第70話 たった2つの選択肢
人間族にとって魔力体の安定とは、体が完全に大人になった事を意味している。
だからといって、お赤飯を炊いたりするような特別なイベントは無いし、性格が変わったりするような内面的な変化も無い。
それまでとの大きな違いは性欲が出て来る事だが、放出魔術を使えばプレイ(性交)する必要も無いし、パートナーだって選ぶ必要も無い。
でもそんなのは、友達がいない寂しい人間族の言い訳だろう。
この世界の人間族は、別に相手の事が好きでなくても、スポーツ感覚で体を重ね合うのだから。
ケン=マッケンジーも、その例から漏れない。
彼は独りぼっちが好きな訳でも無ければ、プレイにそれほど特別な感情など持ってなど無い。
だから、初めて経験する厄介な欲望に立ち向かう為にパートナー選びを考えていて、少し前に同じ状態になった友人のハイド=ノワールの意見を参考にしようと思っている。
ケンは、魔力体が安定したその日の放課後、ウルルス高専の3年8組の教室で、今まさに教室を出ようとしていたハイドの背中に声をかけた。
他のクラスメイト達は部活に行く為に急いでクラブ棟へ向かっていて、もう教室には自分達2人しかいなかったし、これから2人で生徒会執務室に行く予定なので都合がよかったからだ。
「ちょっと待って、5分だけでいいから相談に乗ってくれ」
振り向いたハイドは、鞄を机の上に置いてから立ったままケンに聞き返した。
「それくらい構わんが、改まって一体何の相談だ?」
ケンは咳払いをすると、彼に近付いて行き、耳元で小声で話し掛ける。
恥ずかしい相談ではないが、大っぴらに言う事でも無いからだ。
「実は今朝、魔力体が安定した」
「…もう、能力値の測定はしたのか?」
予想外の返事に、ケンは思わず身を引く。
「いきなりそれかい! …まあ、昼休みに済ませたけど」
「測定用紙を見せてもらってもいいか?」
「そりゃハイドのは見せてもらったから構わないけど、…ちょっと待ってよ」
ケンは鞄から昼休みに測ったばかりの能力値が書かれた測定用紙を取り出して、人間族トップクラスの友人に手渡す。
結局ハイドの最大魔力値は1950程度だったが、これは間違いなく優秀な人間族の中でも際立っていて、他の魔術の能力値も本来のケンよりは落ちるが、彼を除いたウルルス高専生の中では間違いなくトップだ。
ハイドは、ざっと測定用紙に目を通すと、「…低いな」と一言だけつぶやく。
「ハイドと比べられとも困るよ」と、ケンが文句を言うと、
「最大魔力値の事を言っているんだ。俺はお前の他の初期値は知らないが、これを見る限り悪くない。魔力体が安定した後でも伸ばそうと思えば伸ばせる能力値も多いから、これから鍛えれば少しは上がるだろう。だが最大魔力値は、これほど高いと、特異体質以外は伸びしろは無いはずだ。それなのに、初期値からほとんど変わってないじゃないか」と逆に文句を言われる。
「それは違うぞ、10歳の時から全く変わっていないんだ。でも、魔力体が安定したから病気は完治した。もういきなり倒れる心配は無いよ」
ケンのすごく嬉しそうな様子を見て、ハイドは勝手に誤解して深刻そうな表情をする。
「…そうか、確か難病の一種だったな。一応、おめでとうと言っておこう」
「…ありがとう、素直に嬉しいよ。もう授業を見学する必要も無いから、やっとみんなと同じ舞台に立てるんだ。それが一番嬉しいんだ」
ケンのダミーの病気は、魔蔵に先天的な欠陥があって、魔蔵や魔力体が非常に不安定になる本当にある難病だ。
能力値強化が出来ないどころか、症状がひどい場合は命さえ落としかねない危険な代物だ。
ほとんどの患者は、魔蔵や魔力体の成長と共に自然に完治するが、能力値の自然増加はほとんど見込めないし、治療方法が確立されていないので、魔力体が安定するまでは出来るだけ魔蔵に負担をかけないようにする必要がある。
そういう設定なんだから仕方が無いとはいえ、こんな嘘をまでついて、本当にその病気に苦しんでいる人に対しては、ケンは非常に申し訳なく思っていた。
ようやく魔力体が安定して、これ以上嘘をつかなくてもよくなったので、ケンは嬉しかったのだ。
それにこれからは、だいたい40%程度の力でなら、遠慮なく魔術が使える。
魔術の構築方法や速度には気を付ける必要があるだろうが、実技の授業も見学をする必要は無くなるだろう。
3年半経ってやっと、本当の意味でケンはウルルス高専生になれたと思っていた。
ハイドは、そんなケンを見ながらそっけなく質問する。
「それで、一体何の用だ? まさか、俺に自慢したかった訳でもないだろう?」
「そりゃそうさ。聞きたいのはハイドがパートナーをどうする気なのかって事だよ。僕の先生に聞いたんだけど、魔力体が安定してしばらくは、かなり性欲が強いって聞いたんだ。特に、魔力量の多い男は大変な場合があるらしい。僕程度でもそうなのに、ハイドならもっと大変だろうと思ってさ」
ケンの話を聞いたハイドは、少し驚いたように目を見開く。
そしてゆっくり頷いて、比較的小声で話し始める。
「…なるほどな、それは初めて聞いたが納得出来る。俺は、あれ以来ほとんど毎日発情している。よりによって試験期間だったから、毎朝放出魔術を使うしかなかった。全く、性欲はうっとおしくて仕方ないな。…それで、ウッドヤットさんはケンにどうしろと言っていた?」
ケンはハイドもまだパートナーを決めていないと知って、参考にならず少しがっかりしたが、結局同じ立場だと気付き、(それなら一緒に悩みを解決しよう)と思い直した。
「始めのうちは相手に事情を説明して、たくさんの相手と数をこなす方がいいんだって。出来るだけ放出魔術を使わないで、数人のパートナーを見つけてプレイしろってさ。それを続けていれば、個人差があるけど1年くらいすれば性欲が落ち着くらしいから、その後に特定のパートナーを決めると、発情周期が安定するらしいよ」
「…それは難儀だな。だが、確かに合理的だ。それでどうする? ウルルス高専生の女生徒の中で、フリーなのは数えるほどしかいないだろう」
少し苦笑して、ケンは答える。
「本当はそれを相談したかったんだよ。ハイドならいい方法を知っているんじゃないかと思ってたんだ」
「そんな訳なかろう。お前は俺を何だと思っている。俺も単なる初心者の1人に過ぎない。こんなに性欲が強いとは思わなかったから、パートナー選びさえ躊躇していたくらいだ。…だが、ケンの話を聞いて良い方法を思いついたぞ」
ケンは、パン!と手を打って微笑む。
「さすがは優等生、それでその方法は?」
「常勤医師に相談する。今から医務室に行こう」
ケンは、前のめりにずっこけそうになる。
「結局それかよ! …でも、それしかないな。…でも、生徒会の方はいいのか?」
ハイドは自信満々に即答する。
「どっちが優先なのかは考えるまでも無い。生徒会に顔を出すのは、医務室に行ってからでも遅くは無いしな。だいたい、心身とも健全でなければいい仕事なんて出来んさ」
ハイドのさばさばした様子を見て、(これは、無茶苦茶苦労してたな)とケンは思う。
もちろん他人事では無いから、「当然僕も付き合うぞ」と言って彼の肩を叩いて笑う。
「あたりまえだ、そもそもお前が言い出したんだ。嫌でも同行してもらうからな」
彼は鞄をつかむと、踵を返して教室の引き戸を開ける。
ケンはその後に続いて廊下に出て、2人は並んで医務室へと向かって歩いて行った。
それから30分後、相談を終えて医務室から出て来た2人は、不機嫌そうに眉をひそめていた。
そんな2人の手には、それぞれ2つずつの書類が握られていた。
医務室の前の廊下に立ちつくしていたハイドは、その書類をじっと眺めながら吐き捨てるように小声で文句を言う。
「まさか、アベニュー通りの利用案内を渡されるとはな」
「僕が驚いたのは、こっちの学生プレイクラブ入会案内の方だよ」
2人は顔を見合わせると、珍しい事にそろって溜息をつく。
たった今まで相談していた常勤医師の対応は、事務的でよく慣れた物だった。
ハイドの予想通り、魔力量の多い生徒しかいないウルルス高専では、よくある相談なのだろう。
医師達から言わせれば、ケンとハイドは性欲をコントロール出来ない病気なのだそうだ。
病気というからには、こんな恥ずかしい症状にも治療法があるはずだが、医師の解説した方法は2人の予想外で、アベニュー通りでの遊廓の活用と、学生プレイクラブへの入会の勧めだった。
アベニュー通りは、日本風に言うとソープランド街である。
つまり、プロに相手してもらえという訳だ。
利用案内書には、ご丁寧な事に学生割引チケットまで付いていて、医師のサインさえあれば3割負担でサービスを受けられるらしい。
遊廓は慈善事業では無いので、何と税金から補助金が出ているそうだ。
人間族の国では性産業は完全に合法で、規制はされているが蔑まれてはいないし、そこで働いている男女とも差別されていない。
特に人間族の従業員は、準公務員扱いである。
並以下の職業ではあるが、社会には欠かせない仕事だと認識されているのだ。
一方、学生プレイクラブは、未成年及び魔力体が安定して2年以内の人間族限定のパートナー斡旋事務所付きのラブホテルである。
この世界では、若い間の不特定多数相手のプレイは容認されているので、何と公共施設である。
1階の事務所で身分証明書を提示して、入会金5000ギルを支払えば有効期限付きの会員証がもらえ、後は月々の利用料1万ギルさえ支払えばいつでも利用できる。
これも税金から補助金が出ているのだから、いかに人間族が性に対して大っぴらなのかが分かるというものだ。
日本人からすれば、ソープランドか出会い系クラブを利用しろと言われているようなもので、人によっては性的な嫌悪感で気分が悪いだろうが、異世界の人間族である2人は別にそれを気にしている訳ではない。
こんな事は、ミリア教やゾンメル教の教会では教わっていなかったので、パートナーは特定の相手にするようにと教えられていたゾンメル教徒のケンとミリア教徒のハイドは、戸惑っていたのだ。
つまり、事情が事情だけに複数の特定の相手とプレイするのは何とか許せるが、不特定多数相手は彼らの倫理観に反するのだ。
それを医師に相談すると、『聖職者でもなければ、気にする必要は無い』との返事。
更に、『未成年の間は、1人でも多くの相手と経験する方がいいんだ。長い人生においてはそういう時期もあるんだよ。嘘だと思うなら、教会に行って相談してみなさい。よほどの堅物なら話は別だが、反対はされないはずだよ』との事。
ヨシトの意見と一致しているので、別にケンは疑ってはいない。
それに、相談しようにもネオジャンヌにはゾンメル教の教会は無い。
だからといって、ステラ村の調停者様に、手紙で相談する内容でも無いだろう。
後は、ミリア教の教会で相談する方法もあるだろうが、ケンの知っている聖職者はルシア=アドバンス準司祭しかいない。
念の為に、頭の中で彼女との会話をシミュレーションしてみると
『ルシアさん、僕、性欲がすごいんです。たくさんの女性とプレイしてもいいですか?』
『それくらい構わないわよ。女神様は重婚だって認めていらっしゃるのだから』
もはや聞くまでも無いだろう。
考えてみれば、ヨシトだって同じ経験をしているのだから知らないはずはないし、ヨシトと重婚する事を考えている彼女が反対する理由も無いだろう。
ケンは思考を中断して、ハイドに声をかける。
いつまでも医務室前の廊下に居たって仕方がない。
「…生徒会に行くか?」
「ああ、そうだな。ジョンならいいアドバイスをくれるかも知れん」
「副会長に聞くのか?」
「俺が聞くから心配するな。必要以外はケンは黙っていればいい」
そういえば、副会長のジョン=スパーズは魔力体が安定していて、特定のパートナーもいたはずだ。
魔力量も多くて、2人よりも1つ年上だから、病気だったかどうかは別として相談相手としては適切だろう。
唯一つ、ケンを嫌っている事だけが心配だったが、ハイドが話を進めてくれるなら問題ないだろう。
2人は、予定より30分遅れて生徒会執務室に入る。
もう、生徒会メンバー全員がそろっていて、生徒会長のハイドを出迎える。
「会長、遅かったですね。何かあったんですか?」
真っ先に声をかけて来たのは、もう1人の副会長リムリル=トモハタだ。
彼女は1期上の4年生で、多分だが魔力体は安定していなかったはずだ。
「ああ、ちょっとな。とりあえず何か問題は起っていないか?」
「問題ありません。今日の事務仕事は終わりました。会長の決済が必要な事案はありませから、時間まで待機していれば済みます」
トモハタ副会長の言葉に頷いたハイドは、自分専用のいつもの席に座る。
完全に無視されていたケンも、今更なので黙って自分の席に座る。
「ノワール会長、何か飲まれますか?」
ジョン=スパーズ副会長がハイドに声をかけてくるが、
「今はいい。それより個人的な相談があるんだが、時間は大丈夫か?」
スパーズ副会長は、驚きと嬉しさの入り混じった表情で、
「もちろんです。大会議室に行きましょうか?」と弾んだ声で答える。
今までケン以外には、個人的な相談などした事は無いハイドがそう言うのを、生徒会メンバー全員が驚きを持って聞いている。
ハイドはチラッとケンの方を見て、
「いや、隠す程の事では無い。ただ、人によっては不快に思うかもしれん。特に女性はそうかもしれない。リムリル君とシューレ君が聞きたくないなら移動する。その時は遠慮なく言ってくれ」
ハイドがリムリル=トモハタ副会長とサブメンバーのシューレ=ヘカルスの方を見ながらそう言う。
2人が頷くのを確認すると、ハイドはスパーズ副会長に向かって話し始める。
その様子を全員が席について、興味深げに耳を傾ける。
彼が全ての内容を話し終わると、スパーズは腕を組んで思案する。
「…なるほど、会長が知らないのは無理もありません。こういうのはクラブの先輩方から聞かされる場合が多いですから」
ハイドは3年生で生徒会長になり、クラブ活動をした事がほとんど無いから、その機会が無かったという訳だ。
「もしよかったら教えてくれ。他のウルルス高専生はどうしているんだ?」
スパーズ副会長は、女性2人の方を一瞬気にした様だが、何だか興味深そうな様子で聞いているのを見ると、あきらめて話し始める。
「まず、女性の場合は性欲が暴走するケースはほとんど無いみたいです。幸いにして私は大丈夫でしたが、それは男性特有の症状ですね。女性には理解出来ない人もいるみたいだから、自分で複数のパートナーを持つのはまずいかもしれません。会長が医師から聞いたように、遊廓を利用するか、学生プレイクラブに入会するしかないと思いますよ。個人差はありますけど、半年から1年くらいで納まる場合が多いみたいです。それ以降はどうするかは個人の自由ですね」
「ケンはどう思う? お前は当事者だ。参考にしたい」
「アベニュー通りに行くつもりは無いよ。お金もかかるし、今回の様な場合は相手は獣人族の女性になると思う。彼女達は好き嫌いでプレイする場合があるから、嫌いな男相手のプレイは辛いんじゃないかと思う。だから、どっちかしか選べないなら学生プレイクラブを利用するしかないよ」
ケンらしい意見だが、プロである遊女達は仕事と割り切っているだろう。
彼はゾンメル教徒で自分には厳しいし、女性経験が無いから仕方ないともいえる。
スパーズ副会長は頷くと、珍しくその意見に賛同する。
「会長なら、プロの女性を相手にする必要はありませんよ。何回かは利用する生徒も多いですが、ほとんどのウルルス高専生は、結局学生プレイクラブでプレイします。学生プレイクラブの場合は、お互いの合意が無いと駄目ですが、私達の場合はパートナー選びには苦労しません。ウルルス高専生というだけでも人気がありますから、会長はもちろん、マッケンジー君でも大丈夫ですよ。事務員の方に仲介をお願いして、事情を説明してもらえば解ってくれますから、次から次に相手を変えても問題ありません」
その時、シューレ=ヘカルスが手を上げて発言を求める。
口数の少ないサブメンバーの彼女がそんな事をするのは珍しいので、ハイドは、
「シューレ君、何かね?」と少し表情を緩めて発言をうながす。
彼女はおずおずと立ち上がると、目の端でリムリル副会長を見て、小さな声で話し出す。
「あの、会長ならそんな所を利用しなくても、ウルルス高専内で探せば見つかると思います。わざわざ、他校の生徒から選ぶ必要はありません」
そう言って座った彼女とリムリル副会長をケンは無表情のまま横目でチラリと見る。
(まさか仲間割れか? ヘカルスさんにとってはチャンスって事だろうな。何せライバルはパートナーにはなれないもんな。リムリルさんは魔力体が安定して無いから出し抜くにはいい方法だよな。
…おお怖、リムリルさんはヘカルスさんをにらんでるよ。飼い犬に手をかまれたってか? 女は怖いね~。…それにしてもハイドはモテモテだな。いっそのこと、全員相手してやれよ。まあ、ハイドの性格からいって、それは無いけどな)
ケンが内心、ドキドキハラハラ気分で女の戦いを眺めていると、ハイドは苦笑しながらヘカルスの意見を否定する。
「それはやめておこう。間違いなく今のパートナーとの関係を解消する女性が出てくるはずだ。相手にも迷惑をかけるだろうし、何より俺の本意ではない。それに、フリーの女性が何人かいたとしても、独り占めは良くないだろう。少し落ち着いてから特定の相手を探す方が論理的だ」
実に自信満々な鼻もちならない意見だが、ハイドがその気なら恐らくそうなるだろう。
その意見にリムリル副会長は、我が意を得たりとばかりに賛同する。
「会長のおっしゃる通りです。生徒会長自らウルルス高専に混乱を招くのは好ましくありません。今は特殊な状態なのですから、落ち着いた後に、会長にふさわしい女性を選べばいいと思います」
(どうやらリムリルさんの勝ちだな。ヘカルスさんは良く頑張った。ハイドの性格からいって、まだヘカルスさんの方にチャンスがあると思うぞ。
…しかし、この生徒会は大丈夫か? 今更だけどハイドの腰ぎんちゃくばかりじゃないか。こんな事、執務室で話し会う内容じゃないだろ。
…まあ、タケシマさんが不機嫌な顔をしているのが救いだな。彼がいれば何とかなるかもしれないな。それにしても、ハイドはやっぱり苦労人だ。もう辞める僕にはどうしようもないからせいぜい頑張れ)
ケンは、もう1人のサブメンバー、ジン=タケシマを見ながらそんな事を考えている。
彼の見たところ、タケシマ先輩だけはハイドと距離を置いている。
大人しい地味な男だが、きちんと意見を言える人である。
他人にも自分にも厳しい潔癖症なのだろうとケンは見ている。
だから、ケンが能力値強化の授業を受けていないのが許せずに軽蔑しているのだろう。
そのタケシマ先輩が、重々しく発言する。
「それで、ノワール会長はどうされるんです? いくら暇とはいえ、そろそろこの話に結論を出してください」
最もな意見にハイドは頷くと決断する。
「俺とケンは、これから学生プレイクラブに入会してくる。遊廓を利用するかどうかは、その後で決める。ジョンに部屋の鍵を預けておくから後はよろしく頼む。…じゃあ、ケン。行こうか」
生徒会室の鍵を机の上に置き、当たり前のように立ち上がってハイドは部屋を横切る。
「お疲れさまでした」、「会長、それでは」、「…さようなら」、「……」
4人の生徒会メンバーに見送られて、彼は右手を軽く上げ颯爽と出て行く。
(誰か止めろよ。僕は当事者だからいいけど、明らかに職場放棄だろ!)
ケンは、内心で突っ込みを入れながら、ハイドの後に付いて行った。
階段を下りて、部活棟を出て、校庭の道を歩いている時に、ようやくケンはハイドに話しかける。
「…わざとやったな?」
「当然だ」
「それにしても、ハイドも苦労するよな~」
「…そう思うなら、生徒会に残ればいい」
「嫌だね、冗談じゃない」
「本気でそう言っている事が分かるのが、何よりムカツクな」
ともかくチェリーボーイ達は、ウルルス高専の校門を抜けて学生プレイクラブに向かう。
ケンもハイドも何となく気は進まないが、他の選択肢は考え付かなかった。
解説
ハイドがわざわざ生徒会メンバー全員の前で個人的な相談をした理由は、
まず本人が言っているように、しばらくはウルルス高専内でパートナー選びをしないと宣言して、無用の混乱を防ぐ意味があります。
他にも、あえて執務室内で話したのは、場所にふさわしくない話題に対してメンバー全員がどう反応するかギフトの派生能力で見極め、自分に対する信奉の程度や、プレイに対する意識を確かめる為です。
わざと途中で帰ったのは、間違った事をちゃんと注意出来るメンバーがいるかを確かめる為です。
ちなみに、タケシマ先輩が注意しなかった理由は、自分があくまでも正規メンバーではないからです。
ケンは本来は注意すべき立場ですが、今回の事の当事者だし、ハイドの意図に気付いていましたし、既に生徒会をやめる気なので注意しませんでした。
ハイドは、イエスマンばかりの現状をケンに確認させて、出来れば生徒会に残って欲しいと思っていたからこんな事をやったのです。
ケンが気付いていたように、見る人が見れば分かる事ですが、念のために書いておきます。




