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メタル色の瞳  作者: 空蝉
36/43

36 すれ違い


 延原の質問にひとつひとつ答えていくうちに、あの日の鮮烈な記憶が蘇ってきた。


(思い出した……あいつだ!)


 先生の助手をしていた男。

 あいつが『暗殺用のアンドロイドだ!』と叫んだのだ。


「施設に行って、自分の目で確かめてくる」

「ダメだ! 危険すぎる。罠が仕掛けられている可能性だってある」


 けれど――


「先生と助手がそこまで険悪な関係には見えなかった」

「そう見えなくても、消すことが必要だったのかもしれない」


 延原の言葉に、俺は眉をひそめた。


(必要ならば消す?)


「……それに、俺に対してもいつも丁寧に接してくれていた」

「必要ならそうするさ」


 必要なら、何でもするのか?

 分からない。信じられない――


「それに、こんな時間に行っても誰もいないんじゃないか?」


 いや……泊まり込みの職員が数名いるはずだ。

 しかし、あの助手の男が今もそこにいる可能性は低いだろう。


「お前は思いつくと、すぐ無鉄砲に行動するからな。僕も一緒に行く。とにかく朝を待とう」



 翌朝、俺は彼が起きてこないうちに静かに家を出た。

 延原の申し出はありがたいが、彼までこの事件に巻き込むわけにはいかない。


 施設までは距離がある。

 あの日は、ただひたすらに走った。

 数日かけて、あの場所から逃げてきた。

 けれど今は、GPSが施設の場所を教えてくれる。


 この問題を解決して、俺の中に残る危険なプログラムを延原に消してもらうんだ。


 そうしたら――


◇


 宮本に促され、洋館に入った。

 そこはまるでミステリー小説の舞台のようだった。

 屋敷の中では、黒いスーツ姿の者や、制服のような作業着を着た人々がせわしなく行き交っている。


「えっと……すごいご自宅ですね」


 私がそう呟くと、宮本夫婦は顔を見合わせて苦笑した。


「私たちの自宅ではないのよ」

「今は警備上の理由で、一時的にここに避難しているだけなんだ」


 警備上――?


「実は仕事上のトラブルがあってね。保護対象はここに留まるよう指示されているんだが……」

「保護対象……ですか?」

「君もその保護対象なんだ」

「え?! 私がですか?!」


 思わず声を張り上げてしまう。


「あぁ、君は……意図せず深く関わってしまったからね」


(深く関わった? 私は身に覚えなんて――)


 そう否定しようとした瞬間、ハッと息を飲んだ。


「それって……」


 続きを確かめようとした時、スーツを着た若い男性が駆け寄り、宮本に慌てた様子で声をかけた。


「宮本さん、緊急連絡です!」

「どこからだ?」

「延原という男性からです――」

「待て!」


 しかし、男性は制止に気づかず、言葉を続けてしまう。


「『対象が消えた』とのことです!」


(……え?)


 宮本は、驚きに固まる私をチラリと見ると、苦渋の表情を浮かべた。

 そのまま気まずそうな表情の男性を連れ、部屋を出ていこうとする。


「ま、待ってください! なんで延原君の名前が出てくるんですか?!『対象』って何なんですか?!」


 私は必死に宮本を呼び止めた。


「小川さん……とにかくここで待っていてくれ。今は急ぎで行かなければ」

「いつ戻られるんですか?!」

「――できるだけ早く。戻ったら必ず説明する」

「私も連れていってください!『対象』ってロイドのことですよね?!」


 駆け出そうとした私の肩を、宮本の奥さんが優しく抱き寄せて引き留める。


「――すまない。彼女を頼む」


 宮本はそう奥さんに言い残し、私を置いて走り去ってしまった。

 目の前が真っ暗になり、まるで底のない穴に落ちていくような感覚になる。


 ロイドの状況を確かめたくてスマホを取り出したが、画面には「圏外」の文字が表示されている。


「ここは外部と連絡が取れないようになっているのよ」


 奥さんが申し訳なさそうに、私をなだめるように囁いた。


「きっと大丈夫よ。今はとにかく待ちましょう」


(ロイド……!)


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