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第60話 ケン達は撮影旅行に出かける


写真動画撮影部で開催された、ささやかなパーティーが終わった次の日の放課後、

ウルルス高専から帰ってきたケンは、急きょ決まった撮影旅行の事をヨシトに報告していた。

昨日は夕方からヨシトが出かけていて、話す時間が無かったから1日遅れてしまった。

本来なら次の休日である魔曜日は、2人で1日中修業する予定になっていた。

夕食前に、居間のソファーに座って2人は話している。

相槌あいづちを打ちながら一通りの事情を聞き終わったヨシトは、愉快ゆかいそうな声でケンに話しかける。


「なるほど、撮影旅行で朝から出かけるのか。それで予定を中止したいって訳だな」

「はい、急で申し訳ありません。でも、今回だけは参加したいんです」

「もちろん構わない。ケンには息抜きが必要だ」

「先生はよくそう言われますけど、これでもゆっくり寝てますから大丈夫です」


ケンはヨシトの弟子になってからの約3年間、ろくに休みを取ってない。

しいて言うなら、キュンメ先輩の息抜きに付き合っている事ぐらいだろうか。

ヨシトとしては、もう能力値強化は終わったのだから、週に一度くらいは休んでほしいのだが、ケンがなかなか納得しない。

だから、今回の事は反対するどころか大歓迎だった。


「ケンはタフだから体力面は心配してないよ。でも、精神的にはリラックスするべきだ。その点、旅行先のサマンサ町は、環境もいいし撮影にもピッタリだから良い息抜きになるしな。だけど、移動手段は確認したのか?」

ケンは、質問の意味が分からず、少し首をかしげる。

「そりゃ、飛空船でしょ? ここから定期便が出てますから」


サマンサ町は風光明美ふうこうめいびな古い町で、神聖リリアンヌ教国の旧都である。

ネオジャンヌからは北東に450kmほど離れていて、近くにはサマンサ湖という名の大きな湖があり、名所めいしょ旧跡巡きゅうせきめぐりが出来る代表的な観光地だ。

今回の撮影旅行にはうってつけな町といえる。

当然交通の便も良いので、ケンは移動手段をいちいち確認しなかったのだ。


「ケンは、お金持ちを舐めてるな。最低でも移送屋で、本命は運転手付きの自家用飛空車ってところだ」

ケンは、驚いて思わず聞き返す。

「移送屋ですか? そんなの利用したら、飛空船の料金の3倍近くかかりますよ。荷物や撮影機材こみだったらもっとかかります。たった2時間くらいしか変わらないのに、そんなのお金の無駄です。それに、自家用の飛空車を使うんだったら前もって知らせるでしょ?」

「彼らにとって当たり前だから、いちいち言わないさ」

「…確認してきます。音話を借りますね」


そう言ってソファーから立ちあがって、ヨシトの書斎にある音話をかけに行こうとするケン。

ヨシトは、その後ろ姿に声をかける。


「まあ待て。俺から提案がある。それを聞いてからにしろ」

ケンは再びソファーに座りなおすと、大人しくヨシトの言葉を待つ。


「俺も参加しよう。今から予定を入れるのもあれだし、一度ケンの友人達を見てみたい」

「先生は、店があるでしょ。まさか、休むんですか?」

「気付いてなかったのか? 最近はケンに付き合っているから、魔曜日は2階の店はやっていない」

「…そうだったんですか、てっきりオーダーメイドのお客が減っているのかと思いました」


ヨシトは、1階の店舗は従業員に任せて、自分は小さな2階の店舗で予約限定の客相手にオーダーメイド品を造ったり調整したりしている。

それとは別に、友人の医師達から患者を紹介されて診察する事もあるが、それは本業では無い。

とはいっても、お客は1日に多くても2、3人程なので調整がきく。

もちろん、空いた時間を使って色々とやっているから暇ではないが、最近はケンを鍛える為に出来るだけ魔曜日は空けているのだ。


『師匠の心、弟子知らずだな』

「そんな日本のことわざありませんよ。…でも本気ですか?」

「ああ、日帰りだったら問題ないよ。だから友達に、家庭教師が引率して飛空車で行くって言ってみてくれ。多分反対されないと思うし、その方がケンも気を使わなくて済むだろ?」


ヨシトが来てくれるというなら、お金も節約できるし、何より心強い。

対外的にも、教師の資格を持つ人が引率してくれるのならば、反対はされないだろう。

人見知りをするメニエル先輩の事が少し気になったが、ヨシトは人当たりが良いので多分大丈夫だろう。


「わかりました、早速、音話で連絡してみます」

今度こそ、音話を掛けに行く為に書斎に向かう。

すると、タイミングの良い事に、音話が掛かってきた事を知らせる居間のベルが鳴る。


「先生、僕が出ちゃっていいですか?」

「ああ、心当たりは無いからそうしてくれ」


ヨシトの了解を取ると、ケンは急いで書斎に向かう。

ドアを開けて中に入り、机の上にある音話の受話器を取る。

ウッドヤット家の音話機は最新式で、大きさは日本の公衆電話機くらいはあるが、留守録やコードレス機能まで付いてある優れ物だ。

言うまでも無く、ヨシトの持つダミー商会であるアメリカ商会の製品である。


「もしもし、こちらウッドヤットです」

『恐れ入ります、わたくしリエリス=キュンメと申します。ケン=マッケンジー君は御在宅でしょうか?』


電話の相手は、キュンメ先輩だった。

このタイミングで連絡してくるなんて、悪い予感しかしない。

思わず切りたくなったが、後が怖いので仕方なく返事をする。


「キュンメさん、僕ですよ。何の用でしょう?」

『もちろん知ってるわよ。音話を通した声って変わるっていうから、確認しただけ』

「確かにそうですね。今まで何度か音話で話していますけど、キュンメさんの声は、会って話すより優しく聞こえます。それで、用件は何ですか?」

『相変わらず生意気ね。…まあいいわ、次の魔曜日に付き合いなさい』

「無理です、友達と旅行の予定が入ってますから」

『断りなさい。旅行なんていつでも行けるでしょ』


何とも横暴だが、いつもこの調子なのでケンも慣れたものだ。


「だから無理ですって。クラブの撮影旅行なんですから。用件がそれだけなら切りますよ」

『お待ちなさい。あなたの所属クラブは何?』

「話してませんでしたっけ? 写真動画撮影部、略して写動部しゃどうぶです」

『…聞いた事がない名前ね。撮影部はどうなったの? まさか潰れたのかしら? …何だか腑に落ちないわね。何があったか詳しく説明しなさい』


きっとろくな事にはならないと思いつつ、ケンは言う通りにするしかなかった。

彼女の人脈を持ってすれば、これまでの経緯を知りたければ、簡単に調べられるはずだ。

下手な嘘をついても簡単にばれるから、仕方なく正直に、なるべく簡潔に話す。

彼女は、ケンの説明では解らない事をいくつか補足の質問すると、何があったか理解した様だ。


『…なるほどね、やっぱりあなたの周りは面白いわ。でも、ノワール君の最初で最後のクラブ活動なら撮影旅行に行くなとは言えないわね』

「そうなんです。だから今回は付き合えません」

『大丈夫よ、私も撮影旅行に参加するから』


これにはケンは驚く。

そう来るとは思わなかったので思わず聞き返す。


「何で! だいたい、どんな理由で参加するつもりですか?」

『そんなの何とでもなるわよ。私は、参加者全員と知り合いだしね』

「だから、僕とキュンメさんが知り合いなのは不自然でしょ。学校で話した事は一度も無いんですよ」

『あなたの保護者の知り合いって事にすればいいでしょ』

「ダメですよ、ウッドヤット先生も今回参加するんですから」

『ますます楽しみね。素敵な声だから一度お会いしてみたかったのよ』


そんな感じで、音話越しの押し問答が続いたが、もちろんケンは押し切られた。

彼女に口では勝てないし、ハイドの件で弱みを握られているので、彼に元々勝ち目など無い。

キュンメ先輩との音話を切った後、しみじみと自分のふがいなさを感じる。


それからケンは、ハイドとメニエル先輩に音話で連絡を取り、新たな2人の参加者を告げて了解を取る。

保護者のヨシトはともかく、キュンメ先輩の参加には驚かれたが、2人とも面識があるあこがれの先輩なので、逆にすごく感謝された。


(本性を知れば、きっとがっかりするぞ。…案外、ハイドは喜ぶかもしれないな)

心の中でそう思いつつ、書斎から出て居間に戻る。

居間のソファーに座ると、ヨシトに事情を説明して、キュンメ先輩の件の口裏合わせを頼み込む。


「…ケンはすごいな、彼女同行で撮影旅行に参加するとはあなどれん」

「違いますから! みんなに余計な事は言わないでくださいよ!」


こうなったら仕方無いので、変な誤解をしているヨシトに詳しく2人の関係を説明すると、何とか納得してくれた。


「…お互い女性には苦労するな。ケンも年上の女性を相手にするのは苦手か?」

「まあそうですけど、先生の場合とは全然違いますからね。僕は本当にモテませんから、彼女にからかわれているだけです」

「同じだと思うぞ。いらない所だけ俺に似なくていいのにな」

「…もういいです。先生はとっとと恋人を作ってください。この前聞いたんですけど、姉ちゃんは新しい恋人が出来たそうですよ」

「もちろん知ってるさ。やっぱり女性は切り替えが早い」

「もう3年近くも恋人がいない先生が変わっているだけです。それに前から言ってるでしょ、ある程度自分で修業出来ますから、先生は自分の事に時間をいてください」


そう言われたヨシトはニヤリと笑う。

「実は、最近俺にも恋人が出来た。今度紹介しようか?」

ケンは、少しショックを受けたが、同時にホッとする。

自分の大事な人達が、いつまでも恋人を作らないのは辛かったからだ。


「…一体いつの間に、…休日はほとんど僕に付き合ってくれているのに」

ケンの疑問に対して、ヨシトは更に愉快そうな表情になる。


「時間は有効に使うものだよ、不肖ふしょうの弟子よ。だから、これから魔曜日はちょくちょく出かけるから、修業にはあまり付き合えなくなる。まあ、悔しかったらケンも恋人を作る事だな」

「ほっといて下さい。今は修業の方が楽しいんです。…でも、おめでとうございます」

「…ああ、ありがとう。俺もマリも成長している。だからケンは、もう気にするな」

「…はい、わかりました」


実は、ヨシトは一種のけじめとして、マリに恋人が出来たのを確認してから知り合いを通じて恋人を探したのだ。

ケンの修業にも一段落ついていたので、ちょうど良い時期だったといえる。

マリと付き合ったおかげで、今まで自分がふられた理由も分かっているから、もうモテないとは思っていない。

なので、ちょっと本気を出して探せば、直ぐに相手が見つかるところが実に彼らしい。


ちなみに、相手はネオジャンヌに住む年上の人間族の女性で、ケンの知らない人だ。

今のパートナーとは別人であり、ヨシトは人間族の恋愛に完全に対応出来ている。

だから、これからはちょっと好みな女性達と、二股にならない様に次々と付き合って行こうと考えている。

日本人の感覚からしてみれば軽薄かも知れないが、結婚を考えていないモテる男なら当然だろう。


ヨシトとケンは、女性関係については細かい話をしていないが、長い間一緒に住んでいるのだから、例え言われなくてもお互い解り合える部分はある。

その彼から見て、ケンはいまだにヨシトとマリの破局の原因になった事を気にしている。

もうそろそろ、その気持ちから解放されてもいいはずだ。

ヨシトは、場の雰囲気を切り替えるように明るく声を出す。


「まあ、キュンメさんの事は任せておけ。ケンの立場が悪くならない様に口裏ぐらい合わせるさ。その代わりと言っては何だが、今回の旅行は楽しめよ」

「…そうですね、せっかくですから楽しみます」


旅行に行く前から色々あって精神的にどっと疲れたが、何とかヨシトの了解も取り付けた。

特に、姉のマリに続いてヨシトにまで恋人が出来た事は、素直に嬉しかった。

ともかく、後は撮影旅行当日を待つだけだ。

ヨシトの言うように、せめて楽しい撮影旅行にしたいとケンは思った。



―――――――――――――――――――――――――



撮影旅行の当日、11月下旬の魔曜日の朝7時15分前、

待ち合わせ場所であるネオジャンヌ北東の通用門の近くの駅前ロータリー、

その道端に駐車している自家用ワゴンタイプの飛空車の中で、ケンとヨシトは残りの3人が現れるのを待っていた。


まず最初に現れたのは、意外にもリエリス=キュンメ先輩だった。

しかも、どうやら大型魔動車(市電)に乗ってきたようで、駅から小さな鞄を持って歩いてくる。

服装は、いつものお嬢様ルックではなく、ラフなパンツスタイルだ。

ケンは車から降りて彼女を出迎えると、挨拶をした後に質問する。


「キュンメさんは、てっきり自家用車で来ると思ってました」

「言ってなかったかしら? 私はもう親元を離れて、1人でマンション暮らしなのよ。この街で成年自立手当を申請したんだから、そこに住むのは当然でしょ? それより、あなたの保護者を紹介して下さらない?」


その会話が耳に入ったのだろう。

ヨシトがドアを開けて車から降りてくる。

そして彼女の前に立つと、軽く右手を上げて、親しげな口調で挨拶する。


「おはよう、リエリス=キュンメさんですね。ヨシト=ウッドヤットです。今日は一日運転手を務めますから、要望があれば遠慮せずに言ってください。でも、かた苦しい挨拶は抜きにしましょう。何しろ俺達は、一緒に旅行するほど親しい間柄なのですから」

彼女も了解したように、胸に軽く手を当ててから返事を返す。


「ずいぶん、背が高いんですね。それに、何か不思議な感じがします。…いけませんね、これではまるで初対面の様です」

そう言って、茶目っけたっぷりに彼女は笑う。

当たり前だが、ケンに対する態度とは全く違う。


ケンは少し不機嫌になりながらも彼女から鞄を預かると、飛空車の後ろ開きのドアを開けて鞄を積み込む。

その間もヨシトとリエリスは楽しく会話を交わしているようだ。

そういえば、昨日の夜に彼女から音話が掛かってきた時も、ヨシトと楽しく話していた。


(先生は恋人が出来たばかりだから大丈夫だとは思うけど、まさか二股をかけないよな? でも、あっさり別れて、乗り換える可能性はあるよな? …それは嫌すぎるぞ!)


もちろんこれは、ケンの勘ぐり過ぎだ。

別に法律で禁止されてはいないので、やろうと思えば出来るが、この世界では複数の恋人を持つ事は、戦争時代であっても不誠実だとされている。

法的に重婚が認められているのに変な話だが、結婚は子供の為にするので、恋する気持ちとは関係ないという解釈だ。

ただし、今は平和な時代だから重婚も不誠実だとされてはいるが。


2人はしばらく話していたが、黙ってその様子を見ているケンに気付いて、ヨシトが気を使ったのだろう。

「じゃあ俺は、車の中に戻ります。あなたもよかったらどうぞ」と話を打ち切って、さっさと運転席に座ってしまう。


キュンメは車の中には入らずに、意地悪そうな表情でケンのそばに寄ってくる。

「あらぁ? まさかヤキモチでも焼いてるのかしら? 大好きな先輩を取られたみたいで悔しいのね。意外に可愛い所もあるじゃない?」

図星を突かれたケンだが、表情には出さずに冷静に対応する。


「いいえ、キュンメさんの演技力は大したもんだと感心していただけですよ。でも、ヨシト先生には通じませんよ」

「そうみたいね。私の手には負えないみたい。ギフトも発動しないし、受け答えにも全く隙がないわ。だから、ヤキモチを焼かなくていいわよ」

「僕の先生に対して、いきなり失礼な事はしないでください。それと、何で僕がキュンメさんが好きな事が前提なんですか?」

「本当に可愛げがないわね。ウッドヤットさんはすごく紳士的なんだから、勉強だけでなくマナーも教わったらいいのよ。あなたの保護者でもあるんだから、少しは見習ったらどうなの?」

「僕は十分紳士的です。そうでないと、素のキュンメさんとは付き合えません」

「…今日はずいぶん反抗的なのね。どこまで続くか楽しみだわ」


そう言って、キュンメは口をつぐむ。

何だか一気に、気まずくなる。


(僕は、普通に旅行したいだけなのに、何でこうなるんだよ!)

彼の怒りも分からない訳ではないが、自業自得な部分もある。

もちろん一番悪いのはキュンメだが、彼女が困った性格なのは彼は誰よりも知っているのだから。


具合の良い事に、その気まずい雰囲気は直ぐに破られた。

残りの2人、ハイド=ノワールとソフィア=メニエルがそろって姿を見せたからだ。

予定通り、ノワール家の車にメニエル先輩が同乗してきたから一緒なのは当たり前なのだが、これ幸いとばかりに車から降りて歩いてくる2人に近付いて行くケン。


「2人ともおはよう。荷物は後ろのトランクスペースに積む方がいいよ。待ってて、いま扉を開けるから」

「ああ頼む。…キュンメ先輩、お久しぶりです。今日会えるのを楽しみにしていました」

「ええ、ノワール君おはよう。それと、生徒会長に決まったそうね。やりがいがある仕事だから頑張りなさい」

「はい、精一杯務めます」


次にキュンメは、メニエルに向かい話しかける。


「メニエルさん、新しいクラブの部長になったそうね。撮影部との事は、私も気になっていたから、本当に上手くおさまって良かったわ」

「はい、以前は相談に乗ってもらってありがとうございました。今思えば、あの時に会長の提案に乗っていれば良かったんです」(文末参照1)

「もうその事はいいのよ。それより今日は、無理に参加してごめんなさいね。せっかくだから2人の顔を見たかったのよ」

「いいえ、先輩に会えてうれしいです。でも、ケン君の保護者である方が、先輩と仲が良いなんて、すごい偶然です」

「まあそうよね。紹介するから、2人ともこっちへ来なさい」

「「はい」」


そう言って、3人は飛空車の中にいるヨシトの前に行き、お互いの紹介しているようだ。

すっかり忘れ去られているケンだが、今日の主役はハイドとメニエル先輩なので文句は無い。


こんな感じで、それぞれが一通り紹介して親交を温めると、全員が飛空車に乗り込む。

ヨシトの自家用ワゴンタイプの飛空車は5人乗り2列シートだが、車幅が広くて3人は並んでゆったり座れる。

いよいよ、5人はサマンサ町に向けて出発する。

ヨシトが軽くアクセルを踏むと、魔導エンジンが回転数を上げて飛空車は滑るように発進する。

街の外に出る為に通用門を抜けて、しばらく地上を走行していたが、街から少し離れた場所でゆっくりと空に飛び立つ。

今はまだ朝の7時過ぎ、サマンサ町までは2時間ちょっとの空の旅だ。


ケンはヨシトの横の助手席に座っていて、後ろの席をそっと振り返る。

車が大きい事もあり、後部座席に並んで座っている3人は窮屈きゅうくつそうでも無く、窓の外に流れる景色を眺めている。

天気もいいし、気候も春から夏に移り変わる頃でおだやかだ。


ケンの心も、自然と弾んでいた。

ウルルス高専で知り合った、最も仲の良い友人たちとの旅行は、こうして始まった。



設定及び解説

(1)キュンメがメニエルにした提案について、

キュンメがまだ生徒会長だった時期に、メニエルとは知り合っています。

キュンメは、撮影部と写真部の不仲を憂い、伝統ある写真部が廃部になる事を避ける為に、今の状態と同じようにする提案をしています。

つまり、撮影部は映画に特化させ、写真部は動画撮影を認めて、それぞれが新しいクラブになる事を双方の部長達に勧めたのです。

ですが、双方ともかたくなで、結局写真部は潰れてしまい、その時は何の違反もしていない撮影部にも手が出せませんでした。

その後、彼女が引退した為におざなりになってしまっていましたが、彼女は写真部の事やメニエルの事を気にかけて相談に乗っていました。

メニエルとしても、彼女の提案は正しいと理解していましたが、当時は写真部を引退した先輩がまだ学園に残っていたので、彼女としても踏み切れなかった訳です。

キュンメ先輩が今回の撮影旅行に無理に参加した理由も、その辺りにあります。

彼女は、今回の事を解決したハイドを評価し、過去を断ち切ったメニエルに好感を持ち、双方をねぎらう意味も含めて友人関係を深める為にも参加したかった訳です。



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