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第54話 女神の加護と初恋の行方


リエリス=キュンメという名の人間族の女性は、実力主義のウルルス高専で前生徒会長をしていた才媛さいえんである。

見た目は某歌劇団の男役が出来るほどスタイル抜群で、顔立ちが整っていて凛々りりしくて、男女問わず同級生や下級生からも人気が出そうなタイプである。

非常に強力で有用なレアギフト『予測』持ちで、成績は言うまでもなく同学年でトップ、能力値はケンの姉のマリ以上である。

家柄も代々優秀な軍人を輩出している名家だから、彼女自身の仕草や振る舞いも優雅で、いかにもお嬢様という感じがする3拍子も4拍子もそろった高根の花である。


一方、ケン=マッケンジーは劣等生である。

学科の成績は下から5本の指に入る。

背は少し高めで顔は美男子だといってもいいが、ついこの前までは不健康そうな顔色をしていて、いかにも安っぽい服を身に受けている。

家柄は母方は有名な商家だが、父方は並以下で、しかも絶縁されている。

実家は言うまでも無く貧乏で、彼自身もこの街では変人扱いのゾンメル教徒である。

そして、何よりウルルス高専では孤立している。


そしてここからはフェイクだが、病気持ちで体が弱くて、能力値が伸びない問題児である。

魔術もウルルス高専では平均的で、ギフトは職人系だがそれほど有用では無い。

ウルルス高専の劣等生、それが一般的な彼の評価で間違いないだろう。


だが、実情は全く違う。

頭脳は彼女に敵うべくもないが、体力面では圧倒している。

魔術の能力値は、現時点でも彼女より上だろうし、自由魔素への親和性は大きく上回っている。

ギフトにしても、質は違うが決して負けてはいない。

性格面でも、好奇心旺盛で社交的な点が似ているし、双方とも大変な努力家である。


事情を解っている人から見れば、お互いを高め合える関係で、実は非常にお似合いであるのだが、ケンはそれを彼女に知らせる訳にはいかないのだ。

彼の先生であるヨシトの為、何より自分の夢の為には、能力は隠すほかない。

誰に言われるまでもなく、ケンはそれを肝に銘じているのだから。




そんな事情はともかくとして、休日の朝9時半頃に、小さなオシャレな喫茶店の奥のテーブル席で向かい合って座っているケンとキュンメには笑顔は無かった。

目の前のテーブルの上には、フルーツジュースが2つ。

一つは減っているが、もう一つには手もつけられていない。


『黙秘します』とケンが言った後、キュンメ先輩は少し悲しそうな表情でストローに口を付けて、フルーツジュースを少し飲む。

どうやら、思案しているようだ。


ケンはというと、どうしたらいいか解らず困惑していた。

彼女の事を好きな気持ちに、たった今気付いたばかりだからだ。

それさえ解れば、これまでの自分の行動にすべて納得がいってしまう。


彼女に『51番君』と言われて気にしてしまい、その場を逃げ出しそうになった事。

なんだかんだいっても、結局喫茶店に付き合って話している事。

ウッドヤット院長への個人的な相談というのに、その内容を聞いてしまった事。

彼女が自分と話したい理由を少し期待を込めて聞いていた事。

その理由が、単なる知的好奇心だと解って、腹が立ってしまい、『黙秘します』とまで言ってしまったのだ。

鈍くないケンには、自分の気持ちが分かって当然だ。


だが、黙秘した方がいいのは事実だ。

何せ、しゃべればしゃべるほど、彼女に情報を与えてしまう。

自分の頭では、彼女に言質げんちを取られて秘密を話してしまいかねない。

例え彼女に嫌われる結果になっても、これ以上は一言もしゃべらないように心掛けるしかない。


そんな彼の気持ちを知らずにキュンメ先輩は、居ずまいを正すと慎重に話しかけてくる。

その表情は、自分のあやまちを後悔する舞台女優の様で、ケンは全てを許したくなる心に必死にブレーキをかける。


「ケン君をからかったり、拘束した事は謝ります。

私の悪い癖で、興味がある事が出来ると、他の事は二の次になってしまうのよ。

今からあなたに興味を持った訳を説明するから、もし許してくれるなら、友人になってもらえないかしら?」


本来なら、すごく嬉しい申し出だ。

ケンだって、興味がある事には夢中になるタイプなので、彼女の気持ちはよく分かる。

だが、自分の気持ちを出さない様にして、彼女の瞳を冷静に見るように心掛ける。


「私があなたの噂を聞いたのは、入学式のすぐ後です。内容は、ウルルス高専の学生のほとんどが知っているはずだから、説明を省くわね」


(キュンメ先輩にだけは、知られたくなかったです。だって、絶対嫌われると思ったから)


思えば、ケンがウルルス高専に入学を希望した決め手は彼女の存在だった。

キュンメ先輩は、ウルルス高専へのあこがれそのものだった。

彼女に一目惚れしたのは間違いないから、今考えると、あこがれに恋心が加わっていた事も否定できない。


「校長先生の話の最中に倒れたって聞いたから、どんな生徒か気に留めていたのよ。私は、生徒総会で長話をする必要があるから、あなたの顔は知っていたわ。壇上にいる私と何回か目が合った事があったと思うけど、覚えてる?」


ケンは頷いた。

これくらいならいいだろうと思ったからだ。

その様子を見ると、彼女は花が咲いたように笑った。

(それはずるい!)とケンは思う。

緩みそうになる気持ちを必死に繋ぎとめる。


「それからも、あなたの噂は私の耳に届いたわ。

だから、失礼だけど直ぐに退学すると思ったのよ。

あなたが、ウルルス高専の事情を知らずに入ってきた生徒だと思ったからよ。

能力値強化が出来ないなら、ウルルス高専に入る意味はあまりないから。

その後の噂で、空いた授業時間を利用して職員室に入り浸ってると聞いた時は呆れちゃったわ。

それは、一見合理的だけど、その場しのぎで理知的でも論理的でもないでしょ?

それなら、他の退学者のように転校して勉強に集中した方がいいもの」


『医療系か学術系の高校を選ぶ方がいい』

ケンは、以前ハイド=ノワールにそう言われた事を思い出す。

彼の事情を知らなければ、その通りだといえるだろう。

論理的な人から見れば、ケンの行動は意味不明なのだろう。


「普通、エリート校にはそんな人はいないわ。

あなたも、女神の加護に付いては知ってるでしょ?

加護の研究論文によれば、理知的で論理的な人が加護力が最も強いとされているわ。

加護は最大魔力値の底上げもしてくれるから、非論理的な性格の人間族は、ほとんど足切されて、ウルルス高専には入学出来ないはずです。

でも、あなたの行動は論理的には見えない。

ケン君は矛盾の塊なのよ」(文末参照1)


ケンは、彼女が何に興味を持っているか理解した。

つまり、彼女は自分の持つ女神の加護力に付いて調べたい訳だ。

そんな事をさせる訳にはいかない。

女神の加護は奇跡の一種だから、普通の方法では測定できない。

恐らく、ケンの体をくまなく調べた上で、彼女のギフトを使って判定する気なのだろう。

ケンはたまらず言葉を返す。


「やっぱり、先輩にとっては、僕は研究対象なんですね。

そんな事だろうと思っていました。

…もう帰っていいですか?」


もう、これ以上は話を聞きたくなかった。

好きな相手に人間扱いされないのは、悔しいというよりは悲しかった。


「待って! 最後まで聞いてほしい。

研究対象というのは否定しないけど、事情があるのよ。

それを聞いても納得出来ないなら、もう引き止めないから」

「…わかりました。最後まで聞かせてもらいます」

立ち上がりたい気持ちを抑えて、ケンは彼女の言葉に集中する。


「女神の加護力は影響が無視できないほど大きいから、どうしても人は理知的や論理的になろうと努力します。

でも私は、そんな人だけが神に愛されてるなんて思わない。

だいたい、似たような人達だけになってしまったら、人間族は衰退していくとさえ思うわ。

…ねえ、ケン君。人は理知的で論理的に生きる事だけが幸せなのかしら?

それが出来ない人は、論理的な人には敵わないのかしら?

私はそんな人達に、違う生き方を示したい。

人の可能性を広げたいのよ」


ケンの心に迷いが生まれる。

彼女の考えに共感できる部分が多いのだ。

彼は、自分の持つ加護力に付いては詳しく知らない。

だが、何となくだが非常に高い事だけは分かる。

これは、彼だけでなく、全ての人が分かる事である。


ケンは、自分が論理的でも理知的でもないと思っている。

ただ、一生懸命に努力しているだけで、そんな人は世界にたくさんいるだろう。

彼女の言うように、自分とその人達の差は何なのか?

彼は、確かめたくなった。

だから、自分の頭の中にある加護に関する知識に付いて、検索して取り出してみる。


「先輩は、どれくらい女神様の加護について調べてますか? 特に加護力の強さについてはどう思っていますか?」

ケンは、あえてその質問をぶつける。

疑う訳ではないが、彼女の本気度を知りたいと思ったからだ。


「…資格がなくても読める論文は、ほとんど目を通したはずよ。

知り合いの医師にお願いして、人体実験のデーターも見たわ。

だけど、私のギフトで調べ直しても、目新しい発見は無かった。

まるで理解出来ない部分もあるし、『予測』ギフトで簡単に答えが解る事もあったわ。

…それによると、まず大きいのは種族差よ。

一番は人間族、次に精霊族、最後に獣人族。

本当に人間族が一番、女神に愛されているとしか思えない。

もちろん個人差も大きいけど、種族差を埋められる人は少ないわ。

これは、過去の『託宣』ギフト持ちの意見とも異なってくる。

女神は、すべての人に対して平等だという教えを否定する宗教も無いわ。

でも実際の結果はそれと矛盾している。

どう考えても論理的じゃないし、全然理屈に合わないのよ。

理知的で論理的という条件だけなら、加護力は精霊族が一番でなければおかしいのよ」


彼女の説明は、ヨシトから教わった知識とも一致する。

あくまでも平均値だが、人間族が加護力が一番高いというのは常識だ。

精霊族は理知的で論理的な人が多いのも義務教育で習う事だ。

女神様が人種差別しないのは、人はみんな神の子だから当たり前だ。

今まで深く考えた事は無かったが、確かにこれらは矛盾する。

更に興味が出て来たケンは、今度は自分から説明して見る。


「確か論文では、努力家が次に高いはずですよね。

誤差の範囲内かもしれませんが、一芸に秀でている人より、手広く努力した人の方が加護力が高い。

理由ははっきりしないけど、加護力は強くなる場合もあると聞いています」


キュンメ先輩は感心したようにケンの言葉を聞いて、更に補足する。


「よく勉強してるのね。それに加えて、努力家が怠惰になったり、理知的で論理的な人が衝動的になると加護力は減少する場合があるわ。

後は、神に宣誓してから嘘をいた場合もそうね。

いずれもめったに起こらないけど、神が人を観察していないと、こんなの起こらない。

私のギフトの結論でも、加護については女神が関係している事は間違いないわね。

過去の『託宣』ギフト持ちもそう言ってるから、疑いようが無いわ。

私は、加護力が神の好き嫌いに関係していると推測してるの」


そういう意見が、一般的な解釈であると頭の中の知識が知らせる。

だが、先程と違って話がずいぶんと具体的だ。

だったら、ケンの答えは一つだ。


「『予測』ギフトの結論ではなくて、キュンメ先輩の推測ですか?

つまり、先輩は女神様の思考を無理に探るつもりなんですね。

…僕は反対です。正直なところ、恐れ多いです。

知りたいですが、無理に探りたくありません。

それに、無理だと思います。

例えば、普通の嘘で加護力が落ちた例は無いはずですし、怠惰や衝動的になった人でも、必ず加護力が落ちるとは限りません。

女神様のお考えなんて、人に理解出来るとは思えません。

どう考えてみても、人と神とは違うと思います」


ゾンメル教徒であるケンにとっては、神の思考を探るなんて恐れ多い事だ。

人としての領分を超えるかもしれないとさえ思う。

知るチャンスがあれば遠慮しないが、あえてそうしたいとは思わない。

それに、神に好かれようとして自分の考えを曲げるくらいなら、ケンは加護なんて無くなったって構わない。

つまり、女神様の考えを知っても知らなくても、彼には関係ないのだ。

実に矛盾していて、非論理的である。


だが、そう考えているには彼なりの理由がある。

世界のことわりに触れるならともかく、女神様は人の生活には干渉しない。

『自分で考えて生きなさい。どうしても駄目な事は教えます』

そう女神様が人々に言っているとしかケンには思えなかった。

だいたい、何もかも女神様に頼って生きるのなら、この世に生まれた来た意味など無いだろう。

ケンは、何となくだがそう思っている。


キュンメ先輩は、ケンの意見を最後まで聞いた後、しばらく考えているようだ。

腕を組んで、軽く眉を寄せる姿が、思わず写真に残したいほどさまになっている。

喫茶店の中の舞台女優は、芝居のセリフみたいに唐突に質問してくる。


「あなたは、女神を信奉しているの?」

「…僕はゾンメル教徒ですから、そうとも言えますし、そうでないとも言えます」

ゾンメル教徒と聞いた彼女は、驚いたようにケンを見る。

「どういう意味か説明して?」

ケンは考えを整理してから、答え始める。


「僕は、女神様の考えを知りたいとは思っています。

でもそれは知的好奇心からで、その考え通りに生きるつもりはありません。

もちろん、世界の理に関係する『託宣』は別ですけど、納得が出来ない事までして加護力を強めたいとは思いません。

理知的で論理的な思考とか、努力とかは、もう生き方の問題だと思います。

したければすればいいし、そうでなければリスクを覚悟して違う道を選ぶべきだと思います。

そもそも、僕の真似をして生きて加護力が上がっても、本当にその人は幸せですか?

例えその人が幸せだったとしても、僕はそんな人に協力したくありません。

だから、先輩の考え方と、僕の考えは違うと思います。

だいたい、僕はすごく自分勝手なんです。

納得できない事は、不利益になってもやりません。

だから、人からはよく馬鹿だと言われますし、僕もそう思います」


彼女は、少し厳しい表情で確認する。

「なるほどね、価値観の違いって訳ね。…つまり、協力は出来ない」

「はい」

ケンの迷いのない返事を聞いても、彼女はあきらめない。


「でも、あなたみたいな人ばかりじゃないわよ。

少しでも能力を上げたくても出来ない、そんな人もたくさんいるわ。

…私達は、すごく恵まれている。

優れた能力を持つ人は、恵まれない人に還元すべきよ。

そういう人達に手を差し伸べるのも、人としての道じゃないかしら?」


ケンは、その言葉には納得できない。

何故なら、彼女の意見には大切な視点が欠けていると思うから。


「先輩の言う人の中に、獣人族は入っていますか?」

虚をつかれたように、彼女は一瞬黙り込む。

そう返されるとは、考えていなかったようだ。


「…いいえ、入っていないわね。

加護力は、最大魔力値と体力や思考力の底上げだから、どうやったって人間族には敵わない。

例え加護力が無い人間族だって、獣人族には負けないわ」


正直に答えたくれた彼女は、フェアな人なんだろう。

明らかに、自分に不都合な内容を誤魔化さないのだから。

だから、ケンも正直に自分の考えを述べる。


「僕は、ど田舎の村の出身です。

村人は獣人族がほとんどです。

その僕から見れば、能力を上げたくても出来ない人間族は、勝手に苦しんでいるだけだと思います。

特に、このガレア地方の国々に住む人間族は、誰に対してそう言うんですか?

だって、生きる事に苦しんでいるなんて獣人族から見れば絵空事です。

恵まれた境遇というなら、人間族に生まれただけでもそう言えます。

先輩がどうしても手を差し伸べたいと思うなら、まずは獣人族に対してするべきですね」


すると、突然、キュンメ先輩の雰囲気が変わる。

怒ったというよりは、なんだか、くだけた感じだ。


「あなたに嘘をついても自分が恥ずかしくなるだけね。私の本当の目的を言うわ」

「…本当の目的ですか?」

「ええそうよ。二度も言わないと解らないの? あなたってやっぱり馬鹿なのね」


なんというか、今まで以上に偉そうで遠慮が無い。

彼女の変わり様に、ケンはタジタジになって付いていけない。

ケンの戸惑いを完璧に無視して、彼女は話し始める。


「獣人族ですって? 私は別に人種差別主義者じゃないけど、知った事じゃないわ。

私は、理知的で論理的な人間族が嫌いなだけよ。

何が論理的よ、そんなのドブに捨てればいいと思うわ。

だって、そんな人であるほど、ギフトで行動予測が付いてしまうのよ。

こんなにつまらない事は無いわ。

だからといって、獣人族が多い地域に住むなんて、私のプライドが許さないわ。

だから、違う価値観を持つ人間族を増やしたかっただけ。

その結果、人が幸せになればお互いにとって良い事でしょ?

どう? 私はあなたより自分勝手なの」


呆気にとられたが、彼女の言う意味は分かる。

つまり、人間族の持つ価値観自体を変えたいのだろう。

しかも、動機は極めて自分勝手だ。


「それって、すごい自分勝手でスケールの大きい野望ですよね。価値観自体が変わるなんて、何年かかるか見当もつきません」

ケンの指摘に、悪びれた様子も無く彼女は答える。


「私は700歳くらいまでは生きるつもりよ。

今から700年前なんて、戦争時代の真っ最中で、今と全然価値観が違っていたはずよ。

だから、不可能な事じゃないと私は考えてる。

せめて500年以内にケン君みたいな人が増えていると、私は楽しく晩年が過ごせる。

まあ、望み薄だけど、努力するのは嫌いじゃないのよ」


700年とは大きく出たものだ。

いくら彼女が優れた能力を持っていても、そこまで生きるのは難しいだろう。

だが、何だか知らないが、妙なパワーがある。

ケンは少しビビって、遠慮がちに意見を言う。


「僕みたいな人が増えたら、大問題だと思いますけど? 社会が麻痺まひするかも?」

「あら、そうかしら? そうだとしても、私が楽しいからそれで十分だわ。あなたみたいに、思考が読めない人間族に囲まれて余生を過ごすなんて最高だわ!」


ずいぶんと楽しそうな彼女。

猫をかぶるのも大変で、普段はよほどストレスがたまっているのだろう。

ケンは、ひどくがっかりして、つい不満が口から出てしまう。


「学校と全然印象が違うんですけど、それが先輩の本性ですか?」

「失礼ね、お嬢様のたしなみよ。不都合な事を隠すのは常識でしょ?」


彼女は、全く気にした様子もない。

ケンも、もう遠慮はしない。


「僕が馬鹿なら、先輩は自分勝手な変人ですね」

「あら、言うじゃない? 落第ギリギリの馬鹿で、私より変人には言われたくないわ。でも許してあげる。私達は自分勝手な変人同士だからね」

「…それ、嬉しくないです」


ガラガラと音を立ててキュンメ先輩のイメージが崩れる。

彼の彼女に対する恋心は、行き場を無くして霧散むさんした。

その様子を見た彼女は、何を勘違いしたのか、優しく声をかける。


「落ち込まなくていいわよ。

似た者同士だから、あなたと私は友達になれるわ。

言っとくけど、私の友人になれるだなんて光栄に思いなさい」


それが嬉しいかどうかも、ケンにはもう分からない。


「…僕に拒否権は無いんですか?」

「ある訳ないじゃない。だいたい、あなたにそんな権利あるはず無いわ。学校で独りぼっちのくせに」

「…まさか学校で話しかけてくるつもりですか? とんでもない噂になりますよ?」

「それ、面白い! 私はあと半年で卒業だから、噂になっても関係ないし」

「本当に勘弁してください! 僕はまだ三年半も残っているんです!」


ケンはどうしていいか分からず途方に暮れる。

すかさず、キュンメ先輩は追い打ちをかける。


「じゃあ、勘弁してあげる。

その代わり、私のストレス発散に付き合いなさい。

本当に、遠慮せずに話せる馬鹿な友人は貴重だわ。

論理的じゃないから、考えが読めないのは最高ね!」


「…もう、好きにしてください」

彼女がどう思っているかはともかく、それは世間一般では、下僕げぼくという。

だが、今のケンには断る気力は無かった。

言質を取った彼女は、ニタリと心底嬉しそうに笑う。


「言われなくても好きにします。

せっかくの休日だから、今から違う町へ行って遊ぶわよ。

貧乏なあなたに免じて、今日は私のおごりよ。

すっごく感謝しなさい!」


彼女はそう言い放つと、席を立ちあがる。

ケンは、「…はい」としか言えなかった。

どうやら今日は、お嬢様のストレス発散に付き合う事になりそうだ。



会って一時間もしない間に、キュンメ先輩は別人になってしまった。

ウルルス高専で初めて友人が出来たのは喜ばしい事かもしれない。

だが、ケンは納得できない。


(僕の初恋を返せ! リエリス=キュンメ!)

告白する事も出来ずに失恋したケンは、ガックリと肩を落としたのだった。


設定および解説

(1)女神の加護について

元作の設定に書いていますが、補足しておきます。

興味の無い人は、読まなくても問題ありません。


女神の加護は奇跡の一つで、理知性をもつ生物にのみ与えられ、身体力、魔力、幸運、思考力が5から30パーセント上昇するとされています。

その存在自体は、過去の『託宣』ギフト持ちにより知らされています。

奇跡ですから、人には正確には加護力が測定できません。

じゃあ、どうやって加護力の多い少ないが分かったかと言えば、経験則と戦争時代の人体実験の結果です。


身体力は、体の丈夫さや力などに関係します。

魔力は、最大魔力値のことです。

思考力は、生きる力そのものを底上げしますが、結果的に魔術の腕にも関係してきます。

幸運はそのままの意味ですが、人にはそれが加護に含まれているとは知られていません。

つまり、それ以外の能力値は上がりません。

加護の力が強いからといって、賢くはならないのです。


加護の力には個人差や種族差があり、女神様の好き嫌いの意志が、世界を満たす魔素やシステムを通じて事象に影響を及ぼしているため起こるという裏設定です。

ですが、女神様は管理者として人に対しては平等に接しようとしているので、わざとひいきしている訳ではありません。


ちなみに、女神様は人間族が一番好きです。

その理由は、魂の生育具合が最も優れているからです。


人の好き嫌いですが、理知的で論理的な人物が好きです。

次に、努力する人が好きですし、明るくて面白い人や個性的な人がその次に好きです。

そして、レアものが大好きです。


逆に嫌いなのは、怠惰な人、極端に依存心の強い人、生きる事をあきらめた人などです。

とはいえ、彼女は寛容ですから、人を簡単に嫌いになったりしません。

ただし、世界の理を破って大問題を起こした人物は、高い確率で加護が無くなります。


ですから、加護力が上がる事は結構ありますが、無くなったり、力が落ちたりするのはかなり珍しいです。

例えば、人を殺しておいて、自分に宣誓までして嘘を吐かれるとさすがに気分を害して減少する場合があります。

他には、今まで頑張ってきたのに、急に破れかぶれになって人生をあきらめたりすると、がっかりして加護の力が落ちたりします。


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