39 会いたい
まだ薄暗いうちに、洋館を出る。
黒いスーツの男性たちは全員出払っているし、奥様もまだ眠っている。
それに、ここのアンドロイドは命令しないと動かない。
自分から話しかけてくることもない。
どこまでも、ただの機械だ。
(顔は同じなのに――ロイドじゃない)
思ってたより簡単に洋館を抜け出せたことに、ほっと胸をなでおろす。
けれど、不在がバレればすぐに連れ戻されるかもしれない。
だんだんと白んでいく空と睨めっこしながら、ひたすら駅に向かって走った。
駅のホームに着くと同時に、滑り込んできた始発電車に飛び乗る。
誰もいない車両の席に座り、荒い呼吸を整えていると、車窓から朝日が昇ってきた。
朝日が昇るのが異様に早く感じる。
それに反して、電車のスピードはあまりにも遅い。
早く! もっと早く――!
あの日――
ロイドが過去を告白し、私に手を伸ばした時。
一瞬、体を強張らせてしまった。
あの瞬間を、何度も、何度も後悔した。
「ロイド……」
ロイドと離れて、初めて止めどなく涙が溢れ出す。
泣いている場合じゃないのに――。
「会いたい――っ」
◇
ゆっくりと瞼を上げる。
眩しい――。
あぁ、朝だ。
アンにコーヒーを入れてあげないと……。
横になったまま周りを見渡した。
ハッと息をのんで、ガバッと起き上がる。
家じゃない!!
そうだ、昨日、延原の家で――。
そこまで思い出して、急いでGPS機能を立ち上げ、アンを探す。
――いた!! 家にいる!!
その時、隣の部屋から延原の声が聞こえてきた。
「はい。確認しました。すぐに削除しますか?」
「はい……証拠として――えぇ……」
どうやら電話をしているようだ。
(確認?削除?プログラムのことか?)
会話の内容も気になるが、今はそれどころじゃない。
一刻も早くアンの顔を見ないと安心できない。
俺は静かに立ち上がり、気づかれないよう足音を殺して部屋を出た。
◇
部屋に戻ってきたけれど、ロイドはいなかった。
(ロイドはまだ、戻ってきてないのかな?)
ダイニングテーブルの上に、あの日もらったオープンハートのネックレスが残されているのが目に入った。
手に取ると、あの時の気持ちがフワッと蘇り、自然と顔がほころぶ。
鏡を見ながらネックレスを付けると、小さなハートが胸元を優しく飾った。
その時――。
玄関の扉が開く音がした。




