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メタル色の瞳  作者: 空蝉
8/30

8 彼


 元カレと遭遇した後、路地裏でロイドと話しながら、ゆっくり煙草をふかしていた。

 そして、気になった疑問を投げかけてみる。


「ねぇ。なんで『敵意』だって思ったの?」

「……呼吸や筋肉の動き。あとは視線や瞳孔の開き具合とかで――」


 ロイドの淡々とした説明に、思わず「へー」と感心した声を漏らす。


「じゃあさ! 私を初めて見た時はどう思ったの?」


 ずいっと身を乗り出してロイドの顔を覗き込み、ニヤリと笑みを浮かべる。

 ロイドは私と視線が合った瞬間、ギョッとしたような表情を浮かべ、一歩後ずさってサッと目を逸らした。


「えーっと、忘れた……」

「うそ!」


 アンドロイドが『忘れた』はずがない。

 きっと、ろくでもないことでも考えていたのだろう。

 なんだか面白くて、逃げるロイドの顔をさらに覗き込んだ。


「ほら、そろそろ帰るぞ」


 ロイドはごまかすようにそう言うと、私の指先からすっと煙草を取り上げ、携帯灰皿でもみ消した。


 それからロイドは私の手を取り、路地裏から出た。

 私たちはそのまま、手を繋いで家まで帰った。


◇


 翌日の昼休み。

 社員食堂の一角で、一人スマートフォンを眺めながら昼食をとっていると、同期の加奈ちゃんがトレイを持って声をかけてきた。


「お疲れー。隣、いい?」

「お疲れ! もちろん、どうぞ」


 世間話をしながら箸を進めていると、加奈ちゃんはふと声を潜め、テーブル越しに身を乗り出してきた。


「……ねぇ。新しい彼氏できたって、本当?」


 口に運んでいたうどんの汁が気管に入り、私は盛大にむせ返った。


「ゲホッ……え!? 何それ、誰が言ってたの!?」

「誰って……延原君が言ってたよ『栞が男と買い物してた』って。で、『新しい彼氏できたのか?』って聞かれてさ」

「あー……うん、まあね」


 一緒に住んでいる以上『彼氏』ということにしておいた方が都合がいいかもしれない。


(……ロイド、怒らないかな?)


 そんなことを考えながら、曖昧にうなずいてごまかした。


「マジで!? どんな人!? なんで教えてくれなかったの!?」

「んー、なんだか恥ずかしかったし……」


 目を逸らして適当にはぐらかそうとすると、ロイドの顔が浮かんで少し赤くなってしまった。

 それを見逃さなかった加奈ちゃんは、ニヤニヤと面白そうに私を見てくる。


「ほーう。今度詳しく聞かせてね! それより延原君、妙に気にしてたよ」

「そうなの? もう別れたんだから関係ないのに」

「やっぱり別れたんだよね?」

「うん。『君とは結婚できない』って言われたもん。なんで?」

「だよね? それがさ……『別れるつもりはなかった』とか言っちゃってさー」

「はあ!?」


 思わず声を荒らげて腰を浮かせたが、周囲の視線にハッとして慌てて椅子に座り直した。


「何それ……意味分からないんだけど」

「なんか、未練たらたらって感じだったよ」


 加奈ちゃんは少し気まずそうに肩をすくめた。


「そんなこと言われても、今さら困るんだけど……」

「まあ、私は栞が今幸せならそれでいいの。延原君には『余計なこと考えずにさっさと忘れろ!』って言っておくね」

「うん……ありがと、加奈ちゃん」


 そう返すと、残りの昼ご飯を急いで口に運んだ。


 なぜだか無性に、早くロイドの待つ家へ帰りたくなった。

 今日は仕事を早く切り上げて、まっすぐ帰ろう。



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