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第31話 番外編 ヨシトはエマにお茶をふるまう


マリ=マッケンジーの就職が決まってから1週間(8日)後の12月の中旬の始めの頃、彼女は朝からステラ村のゾンメル教の教会で礼拝を済ませると、祖母のエマ=シンプソンを伴なって隣国の首都ネオジャンヌの南正門前に来ていた。


ステラ村からネオジャンヌは直線距離で約2000km程離れているので、飛空船を使っても普通なら1日近くは掛かるが、移送魔術を使えばわずか数分程しか掛からない。

マリの移送スキルの移動距離は750km程なので、ミレーヌ町ともう一つ町を中継して、3回目の移送で辿り着いた訳だが、スキル化した今なら、覚えたての頃と比べて魔素消費量は10分の1程度になっているので、彼女にとっては20回以上は楽に往復できる距離である。


いつもは1人でウッドヤット商会に行き、魔道具造りをヨシト=ウッドヤットに教わっているが、今日はエマがいるので、何となく憂鬱だ。

自分が4年も前に貰ったペンダントの御礼を彼に言いたいなんて、いかにも怪しい理由なので出来れば帰って欲しいが、言っても聞く様な人ではないので、もう成るようにしか成らないと思ってあきらめている。


半年程前から続けている魔道具造りの修業は、彼女がヨシトに無理に頼み込んだものであり、自らの技術の向上と、好きな人に会うという一石二鳥を狙ったものだが、最近では修行にも慣れて、彼女にとってはすごく楽しい時間である。


(まあ、母さんが付いてこなかっただけでも上出来よね。おばあちゃんは、人の恋愛事情に口を出すほど無粋な人じゃないし)

そんな事を思いながら、マリは街の方へ歩いて行く。


2人は南正門を抜け、近くに停まっているギル車(タクシー)に乗り込む。

マリがヨシトのいるウッドヤット商会の住所を運転手に告げると、ギル車は静かに発車する。

いつもは大型魔動車(市電)で通っているが、いくら自分の祖母とはいえ、リンク商会の会長に結構な距離を歩いてもらうのは気を遣うから今日は特別である。

10分程でギル車が店の前に到着すると、マリは料金を支払い、2人はウッドヤット商会の前に降り立つ。

エマは、その建物を見上げ感想を漏らす。


「ほぅ、小さいが結構良い店じゃないか。装飾や看板もセンスがいいね」

「そうでしょ、おばあちゃんもそう思うわよね。このビルは、ヨシトさんが設計したのよ」

マリはまるで自分が褒められた様に、嬉しそうに話す。


ヨシトの経営するウッドヤット商会は、駅から歩いて5分ほどの距離にあり、メイン通りから1本奥に入った比較的広い道の角地に立つ4階建ての縦横16m四方の白いビルである。

一階は店舗、2階が一部店舗に広い作業場と倉庫、3階が住居、4階にはゲストルームがあるが現在は使われていない。

それぞれの階に入り口があり、すべてが外階段から出入り出来る。

もちろん、内階段やエレベーターもあるが、それらは屋上ともつながっている。


建築設計全てに彼が関わっており、今日は閉まっているので店の中までは見れないが、外観は細かい細工があちこちに装飾され、一階部分はショーウインドウが大きめに取られ、見事な細工の時計が店の入り口近くの壁にかかっていて、壁面全体にタイルと石が効果的に配置されている。

見る人が見れば、明らかに腕の良い建築士が手掛けた建物であると解るが、全体的に落ち着いた感じの印象を受けるのは、彼が地球の高級ブランド店を参考にしてデザインした為である。


「おばあちゃん、裏手に回るわよ。いつも2階で作業をやっているの」

マリは店の壁沿いに少し歩くと、裏手にある外階段を上り、2階にあるもう一つの店舗入り口にあるチャイムを鳴らす。

しばらくすると横開きの扉が開き、獣人族の男が顔を出す。

まだ幼い感じがするので、恐らく未成年の男の子だろう。


「ミリオン君、こんにちわ。今日もよろしくね」

ミリオンと呼ばれた男の子は、渋い顔をする。


「マリさん、15分の遅刻だよ。先生は時間に厳しいんだからね」

「うそ! まだお昼前じゃないの?」


彼女がヨシトと約束している時間は、お昼12時から夕方6時頃までである。

エマとミレーヌ町で待ち合わせしたとはいえ、11時前には実家を出たし、店舗の入り口に飾られていた装飾時計の針も11時45分を示していたはずである。


「教え子は30分前には来て無いとダメなの。僕達はいつも8時半に来て掃除をしているんだよ。タダで教えてもらっているんだから、それくらいしないと先生に悪いだろ。マリさんは途中からだから掃除をする必要は無いけど、心意気は示さないと教え子失格だよ」

朝から礼拝に参加してから来るマリとは違い、教え子たちは9時から来ている事を知っている彼女は素直に謝る。


「ごめんなさい、ミリオン君の言う通りだわ。次から気を付けます」

「分かればいいんだよ。さあ、どうぞ上がって。…あれ? 後ろの女の人は誰なの?」

「私のおばあちゃんよ。今日は私の修業の様子を見てみたいって言うから、連れて来たのよ」


そう言いながら、マリはエマの方を振り返り、「さあ、入りましょう。ヨシトさんに紹介するから」と玄関ホールを抜けて中に入っていく。

エマはその後ろをついて行きながら考える。


(なるほどね、休日は子供向けに教室を開いているみたいだね。マリは、その中の1人って訳かい。調査期間が短かったから仕方ないとはいえ、報告書は不十分って事だね。少し調べればそんな事ぐらい分かりそうなもんだが、これは少し注意をしてやらないといけないね)


エマがそんな事を考えている間に、2人と1人は少し奥にある作業場に到着し、マリはそこで出迎えた、背の高い平凡な顔をした男に声をかける。


「ヨシトさん、こんにちは。今日もよろしくお願いします」

「ああ、マリちゃんこんにちは。…えっと、後ろの女性は誰だい?」

「はい、私のおばあちゃんです。休みの日に、魔道具造りの修業をしているって言ったら、心配して一度見てみたいって言うから連れて来ました。挨拶だけしたら、すぐに帰らせますので」

そんな事を言うマリに苦笑して、注意するヨシト。


「こらこら、せっかく心配して来てくれたおばあちゃんに、そんな事をいったら駄目だろ。さあ、マリちゃんも席に座って。今さっき講義が終わったとこなんだ。実習は1時からだから、それまでに誰かにノートを見せてもらうようにね」

「はい。…じゃあ、ミリオン君にお願いするわね」

「了解、いつものように、僕達が昼食を食べてる間に写してくれよ」

そう言って、2人はそれぞれの席に向かう。


エマが見ると、作業場の真ん中には10人程が座れる長机と椅子があり、その前には移動式の黒板まで置いてあり、6人の獣人族の子供が座っている。

ミリオン君とマリが席に座ると8名となり、これが参加者全員であろう。

エマが作業場の中を興味深そうに眺めていると、ヨシトが近付いて来て声をかける。


「初めまして、ヨシト=ウッドヤットと申します。週に一度程度ですが、マッケンジーさんに魔道具造りの基礎を教えています」

そう言って右手を差し出す彼は、いかにも温厚そうな笑顔を浮かべている。

エマもその手をがっちり握って握手をして、にこやかに挨拶を交わす。


「エマ=シンプソンだよ、よろしくねウッドヤットさん。孫娘はああ言ったけど、少し見学させてもらっていいかい?」

「もちろんです、どうぞゆっくり見て行って下さい」

「ああ、私は商売人をしていてね。作業の現場を見るのは久しぶりなんだよ。それにしても立派な設備だね。下手な工房じゃ、これほどの魔術機械はそろって無いよ」


(もっとも、魔術を使えば、あなたにはこんな設備なんていらないのだろうにね。もしかして、この部屋は、顧客に対するアピールかもしれないね。それとも、単なるお人好しの自己満足かね)(文末参照1)

商売人らしい思考で、エマはこの立派な設備の意味を推測している。


彼女の言う通り、30畳以上はある作業場には見た事の無い、恐らく最新型の様々な工作機械や測定機械が置いてあり、奥には鍛冶作業が出来る場所まであるようだ。

恐らくこの場所だけで、商品製造の全ての工程が終えられるはずで、設備は一流であると言って良い。

彼女の褒め言葉に、少し恐縮気味にヨシトは答える。


「ええ、そう言ってもらえるとありがたいです。シンプソンさんは、商品の製造の方もされるのですか?」

「いいや、私は売る方や目利きが専門なんだ。だから時間があれば、ウッドヤットさんが造った商品を見せてもらった方がありがたいねぇ」

彼は少し考えると、少し真剣な表情をする。


「それでしたら、今はちょうど講義が一段落した所です。一階の店舗で商品をご覧になりませんか? その方が、お互い都合が良いと思いますけど」

「ああ、話が早くて助かるよ。私も、あなたと2人で話したかったからね」

彼は頷くと、教え子たちに指示を与える。


「今からシンプソンさんに店を案内するから、お昼までの間は自習にする。もし何かあったら呼びに来るように。もし俺が遅くなるようだったら、そのまま昼食を取ってもらって構わないから」

『はい!』

全員の元気な返事が返ってくると、彼は頷いてエマに向き直る。


「さあ、行きましょう。あなたのご期待に添えればいいのですが」

「ああ、楽しみだよ」

そう言って2人は、作業場を出て、内階段を一階に下りて行く。


一階に着くと、2人は暗い店内を進み、従業員出入り口から店舗スペースに入る。

ヨシトが照明を付けると、30畳以上はある売り場は鮮やかに照らされ、ガラスケースの中にあるアクセサリーが綺麗にきらめく。

エマが商品に一々付けられている値札を確認すると、高くても数十万ギル程度の商品であり、高級品は置いていないようだ。


「ずいぶん、お客に親切だね。良心的な価格設定だし、値札を全商品に付けるなんて普通はしないだろうに」

「元々、仕入れにお金はかかりませんから、他の同業者の店との兼ね合いを見て値段は設定しています。値札を全商品に付けるのは、従業員に販売を任せているからと、一切値引きはしないと言う意思表示です」

「なるほどね、ちょっと手に取って見てもいいかい?」

「どうぞ、鍵はかかっていませんから」

エマはガラスケースを開け、10万ギル魔金の指輪を手に取り『鑑定』する。


「なるほどね、確かに値段は適性の様だ。あくまでも、これが普通の魔金ならばだけどね」

「やはり、おわかりですか? 少し素材に加工を加えていますから、魔素蓄積量が10%、強度が2倍以上に増えています。シンプソンさんがお持ちのギフトは『鑑定』ですか?」

「ああ、よくわかったね。魔術の気配は感じなかったけど、思考念波魔術でも使ったのかい?」

その遠慮の無い言葉を無視して、彼は問いかける。


「それで、本日の御用件はなんです? まさか本気で、マッケンジーさんの事が心配で来られたのですか?」

「そりゃ心配だよ。まさかウッドヤットさんは、成人した孫娘の心配をしちゃいけないなんて言うんじゃないだろうね。…ああ、もちろん今のは半分は冗談だよ。うちのマリは、それほど馬鹿じゃないからね」

彼は苦笑して、店の向かって左奥にある応接室の名札がかかったドアをチラッと見る。


「そうですか、立ち話もなんですから奥にある応接室に行きませんか? よろしければ、お茶でもお入れしますので」

「ああ、出来れば紅茶が良いね。コーヒーならいらないよ」

彼は笑って、ほれぼれする様な仕草で、奥の応接室まで彼女をエスコートした。



普段は接客に使われる奥の応接室のテーブルの上には、2つのティーカップが置かれ、辺りには紅茶の良い香りが漂っている。

ヨシトとエマは、向かい合ってソファーに腰を下ろし、リラックスした様子でお互いを見ている。

彼女は紅茶を一口飲むと、感心したように話し出す。


「…ふぅ、良い腕だね。紅茶の葉が完全に開いているし、温度も完璧だ。紅茶自体が、それほど高級品で無いのが残念だよ」

「一応この店は、中流階級御用達なので、リンク商会の会長さんにとっては、そうかもしれませんね」

彼女は少し愉快そうに笑い、ティーカップを受け皿の上に置く。


「ああ、そういう意味で言ったんじゃないよ。今日はマリとの約束で、あくまでも祖母として来たんだ。だから、他意は無いから、そのつもりでいてくれると嬉しいね。だいたい、始めからあなたの造る商品が目的なら、もっと上手くやるさ」

ヨシトはその言葉に嘘は感じなかったので、とりあえずは納得する。


「そうですね、心得ました。それでは一体、どのような御用件なんです? 先程、心配事がある様な話でしたが、俺に関係する話ですか?」

「もちろんそうだよ。ただし、半分以上は、私の単なる好奇心さ。マリは関係ないよ」

彼は頷くと、指を組んで少し表情を崩す。


「それで、好奇心は少しは満たされましたか? 俺は、よく『つまらない男』って言われますので、その辺は自身がありませんけど」

「それは、そんなことを言う人がつまらないだけだよ。まあ、人には相性があるから、縁が無かったと思えばいいと思うよ」

2人は紅茶を楽しみながら、そんな話をしているが、腹の探り合いは明らかである。

この場合は、探られても痛くもないエマの方が積極的である。


「まずは、ウッドヤットさんに報告する事があるんだ。マリは一週間前からリンク商会で働いている。今は、私の秘書と言うか、付き人をやらせている。後でマリからも話があるだろうが、せっかくだから話しておくよ」

彼は、非常に穏やかな表情で返事を返す。


「それは、おめでとうございます。

彼女は優秀ですから、お互いにとって利益のある話ですね。

…でも、少し意外です。

以前に彼女から、リンク商会は縁故採用はしないと聞いていたんで…。

彼女は、多分ですけど、出来ればリンク商会に就職したいと思っていたはずです。

正直なところ、身内というだけで就職の機会が奪われるなんて、もったいないと思っていたんです。

失礼を承知で言いますけど、それはフェアじゃないって思います」


「ああ、あなたの言う通りさ。

それにしても、就職相談までしているなんて、マリはずいぶんとあなたの事を信頼しているようだね。

これからも、相談に乗ってやってもらえないかい?」


少し困った表情で、彼は彼女を見つめる。

普通に考えたら単なる社交辞令だが、この訪問自体が不自然だから警戒心は緩められない。


「それは、手紙のやり取りをずっとしてたからですよ。

彼女さえ良ければ俺は構いませんよ。

でも俺なんかより、ご両親やご家族の方が適任だとは思いますけどね」


彼女は目を伏せて、首を横に振る。


「いいや、それは違うよ。

もう気付いているだろうけど、私は簡単にだけど、あなたの事は調べさせてもらった。

きっかけは、あなたがずいぶん前にマリにくれたペンダントを一週間ほど前に、私の『鑑定』ギフトで調べたからだよ。

さすがに、あんな高級品を未成年にあげる人物は信用できなくてね。

今となっては、申し訳なく思う。正式に謝罪するよ」


エマが両手を胸に当てて、深い謝罪の意を表すと、ヨシトはあわててやめさせようとする。

いきなり切り札を切ってくるとは意外であったし、少なくても表向きだけで謝っているとは思えなかったからだ。


「謝る必要はありません。

確かにご家族が見れば、私がやった事は軽率な行動に見えると思います。

あの時は、これほど長く関係が続くとは思いませんでしたので、もし問題になっても、ただの金持ちの道楽で済む話だと思ったからです。

それに誤解の無いように言っておきますが、俺にとって彼女のしてくれた事は、それほどの価値があったと思っています。

決して、よこしまな気持ちではなく、今でも正当な取引だったと思います。

それは、あなたのギフトで『鑑定』して、本当の価値がわかった後でも変わりません」


彼の言葉を聞いて、エマは内心で溜息をつく。

(いっそ、その方が話が簡単だったのにねぇ。

どうやら、この男は真面目で義理堅くて、恋愛方面には疎いようだね。

こんな欠点なら大歓迎だが、ちょっと突いてみるか)


「もちろんそうだよ。

あなたは馬鹿ではないし、無節操な男でもないんだろう。

だからこそ謝罪もするし、孫娘の世話も頼むんだ。

さっきの話だけどね。

マリを私の元に置いた一番の理由は、彼女の才能を伸ばしたかったからさ。

ウッドヤットさん程じゃないけど、マリも天才と言える能力を持っている。

そんな人間は、組織の中では孤立する場合が多い。

あなたほど突き抜ければ何とかなるだろうが、いらない嫉妬や偏見なんていう悪感情を浴びて、人間関係で失敗しかねない。

それなら、彼女の才能をまっすぐ伸ばしてやる環境を整えてあげるのが家族としての役割だろうさ。

あなたにも、この話はよく解るんじゃないかい?

そんなウッドヤットさんだからこそ、娘の力になって、相談に乗って欲しいんだ。

これは老婆心だから、ウッドヤットさんは無視してもらっても構わないんだ。

ただの私のわがままなんだよ」


彼女の本当に辛そうな表情を見て、彼は心を動かされる。

(家族って、本当に良いもんだな。マリちゃんが良い子なのは、こんな温かい家族に育てられたからなんだろうな)


それに、ヨシトはこの意見には、深く共感できる部分がある。

世の中には、正しい事や正論や正義感が通用しない場合が多い。

人間関係なら尚更で、面と向かって『お前の意見はともかく、協力はしたくない』とまで言われた事もある。

それでも何とか乗り切ってきたが、無駄な時間を費やしたと思う事も一度や二度では無い。

自分でさえそうなのだから、マリならもっと苦労する事は十分考えられる。


「シンプソンさん、分かりました。

微力ながら彼女の力になりたいと思います。

俺は慈善家ではありませんが、才能の有無に関わらず努力する人が好きです。

マッケンジーさんの様な人に、俺の援助なんか必要ありませんが、俺と彼女にしか共感出来ない部分があるのなら相談に乗って、出来れば守りたいと思います」


紳士的に熱く語る目の前の男を見て、エマは考える。


(ふむ、ちょろいね。しかし好感が持てる。

…ああ、そうか。この男はダン=マッケンジーに少し似ているんだ。

なるほどね、そりゃマリが惚れるはずだよ。

まあ、能力は比べ物にならないけど、勤勉な努力家で、義理堅い善人で、家族に弱くて、合理的なようで人情家なところがそっくりだ。

…まいったね、どうやら、うちの家系の女性陣は、熱血が好きな事が証明されてしまったようだね。

だいたい、メイジの馬鹿がダンの事を嫌いなのは、同族嫌悪が理由だからね。

三代も続けば間違いないだろうさ。

そりゃ、こういうタイプなら、並の人間族の女性とは気が合わないだろう。

…何だ、マリとは相性がいいじゃないか)


そう思った彼女は、更にもう一押ししてみる。


「そうかい、感謝するよウッドヤットさん。

じゃあ、迷惑を承知であえて質問するよ。

あなたは今、付き合っている人がいるのかい?」


急な展開に、さすがにヨシトは付いていけない。


「えーと、今までの話と何の関係があるんです?

まさか、マッケンジーさんと付き合う気があるかどうか、なんて話をするつもりは無いですよね?」


「どうしてだい? うちのマリに不満でもあるのかい?」


「いいえ、そんな事はありませんけど、あり得ないでしょ。

だいたい、彼女は俺の事を男性として好きというよりは、一種のあこがれの様なもんだと思いますよ。

それに、もしそうなら、彼女から何か言ってくるはずです。

あなたほど聡明な方が、孫娘の気持ちを無視して無理にくっつけようなんて理解出来ません」


確かに、人間族の家族が大人の恋愛に口を出す事は無い。

そんな事をするのは、一部の変わり者か、獣人族だけである。

何よりそんな事を言っても、普通の人間族なら歯牙にも掛けないだろう。

ただ、ヨシトの答えは少しずれていた。

マリの気持ちをここまで誤解しているとは、調査報告書通りである。


(ああなるほど、かなりの朴念仁だね。…もうちょっと突っ込んでみるか)

完全に予想していた返事だったので、あらかじめ考えていた事を話す。


「もちろんさ、恋愛関係に首を突っ込む気なんて無いよ。

実は噂だけどね、ウッドヤットさんは獣人族に傾倒しているから、恋人とパートナーを分けていないって話があったんだよ。

事情は後で話すけど、もしそうなら私も考え直さないといけない。

だから、出来れば答えてくれないかい?」


彼は虚をつかれた顔になり、腕を組んで珍しく考え込む。

その様子を見て、内心で彼女は焦る。


(ありゃ、まさか本当にそうなのかい?

敬虔なミリア教信者じゃないって言うから鎌をかけてみたんだけど、やぶへびだったかね)


ヨシトの場合は、日本人、黒部義人クロベヨシトの記憶が影響して、恋人とパートナーを切り離す事が簡単には出来ないので、彼女の嘘は結果的に当たっている。

パートナーの存在を確認出来ないと言う調査報告書の情報を元にして、彼女は「いいえ」という返事を期待して、出来れば彼をマリの恋人かパートナーにしようと思っているのだが、もし本当なら、ここでこの話は止めた方が正解である。

失礼な人だと思われ、エマがマリの恋路をつぶしてしまう結果になりかねない。


彼女が、声をかけようかどうか悩んでいるうちに、彼は話し始めた。

それは実に赤裸々な告白であった。



設定および解説

(1)ヨシトが休日に教室を開いている事や立派な設備について

エマの考えている通り、ヨシトなら魔道具やアクセサリーを造るのに設備なんて必要ありません。

彼なら魔術やギフトを使えば、道具を使うより遥かに上等な品物が造れます。

ここに置いてあるのは、彼の造った最新式の商品であり、売り物です。

作業部屋は、デモンストレーション用に魔術機械を展示しているのを活用して、店の休みに、主に獣人族の5歳以上の子供達相手に、基礎訓練をさせる目的で使用させています。

お金を取っていないのは、表向きは彼らが成人して一人前の職人になった時、魔道具の注文を受けるという気の長い目的からですが実際は違います。

努力する子供達の力になりたいと言う、彼の信念から行っているボランティア活動なのです。

もちろん子供達は、無節操に受け入れている訳ではありません。

能力より、やる気の有る無しで決めています。



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