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第76話 クラブ間の調停


生徒会室の中は大きく3つに分かれていて、一番よく使われるのは生徒会執務室である。

そこは生徒会メンバーが通常業務を行う場所で、メンバーそれぞれの机と椅子が計6台ずつ置いてある生徒会室の心臓部だ。

次に使われるのが執務室の横にある小さな資料室で、中には小さな机と椅子が一台ずつ置いてあり、残りのスペースは全て書棚に埋められている。

そして、あまり使われないのに一番大きなスペースを取っているのが大会議室だ。

その場所は、クラブの全体会議や予算会議だけでなく、各クラブ間の話し合いや調停が行われる場所でもある。


8月の中頃のとある放課後、もう生徒会を辞めたはずのケン=マッケンジーと、生徒会に入会してから2週間程度の3年の新人、レイカ=アネアスは大会議室の中にある長机の前に座って体操部と演劇部の新部長達が来るのを待っていた。

落ち着いた様子のケンに比べてアネアスは緊張気味で、しきりに大会議室の入り口に目線を送っている。

ケンは彼女の様子を見ながら、いくつかの確認事項を話して行く。


「司会はアネアスさんに任せるよ。一応ハイドから代理権をもらっているけど、僕はメンバーじゃないからね。…まあ、助けが必要なら言ってくれ。何とかフォローしてみるから」

「はい、頑張ります!」

「…司会は頑張らなくていいの。相手の言い分を聞くのが仕事だから、必要以外はしゃべらない方がいいんだよ」

ケンにたしなめられた彼女は、少しむくれた顔をする


「それじゃあ、まとまる話もまとまりません。…みんな勝手なんですから」

「そりゃそうさ。もめてるんだから当然だよ。それより、他のメンバーの力を借りなくていいのか? 君は新人なんだから、例え嫌でも先輩方の助けが必要だと思うけどな」

ケンの最もな忠告を聞くと、彼女は小さく溜息を漏らす。


「…実は、さっき副会長2人に立ちあいを頼んだんです。…嫌だったんですけど、今後の事もありますから。でも、私が勝手にマッケンジーさんに頼んだのが気に入らないみたいで、ぜんぜん話にならなかったので、もうこっちから断っちゃいました。今まで何回頼んでも相手にされなかったのに、マッケンジーさんがいなければ立ち会ってもいいなんて、本当にひど過ぎます!」


さすがにこれには、ケンは苦笑するしかない。

副会長達は相変わらずみたいだが、ケンはこれで生徒会に関わるのは最後にするつもりなので、本来なら彼女の選択は間違っている。

何せ、嫌々でも立ち会わす事さえ出来れば、副会長達は今回の件に関わらざるを得ないのだから、彼女は重責から解放されるはずだ。

ああいうプライドが高いタイプは、こちらがへりくだっておけばそこそこ良い仕事をしてくれるはずなので、今後の仕事上の付き合いを考えると巻き込んだ方がいいのは間違いないだろう。

ケンは、その辺の事情は解っているから、この話し合いに立ち会うとは両クラブの部長達には一言も言っていないのだから。


だが、彼女の選択はケンを更にやる気にさせた。

レイカ=アネアスはいい子みたいだから、力になってあげたいと彼は考える。

責任感も強い真面目なタイプだから、ハイドの言うように、彼女は経験さえ積めば良い生徒会メンバーになるだろう。

問題があるとすれば、経験を積ますのは本来なら彼では無い事だろう。


「…嫌かもしれないけど、他の生徒会メンバーとは仲良くしといた方がいいよ。嫌われている僕が言うんだから間違いない」

身もふたも無い言い方だが、彼女にはこれくらいはっきり言った方がいい。

彼女もケンの気持ちに気付いたみたいで、少し恐縮気味に返事をする。


「…わかってはいるんです。でも、いくら私が新人で下級生で雑用係だからといっても、馬鹿にされるのは我慢出来ないんです。それなら、自分の力だけで精一杯頑張る方がいいんです」


「アネアスさんは損な性格をしているな。…まあ、ハイドがいるから大丈夫だと思うよ。これに懲りずに、これからも相談するようにね」


そんな事を話していると、大会議室の引き戸が開いて、体操部と演劇部の新部長達が中に入ってきた。

お互いに目も合わせず、険悪な雰囲気を漂わせて、ケンとアネアスの前に少し間を空けて着席する。

それを確認したアネアスは、緊張気味に話し始める。


「お忙しい所をお呼び立てしてすみません。今日は、何とか体操部と演劇部が納得できる解決法を見つけたいと思っています。今から講堂の使用時間の割り振りを書いた用紙を配りますので、ご意見があれば言ってください」


彼女は部長達とケンに、1枚ずつ講堂の使用時間を書いた用紙を配る。

それを一読した演劇部の女性部長は、いきなり立ち上がって帰ろうとする。

アネアスは驚いて、彼女を呼び止める。


「待ってください、まだ何も話してません。もう一度席に座って、もし文句があるなら言ってください!」

彼女はアネアスをにらむと、とりあえず元の席に座る。

それから、我慢ならないという感じで強い口調で話し出す。


「話になりません! 講堂の舞台は以前の取り決めで、演劇部が独占的に使用出来る約束になっていたはずです。この表では、6日の内の2日も体操部に明け渡さなくてはなりません。しかも、演劇コンクールがある5日前までずっとなんて、納得出来る訳ありません!」


それを聞いた体操部の部長の眉がつり上がる。

彼は、演劇部部長と全く顔を合わさないまま意見を言う。


「何度も繰り返し言うが、状況が変わったから以前の取り決めを白紙に戻したいと体操部は考えている。体操部は競技スポーツとしてのダンスだけでは無く、今期から創作バレエにも参加したいと考えているんだ。発表会にも参加する予定だから、どうしても舞台上で練習する必要が出てくる。演劇部の舞台使用の独占は、公平使用の観点からいっても許されない」


「約束は約束です。それに、体操部の申し出は一方的で急過ぎます。私達にとって今が稽古の一番大事な時期なのに舞台での練習が出来ないなんて、演劇部を預かる立場としては受け入れられません。そもそも、うちにとって何のメリットも無い提案なんて問題外です!」


2人とも一歩も引かずに言い合っている。

2人とも顔も合わさずケンの顔を見ながら話すので、何かの劇のようにも見える。

アネアスは、どうしていいか解らずおろおろしているが、ケンは表情を変えず黙って聞いている。

部長達の話は、更にヒートアップする。


「メリットなんて関係ないだろう。元々の取り決めに戻すだけだ」

「ウルルス高専生として、約束を守らない事は恥ずかしくないんですか?」

「時と場合による。その為に話し合いの機会を持ったんだ。文句は無いだろう?」

「…大ありです。そんなのは話し合いとは言いません。こっちは発表会に向けて舞台に集中したいのに」

「それはお互い様だ。そもそも発表会の時期が重なっているんだから仕方なかろう。体操部としても舞台の利用は絶対に必要だ」

「体操部は今までのように、講堂のフロアーを使ってやればいいだけです」

「横暴すぎる!」

「どっちがですか!」


お互いに顔を合わさないでけんかするのは、何とも奇妙な光景だ。

アネアスも、さすがにまずいと思ったのか、「落ち着いて下さい! これからは発言の際は、私に許可を求めてから話してください!」と、これ以上事態が悪化しないように必死に司会を務めようとしている。


ケンは、そんな3人の様子を相変わらず無表情のままで眺めている。

この争いは、一言で言うと一つしかない講堂の舞台の取り合いだ。

ケンが調停する前までは、演劇部と体操部は講堂自体を1日ごとに使用していた。

ただ、演劇部は舞台を利用する場合がほとんどだし、体操部はフロアーさえ利用出来れば問題なかったので、ケンが前部長達と話し合って双方が講堂を毎日利用出来るようにしたのである。

それを体操部の新部長の新たな試みによって、再調整しようという話だったのだが、演劇部にとっては何の得も無く、しかも時期が悪い上に、お互いがやる気があるクラブの新部長同士である為、ここまでこじれてしまった訳だ。


しばらくの間、新部長達はアネアスに発言の許可を求めた後に、交互にケンカ腰の言い合いを続けている。

アネアスは双方の言い分を聞きつつも、2人の間に入って色々と提案している。

体操部には、フロアーに舞台と同じ大きさの線を引いて、そこでリハーサルをこなせないかとか、演劇部には通し稽古以外はフロアーを使って練習して欲しいとか、至極もっともな提案だ。

だが、話は平行線のままで交わるはずもない。

感情のもつれも大きいが、新部長としては部員達への示しもあるので一歩も引けないのだろう。

我慢に我慢を重ねていたアネアスも、ついに堪忍袋の緒が切れたのだろう。

決定的な一言を言い放つ。


「…わかりました。お互いに妥協する気が無いのでしたら、生徒会としては取り決め以前の状態に戻すしかありません。講堂の使用は、1日毎とします。お互いのクラブにとってはメリットの無い話だと思いますけど、本当にそれでよろしいですか?」


これには、演劇部の部長は黙り込む。

当初の提案では、1週間のうち4日利用できる所が、1日減って3日になってしまうのだから。

だが、体操部の部長は頷いて同意する。


「体操部としては、それで構わない。舞台が利用出来ないよりは、よほどましな提案だ」


それを聞いた演劇部の部長は唇をかみしめる。

そもそも、始めからこれは分の悪い話なのだ。

体操部は、リハーサル程度なら体育館や校庭を使えば練習できるが、演劇部は舞台装置の関係上、なかなかそういう訳にもいかない。

彼女は冷たい目でアネアスをにらむと、怒りを抑えきれない様子で話す。


「…そうですか、生徒会は体操部の肩を持つのですね。何の実績も無い創作バレエの練習の為に、昨年度コンクール2位の実績を持つ演劇部の伝統を踏みにじるつもりなの? ずいぶんと、実力主義であるウルルス高専の伝統に合わない決定をするんですね」


アネアスは、その批判は覚悟していたのだろう。

努めて冷静に返事をする。


「言い分は理解できますけど、体操部の提案の方が合理的です。せめて、当初の提案通りに2日間だけ舞台を明け渡してもらえますか?」


「勝手にすれば? 施設使用の最終決定権は生徒会にあるんですもの。…もういいかしら? コンクールが近いから、練習に戻りたいのよ」


演劇部の部長は立ち上がる。

アネアスも、今度は止めない。

確かにこれで事は治まるだろうが、このままでは演劇部と体操部はもちろん、生徒会と演劇部にも遺恨が残るだろう。

ケンは大きな溜息をつくと、「そこまで折れたんなら、もうちょっと話が出来ないかな?」と、彼女を呼び止める。


「これ以上何の話があるというの?」

「マッケンジー君、どういう事だい?」

「…マッケンジー先輩、あの、何か問題でもありましたか?」


3人に次々話しかけられて、ケンは苦笑する。


「基本的に文句は無いけど、アネアスさんの言ったように誰の得にもならない話だと思うよ。それに、君達は大きな勘違いをしている。生徒会長は、この決定をよくは思わないはずだよ。ハイドの性格からいって、ここまでもめたクラブに対して、何のペナルティも無いなんて考えられない。例えば、体操部と演劇部の前部長達を呼びだして説教をするかもしれない。最悪の場合は、施設使用の制限や予算の削減だってあり得る。みんなはそれでいいのか?」


新部長達は、ケンにそう言われて一気に冷静になり、深刻な表情をする。

ハイド=ノワールが、まだ生徒会長になる前に行なった、現在の映画撮影部へのペナルティーは有名な話だから、予算の削減は十分にあり得る話だ。


「ねえ、マッケンジー君。生徒会長はそこまでするかしら? もうこの話は、決まった事でしょ?」

「そうだよ、少なくても体操部の提案は正当な物のはずだ。ペナルティーを受ける根拠が無い」


両部長がそう言うのを聞いても、ケンは首を横に振る。


「2人とも、お互いの顔を見てみろ。それが、伝統あるウルルス高専の中堅クラブをまとめる部長の顔か? この決定は、本当に前向きな物かい? 君達が、部員に対して示しがつかないように、ハイドだってこんな取り決めは生徒会長として示しがつかない。意地を張り合って、実質決裂した話し合いをハイドは認めないだろう。将来は人の上に立つ立場になるウルルス高専生は、相手の事情を思いやれる人間族であれ、と言うのがあいつの考え方だよ。まして君達は、10人近くの部員達をまとめる立場にある部長だろ。…もう一度聞くけど、本当にこのままでいいのか?」


新部長達は、大会議室に入って来てから、この時初めてお互いの顔を見る。

相手の表情は戸惑っていて不安そうで、2人とも気まずくて耐えられずに思わず目をそらす。

ケンは、それを確認すると「さあ、ここからが本当の話し合いだ。今からお茶を入れるから、リラックスして話そうよ。僕は今日、自宅からお茶菓子を持って来たんだ。お勧めだからついでに味見してみてよ」と、にこやかに笑う。

完全に毒気を抜かれた2人は、苦笑して頷いた。



生徒会の大会議室が臨時のお茶会の会場に変わった後に、ケンが双方の部長に提案したのは2つの事。

1つは、演劇部のコンクールが終わるまでは、今までの取り決めを継続する事。

その代わりに、体操部は昼休みに舞台の使用をして、創作バレエの発表会に備える事。

その後は、アネアスの提案通りの舞台使用の割り振りにするが、お互いが話し合って相手の事情を考えて出来るだけ譲り合うようにする事も、ついでに提案する。


そして2つ目の提案は、双方のイベントが終わった後に、体操部と演劇部が共同で演劇コンクールに参加する事。

一見無謀な提案だが、分野こそ違うが、同じ芸術を目指す者として協力が出来れば、お互いの刺激にもなるし面白い事になるかもしれない。

共同で事に当たれば人員も増えるし、双方にとっても良い経験になるはずだ。

体操部は、演劇部の得意な脚本や構成や演出等の舞台に対する知識を吸収出来る。

演劇部も、体操部の得意な体を使った表現力を学べるし、大規模な演出も可能になる。

しかも、発展的な協力関係は生徒会長の意にも沿うから、ペナルティーどころか実績を残せば予算の増額だって十分あり得る話だ。


1つ目の提案は、反対意見も出ずにすぐに了承された。

さすがに2つ目の提案は部長達は即答しなかったが、双方の部長ともが部員達と相談して後日返答する約束となった。

最後にケンは、3人に向かって話す。


「後の細かい事は、部長達とアネアスさんが話し合って決めてくれ。そもそも僕は、生徒会メンバーじゃないからね。でも、ここまで関わったんだから、この件に付いては最後まで責任を持つよ。もしトラブルになりそうだったら、ここまでこじれる前に相談してくれると嬉しい」


その後もしばらく雑談が続き、ここに入ってきた時の様子が嘘のように、演劇部と体操部の部長は仲良く話している。

アネアスも遠慮なく話しているようなので、感情のもつれによるトラブルの可能性は、ずいぶんと減っただろう。

自分の役目はもう終わったと判断したケンは、立ち上がって部長達に話しかける。


「そろそろ帰るよ。2人とも今日は無理を聞いてもらってありがとう。発表会やコンクールでいい成績が出るのを心から願ってるから頑張れよ」

そう言われた体操部の部長が、立ち上がってケンに握手を求める。


「ケン、私も体操部に帰って部員達と話し合ってみるよ。時間があればでいいから、発表会には顔を出してくれ」

「もちろんそのつもりだよ。創作バレエの善し悪しは解らないけど、踊りは好きだからな」


ケンと体操部の部長が握手を交わしていると、演劇部の部長も彼らの側に来て、胸に手を当てて話し出す。


「ケン君、本当にありがとう。演劇部の公演も見に来てね。今年は未成年の部の優勝を狙ってるのよ。あなたのおかげで、コンクールまでは練習に集中出来るわ」

「楽しみにしてます。何とか時間を調整して見に行きますよ。正直、舞台の事はよく解らないんですけどね」

「大丈夫よ、素人が見ても面白い舞台にする自信はあるから」


彼女とも握手を交わすと、先に両部長がそろって大会議室を後にして、それぞれの部室へ戻って行った。

ケンはホッとして力を抜き、アネアスの方に向き直る。


「アネアスさん、後片付けは任せていいかな? この後ちょっと用事があるから急ぐんだ」

「もちろんです。…あの、本当にありがとうございました」


ケンは、はにかむように笑うと、軽く手を上げて大会議室を出て行った。

彼女は、その後ろ姿をじっと見つめていた。



大会議室の掃除と後片付けを終えて、アネアスは生徒会執務室に顔を出す。

執務室には生徒会長であるハイド=ノワールだけが残っていて、他のメンバーの姿は見えない。

部屋の中に鞄や荷物が無い所を見ると、もう帰ったのだろう。

彼女はハイドの前に立ち、「調停は終わりました」と告げる。


「報告したまえ」

「はい、…それより先輩方は?」

「俺が言って先に帰らせた。何か用でもあったのか?」

「いいえ、ちょっと気になっただけです。…ノワール会長って意外に優しいんですね」

「さて、何の事だか解らんな」


彼女はぶっきらぼうに答える彼の様子を見て、内心で苦笑する。

多分だけど、自分が調停に成功しても失敗しても副会長達はいいようには思わないだろう。

何にもしない相手に嫌みを言われるなんて、あまり経験したくは無い。

今はとてもいい気分だったので、なおさら会長の配慮はありがたかった。


それからアネアスは、事細かに先程の調停の内容を報告する。

ハイドは一言も声を出さず、最後まで話を聞くと「ご苦労だった。引き続き、この件は君に任せる」とだけ答える。

彼女は頷いて自分の席に戻ろうとするが、ふと立ち止まって彼に質問する。


「会長は、私が強引に調停していたら、体操部と演劇部にペナルティーを与えていましたか?」

ニヤリと笑った彼は、「アネアス君に任せた以上、それはあり得ないよ」

ケンのブラフ(はったり)だとは気付いていたが、2人の分かり合った様子に、彼女は軽い羨望のまなざしを送る。


「ノワール会長は、何でマッケンジー先輩を手放したんですか? 失礼ですけど、副会長のお2人なんかよりずっと頼りになる優しい人なのに」


ハイドはそのストレートな質問に苦笑いする。

まあ、彼女以外の生徒会メンバー全員が知っている話だから、隠す必要も無いだろう。


「ケンは劣等生でな、半年間の約束で俺が強引にサブメンバーに加えた。アネアス君は優秀だから関係ないが、生徒会メンバーを半年以上経験した生徒は、成績が1割アップされるのはしっているだろう? 無事に契約期間が終わって、彼は普通の生徒に戻っただけだよ」


彼女は一瞬信じられない様な顔をしたが、ケン=マッケンジーの名前が出た時の副会長達の反応を思い出して納得する。


「…学校の勉強って、こんな時には役に立たないんですね。でも、そんな理由でマッケンジー先輩が嫌われているなんて酷過ぎます。だいたい、マッケンジー先輩はうちのクラスでもすごく人気がありますよ。それなのに馬鹿にしているなんて、なんて分からず屋なんでしょう!」


全くの同感だったハイドだが、生徒会長としては、たしなめる必要がある。

彼女には、他のメンバーと仲良くしろとまでは言えないが、協力し合える関係ではいて欲しい。


「アネアス君、一度からまった糸は容易にはほどけない。それは、君と他のメンバーに対してもそう言える。友人としてケンをかばってくれる気持ちは嬉しいが、その気持ちは抑えておくように」


彼女はシュンとしてうなだれる。

カッとしやすい性格は自分の欠点だと、彼女だって分かってはいるのだ。


「…それは、マッケンジー先輩にも言われました。…あ~あ、やっぱり私ってまだまだですね。今回の件もマッケンジー先輩がいなかったら、もっと酷い結果になっていたと思います。何も出来なかった自分が恥ずかしいです」


「それは違うよ、アネアス君。そもそも今回の事で彼に協力を求めたのも君だし、最後まで責任を持つと言わせたのも君の努力があってこそだ。ケンはああ見えて、自分勝手な所がある。何の責任も無いのに、あいつはそこまで言わない。自分の嫌いな奴に対しては、特にそうだ。つまりアネアス君は、ケンに好かれている。認められたと言ってもいいだろう」


その言葉に、彼女は真っ赤になって慌てふためく。


「わ、私がマッケンジー先輩に好かれているなんて!(…どうしよう? もしかして告白されちゃうかも。でも、嫌じゃないし、全然ありな気がします)」

並列思考か独り言かも解らない様子で、彼女は混乱している。


「何をブツブツ言っている。それより今日は、事務仕事が残っているんだ。アネアス君も手伝いたまえ」


ハイドに冷たく突っ込まれて我に帰った彼女は、彼の表情を覗き込むようにして、恐る恐る尋ねる。


「はい、ごめんなさい。…あの、今の独り言、聞いてました?」

「…さあ知らんな。それよりさっさと手伝いたまえ」

「了解しました」


それから2人は、黙々と事務作業を続ける。

5分ほど経った後、ハイドは独り言のようにポツリと話す。


「…ケンは、後輩の中に、付き合いたいほど好きな奴はいないはずだ」

「…会長のバカ! 『分析』ギフトのうんこたれ!」


彼女は真っ赤になって鞄をつかむと、仕事を放り出して生徒会執務室を飛び出して行った。

自業自得とはいえ、結局ハイドは1人遅くまで残って、今日のノルマをこなしたのだった。

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