40 抵抗
玄関の扉が開く音がした。
鏡から勢いよく目を離し、笑顔で振り返る。
ロイドの姿が視界に入り、目が合った瞬間――
彼の顔から、一切の表情が消え失せた。
まるで、洋館に置かれたあのアンドロイドたちのように。
(え……?)
◇
早くアンの顔を見て安心したくて、俺は急いでマンションへ戻った。
玄関を開けると、すぐに彼女の気配が届く。
奥へ進み、アンの姿を捉えた瞬間――体内で何かが勝手に作動した。
本当は、今すぐにでも抱きしめたい。
なのに――指一本、自分の意志で動かない。
身体は意思を裏切り、キッチンにあった果物ナイフへと手を伸ばす。
(何をする気だ……やめろ、やめろー!!)
アンが驚愕に目を見開く。
(逃げろ! 逃げろアン!!)
ナイフを握りしめたまま、足がアンへと向かっていく。
必死で抗おうとするものの、冷却ファンが激しく唸るばかりで、身体の暴走は止まらない。
アンは、逃げなかった。
微動だにせず、俺を見つめている。
彼女の胸元には、俺が贈ったネックレスが輝いていた。
――ズブッ、と。
手に、嫌な感触が伝わった。
(あぁぁぁぁ!!! 嫌だ、嫌だ――!!)
目元から、勝手に涙が溢れ出していく。
アンは血に染まった手を震わせながら伸ばし、俺の頬に触れた。
そして、流れる涙をそっと指先で拭う。
「愛してるわ――ロイド」
ただ一言そう残すと、彼女は固く目を閉じ、膝から崩れ落ちた。
「うわぁぁぁぁ!!!」
声だけは、なんとか自分の意志で振り絞ることができた。
だが、動きは止まらない。
俺の腕は機械的にナイフを引き抜き、倒れたアンに向かって再び振り下ろされる。
「いやだぁぁぁ!!!」
バンッ!!!
強烈な音を立てて玄関のドアが開き、延原が跳び込んできた。
「ロイド――――!!!」
背中に鋭い衝撃が突き抜け、一瞬で視界が途切れる。
(あ――緊急停止、してくれた……)
闇に呑み込まれる直前、倒れるアンの姿が焼き付いた。
アン――




