第64話 マフィア達の襲撃
ヨシト=ウッドヤットが飛空車から降りて少し離れると、彼の目の前に自由魔動車(自動車)が突っ込んできた。
ある程度予想はしていたので、慎重に防御魔術を行使して、クッションのように受け止める。
50cm程度手前で魔動車が停止するのを見て、ヨシトの機嫌が一気に悪くなる。
(こいつら、俺に当ててもいいつもりで突っ込んできやがったな。以前なら、『防御』ギフトが発動してたぞ。やっぱり、かなり性質が悪い連中だ)
彼と飛空車の周りを取り囲むように、3台の魔動車がタイヤの音を響かせて停まる。
ヨシトは素早く探索スキルを行使して、全員の名前やギフトを確認して行く。
いくら探索スキルや『探索』ギフト持ちでも、相手の持つギフトまで解る人はめったにいないが、彼がチートなのは今更言うまでもない。
その結果、11人の獣人族の中には、それほど脅威に思えるギフト持ちはいなかった。
これなら、弟子のケン1人だって何の問題も無いだろう。
彼は、肩を怒らせて近付いてくる人相の悪い男に話しかける。
「一体何なんですか? まさか、俺を引き殺す気ですか?」
「てめえ、新聞記者か? 何のためにこの町に来た?」
「新聞記者なんかじゃありません。ただの観光客ですよ」
「写真を撮っていただろう? 信じられるか!」
「観光客なんだから、当然でしょう。用がそれだけなら、車をどけてください」
「いいから、受像機をわたせ!」
この時ヨシトは、飛空車を降りた事を既に後悔していた。
この連中とは、全く話が通じそうにない。
彼の周りを5人の人相の悪い男達が取り囲んでいて、いつ攻撃して来てもおかしくない状況だ。
残りの6人は飛空車を取り囲んで、盛んに中の学生達を恫喝していて、しかもドアに蹴りまで入れている。
彼は周囲をチラリと確認する。
トラブルを避ける為か、比較的広い通りにもかかわらず、辺りに人影は無い。
せめて、誰かが治安事務所(警察署)に通報していてくれればいいのだが、それでも10分程度は待つ必要があるだろう。
こんなチンピラ達が、それまで大人しくしているはずがない。
(さてどうしようか? ここまでやられたら、正当防衛が成立するだろうな。ケンと2人きりだったら遠慮しないが、あんまり血生臭い事はしたくない)
怖くて震えているメニエルの姿を思い出すと、これ以上ショックを与えるのはためらわれる。
ちなみに、
この世界では、魔術やギフトがあるせいで正当防衛はかなり広範囲に認められている。
例えば、相手が攻撃的な魔術やギフトを発動する前に、相当の理由があれば先制攻撃出来るのだ。
さすがに相手を殺す場合は条件が厳しいが、逆にいえば相手が致死性の攻撃をしてきた場合は皆殺しにしても起訴さえされない場合が多い。
問題は証明方法だが、優秀な能力を持つ人間族なら視覚情報を記憶してスクリーンに投影する記憶投写魔術があるから、例え裁判になったとしても勝てる可能性が高い。
だが、視覚情報はあくまでも本人の主観だから改ざんも出来るし、鮮明な物では無い場合が多い。
証拠採用される場合は、思考紋や思紋、目撃情報、最近では科学的調査と照らし合わせて矛盾が無い事が条件になる。
ただし、今回の場合はそれ以前の問題だ。
徒党を組んで、しかもヨシト達が乗っていた飛空車を取り囲むように駐車している時点でアウトだ。
彼らが、治安員(警察官)でなければ、どんな言い訳も通用しないだろう。
そんな事も知らないこのチンピラ達は、相当な馬鹿どもだ。
閑話休題。
ヨシトは、大声で怒鳴っている男達と会話する事をあきらめる。
こんな奴らが、詳しい情報を知っているはずも無い。
念の為に、一言だけ確認するだけで十分だ。
一応この集団のリーダーらしき男を見極めると、取り囲んでいる男達を無視して、彼にだけ殺気を浴びせかけながらゆっくりと近づいていく。
「おい、タラント。貴様は勝手にこんな事をしていいのか? 俺達を襲えって誰かに頼まれたのか?」
ヨシトに名指しされた男は、その雰囲気に圧倒されて冷汗を流しながら一歩下がる。
「…てめえ! 何だっていうんだ!」
恐怖に表情を引きつらせて、みっともなく声が裏返った男はそれでも虚勢を張る。
それを見た周りのチンピラ達は、血相を変えてヨシトに殴りかかる。
「死ねや、ゴラァ!」「ナマ言ってんじゃねえぞ」「殺すぞボケェ」
安っぽい言葉を吐きながら彼に飛びかかるが、3重に張り巡らせた防御魔術を破る事など出来ずに、結界表面を殴りつけては拳を痛める有様だ。
ついにチンピラの1人が、攻撃系ギフトを使おうとしてヨシトから少し距離をとる。
だが次の瞬間、白目をむいて石畳の歩道に崩れ落ちるように倒れる。
「何だ? おいどうした」
そう言って、倒れていた男に近付いたチンピラも同じように次々と倒れる。
11人いた男達は、だらしなく気絶して行き、残ったのはリーダー格のタラントだけになってしまう。
「てめえ、なにしやがった!」
「…質問に答えろ、タラント。誰に何を頼まれた?」
ヨシトの殺気が彼を襲う。
「ヒィ! ば、ばけものだ。たすけてくれ!」
タラントはパニックになり、腰砕けになると地面をはいずるようにして逃げ出した。
そんなチンピラをヨシトが見逃すはずもない。
石畳の地面を変化させ、彼の両足首をがっちりと固定する。
石の足かせで地面に縫い付けられたタラントは、歩いて逃げる事はもちろん、地面を転げ回る事さえ出来ず、上半身だけでむやみにもがき暴れる。
「もう一度だけ聞くぞ。誰に何を頼まれた?」
ヨシトの恫喝に、反射的にタラントは叫ぶ。
「知らん、俺は何も知らん。お前らを見張るようにデクブールの兄貴に言われただけだ」
「それなのに襲ったのか?」
「そ、それは、隙があれば受像機を奪えって言われたからだ! あんたらに怪我をさせるつもりは無かった!」
「馬鹿が! もっとましな嘘をつけ! 何で受像機を奪おうとした!」
「ヒィ! 許してくれ。本当に知らないんだ。た、頼む、殺さないでくれ!」
「…だったら、もう用は無いな」
「助けてくれ、死にたくない! た、たす、け、……グガ、……ゲフッ!」
タラントが泡を吹いて完全に動かなくなると、ヨシトは興味を無くしたように足かせを外し、飛空車の方に戻って行く。
飛空車の前に立つと、ポケットに入れていた通信魔道具を取り出して、
「終わったぞ、近くに仲間もいないようだ」と、中にいる4人にメッセージを送る。
今までの会話を魔道具の子機で全て聞いていた後部座席の3人は、あまりの事に呆気に取られていたが、「キュンメさん、もう防御魔術を解除してもいいですよ」と、助手席のケンに言われ、我に帰ったようだ。
キュンメは物理結界魔術を解除すると、ドアを開けて車から降り、歩いてヨシトに近付く。
「一体彼らはどうしましたの? 毒でも吸ったように見えましたけど」
(第一声がそれかい!)とヨシトは思ったが、
「まあ、似たようなもんだ。彼らは魔素中毒を起こしたのさ。一時的な物だから、30分もすれば目を覚ますだろう」
それをキュンメの後ろで聞いていたメニエルは、ヨシトに恐る恐る確認する。
「じゃあ、死んでないんですね。…よかった」
キュンメは振り返ってから、優しく彼女の肩をたたく。
「そんなのは、見れば分かるでしょ? まあ、見たくない気持ちは分かりますけど」
「…だって、怖くて見れなかったんです」
キュンメが苦笑していると、今度はハイドがヨシトに話しかける。
「どうしたらそんな事が出来るんです? 魔素欠乏ならともかく、魔素中毒は高圧な魔素を長時間吸う必要があるはずです」(文末参照1)
その質問に答えたのはキュンメだった。
「ノワール君もまだまだね。自由魔素の場合は、比較的短時間で起こるはずよ。例えば魔素災害がそうでしょ」
「…なるほど、つまりウッドヤットさんは、自由魔素を圧縮して吸わせたんですね。ですが、それなら大気中の二酸化炭素を使って魔素欠乏を起こさせた方が簡単で速いと思います」
すると、理化学系の専門院に通うキュンメが解説する。
「その通りだけど、脳にダメージを与える場合があるから毒は扱いが難しいわ。それに化学合成した場合ならともかく、大気から意思付けするなら区別がつきにくいから、二酸化炭素濃度を特定するのは難しいのよ。もし一酸化炭素と二酸化炭素を間違っちゃうとシャレにならなしね。人間族にとっては一酸化炭素は濃度がよほど濃くないと平気だけど、獣人族にとっては毒物指定されているわ。毒ガス攻撃は条約で禁止されているから問題だし、注意さえしていれば意志付けされた物質の気配には気付くから、馬鹿以外には通用しない方法だと思うわよ」
キュンメとハイドが、倒れているチンピラ達そっちのけでそんな話をしていると、
「君達は変わっているな。普通はメニエルさんみたいな反応をすると思うんだが…」と、ヨシトが素朴な感想を漏らす。
キュンメは、地面に転がって失禁している男達を冷酷な目で見つめる。
「私は、ここまで無礼な扱いをした相手がどうなっていても構いませんの。メニエルさんのように、敵に寛大にはなれませんわ」
「同感ですね。条約で禁止されていなければ、俺は毒ガス攻撃だってためらいません」
ハイドの若者らしい過激な意見に、ヨシトは少し厳しい声で忠告する。
「それはやめておくように。人間族の弱点も毒だ。
毒を使った攻撃は、俺の知る限り全ての国で禁止されている。
これは、歴史的な出来事に由来している。
あまり知られていないが、戦争時代は毒ガスや毒を塗った武器が多量に使われていた時期があったんだ。
その結果、数で劣る人間族は絶滅しかけた事がある。
精霊族の参戦や、女神の『託宣』が無ければかなり危なかったらしい。
だから、毒を使って人を殺す者は、どんな理由があるにせよ外道とされている。
もちろん、刑法にも明記されている。毒を使って不特定多数の人を殺害した者は、例外なく死刑だ。
極地送りでは無いぞ、死刑なんだ」
死刑なんて、この国で年間1人いるかどうかの重罪だ。
自分達の認識の甘さをさすがに自覚して、エリート達の表情が曇る。
「それは知りませんでした。私は、法律はそれほど詳しくないんです」
「確かにウッドヤットさんの言われる通りです。俺の考えが浅はかだったようです」
キュンメとハイドは、少ししょんぼりしたようにうなだれる。
若者らしい素直な反応に、ヨシトは内心で苦笑する。
「俺としては、君達みたいな優秀な学生が法律に詳しくない方が驚きだ。そのくらいは、ケンだって俺に合う前から知っていたしな」
ケンの場合は、ちょっと特殊だからともかく、ヨシトの意見は少し厳しい。
専門的な法律の勉強をしていなければ、法律の罰則規定までは知らないのが普通だ。
それを知っているキュンメは、少し恨めしそうな目で反論する。
「言い訳になりますけど、ウルルス高専の受験科目には法学はありませんし、選択授業でも基礎的な刑法と民法しかありませんもの。…そういえば、マッケンジー君は、さっきから姿が見えませんわね」
キュンメは、気が付かない間にいなくなったケンの姿を探して、周辺を見回している。
すると、メニエルが後ろから彼女に声をかける。
「あの、マッケンジー君は治安事務所(警察)に通報に行きました。キュンメ先輩達やウッドヤットさんに知らせておいてくれって言ってました」
言われてみれば、真っ先にしなければいけない事だろう。
キュンメやハイドは、自分達がかなり冷静さを欠いていると自覚せざるを得なかった。
少しバツが悪そうにヨシトの方を見ると、彼は、さも当然とばかりに頷き、報告してくれたメニエルに気遣う表情を見せる。
「そんな訳だから、撮影旅行はここまでになるだろう。メニエルさん、残念だけどこればっかりは仕方がない」
「はい、みんな無事で良かったです。でも、サマンサ湖だけは、最後に行ってみたかったです」
ヨシトは、少しだけ思案するが、あっさりと許可を出す。
帰り際に寄る程度なら、何の問題も無いだろう。
「そうだな、治安事務所での事情聴取次第だけど、日が沈む前なら最後に寄ってみようか」
「はい、…あの、飛空車から降りなくてもいいから、暗くなっても帰りに寄りませんか?」
メニエルがよほど楽しみにしていると感じたヨシトは、ニッコリ笑って頷く。
「ご両親の了解さえ取れれば、俺は構わない。ノワール君もメニエルさんも、予定より遅くなりそうだったら、実家に音話(電話)をかけるようにな」
「「はい!」」
タイミング良く、治安車(パトカー)が現場に到着した。
治安員達は、簡単にヨシトに事情を聞いてから、倒れているチンピラ達に隷属の首輪と手錠をはめると、次々と車に乗せて連行して行く。
音話を掛けに行っていたケンも戻ってきたようだ。
とんだ撮影旅行になってしまったが、どうやら一段落ついたらしい。
ヨシトの運転する飛空車は、治安車(パトカー)に先導されて、サマンサ町の治安事務所に向かう事になる。
犯罪人の一味のようであまり嬉しい事ではないが、デクブール兄貴と呼ばれたマフィアに目を付けられた全容が解明されていないのだから、これは仕方ないだろう。
無事に飛空車が治安事務所に着くと、ヨシトは来客用の駐車場に車を停める。
来客用の駐車場には他に車は停まっておらず、閑散とした様子だった。
これは明らかにおかしいが、これ以上メニエルを不安にさせたくは無かったヨシトは自重する。
どうやらケンも気付いているように見えるから、何かあってもそれほど心配無いだろう。
それから、ケン達とヨシトは別々に事情聴取に呼ばれて、治安事務所の中で離れ離れになってしまう。
治安事務所なんて、ケンには飛空車免許を取る時以来だったが、ネオジャンヌでもサマンサ町でもそれほど造りは変わらないようだ。
事務的な机とたくさんの音話機が並んでいて、制服を着た治安員の数も出払っているのか意外と少ない。
そして、普通なら免許関係の事務手続きに来ている一般人の姿が見えない。
これは、来客用の駐車場に車が無かったことから見ても予想していたが、まさか1人もいないとは思わなかった。
ただし、中の雰囲気は、ピリピリした緊張感が漂っている。
ひっきりなしに音話が鳴っているし、わずかに残った治安員達の動きもあわただしい。
(そういえば、マフィアの抗争中だったな。そんな時に、大量の逮捕者が出たら当然だな)
ケンとしては、早く終わらせてサマンサ湖に寄りたかったが、受像機の件があるから時間がかかるかもしれない。
だが、予想に反してケン達の事情聴取は簡単に終わった。
表面的に見れば、写真撮影をしに来ただけの学生だし、身分証明書を確認し、チンピラ達の襲撃の様子を聞き、3人の受像機の中身さえコピーして渡せばそれでいいのだろう。
ヨシトだけは、さすがに簡単には行かなそうで、4人は手持無沙汰に治安事務所のロビーの中で待ちぼうけとなる。
時間は過ぎて行き、今はもう夕方5時過ぎである。
本来の予定では、そろそろサマンサ町を出て、ネオジャンヌへの帰路の途中の空の上だったはずだった。
帰りの時間は、かなり遅れそうである。
ハイドとメニエルが実家に音話を掛けに行っている為に、今はロビーの中にはケンとキュンメしかいない。
平たいソファーに横並びに座っている2人は、ハイドとメニエルがロビーから出て行った後は、一言も会話していない。
考えてみれば、朝に言い合いをして以来、2人きりでは話をしていなかった。
ケンは何となく気まずかったが、キュンメは全く気にしていない様子で、彼の顔を覗き込むように平気で話しかけてくる。
「それにしても、今日は楽しかったわ。ケン君のカッコいい姿も見れたしね」
「僕は、何もしてませんけど?」
ケンが小首を傾げながら言うと、キュンメは愉快そうに彼の目を見つめる。
「あなたは、すごく冷静だったわ。今思えば指示も的確だったし、メニエルさんに気を遣っているのも良かったわね。サマンサ名物は減点だったから、今日の成績はプラス1ポイントね」
「その減点分は、僕のせいじゃないですよね。だいたい、何の点数なんですか?」
「私の好感度よ。ケン君が今何点なのか教えましょうか?」
「…絶対、合格点じゃないですから遠慮しておきます」
彼女は、少し意地悪そうな表情をして頷く。
「あら残念。でも正解よ。頑張って合格点に近付きなさい」
「合格点を取っても、キュンメさんにはパートナーも恋人もいますよね?」
「恋人はいないわよ。…何? まさか私と恋人関係になりたいの?」
「…ありませんから」
「一瞬考えたわね。まあ、あなたがもっといい男になったら考えてあげてもいいわよ。ただし、私の基準は高いからそのつもりでいなさい」
涼やかに笑う彼女に少し心を奪われかけたケンは、必死に自重する。
(絶対にからかっているだけだよな。…きっとさっきの報復だ。あの笑顔が曲者なんだよ)
ケンとしては、このまま話を続けるのは気まずいので話題をそらす。
「それにしても、メニエル先輩とハイドは遅いですよね」
「あらあら、照れちゃって可愛いの。…でも、確かに遅いわね」
メニエル先輩達は、治安事務所前にある公衆音話ボックスに行っているはずだ。
ロビーから出て直ぐの場所にあるので、1人ぐらいは戻ってきてもいい頃だろう。
「僕、ちょっと行って見て来ます」
「…そうね、気にし過ぎだとは思うけど、もしいなかったら、子機間通信をして探してみましょう」
ケンは、立ちあがろうとした瞬間に寒気を覚える。
治安事務所の入り口の方から攻撃的な思考とギフトの気配を感じて、その方向に素早く視線を向ける。
戦闘訓練を多く積んでいる彼だからこそ感じる、ほんの少しの違和感だった。
ケンの体は、自然に彼女をかばうような位置にずれる。
そして、その一瞬の反応が彼と彼女を救った。
「ドガン!!」と、治安事務所の入り口で大きな爆発が起こる。
爆発によって生じた様々な破片や爆風がロビーにいた2人を襲う。
(曲がれ!)
瞬時に発動した『曲折』ギフトによって、彼の視線に映った全ての破片が方向を変えて、ロビーの床に突き刺さる。
だが、爆風や衝撃波までは瞬時にイメージ出来ずに、そのまま無防備で受けるほかなかった。
2人は、座っていたソファーごと後ろに吹っ飛ばされる。
ケンが出来た事は、キュンメの体を引き寄せて、身をていして彼女を守るクッション変わりになるだけだった。
2人分の体重で床にたたきつけられた際に頭を強く打ち、ケンの意識が朦朧となる。
まずいとは思ったが、体がいう事を聞かない。(文末参照2)
(くそったれが…)
薄れ行く意識の中で彼が見たのは、大きく壊れた入り口から入ってくる複数の人影だった。
それ以上は何も出来ずに、彼は気を失った。
設定及び解説
(1)魔素中毒や魔素欠乏に付いて
この世界の獣人族は、大気中の天然魔素を取り込んで呼吸しています。
酸化還元反応が弱い世界ですから、大気中の天然魔素が地球人の酸素変わりという訳です。
つまり、地球人と同様に、血液中の魔素が脳に行かなければ数分で脳細胞が死滅しますし、血中の魔素濃度が下がれば、意識を失います。
また、自由魔素が多量に血液中に入れば、普通なら制御出来ないので一時的に魔素中毒が起こり、見た目には魔素欠乏に似た症状を引き起こします。
ただし、一時的な物なら脳細胞にダメージを引き起こす可能性は魔素欠乏より低いので、ヨシトはこの方法を使った訳です。
ちなみに、脳細胞の魔素欠乏は、魔力体を持つ人間族や精霊族にはほとんど効果がありません。
魔素中毒の場合でも、獣人族の10倍近い自由魔素を吸い込まなければ、影響は出ません。
(2)ケンがあっさり気絶した事に付いて
頭を強く打ったからという理由だけで気絶した訳ではありません。
キュンメをかばって、爆発の衝撃波を全身に浴びて、肉体と魔力体のバランスを一時的に崩した事も原因です。
衝撃波は人間族の弱点の一つですが、強い力ほど減衰が激しいこの世界ではあまり知られていません。
ケンは知識としては知っていますが、これほど強い衝撃波を浴びたのは初めてだったのでギフトで曲げるイメージが湧かなかったのです。




