第45話 ケンの将来に必要な事
ケンとヨシトとシライシ校長はウルルス応用魔術高等専門学校の廊下を並んで歩いている。
次の行き先は、先程見学した魔術訓練所だ。
今は応用魔術の実習が行われているそうで、それがこの学校での最後の見学予定である。
魔術訓練所は、直径約100m、高さ2mはあるフェンスに囲まれた屋外施設で、200人程度が座れる小さな観客席まで付いていて、地球でいう所の野球場に近い感じの立派な施設である。
3人は魔術訓練所の入り口に着くと、授業の邪魔をしない様に観客席に移動する。
最前列に並んで着席し、訓練所内を見下ろすと、シライシ校長の解説が始まる。
「今はちょうど、3年生のクラスが合同で実習中です。どうやら模擬戦闘訓練を行っているようですね」
20mくらい先には、30名以上の生徒達が3,4人のチームを組んで魔術の行使の訓練をしている。
ヨシトがその様子を見ながら、シライシ校長に質問する。
「ウルルス高専では、どこまでの訓練をされているのですか?
見る限りとても実戦に近い物とは思えませんが」
「ええ、我が校は士官学校ではありませんので、どうしても形式的な物になりますね。
実際、卒業生で戦闘職に就く者はいませんから」
「しかし、教師になる学生はいるでしょう?
若いうちに、ある程度の実戦訓練をさせておいた方がいいでしょうに」
「そうかもしれませんね。
ですが、卒業生達の主な進路は、教職であったとしても医師や学者がほとんどです。
私の知る限り実技訓練に携わる者や現場に出て指導する者は、ここ10年以上はいなかったはずです」
2人の話を聞きながらも、ケンは訓練所内の3年生達を観察していた。
その中に1人だけ、すごい最大魔力値を持つ人物がいる事に気が付く。
(あの女の人は、お姉ちゃんより上だ。周りの人達も僕よりすごいけど、彼女だけは別格だ。一体どんな人なんだろう?)
たまらずケンは、シライシ校長に質問する。
「すいません、シライシ校長先生。
向かって右の3人グループの中の紺色の髪の女性は、どういう方ですか?」
ケンの質問に、シライシ校長は目を細める。
「ほぅ…、マッケンジー君は、彼女のすごさが分かるのかね?
ずいぶん君は魔素に対する感受性に優れているようだ。
彼女は、我が校の生徒会長をしている才媛だよ。
名前は、リエリス=キュンメという」
「キュンメさんですか。生徒会長をしているなら、すごく人望もあるんですね」
「ああ、もちろんだよ。
彼女はレアギフト持ちだし、成績も同学年でトップだ。
我が校でトップという事は、全国的に見ても3本の指には入るだろう」
「やっぱりすごい人なんですね」
ケンは感心して、彼女の魔術を観察する。
その魔術陣の構築は、速くて正確で力強い。
仕草も優雅で、いかにもお嬢様という感じがする。
見た目もスタイル抜群で凛々(りり)しくて、下級生から人気が出そうなタイプである。
彼女は別格として、他の生徒たちの魔術のレベルもかなり高い。
選ばれし者の学校というのは間違いないだろう。
しかし、実習自体はケンから見ると不満足な物だった。
自分がヨシトとしている修業と比べたら、児戯に等しい。
(やっぱり、魔術関係はそれほど期待できないな。
でも、生徒みんなが僕以上の力を持ってる。
…後でヨシト先生に相談して見よう)
ウルルス高専を見学し終わったケンの心は、満足半分、不満半分というところだった。
学科の授業はかなりレベルが高くて、ケンはついて行くだけで精一杯だろう。
勉強のしがいがあるともいえるが、あっさり落第しかねない。
しかもその内容は、実生活に役に立つ物では無く、高度な論理的思考を身に付ける目的の物だろう。
決してマイナスにはならないが、あまり冒険に役立つ物では無い気がする。
次に学校の設備や生徒の待遇は最高で、全く文句のつけようが無い。
全生徒数もクラスの人数も少ないから、好きな時に施設利用が出来るだろう。
学友の数は望めないが、質は超一流だから、お互いが刺激し合えればケンはもっと成長できるかもしれない。
彼にとっては、キュンメ先輩がいるというだけでも入学する価値はあるだろう。
ただし、魔術関係は全くの期待外れだった。
一応この高専のメインであるはずなのに、ヨシト先生から教わった事を自習する方が、実力が伸びるとさえ思う。
シライシ校長と別れてから、ウルルス高専を出た後、自家用飛空車の中でケンはヨシトに自分の考えを話す。
特に気になった、基本式の違いに付いての不満を漏らす。
ヨシトは、ケンの話を聞き終わると簡単に解説を始める。
「ウルルス高専の授業は間違っていないんだ。
ケンに教えた魔術の基本式は新しい物じゃ無くて、ケン専用の物だ。
だから、ケン以外の人が使うと逆に威力が落ちる。
まあ、詳しく教えなかった俺が悪いとも言えるが、それくらい気付け、不肖の弟子よ!」
ケンはあまりに意外な言葉に、思わず聞き返す。
「先生は、わざわざ僕の為に基本式を改良してくれたんですか?」
「ああ、だから修行の初日に、全ての基本式を真っ先に構築させた訳だ。
しかも、新しい基本式を後から1割くらいは覚え直させただろ?
あれは、再調整した基本式だったんだ。
おかしいと思わない方がどうかしてるぞ」
魔術の基本式は1000個以上はある。
ケンが彼から新しい基本式を教わったのは、下宿し始めてからわずか2週間後である。
それならば、1日に60個以上の基本式をケンに合わせて改良くれた事になる。
これが非常に大変な作業である事は、説明されなくても分かる。
ケンはヨシトのすごさと勤勉さに改めて驚く。
そして、基本式の改良が、全て自分の為であると思うと感動で胸がつまる。
(本当に僕は幸せ者だ。こんな素晴らしい先生の弟子になれたんだから)
ケンの心は感謝でいっぱいになった。
オタク話に付き合ってもいいと思うくらいに。
2人の乗った飛空車は、次の目的地であるムライ高校に到着する。
この高校は、ネオジャンヌでも3本の指に入る程の魔術系高等学校である。
ただしエリート校とは違い、受験にはひねくれた問題も出ず、1学年の生徒数も多いのでケンなら楽勝で合格するレベルの高校である。
言い方は悪いが、ケンにとってはすべり止めの高校と言える。
さっきと同じように来客用の駐車場に車を停めてから、ムライ高校の事務室に向かう。
このムライ高校は、ウルルス高専と比べると敷地面積は大きいが、建物や設備は一般的な物のように思える。
2人が事務室に着くと、中には数人の職員の姿が見える。
ヨシトが一番近くにいた事務員の獣人族の女性に挨拶すると、彼女はにこやかな表情で挨拶を返してくる。
ヨシトが先程と同様の型通りの会話を交わすと、事務員の女性は棚から名札とパンフレットを取り出してケンとヨシトに手渡す。
名札には『見学許可証』と書かれていて、どうやら見学中は上着の胸部分にでも取り付ける必要があるらしい。
女性事務員は、「どうぞ、ご自由に見学してください。帰られる前に名札だけは返却しに来て下さい」と言い、さっさと自分の席に戻ってしまう。
(ウルルス高専とは全然違うな)
ケンはそんな風に思いつつも、ヨシトと一緒に事務室を後にする。
勝手に見れる分、気が楽だともいえる。
ケンとヨシトは、事務室の前の廊下でパンフレットに書かれている校内案内図に目を通す。
「先生、どこから見ましょうか?」
「さっきと同じで、医務室でいいだろ。念のため保健医のギフトを確認しておきたい」
ムライ高校に通う場合でも、ケンの能力値強化については隠す必要がある。
ケンの魔力体の状態を探れるギフト持ちが保健医にいるなら、この高校は進学先から外した方が賢明だろう。
それから2人は医務室に向かって歩き出すが、その間にどこを見るかを話し合う。
結局、ウルルス高専との比較の意味も含め、同じように回ってみようという話に決まった。
ヨシトは、医務室のドアをノックする。
中から返事が聞こえたので、スライド式のドアを開けて医務室に入る。
そこにいたのは、人間族の女性だ。
まだ若い感じがするので、100歳にもなっていないだろう。
「あら、学校見学の方なの? 医務室に来るなんて珍しいわね。
それとも、どこか具合でも悪いのかしら?」
「いえ、そうではありません。
まあ、この子がこちらに入学すれば、かなり世話になると思いますが」
ヨシトにそう言われた保健医の女性は、ケンの姿を真剣な表情で見ながら質問する。
「そう言われれば、少し顔色が悪いわね。どこか問題があるんですか?」
「少し魔力体が不安定で体が弱いんです。
だから、教練とかは見学が多くなるかもしれないですね」
相変わらず大嘘をつくヨシト。
そんな会話を交わしながらも、思考念波を使った探索スキルを行使して、彼女の持つギフトや能力を探る。
ギフトは治癒系だし、年も若くて実力も大した事が無いように見えるので、彼女も脅威にはならないだろう。
もちろん、ヨシトからそんな事をされていると気付かない彼女は、ケンの様子を辛そうに見る。
「…それはお気の毒に。私は3級回復師の資格を持ってますから安心して下さい。
『治癒』ギフト持ちで活性魔術も得意ですから力になれると思います」
「なるほど、少し質問してよろしいでしょうか?」
「はい、何でも聞いてください。
そのような事情なら、色々と心配な点があるでしょうから」
ヨシトは、先程ウルルス高専でした内容と似た質問をしていく。
やはり、ムライ高校では投薬してまで能力値を上げる事はしていないそうだ。
医師が常駐する事も無く、大きな事故があった場合は、近くの治癒院に搬送する形を取るらしい。
そんな事はめったに起こらないそうだから、ウルルス高専よりはトラブルに巻き込まれる可能性は低いだろう。
ちなみに彼女は、保健の先生という立場だそうだ。
彼女に御礼を言ってから、2人は医務室を後にする。
それから2人は、学校の施設を自由に見て回る。
今は授業中らしく、生徒の姿はほとんど見ないが、このムライ高校の生徒もすべて人間族の子供たちだ。
首都ネオジャンヌでは、永住権を持った獣人族でも魔術系高校に通う事はほとんど無いので、それも当然なのだが。
予想通り、ムライ高校の施設のレベルは、ウルルス高専と比べれば数段落ちる。
ただし、生徒数が多いので施設自体は大きくて広いし、必要十分な機能は満たしている。
だから、ケンにはその事についての不満は無いが、施設の利用はそれほど自由には出来ないだろう。
次は、授業見学をする。
2人は、1年10組と書かれた教室の後ろの扉をそっと開けて中に入る。
それに気付いて何人かの生徒がこちらを見るが、見学者だと分かると、直ぐに授業に集中しているようだ。
やはりここでも、学校見学はよくある出来事なのだろう。
1年生での授業内容は基礎的な物で、教科書に沿った話をしているようだが、しばらくすると応用問題に移るのはウルルス高専と変わらない。
ただし、その内容はあくまでも高校レベルの様である。
これならケンは、普通に勉強するだけで大丈夫だろう。
2人は次々と教室を移り、授業内容を確認するが、最高学年の3年生でもそれほど難しい内容を教えてはいないようだ。
ただ、3年の1,2組は進学クラスの様で、授業内容は受験対策に力を注いでいる。
3年の他のクラスも教室に貼ってある時間割を確認すると、授業内容はクラスごとにかなり特色がある。
どうやらムライ高校は、進学先の違いによりクラス分けがされるようだ。
ちなみに、一学年は12クラスで300人ほどの生徒数、つまり1クラスは25人程である。
一通り見学し終わってから、ケンとヨシトは事務室に戻り名札を返却する。
「何か質問はありますか?」
事務員の女性がそう尋ねるが、2人には別に何の質問も無かった。
知りたい事は全てパンフレットに書いてあったし、ムライ高校の授業は確かにレベルが高いが、あくまでも普通の魔術系高校だったからだ。
ウッドヤット商会に帰る途中の自家用飛空車の中で、ケンは考えをまとめる。
彼は、ムライ高校に好印象を持った。
一番気に入った点は、生徒たちの表情が明るく、活気がある事だ。
ケン程の最大魔力値を持つ生徒は見かけなかったが、全体的にレベルは高くて優秀に思える。
この高校なら楽しい高校生活を過ごせるはずだし、友人もたくさん出来るだろう。
ただ、授業内容はウルルス高専と比べると話にならない程の差がある。
特に魔術関係の授業は、全く期待できないだろう。
もし、この高校に入学するなら、たくさんの友人達と人間関係を作り、豊かな感受性を育む目的と割り切る方がいいだろう。
もちろん、卒業してから成人するまでの残り2年の進学先をしっかり定めて勉強する必要もある。
ケンは迷った。
どちらも一長一短で、これという決め手が無いのだ。
だが、高校に通わないという選択肢は無い。
ヨシトは仕事を持っているし、自分には魔術以外の勉強や経験も必要なのだから。
ウッドヤット商会に帰った後、ケンとヨシトは3階の食堂で遅めの昼食を取る。
食卓の話題は、当然ながら見学した2つの高校の事になり、今回だけは日本語では無く共通語で話し合っている。
ケンは、先程考えていた事をヨシトに話して意見を聞いている。
「ヨシト先生、今話したように、どっちでも良いともいえるし、駄目だとも思います。ぜいたくな悩みだと思いますけど、決められません」
「まあ、まだ時間はあるさ。とりあえず両方とも受けたらいいよ。
それに、ウルルス高専は受かるかどうか解らんしな」
「…そうでした。だとしたら、今の勉強を続けるしかないですよね」
ヨシトは、少し考えてからケンに質問する。
その表情は真剣で、ケンの心を見通すようである。
「なあ、ケン。士官学校や戦闘系の学校に行くつもりは無いのか?」
それは考えないでも無かったので、彼は少し迷った。
「…ありません。
お姉ちゃんに戦闘職は無理と言われたのもありますけど、僕は無駄な戦いをする気はありませんから」
「その心がけは立派だが、君の場合は戦闘は避けられないと思うな」
確かに冒険者になって世界を調べ回るなら、魔物はもちろん、犯罪者と戦う事もあるだろう。
「ヨシト先生、僕は出来るだけ逃げたいと思います。戦うのは最後の手段と思ってます」
ヨシトは、唐突に厳しい意見を言う。
「俺が士官学校や戦闘系の学校を勧めるのは、君に人を殺す覚悟を持たせる為だ」
ケンは前世でもこの世界でも、殺人を犯した事は無い。
いきなりそんな事を言いだすヨシトに、驚いて聞き返す。
「極端ですよね。魔物じゃなくて人ですか?」
「ああ、ケンも魔物くらい見た事はあるだろう。あれを殺すのは大した覚悟はいらない。
だが人は違う。あらかじめ覚悟していても、そう簡単ではないんだ。
…確かに逃げる方が賢いやり方だ。
だが、守るべき人がいたり、逃げられない状況ならどうする?」
ケンの周りの大切な人達は、自分の身くらいは自分で守れる。
だから想像した事はなかったが、少し考えてみる。
「その場合は、敵を捕まえるとか、気絶させるとか…」
「それはやめておけ。
敵を一撃で気絶させたり、大した怪我もさせずに捕まえるなんて、フィクションの世界だ。
そんな中途半端な気持ちでいるなら、君は死ぬ」
反論しようとするが出来ない。
この世界には、魔術やギフトがあるのだから。
例えば、悪者を上手く捕まえたとしても、その後はどうする?
ぐるぐるに簀巻にしても、喉を潰しても魔術は防げない。
魔術を使えないようにする魔術や魔道具はあるにはあるが、それを完全に防げる絶対的な物では無いし、ガレア地方では人の思考を制限する魔道具を所持するには公務員の身分か資格が必要だ。
そして、ギフトを防ぐ術はない。
基本的にギフトに対抗出来るのは、ギフトだけである。
つまり、戦闘系ギフトを犯罪者が持っているなら、それに対抗出来るギフト持ちでないと、護送中は常に命を狙われる可能性がある。
武装を解除できないなら、抵抗の意思を示せば殺すしかない。
この世界では、それが認められている。
もちろん殺人は重罪だが、相手が魔術を行使すれば思考紋が残るし、記憶を再現する魔術もあるので、正当防衛の立証は比較的簡単だ。
嘘をついたり記憶を改ざんして言い逃れをする人も多いが、女神様に宣誓をして嘘をつくと加護の力が減少する場合があるので、重大な嘘をつく人は少ない。
それに、記憶を都合よく改ざんしても、思考紋を調べれば矛盾が出てくるので、裁判ではあまりもめる事は無い。
それに、この世界では相手の思考を読んだり、嘘を見抜ける人もいるので、結局は治安は守られるという訳だ。
話はそれたが、そんな世界なので戦闘職や貴族達(軍人や警察官)は、始めに人を殺す覚悟を叩き込まれる。
同時に高い倫理観を持つ事も要求される。
それが出来ない人は、最下層の傭兵になって修羅の道を進むしかなくなるのだ。
ケンは、知識としては知っていたが、改めてその事を真剣に考える。
悪人でも殺したくないから逃げようと単純に考えてはいたが、逃げられない場合は戦わざるを得ないだろう。
そして、相手を生かしたまま何とかするには、圧倒的な力が必要だろうと考える。
例えば目の前にいる、ヨシト先生くらいの力がいるかもしれない。
「…先生は、人を殺した事はありますか?」
「俺は一応医者なんで、無いとは言い切れないが、少なくても殺人は犯した事は無い」
「危険だけど、逃げられない時はありましたか?」
「…ある。だが、俺の経験はケンには役に立たない。俺は不意打ちを受けても死なない」
ヨシトの『防御』ギフトの事はケンは知らない。
ヨシトは、少なくても半年間は教えるつもりはない。
ケンは子供であり、ヨシトはまだ彼を一人前と認めた訳でも、信頼している訳でもないのだ。
「先生は、相手を殺さなければならない時は殺せますか?」
「そんなのは当り前だよ。
ただし、俺はそんな状況に陥らないようにする自信がある」
「…僕にも出来るでしょうか?」
「今のままじゃあ、とても無理だな」
食堂の中には沈黙が流れる。
ケンは必死で考えているようだ。
しばらくして、決意を固めた表情で宣誓する。
「ヨシト先生。僕は、その覚悟が出来るまでは冒険には出ません。
一生出来なければ一生出ません。
僕は、人を殺すのも殺されるのも嫌です。
だけど、殺さなければならないのに、それが出来ないのは単なる逃げだと思います。
だから、その覚悟と判断が出来るようになるまでは、修行を続けたいと思います」
それを聞いたヨシトは黙って頷く。
人を簡単に殺せるなんて言う奴は、ヨシトは信用出来ないし、弟子にしたくは無い。
ケンの言葉は、命の大切さを知っていて、尚且つ必要ならそれを奪う意思を秘めた意見だから、経験さえ積めばその覚悟を持てると確信するのに十分だった。
後は、その判断を正確に下せるようにしてやるだけでいい。
言うまでも無く、人を殺す判断は非常に難しい。
自分の力や敵の力、周りの状況やその後の予測、正義感や倫理観や罪悪感、全てを冷静に素早く判断するには経験が必要である。
それを成人までに教えればいいのだから、まだ時間はある。
ヨシトは気持ちを切り替えて、ケンに尋ねる。
「それじゃあ、結局、魔術系高校の志望一本にするんだな?」
「はい、僕がしたいのは冒険です。だから、戦闘関係は先生に鍛えてもらいます」
「よし、よく言った! じゃあ、今から魔術の修業を始める。
今日はとことん付き合ってやるから、街の外に出るぞ」
「…お手柔らかに、お願いします」
それから、日が沈むまで地獄の修業が続けられる。
ケンは今、身も心も生まれ変わろうとしている。
最高の先生、ヨシト=ウッドヤットの手によって。
まだまだ、最高に苦しくて充実感のある日々は続くだろう。
だが、ケン=マッケンジーの信念だけは変わらない。
何せ彼は、一本筋の通った馬鹿なのだから。




