第30話 番外編 ヨシト=ウッドヤット調査報告書
『ウッドヤット商会、及びヨシト=ウッドヤット調査報告書』
先般ご依頼のあった、ウッドヤット商会、並びにヨシト=ウッドヤット会長について、4日間の調査により知り得た情報を報告いたします。
ご要望の通り、不確かな情報や噂話も含めて記載いたしますので、相当に信じがたい内容がある事をあらかじめご了解ください。
別途資料として、ウッドヤット商会やヨシト=ウッドヤットの写真を計10枚付けますので、この報告書と合わせてご覧くださいますよう、宜しくお願いいたします。
リンク商会、ネオジャンヌ支店、支店長 ギルバート=トロイ
調査担当責任者 コーク=カージナ
≪ウッドヤット商会について≫
所在地 神聖リリアンヌ教国 首都ネオジャンヌ市 リラ通り3-20
音話番号 ××××××××
資本金 1000万ギル
ウッドヤット商会設立年月日 ガレア歴 20××年10月1日
(商会設立後、8年2カ月)
届け出のある職種 魔道具及び魔術機械の製造と販売
構造 強化石造り4階建て
所有者 ヨシト=ウッドヤット
店舗面積 4階建ての1階と2階を合わせて510平方メートル
3階と4階部分は住居部分 会長であるヨシト=ウッドヤットが在住
従業員 5名 (いずれも獣人女性で3人ずつ交代で勤務)
開業時間 午前10時から午後6時
休日 闇曜日 (不定休を取る場合がある)
◎特徴
ウッドヤット商会はネオジャンヌ商工会に加盟しておらず、同業者に対する横のつながりは、それほど強くないと思われます。
一部の仕入れ先や取引先からの評判には上々で、支払いには手形は使わず、常に現金決済であるとの証言がありますので、資金繰りは順調だと予想されます。
貴金属材料の仕入れ先は不明なので、ウッドヤット氏の『錬金』ギフトにより行われていると推察できます。
一般客向けに、1階店舗の3分の2を使って、主に生活必需品の魔道具やアクセサリー関係の販売を行っています。
しかし実態は、オーダーメイド専門店であるという噂があります。
会長ヨシト=ウッドヤットが医師の資格を持っている関係で、主に医療関係者からの注文を受けて、魔道具の開発や患者の治療に関係するアクセサリーを造っていると言う、同業者からの情報が数件確認出来ました。
そのような理由で、一部の同業者からは注目を集めていますが、政府系の総合商社が、取引を申し込んだ際に断られたという確かな情報があり、業界全体の評判はそれほど良くはありません。
しかし、訴訟トラブルも確認出来ませんし、過去に不渡りを出した事もありませんので取引相手としては問題ありません。
昨年の純利益は、5000万ギル程度。(租税申告額からの推測)
ここ5年間は、ほとんど同等の利益を申告しているので、店の利益は安定しているようです。
株式公開の予定はありません。
従業員の募集はしていません。
店舗の拡張や新たな支店を開く計画は確認出来ませんでした。
◎顧客の評判 (確度の低い情報を含む)
・魔道具の価格は相場より高いが、修理やメンテナンスに関するアフターケアが完璧である。
・そもそもかなり丈夫で、めったに壊れない。
・アクセサリーのデザインが斬新で、不思議な魅力がある。
・既製品は嫌なので、オーダーメイドを頼んだが断られた。
・たまに長期の休みを取るので、前もって音話で確認しなければならないのが不便である。
・会長は、店にはめったに顔を出さない。
以上は、一般客の評判です。
調査期間5日間に、8名の恐らくオーダーメイド品の顧客が2階の店を訪れましたが、いずれも、こちらの質問に対する回答を断られました。
彼らのウッドヤット氏に対する信頼度は高いと推察されます。
以上の事により、ウッドヤット会長は一般客への対応は従業員に任せて、彼自身は紹介による顧客に対してのみ接客を行っていると思われます。
≪ヨシト=ウッドヤットの人物調査≫
名前 ヨシト=ウッドヤット
出身 ネオジャンヌ市
生年月日 ガレア歴 20××年7月1日
年齢 38歳
身長 190cm前後
現在未婚 過去に結婚歴なし
(パートナー及び、恋人の存在は確認できませんでした)
◎住民登録に記載されている内容
ギフト 『錬金』及び『複製』
『錬金』 元素を造る能力。金、銀、白金、鉛などの金属元素の生成を得意とする。
製造量は元素ごとに異なる。
金属魔素結合に干渉して、生成できる金属の分解が出来る。
『複製』 目の前にある物と同程度の物を造る能力。
別途材料が必要であり、厳しい制限がある。
生物や魔術刻印等は造れない。
資格
医学博士号 薬学博士号 建築博士号 魔術工学博士号 理学博士号 法学博士号及び一級弁護士 魔術教練マイスター 魔道具及び魔術機械製造マイスター 特級飛空車免許
◎略歴
八歳時に、マリアネア第二孤児院前で保護され、そのまま成人まで、マリアネア第二孤児院で過ごす。
両親は所在不明であり、ヨシト=ウッドヤットは孤児であり、天涯孤独である。
ウッドヤット姓は、以前の保護者であるマリアネア第二孤児院院長ナタリーメイ=ウッドヤットの姓を名乗った物と推察される。
12歳の時に、マキシム医術専門院を卒業後、一級回復師の試験に合格し、それから10年後の22歳の時に医師免許を取得と同時に医学博士号を取得する。
15歳時に魔術工学博士号を取得し、17歳時に建築博士号、20歳時に薬学博士号、
22歳時に魔術教練マイスター、25歳時に法学博士号並びに一級弁護士試験合格、27歳時に理学博士号、29歳時に魔道具及び魔術機械製造マイスターを取得した後に学問の道を去り、30歳の時にウッドヤット商会を創設し、その2年後の32歳時に、現在の所在地に居を構える。
その経歴により、彼を知る者からは『完璧超人』と呼ばれている。
◎性格及び人物評価
ウッドヤット商会周辺に住む住民からは、おおむね高評価を受けているようです。
礼儀正しく、人柄も穏やかで、人付き合いも良好であるとの意見が多く、面と向かって彼の悪口を言う人はいません。
特に、獣人族の出稼ぎ労働者達の評判は非常に良く、従業員からも好かれている様子です。
複数の獣人族の子供が、店に出入りしているとの証言もあります。
これらは、獣人族への差別が見受けられないのがその理由であると考えられ、彼の生い立ちが関係していると思われます。
更に慈善家の側面も持っており、月に1,2度、彼が子供の頃に過ごしたマリアネア第二孤児院への慰問を行っているのは有名で、今でも孤児院の関係者との良好な関係は続いているようです。
また、同孤児院に多額の寄付を行っているという噂もありますが、他の孤児院に対しては特別に何かをやっている情報は無かったので、寄付や慈善活動にそれほど力を入れている訳では無いようです。
◎ヨシト=ウッドヤットをよく知る者の意見
(ミリア教準司祭、ルシア=アドバンスの意見)
彼を子供の頃からよく知る、ルシア=アドバンス準司祭によれば、自分にも他人にも厳しい人物だと言う事です。
ただし、身内には甘い傾向があり、一度目をかけた人物は簡単には見捨てないそうです。
オールマイティーな才能を持ち、体力、魔術にも優れ、頭も良いが、実は大変な努力家だそうです。
宗教観は、一応ミリア教徒ではあるが、それほど熱心ではないとの事。
女性関係については、詳しい事は聞き出せなかったですが、あくまでも彼女の話す印象を見た調査官の判断として、控えめであると推察します。
(マキシム医術専門院の教授ラ―ガス博士の意見)
ウッドヤット氏の医師への推薦人の1人であるラ―ガス教授によると、彼の医師としての能力は超一流であるそうです。
彼の親友であるレミル=ブラット医師との共同研究が元になって、博士号を授与された経緯があるとの事です。
しかし当初は、彼は一級回復師でしかなく、しかも医師になるのに必須な講師研修を固辞した為に、ブラット医師と共に説得して、何とか魔術教練講師になってもらい、それを講師研修にするという苦肉の策をとったそうです。
詳しい事情までは聞き出せませんでしたが、わずか二年で魔術教練マイスターにまでなった彼は、教師や教官としても大変優秀であるはずです。
特に子供嫌いと言う話は無かったので、医師に対する並々ならぬこだわりが在ったのではないかと推察されます。
そのような事情で、22歳の時に医師と博士号の同時取得となったようですが、そうでなければもっと早い段階で、ブラット医師と同時に博士号を授与されていたと言う事です。
◎彼が通った専門院等の教授や講師によるコメントの抜粋
(ジギリア魔術工学院、マクギャラン教授のコメント)
非常に優秀な学生で、通常は4年かかる過程を2年足らずでこなした天才児である。
唯一残念だったのは、彼が魔術工学博士としての将来を選択しなかった事だ。
今は、現場で魔道具造りをしているそうだが、はっきり言って宝の持ち腐れである。
(トールブレイス建築専門院、パラノイア教授のコメント)
建築学会内で有名なのは、彼の卒論のテーマでもある建築新素材の開発であるが、現場の人間や顧客から見て評価が高いのは、建築設計のデザイン性が機能的でオリジナリティーにあふれた物である事だ。
以上の点から、学院の教授陣の評価は極めて高く、多数の推薦を得られ、わずか2年で博士号を取得した。
しかし最も彼が優れていた点は、今までは個人の魔術の技量に依存していた建築施工技術を、建築魔術機械を導入する事により、一般のレベルや獣人族の技術者でも使えるようになった事である。
これにより、熟練技術者でなくても一定以上の品質の建築物を施工出来るようになった事が、建築界全体に対する極めて大きな功績だろう。
(イシス薬学専門院、リスト教授のコメント)
医師免許さえ取れば、わざわざ薬学博士号を取らなくてもよいにも拘わらず、我が学院で勉学に励んでいた姿は素晴らしかった。
特に彼の功績は、獣人族に対する治療薬を多数開発した事であり、現在は薬学士としては一線を引いているが、今でも獣人生体薬学の第一人者と言っても過言ではない。
(ストロス魔術専門院、ミンク教授のコメント)
講師陣や学生達の評判は非常に良かったです。
ですが、戦闘系魔術に対する見解が教授陣と対立して、わずか2年で当学院を去られたのは非常に残念です。
しかし、通常は最低でも10年はかかるマイスターの称号を、わずか2年で習得された点を見ても、決して当学院が彼をないがしろにしていた訳ではありません。
(リクルム法学専門院、ヤコブス教授のコメント)
彼は優秀すぎた。だからこそ、保守的な法学博士や法曹界の一部と意見が対立した。
特に、法の下の平等を重視するあまり、獣人族に対する不平等な法体制にメスを入れた論文は、評価はされたが決定的な溝を生んだ。
彼が法曹界を去った事は、一人の学者としては残念でならないが、お互いの為には良かったのかもしれない。
ただ最後に、彼が言った『資格を取りたいから入った学院だから法曹界に未練は無い。でも、人間族で生まれたと言うだけで有利なのに、その上、法律まで不平等なのは間違ってると声を大きくして言える法学博士が、一人でも多く生まれる事を願ってます』との言葉が印象的だった。
彼は、生まれてくるのが100年は早かったと思う。
(ススール化学専門院、ロニク博士のコメント)
優秀だったが、研究職よりは現場向きの人材であったと思う。
魔術を使った化学レポートは素晴らしかったが、どうやら彼は工業機械や生産技術向上の方に関心が在ったように思える。
それは、研究職としてはいささか問題がある。
ああいう変わり種が理学博士の中に一人ぐらいいてもいいだろうとは思うが、今の安定した文化水準の破壊につながる技術は、研究の対象から外すべきだと言う私の意見に、彼は理解を示した。
だからこそ、彼がこの道をあきらめざるを得なかったのは、不幸なめぐり合わせだとは感じる。
(ザブルス魔術工芸専門学校、イジュンコ講師)
普通、魔術工学博士の方が、うちみたいな専門学校に入学してくる事なんて無いんです。
はっきり言って、学科で教えることなどありませんから現場作業のみでした。
それでも、魔道具と魔術機械製造のマイスターを2年足らずで取れる人なんて過去にはいません。
正直なところ、現場を経験しても20年はかかります。
本当に天才っているんですね。
◎総評
ラ―ガス博士のように、彼をよく知る人物ほど非常に評価が高いようだが、教授陣の全体の意見は真っ二つに分かれる。
優れた能力を持ちながら、あちこちの分野に手を出して一つの道を究めようとしない姿勢が反感をかっている為である。
彼自身は、相当上手く立ち回っているようだが、結果的にヨシト=ウッドヤットの頭脳職としての評価はそれほど高くは無い。
しかし、彼の能力そのものを否定する者は、調査対象者の中には1人もいなかった。
才能のある人でも、通常は最低でも10年以上かけて取得する博士号をこれだけ持っているのは、一部の高齢者だけである。
彼が、あまりにも優秀すぎて教授陣の反感を買っている面は否定できない。
最後に、彼を最もよく知る、ナタリーメイ=ウッドヤットやレミル=ブラット等にも、新聞記者と称して面会や音話による取材を申し込んだが、その内容がヨシト=ウッドヤットに関する事だと解ると、軒並み拒否された事を付け加えておく。
以下は、確認の取れない事項や噂話程度の内容であるが、一応記しておく。
なお、信用度は3段階評価として記す。
信用度3 確認は取れないが、確実に信用出来る。
信用度2 確認は取れないが、ある程度信用出来る。
信用度1 全くの噂話で信用出来ない
・ヨシト=ウッドヤット(以下、彼)は、現在も資格取得を続けている。
・彼は、魔術スキルを既に200個以上は持っている。
・彼が今まで付き合った女性は、3人以上はいるが全て振られた。
(信用度3 ルシア=アドバンス談)
・彼が持つ医療特許は30を超えるが、全て法人格で公開し、使用料は格安である。
・優秀な獣人族の学生に対する、返済不要の奨学金を出している。
(信用度3 ラ―ガス博士談)
・彼の持つ『複製』ギフトは非常に応用のきくオリジナルギフトである。
・彼は、同時に5つ以上の魔術を行使出来る。
・彼は、一度読んだ本の内容を丸暗記出来る。
・彼は、お酒好きである。
・彼は、意外に倹約家であり貯金も多い。
(信用度3 彼の学生時代[29歳まで]の友人達による証言)
・彼の最大魔力値は、1万を超える。
・彼は作家デビューをしている。
・彼は、恋愛に対して非常に鈍感である。
・彼は非常に歌が上手いが、冗談はつまらない。
・彼は精神的に年寄りで、面白味がない。
(信用度2 彼の学生時代の友人達による証言)
・彼は、思考念波魔術の使い手である。
・彼は、100m級の魔物を一人で倒した。
・彼は、温泉を掘り当てた。
・彼が女性に興味を示さないのは、男色家だからである。
・彼は、強化人間である。
(信用度1 学生時代の噂話)
以上、ご報告を終わります。
再調査を希望される場合は、最低1カ月間の猶予をいただきたく思います。
リトン調査会社代表 ストライト=ブルス
リンク商会に2つある会長室の一室で、肘掛椅子に座っているエマ=シンプソンは、報告書を読み終わると、ゆっくりと机の上に置いた。
しばらく両肘をついて思考を巡らしていた彼女は、報告書を封書に入れて密封し、隣の秘書室につながる呼び出しブザーを鳴らす。
直ぐに、横の秘書室から扉を開けてマリ=マッケンジーが姿を見せる。
「お呼びでしょうか?」
「ああ、ちょっとステラ村のルルの所へ行って、この手紙を届けてくれないか」
「はい、お急ぎですか?」
「いいや、…そうだね、明日は実家に顔を出す訳にはいかないだろうから、今日の夜はステラ村に泊ったらどうだい? それなら娘も喜ぶだろうさ」
マリは、一瞬だけ考えて「そうします。ありがとうございます、シンプソン会長」と返事する。
相変わらず、かた苦しい返事だが、彼女はまだ勤め始めて7日目の新人なのだ。
公私混同しないのは評価できるし、報告書の存在を知るとかなり怒るだろうから、エマにとっては都合が良い。
「マリ、明日はお前の好きな男に会う事が楽しみだよ」
「そういえば、そうだったわね。いっそ、おばあちゃんの記憶が無くなればいいと思うわ」
そう言って封書を受取ると、マリは秘書室に戻っていく。
その少し照れた感じの後ろ姿を見ると、エマは苦笑する。
(さてと、果たしてこれはどう転ぶかね?)
とりあえず、ヨシト=ウッドヤットなる人物が、後ろ暗い所が無いと言う事だけは間違いないようだ。
しかし問題もある。
余りも優秀すぎる人物というのは、得てして変人が多い。
マリの家族として、彼に対してどういう態度をとるべきか、エマはまだ決めかねていた。




