは鞘からスラリと刃引きした細剣を抜き放つ。

2人の緊張が一気に高まる。


「始め!」

ヨシトの掛け声とともに、まず最初に動いたのはサーラ。

一気に後ろに下がって距離を取りながら、すかさずギフトを発動する。

まず彼女が選んだのは、防御だった。

サーラの全身に、不可視の鎧がまとわれる。

これで、駆動部以外は鋼鉄の強度を持った事になる。


一方、ケンは動かない。

彼女の準備が整うのを待っているんだろう。


(相変わらずケンは甘いな。まあ、怪我をさせたくないんだろうが)

ヨシトは、そんな甘くて馬鹿な弟子を優しく見つめる。

その横でリエリスは、「チャンスよ!」と拳を突き出す。

言われるまでも無く、そんなすきをサーラは見逃さず、ケンを『拘束』しようとギフトを発動する。

同時に、並列思考2つを目いっぱい使って、ケンの背後から魔術による攻撃を行う。


刹那、『ドン!』という音と土煙りとともにケンの姿が一瞬消える。

次の瞬間、彼女の背後に立った彼は背中に衝撃波を放つ。

衝撃は不可視の鎧を貫通して、何も出来ないままサーラは前方に弾け飛ぶように倒れた。

完全に意識を失ったようで、ピクリとも動かない。


「…勝負ありだな」

ヨシトがそうつぶやくまでの、たった7秒ほどで戦いは終わった。


「先生!」

ケンの緊迫した声が、ヨシトの耳に届く。

「そんなにあわてなくても大丈夫だよ。肉体と魔力体を同時に揺らされたから、意識が飛んだだけだ。それほどダメージは無いはずだ」

ヨシトは倒れているサーラの元へ、ゆっくりと近づいて行く。

その様子をリエリスは呆気に取られて見送っていた。


(今のは一体? …違うわね、はっきり見えなかったけど、地面の蹴り跡を見れば、『予測』ギフトを使わなくても解るわ。彼は特別な事はやっていないもの)


実際、ケンがやった事は単純なものだった。

サーラの斜め後ろ方向に全力でダッシュして、自分の体に『曲折』ギフトを発動し、そのままの速度で逆斜め方向に急転換する。

これにより、ケンの姿を完全に見失ったサーラは、あっさりと背後に回り込まれる。

そのままの勢いを利用して、中級魔術程度の魔素衝撃波を彼女の背中に放つ、…たったそれだけだった。

衝撃波はサーラの不可視の鎧によって弱められたが、体内で反響して彼女の魔力体と内臓の一部を痛めつけた。

魔力体と肉体のバランスを失ったサーラは、呆気なく気絶したという訳だ。

この様子を魔力視で見ていたリエリスには、サーラの魔蔵や脳にそれほどダメージを受けていない事が解ったから、冷静に考察出来ているという訳だ。


要するに、ケンの動きが圧倒的に速くて、魔術の行使がスムーズで力強かったから出来た芸当だといえる。

一番ありえなかったのは彼の方向転換だが、これが『曲折』ギフトの真の力だとリエリスは直ぐに思い当たった。

納得したリエリスは、サーラに治癒魔術を行使しているヨシトの側に歩いて行く。


「サーラはどうですか?」

「じきに目を覚ますさ。魔力体と内臓のダメージは、もう治したからね」

その言葉に嘘は無く、間もなくサーラは目を開けた。


「…私、一体どうしたんですか? ケンが消えたと思ったら、急に目の前が真っ暗になって…」

「私が話すわ。サーラはもう少し横になっていて」

サーラは頷くと、そのままリエリスの話に耳を傾けた。

全てを聞き終わった彼女は、「やっぱり、ケンはすごいな」と、フッと笑った。


それからサーラは身を起して、ゆっくりと立ち上がる。

「ケン、リエリス姉さま、私の側に来てくれないか?」

急に呼びかけられた2人は、素直にサーラの前に並び立つ。

彼女はケンに右手を差し出して握手を求める。


「全力で戦ってくれてありがとう。やっぱりケンはいい奴だ」

「どういたしまして。それより、体は大丈夫ですか?」

「何ともないよ。おかげで、心置きなく旅立てそうだ。…たった一つを除いてだけど」

ケンと握手を交わしながら、急にサーラはリエリスの方に視線を向ける。


「リエリス姉さま、そろそろ観念なさったらどうですか? もう私はケンのパートナーではありません。今ここで、はっきりけじめを付けてください」

「サーラ、あなた…」

「言っときますけど、リエリス姉さまの方が年上なんですから、積極的に行かないと駄目ですよ。ケンの親友として忠告しますけど、彼は我慢強いから、じっと待っていても何も変わりませんよ」


さすがにこの場でそう切り出されるとは『予測』していなかったリエリスだが、ある程度は覚悟していたのだろう。

軽く溜息をついてから、近くで聞き耳を立てているヨシトを冷たくにらむ。


「ウッドヤットさん、車の中に入っていて下さるかしら。3人でちょっと込み入った話がしたいんです」

「うんうん、青春だね~。おじさんは耳をふさいでるから、存分にやりなさい」

いかにも親父臭く、すっかりご満悦気味のヨシト。


「先生、それ以上余計な事を言うと、秘蔵のコレクションを全部クニャクニャに曲げちゃいますよ」

「おま! ちょっ、…それだけは勘弁してくれ」


ヨシトはスゴスゴと飛空車の中に退散した。

それを見たリエリスは、感心した様子でつぶやいた。


「…ケン、あなたってすごいのね。まさか、ウッドヤットさんの弱みを握っているとは思わなかったわ。…ところで秘蔵のコレクションって何なの?」

「…あのぅ、本当に大した物じゃないから、詳しくは聞かないでください」


いくらなんでも、それだけは武士の情けだから言えない。

男には、大っぴらに公言できない趣味の1つや2つはあるのが普通だと思う。

ヨシトの場合は、地球のヒーロー系のフィギュア作成だが、こんな趣味は女性には決して理解されないだろう。


「…まあいいわ。それよりサーラは、本当にいいのね」

「はい、私の前ではっきりさせてください」

「…あの、僕から言います」

「「ケンは黙ってろ(なさい)!」」

「すいませんでした!」


2人からきつい口調で言われた彼はタジタジになってしまう。

どうやら彼には解らない、彼女達なりの事情があるのだろう。

リエリスは、ちょっと緊張した様子でビシッ!と指をケンの鼻先に突き出す。


「ケン=マッケンジー、あなた、私の恋人になりなさい。返事は『はい』以外は認めないわ。何か文句はある? あっても聞かないけど」

自信満々に一気にそう言い終わると、黙って返事を待つ。

もちろん彼の返事は、10歳で彼女に初めて出会って以来、一度も変わらない。


「…文句はありません。僕はあなたが好きですから。だけど、何で今なんですか?」

「それは、私の都合なんだ。リエリス姉さまは、私のわがままを聞いてくれたんだ」

サーラは満足気に微笑んでから、事情を説明し始める。


「キュンメ家には、戦友の誓いという慣習があるんだ。戦場では何があっても互いを信じて命がけで助けるという真の友の誓いだ。もちろん今の平和な時代では、お互いの気持ちの問題だけど、キュンメ一族にとっては誓約よりも価値のある儀式なんだ。これは、2人だけの間でも成立するけど、お互いをよく知る人の立ち会いがあれば完璧なんだ。だから、ケン=マッケンジー、私の真の友になってくれ!」


サーラの強い想いを込めた眼差しが、ケンの心を射抜く。

…もちろん、嫌では無い。

だがしかし、自分の家柄は彼女に釣り合わないし、成人後に世界を回っている親友の存在は、サーラの社会的評価をおとしめるかも知れない。


「…僕なんかでいいんですか?」と、色々な意味を込めて彼は尋ねる。

「ケン以外は考えられない。逆に聞くけど、ケンは私でいいのか?」

彼女の迷い無い答えに、彼は感動する。


「望むところです。僕はサーラさんの真の友になりたい」

「それならば、これからはサーラと呼び捨てにしてくれ」

「わかった、サーラ。僕は今から君と、その戦友の誓いを交わしたい」


考えてみれば、自分の事情は全て彼女に話している。

全て解って自分を真の友と呼んでくれるサーラは、レクサ=ヘリスに匹敵する親友だとケンは心の底から実感した。



それから、リエリスの立ち会いの元で、ケンとサーラは戦友の誓いの儀式を始める。

お互いの手のひらに傷を付けて血を流し、そのまま手のひらを合わせ、指を互いに交差して手と手をしっかりと握り合う。

手を握り合ったまま、お互いがしっかりと抱き合って誓いの言葉を交わす。


「ケン、一生親友でいてくれ」

「もちろんだ、サーラ。僕は誓うよ」

サーラの手に力がこもる。

震えるような小さな声は、ケンにしか聞こえない。


「…このまま、ずっと一緒に居たい。明日別れるのはさびしいよ」

「僕だって辛いよ。何で離れ離れにならなきゃいけないんだ」


2人だけしか聞こえない言葉を耳元でそっと交わし合うと、繋いでいた手と抱き合っていた体が、心だけを残して静かに離れる。

その時の2人の表情は、クシャクシャの酷い笑顔だった。

お互いの目と目を見つめ合って、言葉も無く頷き合う。


「ケン=マッケンジー並びにサーラ=キュンメ、2人が真の友である事を立会人であるリエリス=キュンメが正式に認めます。若き2人に、幸多き事を女神様に祈ります」


リエリスのよく通る声を聞きながら、ケンは頭の片隅で考えていた。

恋人と親友は、どちらが価値がある存在なのだろうか?

その答えは、まだ若い彼には想像も出来なかった。

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