5 ぼっち
「そうだ! 服買ってきたの。着てみて」
私が服の入った袋を手渡すと、彼は迷わず立ち上がり、その場でするりと服を脱ぎ始めた。
「待って、待って―――っ!?」
「ん?」
「あー……着替えは脱衣所でやらない!?」
恥ずかしさに少し目を逸らしながら言うと、彼は不思議そうに袋の中を覗き込んだ。
「どれをどう着るの?」
その無垢な言葉を聞いて、思わずガクッと肩が落ちる。
「分からない、かー……あはは。うん、分かった」
「何が?」
「もういいや。とりあえず今着てるの全部脱いで。下着も無かったから買ってきたんだよね。まず――……」
そうして下半身だけ服を着てもらい、彼を椅子に座らせた。
私は隣に立って、改めて彼の肩から首に刻まれた酷い傷跡に目を向ける。
「じっとしててね。この傷、触ったら痛い?」
「痛くはないよ。その辺は神経を通してないから」
会社から持ち帰ってきた皮膚のサンプルを、彼の肩に当ててみる。
なるべく色の薄いサンプルを選んできたつもりだった。
(……色が合わない)
彼の肌は、驚くほど透き通る白さだった。
(まぁ、仕方ないよね)
正規の修理に出せない以上、多少の色ムラには目をつぶって間に合わせるしかない。
同じく会社から持ち帰ってきた縫合用の糸を取り出した。
(裁縫が得意で良かった……)
焼けてただれた部分をハサミで丁寧に取り除き、サンプルをあてがう。
縫い目が目立たないように綺麗に縫い合わせていった。
(うーん、弾力があって縫いにくいなー)
なんとか頬の傷も同様に処置し、最後に皮膚接合用テープでしっかりと留める。
(よし!これでとりあえず、一目でアンドロイドとは分からないはず)
専門ではないので、多少跡は残りそうだけど仕方ない。
私が満足げに頷くと、ロイドがどこか不満そうな声を上げた。
「あんた……」
「名前」
ムスッとした声で訂正すると、彼は少し間を置いてから、小さな声で「……アン」と呼び直した。
「命でも狙われてるのか?」
「はぁ?! 誰が!?」
「あんた。いや……アン」
「んなわけないじゃん! どんな悪党よ!」
「じゃあ何で俺を連れてきた。俺はボディーガード兼暗殺用に作られてる」
一瞬、ギョッとして息をのむ。
(――そんなこと言われても、連れてきちゃったしな……)
私は大きなため息をついた。
「私にも分からないわよ……」
「はぁ!?」
「分からないんだから、仕方ないでしょ!?」
「馬鹿なのか!?」
ロイドが勢いよく立ち上がった。
私は――なぜだか分からないけれど、急に泣きたくなった。
本当に何のために、犯罪リスクまで背負って彼を連れてきたのか、私でも分からない。
誰かの救世主になりたかったのか……たぶん、そんな大層な理由じゃない。
「……分からない」
つぶやいた声が思っていた以上に涙ぐんでいたことに、自分でもびっくりした。
彼も驚いたように目を見開いている。
「ただ……一人ぼっちは嫌だっただけ……」
漏らすように本音を口にすると、ロイドは「チッ」と小さく舌打ちをした。
そしてドカッと雑に椅子に座り直すと、ぶっきらぼうに言った。
「まぁ……せっかく拾ってもらったし、役に立てるように頑張るよ」
不器用だけど、まっすぐにそう言ってくれたロイドを見て、胸の奥がじんわりと温かくなった。
「……うん!」
「何嬉しそうな顔してるの?」
「いや、だって……『二人ぼっち』だなと思って」
「なんだそれ」
あきれ顔の彼と目が合い、思わず笑みがこぼれた。
そんな私から逃げるように、ロイドはムスッとして目を逸らした。




