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第24話 ケンのお節介


ステラ村を魔獣が襲った次の日、村人達は村の周辺に散らばっている魔獣の死体を回収する作業に追われていた。

魔獣が全て倒された後に来たアビス軍は、昨夜の戦闘の状況を戦闘職の村人から聴取し終わると、村の周辺のに魔獣が残っていないかを簡単に調べ、傷の少ない数体の魔獣の遺体を回収して、後片付け作業を手伝いもせず、お昼前には村から撤退した。


軍の撤退と共に、第2種2級警戒態勢は解除され、村には平穏が戻った。

一部の若い村人は、軍のあまりに酷い対応に怒りを覚え、正式に抗議するよう村長に求めたが、彼は首を縦に振らなかった。

村から正式に軍の出動を要請した手前、逆に難癖をつけられ滞在費等の請求をされる場合もあるので、さっさと帰ってもらった方が良かったからだ。

その辺りの事情を理解していたほとんどの村人達は、不満を抱えつつも、村の周辺に魔物が湧き出さないように黙々と遺体回収作業を続けていた。


こんな事でいちいち腹を立てていたら、ステラ村ではやって行けないのだ。

この村は、人々から忘れ去られた村であり、市政府からほとんど無視された村である。

村の年寄りなどは、ごちゃごちゃ口出ししてこないから、その方がいいとさえ思っている。

多かれ少なかれ、村の住民はそのような感覚を持っているので、お互いさまと言えるかもしれない。


一方、マッケンジー家一同は、ケンはもちろん両親にも大きな怪我はなく、『マッケンジーとルルの店』にも被害がなかった。

避難場所でじっとしていたケンはともかく、両親は戦闘職でもないのに魔獣と第一線で戦っていたのだから、本人達の実力も高くて、何より幸運だったと言える。

いくら相手が比較的小さかったとはいえ、獣人の戦闘職には多くの怪我人が出ているので、魔術が得意な人間族は、戦闘においても有利なのだろう。

ルルは一匹たりとも魔獣を倒さなかったが、最も過酷な状況にもかかわらず、完全に防御に徹して自分とレクサに傷一つ負わせ無かった。

これは、実にすばらしい戦果であり、レクサが表向きの英雄ならば彼女はそれを支えた影の殊勲者と言える。


そんなルルは、戦闘が終わった昨夜遅く、避難場所であるステラ学園の講堂にケンを迎えに行った。

母親の無事な姿を見てホッとしつつも、親友のレクサの事が気になったケンは、真っ先に彼の無事を尋ねた。

「大丈夫よ」との返事に胸をなでおろして、レクサのもとに向かおうとする息子に対して、「今は疲れて眠っているから明日にしなさい」と母が忠告する。

色々と心配な事があったが、大人しく母と共に家に帰り、今日会えるのをただひたすら待つことにした。



今日、レクサはステラ学園を休んだ。

ケンは、ますます心配になった。


昼休みになると直ぐにステラ学園を抜け出したケンとレオは、休んでいるレクサを心配して家に様子を見に行った。

レクサの家には、彼の母親がいて、会わせてもらえるように頼んだが、「今日一日は安静にさせるから」と言われてガックリし、仕方なく立ち去る事にする。

ただ、彼の母親の様子が普段と変わらなかったので、ケンは少しは気持ちが落ち着いた。


玄関の扉を開け2人が外に出ると、2階にあるレクサの部屋の窓が開き、彼が顔を出す。

「ケン! レオ!」

その言葉に反応して、ケンとレオは振り向いて上を見上げる。

「レクサ!」

彼の元気そうな顔を見れたケンは、少し涙ぐんで、それっきり何も言えなくなる。

レオが手を振り、大声で話す。


「レクサ、大丈夫か?」

「大丈夫だよ、母さんは少し大袈裟なんだ。明日は学園に行くから、その時話そう」

「ああ、じゃあな。初等部クラスで待ってるぜ」

「うん、じゃあね。ケン、明日昼休みに会おう。僕は本当に大丈夫だから、心配しないでいいよ」

「わかった、また明日、お昼休みに」

ケンは嬉しくて、ホッとして、それだけしか言えなかった。


2階の窓が閉まり、レクサの姿が見えなくなると、2人はたまらずはしゃぎ出す。

その騒ぎを聞きつけ、レクサの母親が玄関から顔を出し、「騒いでないで、早く帰りなさい!」と怒られ、「「ごめんなさーい」」と走って逃げる馬鹿2人。

レクサの家から50mも離れると、ケンとレオはスピードを落とし、並んで学園までの帰り道を歩く。

弾んだ気持ちそのままに、ケンはレオに話しかける。

「レクサ、元気そうだったね」

「ああ、ケンのママの言ってた通りだったな」

話題はもちろん、さっき窓越しに会ったレクサのことだ。


「なあ、レオ。レクサは我慢して明るく話してないかな?」

「さあな、僕には解らん。でも大丈夫だと思うぞ」

ケンもそう感じたが、少し都合が良すぎるかもしれないとも思う。


「そっか、レオもそう思うんだ。もう辛くないのかな? 戦闘職になる気持ちになったのかな?」

「それはさっぱりわからん。だいたい僕に聞くなよ。レクサの事は、ケンの方が詳しいだろ」

少しオーバー気味に、お手上げのポーズをするレオ。

ケンも同じポーズをするが、その顔は笑顔ではない。

「でも、今回は僕も解らない。レクサは嘘をつくのが上手いから」

「…そうだな、僕もそう思うぞ」


レオ=デュランにとって、レクサ=ヘリスは理解不能な部分が多かった。

レオはやせ我慢はするが、本当につらい時に笑ったり出来るタイプではない。

良くも悪くも自分の気持ちに嘘がつけないのだ。

だが、レクサは優しい嘘をつく場合がある。

それをレオは見抜けない。

だけど親友だから、なんとなく解る部分も多い。

その感覚で言うと、さっき見たレクサは嘘をついているようには見えなかった。


ケンは少し遠い目をして、辛そうに話す。

「本当は僕だって解ってる。レクサは戦闘職を選ぶ方がいいんだ。でもそれは、レクサが本気で選ばなきゃダメだと思う」

「ああ、それが一番だ。レクサは考え直した方がいい」


そもそもレオは、戦闘系ダブルギフトを貰った後も、まだ学者を目指すとか言っているレクサとはあまりにも性格や考え方が違いすぎるのだ。

脳筋で行き当たりばったりで直情的なレオにしてみれば、頭が良く思慮深いくせに馬鹿な選択をするレクサは意味不明だった。

2人は水と油であり、ケンの存在が無ければ、親友どころか友達にもなってなかったかもしれない。


(考えてみれば、ケンは変な奴だな。そこそこ頭がいいのに、勇者になりたいとか言ってるし、すごくノリがいいのに、ダメな事はダメって言って一歩も引かない。おせっかいだからうっとおしい事もあるけど、こっちが本気だと解ると、それ以上は何も言ってこない。レクサと2人だけじゃ、そんなに面白くないけど、3人じゃ最高に面白いよな)

レオにとって、自分より出来がいい年下の2人は、かけがえのない親友であり、ライバルであり、憧れだった。

そんな事を考えているレオの横で、ケンはもう1人の親友についての話を続けている。


「僕はレオと違って、レクサさえよければどっちでもいいんだ。でも、嘘をついているんだったら、嫌なのに戦闘職を選ぶつもりなんだろ。何とかしてあげたいと思うんだ」

「昨日も言ったろ、レクサには無理だ」


レオは、レクサの事をそれほど心配していなかった。

今回の事も、きっと乗り越えられるはずである。

なぜなら、自分なんかより遥かに強いと信じているからだ。


レオのそっけない返事に少しカチンときたケンは、ちょっと意地悪な質問をする。

「なあ、戦いたくないのに戦わなきゃならないなんて、酷いと思わないか? レオは勉強が嫌いだろ。例えば、レオが『記憶術』とか『翻訳』のダブルギフト持ちになったら学者になるのか?」

嫌そうな顔をしたレオだが、足りない頭で必死で考えているようだ。


「学者にはならないかもな。でも、ギフトを使う仕事をすると思うぞ。『記憶術』なら、一度見た物は忘れないから、何をやっても役に立つし、『翻訳』なら、動物の言葉まで解るそうだぞ。だったら動物園で働くかもしれない」

ケンはその答えに感心し、意外にギフトの事に詳しいレオに驚き、そうかもしれないと思う。


そして、突如ひらめいた。

「そうだ! じゃあレクサのギフトが戦闘職以外で役に立てばいいんだ! レオは天才だな」

そう言われて、その事に初めて気付いたレオも驚く。

確かにそれなら問題ないかもしれない。

ギフトも外れにはならないし、レクサも傷付かなくても済むのだから。

出来れば自分の夢をレクサに叶えて欲しいが、それよりも親友の気持ちの方が大事だ。


「よし、ケンはよく言った。じゃあ、レクサのギフトで何が出来るか考えようぜ」

「おう!」

2人は手を突き上げ、ハイタッチをかわす。

ニコニコしながら考える。

レクサのギフトは、『狙撃』と『魔弾』である。


(戦闘職以外だから、例えば…)

そこで笑顔が固まる。

意外に難しいのだ。

それでもケンは必死に考える。


「ハンターとかは? ほら、獣を狩る人」

「それは戦闘職だぞ。それに、ハンターはほとんど魔物を殺してお金を稼いでるって聞いた。国からお金が出るから、それの方が儲かるんだってさ」


それはケンも知っていた。

傭兵になれない人が、細々と小物を狩って生活しているのがハンターの実情である。

ケンはもっと大物を倒すイメージを持っていたが、考えてみたら一人で戦うハンターの方が危険かもしれない。

それに、どうせ戦闘職を選ぶなら、もっと稼ぎが良く社会的地位の高い職業を選ぶ方がいいだろう。

何より、ケンとレオから見れば、『傭兵の方がハンターよりカッコいい』のだ。

これは重要である。


「じゃあさ、魔弾を作る職人とかはどうかな?」

「いいかも知んないけど、職人系ギフトにはかなわないんじゃないの? それに、『狙撃』ギフトはどうなるんだ?」


これも、普通ならその通りである。

そもそも、『魔弾』ギフトは一般的だが、魔弾を作る数や種類は、職人系ギフトにはかなわないとされる。

実は、ダブルギフト持ちであるレクサの場合は、職人系ギフト持ちよりかなり上だが、2人はそこまで気が回らない。


ちなみに、

一般的に使われる銃弾や砲弾は、規格が統一されている。

規格に合った通常弾は、品質は少し落ちるが、魔術機械を使って工場とかで大量生産出来るのでそれほど高くない。

魔弾は、通常弾に魔術刻印を打った後、ホットスポット等から集めた自由魔素を加えて造られるのが一般的だ。

職人系ギフトの中には『魔術陣作成』や『付加』ギフト持ちがいるので、彼らと競合してしまい、レクサはそれほど儲からないだろう。

閑話休題


「えーと、芸人になって、頭の上にリンゴを乗せて、撃ち抜いてお金をもらうのは?」

「『狙撃』ギフトの持ち主は多いから、その程度じゃ無理。だいたいレクサのギフトのすごさは教えてもらっただろ。1km先の的が撃ち抜けるのに、何で頭の上なんだよ」

確かに、宝の持ち腐れである。

アイデアが出尽くしたケンは、レオに文句を言う


「レオも真剣に考えろよ! さっきから僕ばっかりじゃないか!」

「あぁ? 僕にいいアイデアが思いつくと思うか?」

「ごめん、レオの頭の悪さを忘れてた」

「わかればいいんだよ。…それに、僕達の思いつく事なんて、レクサがとっくに考えてるよ。あいつは『ハカセ』なんだぞ」

懐かしいあだ名に、2人は歩きながら『隊長!』、『ラジオ!』と笑ってお互いを呼び合う。


そうしているうちに2人は学園の正門を過ぎ、舗装された校舎までの道の上を更に歩く。

2人の目線は、自然に校舎に掛けられた時計に向けられる。

時刻は午後0時38分、昼休みは後20分ほど残っているようだ。

まだ時間はあるが、午後の授業が始まる5分前には別々のクラスに帰らなければならない。

どうしょうかとケンが考えていると、レオが急に思い出したように話し出す。


「ケン、僕まだ昼ごはん食べてなかった。食堂に行ってくるから、また今度な」

昼食を食べる必要の無いケンは忘れていたが、レオが食事抜きでレクサの見舞いに付き合ってくれた事に気付く。

やっぱりレオはいい奴だとケンは改めて思う。


「じゃあなレオ、僕、もうちょっと考えてみるよ」

「あんま、気にすんなって。僕もパパやママに相談して見るから」

「うん、ありがとう」

彼の走り去る後ろ姿を見ながら、ケンは思う。


(レクサはあきらめたって言ったけど、それでもいいんだ。だって、僕もレオも信じてる。レクサは絶対負けない。レクサは絶対最後に勝つから、きっと大丈夫だ)

根拠は無かったが、彼をよく知るケンには確信がある。

だからこれ以上心配するのをやめて、教室に帰っていった。



2人の根拠の無い予想は、当たっていた。

次の日に登校してきたレクサは、良い感じに変わっていたからだ。

お昼休みに3人で話し合っていた時、レクサは突然宣言する。


「僕、軍人を目指すよ。新しい夢が出来たんだ」

その言葉に始めは驚いた2人だが、ホッとして、妙に納得する。

レクサは予想通り勝ったのだ、ケンの予想よりずっと早く。

すごく明るい雰囲気なのが意外だったけど、嘘をついている感じは無い。


レオは自分の勘を信じ、これ以上考えるのをやめた。

ケンは、例えこれが彼の得意な優しい嘘でも、ここまで良い感じならそれでも構わないと心に決めた。

そして、昨日一日中考えていた、ダブルギフトを使った戦闘職以外の職業なんて完全に頭から吹っ飛んだが、時間の無駄だったとか、要らぬお節介だったとかいう気持ちには、これっぽっちもならなかった。


「何だよ、傭兵じゃないのかよ」と笑って言うレオ。

「レクサ、夢なら叶えないとな」と熱く語るケン。


「だから、僕は士官学校を目指す。勉強も続けるんだ。それで退役したら教官になる。それが無理なら傭兵になってもいいよ。だから、もう大丈夫だよ」

そう言って笑うレクサの表情が大人びていて、2人はすごく嬉しくて、先に大人になられてしまったようでちょっぴり悔しかった。



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