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メタル色の瞳  作者: 空蝉
37/43

37 対面


 施設は森の中にひっそりとたたずんでおり、思った以上に静まり返っていた。

 オリーブドラブ色の外壁は周囲の木々に溶け込み、遠目には建物の輪郭さえ判然としなかった。


 建物の入り口に立ち、脇にあるモニターを真っ直ぐに見つめる。

 レンズを覗き込むと、どこかのサーバーで認証が行われ、重い扉が開いた。


 廊下を進み、長い階段を下りた先にもうひとつの扉があった。

 同じように虹彩認証をパスし、中へ足を踏み入れる。

 頭上で自動感知のライトが点灯した瞬間、俺はギクッと体を強張らせた。


 見れば、左右の壁沿いに十体以上もの『自分』が並んでいた。

 プログラムが未入力の、俺と同じ顔をしたアンドロイドたち。


(あぁ……俺も、最初はこんな風だったのか――)


 目を閉じ、何度か深く息を吐き出して気持ちを落ち着かせると、まっすぐ廊下を進んだ。


 先生の研究室にたどり着き、扉を開ける。

 そこには、先生がいつも座っていた革張りの椅子に腰掛け、施設内の監視モニターを眺める『助手』の姿があった。


 彼はゆっくりと振り返ると、へらりと笑みを浮かべて話しかけてきた。


「やあ。おかえり」

「帰ってきたわけではありません」

「じゃあ、何しに来たんだ?」

「……あなたに聞きたいことがあります」

「へえ。何?」


(あれ? この人、こんな雰囲気だったか……?)


 以前は、にこやかで穏やかな、親切な人だと思っていた。

 確かにいま浮かべている笑みも昔と変わらないはずなのに――

 なぜか人を馬鹿にしたような、不快な底意地悪さを感じる。


「なぜ俺に、先生を殺させたんですか?」

「ふっ、はははは!」


 助手は可笑しくてたまらないといった様子で、わざとらしく大笑いした。


「そこまで分かっていて、なぜ戻ってきた?」

「直接、あなたに確かめたかったからだ」


 助手は俺をじっと観察するように、嘲笑を浮かべたまま見つめてくる。

 そして机に肘をつき、確信したように言った。


「はっ! 本当に意思が生まれてるようだ。気色悪い!」

「……」

「だが、中身はガキだな」


 かつて接していた時には一度も湧き上がらなかった感情が、胸の奥で渦巻く。

 俺は思わず彼を睨みつけた。


(なんだ……この、苛立ちは――)


「質問に答えてください。なぜ先生を――」


 助手はゆっくり立ち上がり、机の上にあったレポートを手に取って眺めた。


「はっ! 笑わせるよな。たかが機械に『人に寄り添う』ことを求めるとかさ!」

「……」

「しかも『国家プロジェクト』だとよ!」


 そう言ってレポートをぐしゃっと握り、俺の胸元に投げつけて怒鳴った。


「アンドロイドを人に近づけるべきじゃない!!絶対にだ!」

「なら! 俺だけを破棄すればよかっただろ!」


 俺は声を張り上げた。


「何も、先生まで殺さなくてもっ!」

「お前だけ消したって、あいつがいればまたいつか成功させる。現にお前には意思が生まれたんだからな」

「……」

「お前らはただの機械だ!!それ以上でもそれ以下でもない!」


(ただの機械――確かに、その通りだ。だけど)


「なぜ……アンドロイドが人に寄り添ってはいけないんだ?」

「『寄り添う』だと? プログラム通りにしか動けない機械がか? 危険だろ」

「そんなことは――」

「『危険じゃない』なんて言い切れるか?」


 危険――


 俺は人間に危害を加えたいなんて、一度だって思ったことはない。

 ……けれど実際、命令やプログラムには抗えない。


「なあ。お前『女』のところに転がり込んでたらしいな」


 心臓が跳ね上がり、体が凍りつく。俺は即座に答えた。


「彼女は関係ありません」

「今朝、ようやく上がってきた資料だよ」


 助手が放り投げてきた紙片には、アンの姿がはっきりと写っていた。


「この女だろ? 機械のくせに……不認可になった生殖機能までつけやがって!」


(機械は……アンドロイドは、人を愛してはいけないのか?)


 呆然とアンの写真を見つめる俺の至近距離まで、助手が足音もなく近づいていた。


「お前の『先生』は死んだ。意思を持った罰だ。苦しんでから消えろ」


 ニヤリと歪んだ笑みを浮かべ、助手が俺の腰に何かを押し当てる。

 ビリッと強い衝撃が走り、視界が急速に闇へと呑み込まれていった。


(アン――)


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