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メタル色の瞳  作者: 空蝉
38/43

38 混乱


 ガタガタと、遠くで荒々しい物音が響いている。

 ゆっくりと瞼を上げると、視界に飛び込んできたのは、険しい表情で周囲を警戒している助手の姿だった。


「貴様! 誰を呼んだ!」


 助手は俺の胸倉を掴み上げ、叫ぶ。


(……呼ぶ? 何のことだ?)


 その直後、部屋の扉が勢いよく蹴り開けられた。

 黒いスーツを着た数名の男たちが、手に銃を構えて雪崩れ込んでくる。


「くそっ!」


 助手は俺を突き飛ばすように手を離すと、部屋の隅へ退いた。

 そしてポケットから銃を取り出し、威嚇するように男たちへ向ける。


 俺はゆっくりと起き上がり、助手の挙動を見つめた。

 助手は俺と目を合わせると、ニヤリと口角を上げた。


 そして――


 自らのこめかみに銃口を当てた。

 助手は悪意に満ちた笑みを浮かべたまま、引き金を引いた。


 銃声が響く。


(え……?)


 目を見開いたまま頭から血を流し、崩れ落ちる助手。

 あまりの出来事に、思考が追いつかない。


 周囲の男たちが怒号を上げ、バタバタと動き回る。

 そのうちの一人が俺に駆け寄り、声をかけてきた。


「君、大丈夫か――」


 ふと入口に視線をやると、そこに宮本が立っていた。

 俺の姿を確認すると、まっすぐ近づいてくる。


(逃げないと!!)


 思考より先に体が動いた。

 全員が混乱している隙に、俺はその場から弾かれたように飛び出した。

 そして『あの日』のように、ただひたすら走り続ける。


(何が起こった?! 助手は……死んだのか?!)


 意識を失う直前、助手は確かに言っていた——


『意思を持った罰だ。苦しんでから消えろ』


(罰? 苦しんで消えろ? アイツは俺に何をしたんだ……?)


 また変なプログラムを書き込まれたのかもしれない。

 どうすればいい?

 無我夢中で走り続けるうちに、あたりはすっかり闇に包まれていた。

 気がつくと、俺は延原のマンションの前に立っていた。


 これ以上巻き込みたくはなかった。

 しかし、今頼れるのはあいつしかいない。


 ポケットの中でスマホが激しく振動していることに気づく。

 画面を開くと、延原からのメッセージが届いていた。


『どこにいる?! すぐ連絡しろ!』


 申し訳なさに胸を痛めながら、震える指先で返信を打つ。


『マンションの下』


 一瞬で既読がつき、間もなくして延原が息を切らせて駆け下りてきた。

 その顔は、あからさまに怒っていた。


(俺を心配してくれてたのか――)


「お前、今まで何やってたんだよ?! どれだけ心配したか……!」

「……ごめん」


 延原の怒鳴り声に、なぜかホッとしている自分がいた。

 俺は震える声で告げた。


「なんか……変なプログラムを入れられたかもしれない。診てくれないか」

「……分かった。とにかく部屋に入ろう」


 部屋に通され、パソコンの横にあるソファへ座らされる。

 延原は俺とパソコンをケーブルで繋ぎ、データの読み込みを開始した。


(そう言えば――)


 助手にアンの写真を見せられたことを思い出し、即座にGPS機能を立ち上げてアンの居場所を検索する。


(――いない?!)


 GPSが応答しない。

 アンの居場所が分からない!


 跳ね起きようとした俺を、延原が強い力で制した。


「どうした?! じっとしてろ!」

「――いないんだ! 彼女がいない!!」

「落ち着け、大丈夫だ! アイツなら安全なところにいるから!」


 GPSの出力レベルを引き上げる。

 スキャン処理に伴い、内部の冷却ファンが激しく回転し、思考にノイズが走る。

 システム内で緊急エラーの警告音が鳴り響く。

 延原が何かを叫んでいるが、処理負荷のせいで音声が届かない。

 

 探さなきゃ。

 彼女を探さないと!

 アンに何かあったら――!


 抑え込む延原を振り払い、外へ飛び出そうとしたその時。


「ごめん。ロイド」


 延原の低い声が聞こえた直後、背中に鋭い衝撃が走った。

 視界が急速に途切れ、闇が落ちてくる。


(あぁ……これは、アンドロイドの緊急停止――)


◇


 この洋館に来てから食事を出されたものの、喉を通らなかった。

 奥様も気遣って話しかけてくださったが、生返事を返すのが精一杯だった。


 夕方になると、スーツ姿の男性たちが慌ただしく館を出て行った。


(ロイドに、何かあったのっ?!)



 広い洋館に残されたのは、奥様と私、そして数体の給仕兼護衛用のアンドロイドだけ。


 焦りが募る。


 宮本は夜が更けても戻ってこない。

 祈るような気持ちで時間を過ごした。


 ――ダメだ。ここに居ても何も分からない。


 始発の電車に乗るため、ソファで少しだけ浅い眠りについた。


 空が白み始めた頃。

 私は誰にも気づかれないよう、静かに洋館を抜け出した。


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