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メタル色の瞳  作者: 空蝉
35/43

35 食い違い


 ワインと食料を手に部屋に入ると、いつもはパソコンの前に貼り付いている延原が、珍しくソファに寝転がっていた。


「買ってきたよ」

「おぉ! サンキュー」


 ワインをダイニングテーブルに置くと、延原が跳ね起き、手際よくグラスを二つ用意した。


「つまみ用意するから少し待ってて」

「牛肉系食べたいなー」

「はいはい……」


 ステーキにローストビーフ、きのこのソテー――。

 延原好みの肉料理などを素早くテーブルへ並べていく。

 彼は嬉しそうに「一緒に飲もう!」と、俺の分のグラスにもワインを注いだ。


「俺、飲んでも意味ないけど……」

「いいから付き合えよ」


 椅子に座り、勧められるままグラスを手に取る。

 延原が俺の顔を見ながらニヤニヤと聞いてきた。


「で? 喧嘩したのか?」

「……」

「それで家出?」

「……」


 なんて答えていいかわからず、俺はグラスを持ったまま項垂れ、テーブルに突っ伏した。


「何でそんなに嬉しそうなんですか」

「お前らも喧嘩するんだーって思ったら、興味? かな」


 楽しそうに笑う彼を、思わず睨みつける。

 だが延原は意に介した様子もなく、用意したつまみをつまみ、ワインを喉に流し込んだ。


「それで、何で喧嘩したの?」


 そう問われ、反射的に視線を逸らした。

 夜中に押しかけておいて理由を明かさないのはズルい――そう思い直し、重い口を開く。


「ケガの理由を聞かれて……」


 言葉を重ねようとしたが、どうしても先が続かない。

 黙り込む俺に、延原が軽く言った。


「『人を殺した』とでも言ったのか?」


 心臓を撃ち抜かれたような衝撃に、体がギクッと硬直する。


「なっ……何で知って――」

「宮本が『このプログラムを作った人間は殺されている』って言ってたからさ。もしかしたらって思ってた」


 思わず延原を凝視したが、本人は全く気にした様子もなくステーキを頬張っている。


「知ってて……俺が怖くないのか? 俺は『暗殺用のアンドロイド』だぞ?」

「はぁ!? 誰がそんなこと言ったんだよ!」


 延原が心底驚いた顔で声を張り上げた。

 その反応に、今度は俺が固まる。


「誰って……」

「んなわけあるか! 僕はお前のプログラム、ちゃんと見たんだぞ!」

「……じゃあ、俺は?」

「お前は『暗殺用』なんかじゃない。『人間の生活介助用』のアンドロイドだ。現に家事得意だろ?」


 延原は大声をあげて笑った。


(え? 人間の生活介助……? じゃあ、なんで――)


 呆然としていると、延原はグラスのワインを一気にあおり、少しトーンを落として静かに言った。


「まぁ……お前の初期設定にはないプログラムが見つかったのは事実だけどな」

「え?」

「それは確かに、誰かを殺すためのシステムだ」


 ――『誰かを殺すためのシステム』が、俺の中にある。


 その言葉だけで、人工的な脈拍が不規則に跳ね上がった。視界の隅で警告エラーが点滅する。

 胸元を右手で強く掴み、乱れる呼吸を整えようともがいた。


「なっ……なんで……誰がっ……!」

「なぁ。落ち着いて思い出すんだ。お前が人を殺したときの状況を、ひとつずつ」

「い……いやだ……っ!」


 耳奥で鳴り響く不快なエラー音に耐えかね、俺は頭を抱え込んだ。


「大丈夫だ。落ち着け。大きく息を吸うんだ」


 指示されるまま、深く息を吸い込む――。


「そうだ。そしてゆっくり吐け。それを繰り返す……ほら、落ち着いてきただろ?」


 それから延原は、ひとつひとつ俺に問いかけた。

 その問いに答える形で、薄もやの向こうから記憶が手繰り寄せられていく。


 ずっと、忘れようとしていたあの日の記憶が――。


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