第62話 ケン達はサマンサ城を撮影する
サマンサ町の中央の小高い丘の上にあるサマンサ城は、200年ほど前に復元された石造りの古城である。
元々は、2000年ほど前に滅びた獣人族の王城で、それほど華美な造りでは無く、観光目的で再建された時に綺麗な庭園や歴史資料館が併設されている程度の変更が加えられている。
だが、それ以外は忠実に再現されていて、長い歴史を感じさせる世界的にも有名な城である。
そんな古城に入ってから写真動画撮影、略して写動部に所属するケンとハイドとメニエルの3人は、ずっと写真撮影を続けている。
今日は休日なので、彼ら以外の観光客も多いようだ。
城の中のめぼしい場所をさんざん撮り終った後、どちらかといえば風景写真が好きなメニエル先輩が2人に提案する。
「あの塔の上に登って、そこから見えるサマンサ湖の全景を撮りたいです。お2人ともよろしいですか?」
「俺は先輩に任せます。何せ受像機を使った事は、数えるほどしかありませんから、何がいいか何て意見出来ません」
素人同然のハイドには得意も好きも無いので、今日一日は彼女の言う通りにして受像機のいろはを教わるつもりでいるようだ。
ちなみにだが、彼が持っている受像機は、父親から借り物だ。
「僕もいいですよ。これだけ人がいると遠景を撮る方がいいですしね」
ケンは。風景も人物も撮るので断る理由もない。
それに、今日はハイドとメニエルのする事を邪魔しないようにすると決めている。
恐らくハイドにとっては、最後の部活になるはずだから。
彼女は後輩2人の意見に頷くと、指をピシッと東の方角に向ける。
「湖は町の東側です。東側の塔に上りましょう」
そう言ってから、真っ先に城の回廊を歩いて行く。
(相変わらずメニエル先輩は、写真の事になると積極的だな)
ケンは、そう思いつつも彼女の後に付いて行く。
横に並んでいるハイドも苦笑しているようだ。
3人が東側の塔の入り口に到着すると、扉には鍵が掛かっていた。
「どうする? 飛んで上がるか?」
ケンが塔の上を見上げながらそんな事を言うと、ハイドが冷静に入り口横の看板を指さす。
「それも面白いが、係員を呼べと書いてある。あえて規則を破る必要はないだろう」
「ホントにお前って、堅物だよな。階段を上るより飛んだ方が楽なのに」
ケンが文句を言っていると、メニエル先輩はさっさとその場を後にして歩いて行く。
どうやら係員を呼びに行くようだ。
「ちょっと先輩! 僕が行って来ますから」
彼女は振り向くと、真顔で答える。
「ノワール君の言う事が正しいと思います。私は早く登りたいです。それに、係員を呼んでくるのは塔を登るより楽では無いですよ」
「それはそうなんですけど、…ともかく僕が急いで呼んできます。その間に先輩はハイドに遠景の撮り方でも教えてやってください」
ケンは走って城の入り口に向かう。
(メニエル先輩って、写真に関しては冗談が通じない。案外ハイドと気が合うかもな。そういえば2人とも頑固だし)
そんな事を考えていると、入り口に向かう途中で獣人族の女性係員を見つける。
彼は係員を呼び止めると、東の塔の入り口が閉まっている事を説明する。
彼女はケンの様子を見て、事件でもあったかと思い緊張した表情だったが、話を聞くと納得したように頷く。
「あの鍵はダイヤル式ですから、私と一緒に行きましょうか?」
「はい、助かります」
ダイヤル式の鍵は地球と同じような構造だが、探査魔術があるこの世界では、簡単には内部構造が解らない様な素材で造られている。
とはいえ、時間さえかければ内部を探査して開けられるので、ダイヤル式の鍵といえば、安物で大量生産品であるのが相場だ。
ちなみに、一般の家庭の錠前は魔素との親和性が極めて低い鉱物と金属を混ぜた合金で造られている。
鍵を使って開けるのは地球と変わらないが、鍵穴の近くで魔術やギフトを行使すると警報が鳴る、れっきとした魔道具でもある。
最新式の物は、個人の持つ思紋を登録して鍵代わりにしている。
思紋登録機能があるので、家族全員が鍵を持ち歩かなくても済むという訳だ。
それはともかく、都合良く係員を見つけたケンは、一緒に今来た道を歩いて行く。
メニエル先輩を待たすのは申し訳ないが、女性係員を走らせる訳にはいかないので、大人しく2人で並んで歩く。
彼は係員に、ふと疑問に思った事を尋ねる。
「何で鍵が掛かってるんですか? それにダイヤル式なんて、鍵とは言えないものですよね? 立ち入り禁止の場所や貴重品があるならともかく、中途半端な気がしますけど」
係員の女性はちょっと笑って、
「塔の中は暗いんです。以前お客様が、足を滑らせて怪我をされた事があって、それからは簡単な鍵をかけているんです」との事。
そんな話をしていると、東の塔の入り口の前にいる2人の姿が見えてくる。
係員が番号を合わせて鍵を開けて扉を開くと、彼女の言う通り塔の中は非常に暗かった。
空気も澱んでいるようで、少し薄気味悪い。
「携帯型の照明魔道具とかは置いていないんですか?」
ケンがそう聞くと、係員は「係員詰所には置いています」との返事。
「じゃあいいです。それと、見学後に鍵はどうします?」
「塔の中の入り口の横に、呼び出しブザーがありますからそれを押してください。そのまま帰っても構いません」
「えーと、それはどうなんでしょう? 僕ら以外の人が塔の中にいたら、下手したら閉じ込められますよ。ダイヤル式の鍵なら僕が閉めておいても構わないですけど」
係員の女性は少し困った顔をする。
確かに合理的な提案だが、鍵の番号を知られてしまう訳で、体裁が悪すぎる。
「それはそうなんですけど、大丈夫なんですよ。見学される間は、お客様達以外は立ち入り禁止になります」
そう言って彼女が入り口の看板をひっくり返すと『貸切、入場禁止』の文字が見える。
ハイドはそれを見ると興味深そうに係員に質問する。
「塔を見学する観光客は、そんなに少ないんですか? 人気があるならこんな対応はしませんよね?」
「ええ、この塔の高さは40m近くあります。暗い螺旋階段を上って物見台まで上がる人は一日に1組いるかどうかです」
「なるほど、確かに俺達も写真を撮る必要が無ければ登ろうとは思いませんからそうでしょうね」
この世界の住人は高い場所に憧れを持つ人は少ないし、そもそもそんな人は自分で魔術を使って空を飛ぶ。
飛行魔術を使えない獣人族はそこそこいるが、重力軽減魔術は比較的簡単なので、少し訓練すれば獣人族でも風船のように空を飛べるようになる。
特に人間族ならば、飛空魔術を使えない人などほとんどいないので、高い場所へ登ろうという気持ちを持つ事自体がほぼ無いといえる。
用件が終わった係員の女性が鍵を持って持ち場に帰っていくと、学生3人は塔の中に足を踏み入れる。
ケンが上を見上げると、数カ所の明かり取りの小窓があるだけで、塔の中には一切照明器具は無いようだ。
内部構造は暗くてよくは分からないが、中央に空洞があり壁沿いに螺旋階段が上まで伸びているように見える。
ともかく明かりを付けようと思い、3人それぞれが魔術を発動する。
「光を」と声を出しながらメニエル先輩が結界照明魔術を行使する。
これは、魔素発光現象を利用した最も効率が良い照明魔術である。
分かりやすく言えば、光球を作る魔術だ。
「前から思っていたんですけど、メニエル先輩は魔術を発動する時に声を出す癖があるんですね」
ケンにそう言われて、メニエルは真っ赤になる。
「直さなきゃいけないとは思っているの。でも、気を抜くと直ぐ声が出ちゃう」
実際は、彼女が声を出そうが黙っていようが、ほとんど問題が無い。
声を出さなくても、人は思考力によって動く魔素の気配(魔術の発動)に気付くから、彼女が戦闘職を目指す場合でもそれは変わらないだろう。
メニエルにしても、子供っぽいと思われるのが嫌という理由だけで、声を出す癖を直すつもりなのだから。
ちなみに、魔力視の魔術を使ってる人や特に勘の鋭い人は、魔術の構築の段階で気付く場合が多い。
例外としては、特定の種族が持つ固有魔術の一部や、自由魔素のみを媒介にする思考念波魔術は、例え魔力視を使っても適性が無いと気付かない場合がほとんどだ。
ただし、固有魔術は事前に情報を知っていれば、特定の思考力に注意していれば対処できる。
思考念波魔術は、使い手同士か、自由魔素の動きを捉える特殊な魔道具を使わなければ、何をされているのかさえ気付かないが、思考念波魔術の使い手は世界に100人もいないから、この場合は関係ないだろう。
それはともかく、次にケンは少々呆れ気味に、ハイドの行使した術の感想を言う。
「それにしても、ハイドの光魔術はすごいな。塔の内部全体部が照らされている。それがあれば、僕と先輩は魔術を使う必要が無かったよ」
光魔術は物質に含まれる天然魔素を可視光に変化させる魔術である。
燃費も良くないし、変化系魔術は難しいので普通は使わない。
その利点は、光の強さや方向を自由に制御できる点だろう。
「俺としては、ケンの魔術こそ興味深い。自由魔素を使って魔術陣の一部を光らせるのは、魔道具の応用か?」
「一目で見抜くなんて、『分析』ギフトはすごいよな。これは、ヨシト先生に教えてもらった魔術なんだ。僕は自由魔素との親和性が高いからね」
ケンの魔術は、自由魔素を電球のフィラメントに見立てて発光させる魔術だ。
変化系魔術では無いので燃費もいいし、光の強さの調整も容易であり、光魔術と照明魔術の良いとこ取りの魔術である。
ただし、照明魔術より燃費は少し落ちるし、光魔術ほど強く光らない上に指向性も無いので、中途半端な魔術ともいえる。
同じような可視光を発生させる魔術でも、術者による個性が出て面白い。
人の技による魔術は、奥が深いのだ。
3人は螺旋階段をゆっくりと登っていく。
明るい光に照らされた塔の中は、何の飾り気も無い石の壁だけで見るべき物は何も無い。
(これなら、飛行魔術を使って飛んで上がった方が良かったな)
ケンがそんな事を考えている間に、3人は40mの高さを何事も無く上まで登りきる。
エリート達は、この程度の運動などでは息も切らさない。
螺旋階段の突き当たりにある扉を開けると、外の光が一気に差し込む。
3人は目を細めながら、それぞれの照明魔術を解除して、塔のてっぺんの広い空間に出る。
塔の上にある物見台は、下に下りる螺旋階段の入り口と石積の手すりがあるだけで、屋根など何もない、まるで小さなビルの屋上の様だ。
戦争時代には、上空から来る敵をここから迎撃したはずなので当然だろう。
ただこの場所は、丘の上にある上に、40m近い高さがあるので見晴らしは最高だった。
特に、塔のてっぺんから見下ろす眼下の景色は絶景だった。
サマンサ町全体が、ぐるりと一望できる上に、東側にあるサマンサ湖の水面がきらめいて、湖から吹く風も気持ちいい。
3人は、ケースから受像機を取り出すと、それぞれ気に入った構図を決めて夢中でシャッターを切る。
しばらく写真を撮り続けて満足したケンは、2人に提案する。
「どうせだから、湖を背景にして3人の写真を撮ろうよ」
メニエルもハイドも反対する訳が無かった。
それぞれが自分の持つ受像機に3人の思い出を収めると、ここでする事は無くなった。
サマンサ城には観光客の姿が増えているので、次の目的地に行った方がいいだろう。
それを確認し合うと、ケンは通信魔道具のスイッチを入れてヨシトに連絡を取る。
15分後に、城の入り口で待ち合わせる事にして、3人は塔から降りる。
「今度は、魔術を使って飛び降りようよ」
ケンの提案に、反対する者はいなかった。
ケンは塔の上から身を躍らせ、飛行魔術で地上に降り立つと、まずは塔の中に入って呼び出しブザーを押す。
それから塔の外で待っているハイド達と合流すると、ケンは受像機をケースから取り出して、最後に塔の入り口の看板を撮る。
「ケン、何の意味がある?」
「いや、何となく」
「やっぱりお前は面白い」
そう言いながらも、ハイドも同じように写真を撮る。
わざわざ、看板をひっくり返して撮るのだから、彼も人の事は言えない。
メニエルは、さすがにシャッターを切らないが、楽しそうに2人の姿を見ている。
そして、そんな愉快な後輩達に後ろから声をかける。
「行きましょうか。次の場所は、この国最古のミリア教会です」
「それは楽しみだ。確かミリア様の聖遺物が収められている祭壇があったはずです。是非拝礼しておきたい」
ミリア教徒のハイドとしては、それは欠かせないようだ。
メニエルも頷いているので同じ気持ちなのだろう。
「でもな、教会内部は撮影禁止だよ。残念だよな」
「「当たり前だ(です)!」」
2人に怒られてしまったが、ケンに悪気はない。
ゾンメル教は偶像崇拝を認めていない宗教なので、そもそも聖遺物に対する拝礼の習慣が無いのだ。
いわば宗教観の違いだから、別にミリア教を馬鹿にしている訳では無い。
それをきっかけに、ケンとハイドは城の入り口に向かう間に、ミリア教とゾンメル教の違いについての話になる。
メニエルも横に並んで歩きながら、2人の話を興味深い様子で聞いている。
「それにしても、ゾンメル教というのは特殊だな。決闘なんて野蛮な行為だと思ったが、ケンの話を聞いてみるとそうとは言い切れん」
「うん、そうなんだよ。よく誤解されるけど、ゾンメル教の教義って人の生きて行く具体的な術を説いている場合が多いんだ。でも、女神様との繋がりはミリア教に負けないぐらい深いんだよ」
「…なるほどな、神は神、人は人という考え方が思想の根本にはあるのだろう。その辺りはミリア教と共通している部分だな。ダイブツ教は精神の鍛錬に重きをおく宗教で、ゾンメル教は日常の生活を修行と見立てる宗教な訳か。日常に偶像は必要ないという考え方は、極端だが論理的ではある。やはり3大宗教というのは優劣をつけられる物では無いな」
「僕は、ミリア教の考え方も好きだよ。契約の概念や奉仕の精神なんかは、ミリア教がなければ広がらなかったって調停者様が言っていた。3大宗教の中で一番古い宗教だから、聖書に書かれている事を教祖様が参考にした部分もあるとも言ってたしね」
「両宗教とも開祖は『託宣』ギフト持ちだから、女神様の意思を感じておられたはずだ。考え方は違っても、どちらも間違ってはいないのだろう」
ケンとハイドが話しているうちに、城の入り口に辿り着く。
近くにはすでにヨシトとキュンメが待っていて、そのまま合流すると、5人そろって駐車場に向かう。
全員が飛空車に乗り込むと、次の目的地のリリアンヌ教国最古のミリア教会へ向けてヨシトは発車しようとする。
その前に、メニエルが彼に話しかける。
「すいません、ウッドヤットさん。教会へ行く途中に、この2カ所に寄ってもらえますか?」
彼女は旅行案内のパンフレットを彼に差し出すと、そこに書かれている地図の場所を指し示す。
「凱旋門に王の墓か。…確かに、少し寄り道する程度で済むな。了解した」
そう言ってヨシトがアクセルを踏み込むと、飛空車は滑るように動き出す。
凱旋門はともかく、王の墓に行く予定は無かったが、もしかしたら塔の上からメニエルの目に留まったのかもしれない。
10分ほどで凱旋門に到着すると、飛空車は広い道の路肩にある駐車スペースに停まってサイドブレーキが引かれる。
写動部の3人は車から降りて、早速写真撮影を始める。
凱旋門は、ガレア地方を人間族が制圧した記念に造られたモニュメントであり、2000年の歴史を感じさせる旧跡だ。
ただし、一部の過激派からは、獣人族に対する圧政の象徴であるとされていて、度々テロ活動の標的になっている。
壊される度に再建されて、その大きさや強度が増して行き、最後には20m近くの高さを持つ非常に強固な建造物になってしまい、ウラン砲弾の直撃を受けても完全に破壊する事は不可能と言われている。
その地下には、2000年前の戦争で無くなった全ての人々の名前が刻まれた石室が存在していて、墓標の意味を合わせもつ事は一般的には知られてはいない。
次に5人が向かったのは、王の墓と呼ばれる霊廟だ。
つまり、2000年前に存在していた獣人国の王族たちが眠る場所である。
人間族にとっては、種族間戦争の発端になった憎むべき相手なので、当時は取り壊しも検討されたようだが、死して尚、恥ずかしめを加える事をよしとしなかった指導者達の手によって保護された歴史的建造物である。
ちなみに、人間族の国では、個人の墓は存在しない。
死者は火葬された後に、町の外にある共同墓地に埋葬される。
とはいっても、本当に土に埋められるだけで、そこに墓標は存在しない。
死者の魂は、神の御許に言った後は神の国に行くか転生するとされているので、先祖や故人を偲ぶ人は、信仰する教会や町中にある専門の追悼施設に行って供養をする。
実際に女神様が居る世界ならではの慣習といえるかもしれない。
予定以外の旧跡を撮影した後、5人を乗せた飛空車はリリアンヌ教国最古のミリア教会の駐車場に到着する。
ここの正式名称は、ガレア教会だ。
歴史家の間では、ここがリリアンヌ教国最古というのには異論があるが、人間族にとっては間違いなくそうなので一般的には受け入れられている。
ケンは車から降りて、少し離れたその古ぼけた小さな教会を見つめる。
ミリア教の教会は、華やかで荘厳な造りの建物が多いが、ここは全くの別物である。
色あせた卵色の外壁と低いドーム型の天井を持を持つ、見た目は飾り気のない総モルタル造りに似た建物だ。
唯一目立つのは窓にはめ込まれたステンドグラスで、ちょうど良いアクセントになっていて全体の価値を高めている。
だが、そんな外見など全く問題にならない。
ここからでも感じられるほどの清浄な雰囲気が、圧倒的な存在感を放っている。
ここは、人々の清らかな想いに待たされた正しく聖域である。
ケンは、一回だけシャッターを切ってガレア教会の全景だけを収めると、それ以上写真を撮る事をあきらめて受像機をケースにしまう。
どんなに頑張っても、ここのすごさを写真に写し込む自信が無かったからだ。
魔道具を使った撮影では、決して表現出来ない姿があるのだと彼は実感した。
そうなるとケンは困ってしまう。
彼は他の4人とは別行動で、すでにガレア教会の中に参拝に行ってしまっている。
彼はれっきとしたゾンメル教徒なので、さすがに他宗教の聖域に観光気分で踏み入るつもりは無かったからだ。
駐車場には多くの観光客や巡礼者があふれていて、教会へ続く道に向かい整然と歩いていて、場違いな彼はその場に居づらくなる。
仕方無くケンは、駐車場から離れて、教会周辺を1周してみる事にする。
時刻はまだお昼前だし、治安の悪いピオリルエリアからも遠いし、ヨシト達が戻ってきたら通信魔道具で連絡をくれるはずだから、それぐらいは問題ないだろう。
ケンは古都の町並みを教会を中心にして散策する。
近くには土産物屋が多いが、ほとんどがミリア教関連の店なので、姉や両親の手土産には相応しくないだろう。
教会から少し離れただけで人の姿が一気に減ったので、受像機を取り出して気の向くまま次々とシャッターを切る。
(本当に綺麗な町並みだよな。午後は、目的なしにブラブラしてみるのもいいかもしれないな)
ケンは好奇心の塊だから、それでも十分楽しめるだろう。
その証拠に、今撮っている写真も何て事無い家の門構えだったり、少し変わった店の看板だったりして、彼以外は何が楽しいか分からないと思われる。
何度もシャッターを切り、歩き始めてから20分ほど経つと、さすがにガレア教会の駐車場に戻ろうと思った彼は、方向を定めて急ぎ足で歩き出す。
ここからなら多分5分程度で、駐車場に着くだろう。
その時、突然ケンの全身に悪寒が走る。
(何だ? この感じは。気分が悪いな)
彼は辺りをキョロキョロト見回すが、それらしきものは見当たらない。
疑問は残るが、これ以上はどうしようもないのでヨシト達に合流する為に急ぎ足で駐車場に戻る。
もし、この時にヨシトが居たなら気付いただろう。
彼が感じた物が、明確な殺気である事を。
そして、それをケンに向けた人物がどこに居るかという事さえも。
どうやらこの旅行は、簡単には終わらないようだ。




