表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/94

第13話 番外編 マリ=マッケンジーの日常3

総合大学近くにある、学生達に人気の軽食喫茶の窓際の奥の席で、マリ=マッケンジーとヨシト=ウッドヤットは、テーブル越しに向かい合わせに座り、もう30分以上も会話を続けていた。

主な話題は、マリの大学生活についての話で、ヨシトはほとんど聞き役だが、彼女の質問には答えているようだ。

彼はランチセットの次にコーヒーを頼み、彼女は紅茶をおかわりして、しばらく2人はこの店を離れるつもりは無いように思われる。

この世界にはそれほど冷房は普及していないが、どうやらこの店は弱冷房が利いているようで、非常に快適であるのがその理由だろう。


「…そうなんですか。水精族の固有魔術が必要なのは、大切な人が力を制御できないから、専用の魔道具を造る為にですか」

「ああ、多分上手く行くと思う。ギフトの派生能力については、思考制御が必須だからね。それに彼女、タラチナさんと言うんだけど、彼女以外の場合にも応用できると思う」

マリは、がっくりと落ち込む。

(やっぱり、恋人がいるんだ。素敵な人だから仕方ないけど残念)

彼女は、自分が子供である事を十分に自覚していたので、気持ちを押し殺して耐える。

ただこれ以上、その彼女の話を彼から聞きたく無かったので話題を変える。


「ヨシトさんは、今日はこの街に泊るんですか?」

「実は、予定は未定です。マリちゃんが良い情報をくれたから、このままアビス市に泊ってもいいとは考えてはいるけどね」

どうやら、名前で呼び合うほど仲良くなったらしい。

マリはともかく、ヨシトは気さくなタイプだから、彼女が積極的なら当然かもしれない。


「お役に立てたようで嬉しいです。これで、多くの人が助かりますよね」

彼女の弾んだ声を聞いた彼だが、少し表情を曇らせると否定的な事を言う。

「本当はそうするのが一番なんだけど、この技術は公表するつもりはないんだ。何人かの信頼できる医師を通じてしか、俺は仕事を受けていない。お金に困っていないから、王様商売だとは思うけどね」

彼女は少し怪訝そうに、「理由を聞いてもいいですか?」と尋ねる。

仕事がしたくないから、お金があるからという理由では納得できないのだ。

彼は右手を左ひじにあて手を組むと、冷静な口調で話す。


「この技術はね、とても危険なんだよ。簡単に応用できないように偽装したり暗号化しているけど、一つ間違えたら悪用される。従属の首輪どころか、人を奴隷にするアクセサリーさえ造れるかもしれない。人格を保ったまま操るのはものすごく難しいけど、この技術を応用出来れば、簡単に奴隷を作れるかもしれない。下手すれば、戦争の火種になりかねない」(文末参照1)

あまりにも重い話にマリは絶句する。

彼女は魔術や魔道具についてはそれほど専門的な知識は持っていないが、その意味は解る。

人間族と獣人の国との戦争の発端は、奴隷の首輪という人格を破壊して奴隷を作る魔道具が発端になったのだから。(文末参照2)


「それで、オーダーメイド専門なんですね。ごめんなさい、知りもしないで適当な事を言っちゃって」

しょんぼりと落ち込んだ様子で、彼女は、肩を落としてうつむいている。

「だから、大丈夫だよ。これでも魔術知識は自信があるんだ。そうならない様に色々と気を使っているしね。さあ、そんな落ち込まないで。せっかくの美人が台無しだ」

「はい! ありがとうございます。…気を使わせて、ごめんなさい」

美人と言われて嬉しかったのと、なんとなく子供扱いされている事が感じられて残念な気分が入り混じり、マリは素直には喜べなかったが、その複雑な心境が、彼女の年に合わない魅惑的な微笑みを浮かる。


普通の男ならイチコロで魅かれるような笑顔だが、周りに美人が多くて何より恋愛関係に鈍感な彼は気付かない。

さすがに好意を持たれている事には気付いているだろうが、そっち方面では自信がないのかもしれない。

自信があっても、初対面の女性相手に粉をかけるような性格ではないので、どちらにしても同じだろうが。


マリは気を取りなおすと、可愛くポンと手を打ち積極的な提案をする。

「そうだ、お詫びのしるしに私、ヨシトさんを案内しちゃいます。この街はあまり知らないんですよね」

完全にデートのお誘いだが、彼に恋人がいると思っている彼女にその意識はない。

自分も暇だし、それくらいなら見知らぬ彼女さんも許してくれるだろう。

本当は、彼ともう少し一緒に過ごしたいという乙女心から自然に出た言葉なのだ。

彼も言葉通りに受け止め、単なる好意から出た言葉だと理解しているように見える。

だが、ふとデジャブを感じ、その瞳がわずかに揺れる。


(そうか、あまりにも状況が似ているんだ。偶然にしては出来過ぎなくらいに)

過去の出来事が、頭の中に鮮やかによみがえる。


お昼過ぎの街の中央の喫茶店。

目の前には、今日ふと知り合ったばかりの女性。

これから、街を案内してくれるという彼女。

この後に、ラジオ局に行けば完璧だろう。

立場と相手は変わったが、あまりにも似た状況に、心に閉まった幸せな思い出が、彼の胸を真綿のように締め付ける。


(タリアは幸せにやっているだろうか)

あれから一度も会っていない、ピンクブロンドの長い髪を持つ美しい少女。

あの時の小さな冒険は、今も色あせない大切な宝物だ。

せつない気持ちを振り払い、彼はマリの提案を冗談っぽく断る。

目の前の彼女には悪いが、それはあまりにもタリアに申し訳ない。


「デートのお誘いとは光栄だな。でもマリちゃんは未成年だろ。おじさんの相手をしてもらうのは悪いよ」

その言葉に自分がデートに誘った事と、更には未成年と言い当てられた事に気付き、混乱して少し声が大きくなる。

「ヨシトさんは、おじさんなんかじゃありません! それに年は関係ないと思います。…あの、本当に高齢者なんて事は無いですよね? それと、何で私の年齢を知っているんですか?」

彼は人差し指で頭をポリポリとかくと、ニヤリと笑って彼女に答える。


「まだ34歳だから、そんなに年寄りじゃないよ。そんなに真剣に返されると、おじさんは困っちゃうな。いや、マリちゃんは、俺がおじさんじゃないって言ってくれてるから、見た目は若いんだろうけど、知り合いからは心が年寄りくさいって言われているんだ」


人間族の高齢者は400歳以上の人の事を差し、個人差はあるが、見た目は地球人の40から50歳位である。

もちろん、彼の見た目は10代だと言っても通用するほど若いが、まれに整形をして年を誤魔化している人物がいるから、彼女の疑問も的外れでも無い。

その事を十分理解している彼は、もちろん冗談で言っているのだ。


「あのあの、すいません! そうじゃなくて、落ち着いているし、魔術がすごく上手だからもしかしてって、ちょっと思っただけです。でも、そんなに若いのに、ヨシトさんは本当にすごいです。恋人さんは、幸せですね」

驚いた顔をして、彼は否定する。

「もしかして、タラチナさんの事を言っているのかい? 大事な人と言っても、彼女は俺の家族の様なもんだから。そもそも、俺はもてないんだ、今は恋人もいないしね」


マリは、急にテンションが上がる。

もてないというのは信じられないが、嘘を言う人だとは思えない。

自分とそれほど年の離れていないヨシトは、十分恋愛対象であり、今は無理でも成人後は少しはチャンスがあるかもしれない。

そんな彼女の心を知らず、彼は杓子定規に質問に答える。


「マリちゃんが未成年なのは、話を聞いていたら判るよ。君は大学生で、まだあまり大学に慣れていない。暇なのに、朝早くから大学の図書館に行く苦学生なら、真面目で優秀なはずでストレートで進級しているはずだ。総合大学なら確かに大人も多く通っているけど、高校からこの街に来て、アルバイトをしている君の場合はその例に当てはまらない。家族を大事に思っているゾンメル教徒である君は、未成年の内に学費を賄おうとしているんじゃないかと思う。もしかして、奨学金を利用していないのかな?」

「…はい、全部ヨシトさんの言う通りです。奨学金はもらっていません」

あまりにもズバズバ言い当てられて、彼の頭の良さに感心し、しっかり話を聞いてもらっていた事がすごく嬉しくて、でもそれだけしか答えられず、胸に手を当ててギュッと拳を握りしめる。

彼から貰ったばかりのペンダントが胸元で揺れて、まるで彼女の心の中を表しているようだ。


彼女の様子を見たヨシトは、優しく微笑む。

「これはおじさんのおせっかいだけど、学生の本分は勉強だから、返済不要の奨学金を利用した方がいい。がんばるのは大切だけど、未成年である内は、制度を利用して大人を頼るべきだよ。もし恩に感じるなら、マリちゃんが大人になって余裕が出来てから社会に還元すればいいんだよ」

その優しい声と表情は、彼女のこだわりなんて簡単に吹き飛ばしてしまった。

(ヨシトさんはやっぱりすごい。この人なら信用出来る)

マリは真剣な表情でヨシトに話す。


「あの、大人を頼るならヨシトさんがいいです。ご迷惑かもしれませんけど、相談に乗ってほしいんです」

彼が笑って頷くのを見て、彼女は自分の悩みを打ち明ける。

家族に会えない事と将来の事に悩んでいる現状について。

黙って彼女の悩みを聞いていた彼は、話が終わるとしばらく考えて意見を述べる。


「進路については、俺も同じ悩みを抱えていた時期があった。だけど、人はそれぞれ考え方や能力が違うから、冷たいようだが自分で決めるしかない。経験を積むしかないんだよ。勉強をして、無理のいかない様にアルバイトをして、遊んで、色々な人達との出会いを大切にしなさい。まだ後4年近くあるんだから、短期と長期の計画を組んで、目的を持って行動すればいいと思う。それでも決められない場合は、ご両親も含め、信頼できる人に相談しなさい。君さえよければ、俺もまた相談に乗るよ」

「…はい、でも色々考えちゃうんです。ギフトの事とかで戦闘職を進められると、そうかなって思うし、勉強も嫌いじゃないから教師とかも憧れるし。ぜいたくな悩みだとは思うんですけど、何だかしっくりこないっていうか、他を切り捨てるようで納得いかないというか…」

彼はちょっとおどけた風に大胆な意見を言う。


「ちなみに、俺は優先順位を付けて片っ端からやっていった。実は、今も継続中だ。優先順位は、結構合理的に決めた。でも、君の場合は違うだろうね。好き嫌いでもいいし、金銭面でもいいし、ゾンメル教の価値観で決めてもいい。納得できるなら、いっそくじ引きで決めったっていいのさ。要するに、己を知る努力をしなさい、って事だ。人の意見なんて、参考程度にするのがいいと思うよ」

ちょっと呆気にとられたが、確かに一理ある。

くじ引きで決めるなんて、少し愉快だ。

マリは、少し心が軽くなった。


ヨシトの話は続く。

「家族の事については、一番いいのは移送魔術を使う事だけど、時間がかかるし能力の高さや相性があるからね。どの程度の段階なんだい?」

「えっと、私もそう思って練習してるんですけど、1年程前にようやく移送結界が構築出来たばかりで、今は30kmほどがやっとです。このペースで行けば、村まで行くには3年近くかかると思います」


マリは簡単に言うが、移送魔術はレア魔術である。

普通は、移送結界の構築さえ出来ない人間族が多い。

魔術を覚えてから3年半ほどでここまで使えるのは、はっきり言って別格である。

それを十分理解しているヨシトは、ある提案をする。


「マリちゃん、ちょっと調べさせてくれる。両手を握るけどいいかな?」

「て、手ですか?」

「ああ、ちょっと君の能力値が見たい。身体魔素の状態も含めてね」

「はい、…宜しくお願いします」

マリは両手をおずおずと差し出すと、嬉しそうに顔を赤らめる。


だが、彼はその様子には気付かない。

自己嫌悪に陥っていたからだ。

(よく考えたら、結構人目の多いこんな場所で、未成年の手を握る俺はどうなのよ? ロリコンなのか? いや違うと思うぞ、自信ないけど)

しかし言い出した手前、無かった事にも出来ず、覚悟を決めて両手を握る。


10秒近く手を繋いでいた彼は、驚きの表情で手を放す。

「いや、あり得ないだろこんな事。あまりにも都合が良すぎる」

「どうしたんですか? 何か問題でもありましたか?」

彼女も驚いたように手を引っ込める。


「魔力体の相性がいいみたいなんだ。これなら一気に距離を稼げる」

ヨシトはマリの目をじっと見ながら確認する。

「マリちゃんさえよければ、今から街の外で移送魔術の修業をしよう。上手く行けば、半年以内には問題を解決出来る」


その言葉に驚いた彼女だが、躊躇ちゅうちょせずにコクリと頷く。

「はい、修業は大歓迎です!」

大好きな人との修行なんて夢のようだ。

マリは心から喜び、期待に胸を膨らませた。



解説及び設定

1、人を操るのには奴隷の首輪を使う。

感情や人格を破壊し、ロボットのような道具にする為の魔道具である。

今は、製法は失われ、全世界的に製造や所持どころか研究する事さえ禁止されている。

しかし、表向きはともかく、根絶はされていない。

人間族は、奴隷の首輪を使われても人格や記憶が一部失われるだけで、残りの記憶は封印され、回復する可能性がある。

従属の首輪は、人格を破壊しないが欲望や反抗心が抑制され、従順になる。

製造、使用は厳しく制限され、ほとんどが重罪人相手に使われる。


2、種族間戦争の発端及びその歴史の一部抜粋

今から2000年ほど前、中原に一大勢力を持つ獣人族の王が、人間族の優位性に目を付けた。

人間族の村に攻め込み、奴隷の首輪を使って良質な奴隷を得るため、人間族狩りを始めたのだ。

その時期、人間族は世界全体でも500万人ほどで、獣人族から見て辺境の地と呼ばれる場所で、多くても数千人規模の単位で暮らしていた。

対する獣人国の人口は約2000万人で兵隊だけでも300万人以上いた。


人間族が住む三つの村や町が壊滅した段階で、彼らは危機感を覚え連帯し始めた。

元々獣人族よりも、体力的にはともかく、魔力も知能も上であり、一度戦うことを決めた人間族たちは、数的不利を感じさせず奮戦した。

何より戦争において、相手がなかなか死なない事がどれほどやっかいな事か獣人族の王は思い知らされた。

何しろ戦闘系ギフトを持つ精鋭部隊で一気に攻め込んでも、常に守勢に回り、なかなか崩れない。

打撃を与えたと思ったら、次の日にはほとんど無傷で表れる。

これは、人間族が回復系ギフトを多く持つ者たちであり、怪我をしても回復が早く、獣人たちが回復魔術を使っても全快するには三日かかる怪我なら1時間もしないで回復するためである。

肉体があくまで主体の獣人たちは、神経系の回復に時間がかかるが、人間族は魔力体がベースであり、精霊族と獣人族の身体の特徴がそれぞれ補完し合い、存在の力が強化されているためである。


さすがに不利を悟った獣人族の王は講和を申し入れたが、奴隷の首輪の根絶を目的にしていた人間族達は簡単には受け入れなかった。

ちなみに、当時は首輪を付けられた人は死亡扱いとされていた。

感情や人格を破壊され、例え首輪を外しても回復せず、人形のようになってしまうからである。

後に、人間族の場合は、外してしばらくすると感情や人格が回復する事が解ったが、それでも後遺症が残った。


戦争が長引き王国内は疲弊し始めたため、国内の貴族や反乱分子達から突き上げを食らった為政者たちは、早期決着を計るために決定的な間違いを犯した。

国内にいる人間族の奴隷達を見せしめに処刑し始めたのだ。

戦争を続ける限り処刑を続けると、人間族達に最後通告をして。

これは、人間族に殺された兵達の遺族の持つ不満を和らげる事との一石二丁を狙ったものでもあった。

もし殺される奴隷達が、今戦っている兵達の子供であったなら、子供を大事にし、基本争いを好まない人間族達は、涙を飲んででも和解に応じた可能性もあった。

しかしながら、村ごと壊滅させられた上に、女子供構わず処刑されていくことを知った人間族の指導者たちは、ついに怒り心頭に発し、後々の禍根を避けるためにも、王国を滅ぼすことに決めたのである。

戦争は苛烈さを増し、悲劇はあちこちで量産される。


それから10年、人間族の完全勝利で戦争は終わった。

奴隷計画に加担した獣人族は、軒並み極地送りになり、王の首は広場にさらされた。

ほとんどの獣人族はその地を追われ、人間族がその豊かな中原の土地の支配者となる。


その後、中原に住まいを移した人間族は、この地をガレアとし、いくつかの国を建国した。

二度と獣人たちが、このような事を繰り返さぬように、更なる力を付ける為に。

しかしそれからも、人間族の苦難は続く。

今までの出来事など、これから長く続く戦争の発端に過ぎなかったのだから。


(以上、ガレア地方と人間族の国の建国についての歴史設定です。この頃の文化水準は、地球で言うと14~5世紀程度と設定しています)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ