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第63話 ケン達はサマンサ名物を食べる


ケンがガレア教会の駐車場に戻ると、丁度ちょうどヨシト達が教会から帰ってくる姿が見えた。

(先生は、昼食はどうするんだろう? いつもの手を使うんだったら口裏を合わせないとな)

今の時刻は、昼の12時20分くらい。

普通の人間族とは違い、1日に3食のヨシトは、こんな時は朝食を食べていないという嘘をついて、1人だけ昼食をとる場合が多い。

ただ、1食どころか3日間食べなくても別に死ぬわけではないから、その辺はヨシトの腹積もりひとつだ。

ケンは、ヨシトのそばに近寄ると小声で質問する。


「先生、食事はどうされます?」

「…そうだな、さすがにみんなに付き合ってもらうのは悪いから、ファーストフードをテイクアウトするよ。この町はそんな店が多いし、味もそこそこ良いからな」

それを聞きつけたキュンメは、2人の会話に参加してくる。


「ウッドヤットさんは朝食を食べてなかったの? それなら私達に遠慮せずに、行ってらしたら?」

「それでもいいけど、せっかくだから、この町の名物の魚フライと芋の揚げ物を食べてみたい。それなら、車の中でも食事が取れるしね」

「名物ですか? 面白そうですね。私も少し興味があります」

キュンメがそう言うのを待ってましたとばかりに、ケンは提案する。


「僕も一口くらいは食べたいです。なあ、ハイドやメニエル先輩はどうします? 良かったらみんなで分けて食べてみませんか?」

「魚フライに興味があります。芋はちょっと苦手です」

「俺は、両方とも一口程度なら食べてみたい。いい土産話になる」

「じゃあ決まりですね。先生以外は、みんなで分けて食べましょう」


全員の意見の一致で、急きょ旅行案内のパンフレットに書かれている人気の店に向かう。

すぐに到着して、店の前の路肩に飛空車を駐車すると、お昼時という事もあり、そこそこの人達がテイクアウト専門店の前に集まって行列を作っている。

その様子を車の後部座席から見たキュンメが、運転席にいるヨシトに話しかける。


「結構待つんじゃありませんか? 他の店にしてみてはいかがですか?」

彼女の意見は、テイクアウト専門店を利用した事の無い、いかにもお嬢様らしい考え方だ。

ヨシトも心得たもので、彼女に説明する。


「この程度なら、長くても10分くらい並ぶ程度で済みますよ。ちょっと行ってきますので、その間は車の中で待ってて下さい」

ヨシトはシートベルトを外してから、運転席から降りて店に向かう。

「先生、僕も一緒に行きますよ。一応、僕が言い出した事ですしね」

ケンも助手席から降りて、ヨシトの後に付いて行く。


店の前には雑然とだが、長い行列が出来ている。

人間族は昼食を食べないので、その人ごみの中の人達は彼ら2人以外は獣人族だ。

行列を作って並ぶのは人間族の国では当たり前の習慣だが、獣人族が多い場所では珍しい。

それだけ、このサマンサ町の住民たちの社会性が高いのだろう。


「ところでケン。わざわざ2人になったという事は、何か話があるんだろ?」

「はい、念の為ですけど報告しておきたい事があります」

ケンは、先程感じた全身に走る悪寒に付いて説明する。

そして、その時の状況についても詳しく説明する。


「…なるほどな、あまりいい感じはしない話だ。ケンが今まで感じた事が無い、寒気のする感覚なんて殺意くらいしかないだろうな」

「さすがに、それはどうでしょうか? 僕は殺される覚えはありませんよ。冷静に考えれば、僕の勘違いの可能性が高いと思いますけど」

だが、その意見にヨシトは否定的な様だ。


「ケンの感覚は、元々そんなに鈍くは無い。まして、俺がもう3年近く鍛えてるんだ。並の傭兵に負けないくらいの勘のさえはあるはずだ」

「その割には、いっつも先生にボコボコにされてますけどね」

「それは、比べる相手が悪い。…まあ、多分だが、1人で歩いていた所を犯罪者に狙われたってとこだろう。だが、殺気を感じたんだとしたら無視出来ないな。何らかのトラブルに巻き込まれた可能性も無視できない。今度その感覚を感じたら、必ず俺に報告するように」

「はい、…というか、午後も出来るだけ一緒に行動しませんか?」

「賛成だな。俺もちょっと気を付けて気配を探ってみよう。ただ、町中でははっきりした事は分からないかもしれないがな」


行列は進んで行き、ケンとヨシトの番になる。

2人ともオーソドックスなタルタルソース風のソース付き魚フライと、塩味の芋の揚げ物を頼む。

ただし、ケンだけは魚フライを一個追加するのを忘れない。

さすがに4人で分けるには、一個では少な過ぎるからだ。


2人は注文の品を受け取ると、車の中で待っている3人の元に歩いて行く。

「ケン、いざとなったら躊躇ちゅうちょするな。全ての能力を使って仲間を守れ」

「はい、…でも、見極めが難しいですね。自信がありません」

「まあ、今のお前なら一発くらい食らっても問題ない。…話はここまでだ」



ケンとヨシトは飛空車に乗り込む。

すると、車の中にはジャンクフード独特の香ばしい匂いが広がっていく。


「…すごい匂いね。服に移りそうだわ」

「ちょっと、食べる前からお腹いっぱいの様な気がします」

キュンメとメニエルは若干引いている。


「意外に食欲をそそる匂いだな」

ハイドは、どうやら気に入った様だ。


「何で? テイクアウトの揚げ物なんて、どこもそんなに変わらないと思うけど。…まさか、みなさん食べた事が無いんですか?」

「ありません」「無いです」「初めてだな」

3人からそう返されて、ケンとしては少しショックだ。


ケンは、獣人族の多い村で育ったから似たような料理をよく食べていた。

だが首都ネオジャンヌで暮らす、お嬢様お坊ちゃま達はジャンクフード初体験の様だ。

考えてみれば、ジャンクフードなんて庶民の食べ物だから不思議な事ではない。

自分の実家は貧乏で、他の3人はかなり裕福なのは、服装の違いから見ても明らかだ。


ヨシトに衣食住を保障されている身のケンは、恥ずかしくない程度の安物の服を着ている。

『もっと高い服を買えよ』とヨシトに言われてはいるが、いい服を着てもケンは活動的だから服の傷みも激しいし、居候いそうろうの身でそんな事をしたくは無い。

結局、今更言ってもどうしようもない事で、彼らとの境遇の違いは納得している。

彼は気を取り直して、食事の準備を始める。


「先生、シートを曲げちゃいますね」

「…後でちゃんと戻すんだぞ」


ケンは、助手席の背もたれをギフトで完全に意志付けすると、あめのようにクニャっと折り曲げる。

左手には、先程買った魚フライと芋の揚げ物が入った紙袋を持っている。

そして、後部座席の3人の正面に向き直って座り直す。


「初めて見ましたけど愉快なギフトですね。本当に、元通りに戻せるのかしら?」

「はい、理由は分かりませんけど、元の形になら完璧に戻せます」

キュンメの疑問は当然だろう。

事情を知らない者が見れば、彼のやっている事は、高級車のシートを破壊する行為なのだから。


「マッケンジー君に質問です。どうして包み紙が新聞紙なんですか?」

今度は、メニエルがちょっと変わった質問をしてくる。

「多分ですけど、値段が安くて油を良く吸い取るからじゃないですか? それより、皆さん早く食べましょうよ。今からテーブルを造りますから」


ケンは背もたれを更に変形させて、張り出したテーブルを造ると、その上に魚フライと芋の揚げ物の包み紙を破って広げて置く。

そして、魚フライを魔術を使って2等分してから声をかける。


「魚フライは1人1切れ、芋は適当につまんでください」

「これはどうやって食べますの?」

「キュンメさん、ヨシト先生を見てください。これは、手でつまんで食べるんです。それが正式な作法なんです」


キュンメは、今日一番の衝撃を受けたようだ。

珍しくあわてた様子で、恐る恐る声をかける。


「魔術を使ってはいけませんか? 手が汚れてしまいますわ」

「そんな時の為に、一緒に紙ナプキンをもらって来ました」

ケンに紙ナプキンを渡されて、完全に逃げ道をふさがれたキュンメは、物心ついてから初めて手づかみで食事をする羽目になる。


「待ってください、せめて浄化魔術で手を清潔にしてからいただきますから」

「俺もそうしよう。正式な作法と聞いては、そうする以外にはなさそうだ」

「私もそうします。でもちょっと面白そう」


3人の良家の子女達は、それぞれが浄化魔術を使って手を清める。

その表情は真剣で、たかがジャンクフードを食べるのに、何とも大そうな覚悟だ。

ケンは別にどっちでもいいが、皆に合わせて手を清める。


いよいよ準備が整って、食事が始まるのかと思いきや、誰も手を伸ばさない。

(全くしょうがないな。別に罰ゲームじゃあるまいし)

ケンが芋の揚げ物をつまんで口に入れると、それにつられたように3人が同時に手を伸ばす。

ほとんど同時に口に入れる様子は、まるでコントの様である。


「…ほう、意外にいけるな」

どうやらハイドは気に入った様だ。


「…やっぱり芋は嫌い」

それなら食べなければいいのに、メニエルは案外ノリが良いのかも知れない。


「素朴な味ですね。不味くはありませんわね」

キュンメはどっちとも取れる反応だ。


「さあ、冷める前に食べちゃいましょう。加熱魔術で温め直してもいいですけど、上手くやらないと芋がしなびますからね」

ケンが号令をかけると、全員が黙々と食事を続ける。

元々1人分ちょっとしかなかったジャンクフードは、直ぐに無くなった。

食事を終えたキュンメが、紙ナプキンで手と口を拭きながらうんざりした様子でつぶやく。


「少し油っこ過ぎますわ。胸やけしそうです」

「同感です。おやつにしては、しっかりし過ぎてます」

「俺は問題ないな。だが、これ以上は食えない」

そんな感想を漏らす良家の子女達に、ケンは少し呆れ気味だ。


「別に残してもよかったんですよ。まあ、食べきった方がいいですけどね」

ケンは、3人が使った紙ナプキンを回収してから、包み紙と合わせてくしゃくしゃに丸める。

それから、助手席のシートを完全に元の形に戻し終わると運転席のヨシトに視線だけを向ける。

どうやら彼も食事は終わっているようだ。


「ゴミを捨てて来ます。それと、飲み物が欲しい人はいますか?」

車の中の全員が手を上げた。

ケンは全員の希望の注文を聞くと、ゴミを抱えて再びテイクアウト専門店に向かう。

ちなみに、ヨシトはオレンジジュース、それ以外の全員がミネラルウォーターだった。

飲み物や食事の代金は、全て言いだしっぺであるヨシトのおごりになっている。




飲み物を口に入れて一服した後は、撮影旅行が再開される。

あらかじめ予定しておいた内の、凱旋門を除いた場所を予定通りに回って行く。

予定は順調に消化せれて行き、今の時刻は午後2時半を過ぎた頃である。

次の目的地である英雄たちの広場に向かう飛空車の中では、学生達の楽しい会話が繰り広げられている。


すると突然、ケンの足元で自由魔素がわずかに揺れる気配がする。

これは、自由魔素との親和性が高い彼だから気付いた訳で、後ろの席に並んで座る3人には解るはずもない。

続けてヨシトの思考念波魔術で操作された空気の塊が、助手席に座っているケンの膝を2度叩く。


もちろん、ケンは振り向かない。

わざわざ思考念波魔術を使ってケンにだけ合図を送るのは、他のメンバーには知られたくない話があるという事だ。


次の瞬間、周囲の音が聞こえなくなる。

これも、ヨシトの思考念波を使った防音魔術だ。

彼の小さな声だけが、ケンの耳には聞こえる。


「…後をつけられている。黒塗りの自由魔動車3台に、数は11人。全て獣人族の男。多分だが、まともな奴らじゃ無い」

ケンは自然体を装い、口を出来るだけ動かさずに小声で話しかける。


「どうします? やり過ごしますか」

「せめて、相手の目的を知っておきたい。こちらの飛空車のナンバープレートを知られているから。後手に回るかもしれない」

車のナンバープレートを役所で調べれば、所有者の氏名と住所が解ってしまう。

相手の車もそう言えるが、偽装していたり盗難車だった場合はお手上げだ。


「こちらから仕掛けるんですか? キュンメさんとハイドが居るから、先生の力がばれる可能性が高いですよ。いっそ、事情を説明して協力してもらいましょう。もしかしたら僕達とは無関係で、3人を狙っている可能性もあります」

「そうするべきだろうが、キュンメさんが大人しくしてくれるかな? …最悪の場合は、彼女を抑えて逃げられるか?」

「後が怖いので考えたくないですけど、ギフトを使えば出来ると思います」

「それなら事情を説明して、待機してもらうように頼もう。彼女が防御に徹していてくれれば問題ないはずだ」

ヨシトは2人の頭部だけを包む防音結界を解除すると、車内にいる全員に対して話しかける。


「みんな落ち着いて聞いて欲しい。どうやら後を付けてくる連中がいるようだ。さっきから魔動車3台が入れ替わり尾行している」

後部座席の3人は、ヨシトの突然の告白に驚いている。

真っ先に聞き返したのは、やはりキュンメだ。


「どういう事です? 詳しく説明して下さい」

「今日の昼前に、ケンがガレア教会の周りを歩いていた時に、変な気配がすると俺に言ってきた。それからちょっと周りを気にしていたんだが、今さっき、同じ車3台が順番に尾行している事に気付いた。はっきり確認出来ていないが10人以上が尾行に加わっているはずだ。確認出来た全員が獣人族で、しかも組織的な行動をする連中って事になる。今のこの町の状況を考えたら、あまり良い予感はしないな」

「同感ですわ。皆さんの中で、何か心当たりがある人はいますか? 例えば実家のトラブルとか、この町との繋がりとかでです」


キュンメの問いかけに、声を上げる者はいない。

みんな若いから、実家関連以外では個人的な恨みを買う可能性は低いだろう。

ヨシトにしても、逆恨み以外では思い当たる事は無い。

後は、誘拐とかが考えられるが、そうなればこちらの情報が筒抜けになっている訳だから、逆に不自然だともいえる。

いずれにしても情報が少な過ぎるから、今の段階で断定する事は危険だ。


キュンメは、ギフトを使ってしばらく考えた上で、ある結論を話す。

「私のギフトでもはっきりした事は『予測』出来ません。ただ、今まで聞いた話の全ての前提条件が正しければ、私達が狙われる理由は受像機カメラの中にあります」

「…なるほどな、マフィアにとって都合の悪い物が撮影されている訳か」

「少なくても、彼らがそう思い込んでいる可能性が高いですわ」


ヨシトとキュンメの話をメニエルは怯えた様子で黙って聞いている。

恐怖感はあるが、話の急展開に現実とは思えず、ついていけないのかもしれない。

ハイドは、今の話を『分析』しているようだが、やはり情報が少な過ぎるのか、結論は出ないようだ。

彼が言える事は、常識的な話だけである。


「ウッドヤットさん、治安事務所(警察署)に行って保護してもらうのが一番安全だと思います。そこで受像機のデーターを調べてもらえば、尾行される原因が分かる可能性もあります」


「そうだろうね。予定を変更して治安事務所(警察署)に行こう。ケン、今から言う3台の車種とナンバーを書き留めておけ。ただし、この町の下級治安員(現場の警察官)は、マフィアと裏で繋がっているなんて噂があるから、あんまり信用し過ぎないようにな」


ケンは、ダッシュボードから筆記用具を取り出すと、ヨシトの言う尾行している魔動車3台についての情報を書いていく。

それから飛空車は、交差点で方向を変えて、少しスピードを上げる。

すると、今まで静かに尾行していた魔動車は次々合流して行き、3台そろって追いかけ始める。


「ウッドヤットさん! 追いかけて来ています」

メニエルはようやく事態の深刻さを理解したのか、後ろを何度も振り向き、緊張した声をあげる。

「空を飛んで逃げましょう」

ハイドも落ち着きなく運転席のヨシトに提案する。


「2人とも落ち着きなさい。空を飛ぶのは危険ですわ。浮き上がってる時に何かされれば、簡単に横転します」

キュンメがあわてている2人をたしなめる。

もし相手がそんな事をしてくれば、ケンはギフトを使って仲間達の身を守るつもりだが、相手の意図も分からずに事件を引き起こす事は出来るだけ避けたい。


学生達が会話をしている間に、後ろから来る3台の魔動車は、すごいスピードで近付いてくる。

ヘッドライトを点滅させ、助手席の男が盛んに身振り手振りで、こちらの停車を要求しているようだ。

飛空車の陸上走行速度では魔動車には勝てないので、直ぐに追いつかれて回り込まれるだろう。

すると、キュンメが妙に落ち着いた声で話し出す。


「ねえ、ウッドヤットさん。相手はこちらと話したいようですよ? まさか、白昼堂々こんな町中で人間族の命を狙うなんて事も無いでしょう。それに、無理矢理なんて屈辱くつじょくですわ。こちらから停まってみてはいかがかしら?」


プライドが高くて好奇心の強い彼女は、かなり怒っているし、つけられている理由を知りたいのだろう。

もちろん、有名な軍人の家系の直系である彼女は、何かあったら容赦ようしゃしないのは間違いない。

ケンとしては、憎まれ役をかってでもトラブルは避けたい。

特に後ろの席のメニエルは、怖くて震えている。

ハイドも明らかに落ち着きがないから、ヨシトに任せて逃げ切った方が良いと判断する。


「危険過ぎますよキュンメさん。奴らは明らかにマフィアです。例え攻撃されても、先生なら逃げ切れますから大丈夫です」

「マッケンジー君は黙ってらっしゃい。敵に攻撃を受けて迎え討たなければ、キュンメ家の名がすたります。そもそも、どうやっても勝てる相手に逃げるなんて我慢出来ませんわ」


キュンメの意見は過激な様だが、傭兵にさえなれないごろつき程度なら、彼女1人でも相手出来るだろう。

だが、相手が厄介なギフトを持っていれば話は別だ。

最も、ヨシトさえいれば何の心配もないが、普通はケンの考え通りトラブルなんてこっちから呼びこむ必要は無い。


だが、ヨシトは考える。

キュンメの性格からいって、一度事が起これば彼女は間違いなく反撃するだろう。

相手も後に引けずに、事態は更に悪化するかもしれない。

ヨシトにしたって、ここまであからさまな連中相手に遠慮するつもりはないが、話し合いが出来るうちに穏便に解決出来れば、それに越した事は無いだろう。

自分1人が矢面に立つだけなら、相手は何の脅威でも無いのだから。

ついでに相手全員の名前や能力を探索スキルで調べれば、なお安心だ。


ヨシトはアクセルを緩めて、路肩に飛空車を寄せながら素早く話す。

「俺が外に出て話を聞く。全員車から降りるな。ケンは運転席に座れ。いざとなったら、俺を置いて治安事務所に逃げ込め。キュンメさんは、俺が出たら車全体を傷付かないように防御魔術で守ってくれ」

だがキュンメは納得できないようで、シートベルトを外す。


「私も一緒に話を聞きます。防御魔術程度でしたら、ノワール君でも大丈夫ですわ」

ヨシトは厳しい口調で、「足手まといです」とだけ言うと車から降りる。

ケンは素早く運転席に移り、「皆さん、ドアロックをしてください。キュンメさんは防御魔術、急いで!」と全員に声をかける。


キュンメは文句を言おうとしたが、飛空車の周りが車で取り囲まれるのを見ると、渋々ながら防御魔術を行使する。

これは2重の物理防御結界を持つ、かなり頑丈なしろものだ。

だが、ケンは少し呆れる。

彼女ならもっと強固な物理結界を構築出来るはずだし、相手の魔術やギフトを防ぐ魔素防御結界を張らない理由は、相手が魔術やギフトで攻撃してきた時に、即座に反撃する為だろう。


「ハイド、通信魔道具で会話をチェックしておいてくれ。先生の事だから、子機全部が通信状態になっているはずだ」

ケンに指摘されて、ハイドはこっそりと手のひらに子機を隠して耳に当てる。

「確かに聞こえる。…だがこの状況はまずくないか」


車から降りて来た人相の悪い男達が飛空車を取り囲み、「おりろー、ボケが!」とか言いながらドアに蹴りを入れている。

メニエルは完全に怯えているが、キュンメは涼しい顔だ。


「蹴りぐらいで、私の防御結界がどうにかなる訳ないわよ。いっそのこと、ギフトで攻撃してくればいいのに。全員吹っ飛ばしてやる!」

どうやら、キュンメは相当お怒りのようだ。

ケンは、彼女が暴走しないように釘をさす。


「先生が交渉中ですよ、過激な対応はやめてください。それより、車に傷が付いたら先生が悲しみますから、キュンメさんの役目は重大ですよ。それとハイド、俺も会話の内容を聞きたい。子機の音量を上げてくれ。それから、相手のギフト攻撃に備えて、魔素防御結界を張ってくれないか? もちろん、通信魔道具で先生達の会話が聞き取れるような魔素防御結界を構築してくれ」

「…そうだな、うっかりしていた。直ぐにやる」


ハイドは、通信魔道具に使われている思考波パターンを通過させる魔素防御結界魔術を2重に行使すると、子機の音量を最大に上げる。

それでも小さな音だが、何とか全員がはっきり聞き取れる程度ではある。

全員が耳を澄ませて、外の会話を聞いていると、聞き慣れない男の声で、

『いいから、受像機カメラをわたせ!』


どうやら、キュンメの『予測』は当たっていたようだ。

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