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メタル色の瞳  作者: 空蝉
32/43

32 知りたい


「ロイド!行ってくるね!」

「うん。行ってらっしゃい」


 いつも通りの朝。

 玄関先で、アンの唇に軽いキスを落とす。


「そろそろグラタン食べたいなー」

「いいよ。本当にグラタンが好きだな」

「だって、ロイドの魚介グラタン美味しいんだもん」


「ははっ」と笑って、彼女の頬を優しく撫でる。


 アンのためなら何でもする。何でもできる。


 彼女を見送った後、軽く家事を済ませてから延原の家へ向かう。


 自宅の家事に加え、延原宅の家事……。

 気づけば俺は、完全に二人の世話焼き係になっていた。

 ほんの少し前まで、こんな生活を送ることになるとは思いもしなかった。


 途中で立ち寄ったショッピングモールで、シルバーのオープンハート型ネックレスが目に留まった。


 ――アンに似合いそうだ。


 手に取り、このネックレスが彼女の胸元を飾る様子を想像する。

 自然と笑みがこぼれた。


 俺は左手の指輪を指で撫で、そっと口元に寄せた。


 もうすぐ、ホワイトデーだ。


◇


 仕事が忙しい。


 それを言い訳に、『手紙』を後回しにしている自分がいた。

 けれど、抱えている案件の最終期限は明日。


 明日になれば、仕事は一段落する。


 昼食後。

 食堂の窓際の席で一人、宮本部長からの手紙をじっと見つめる。


 ――君が気になっていることを教えてあげよう


 ロイドのことを知りたい。彼の力になりたい。


 けれど――


「栞」


 ギクッとして隣を見ると、いつの間にか加奈ちゃんが座っていた。

 私は慌てて手紙をポケットに仕舞い込む。


「大丈夫? 何か心配事?」

「ううん、大丈夫だよ」


 いつものように笑顔で答えようとしたけれど、うまく笑えない。

 私はただ俯いてしまった。


「ねぇ、加奈ちゃん……」

「なに?」

「大切な人のことをもっと知りたい……でも、知るのが怖いって思ったら、どっちを優先する?」


 言葉にして初めて気づいた。


 怖い――


 初めてロイドに会ったときは、左の肩と髪が燃えていた。焼けた肩からは金属部分が見えていたし、左頬も切られていた。


 『俺はボディーガード兼暗殺用に作られてる』


 確か、そう言っていた。


 考え込んでいる私の顔を覗き込んで、加奈ちゃんは元気に言った。


「もちろん『知りたい』を優先する!」

「……そうなの?」

「だって、なんで知るのが怖いの? 知ったら栞の気持ちは変わるの?」

「……変わらない」

「じゃあ!『知りたい』を優先していいんじゃないの?」


 そうだ。

 私のロイドに対する気持ちは、何があっても変わらない。

 ただ、知ることで何かが変わる気がする……。


 ――それでも

 ロイドのためなら何でもする。何でもできる。


「栞はさ、考えすぎなんだよ!」

「そうかな?」

「そうだよ!『行動した』後悔より『行動しなかった』後悔の方が大きいって言うでしょ?」


 加奈ちゃんは「ね!」と力強く言った。


 確かにその通りかもしれない。


 私は――

 ロイドを知りたい。


(ロイドに話したら、きっと反対されるだろうな)


 私は左手の指輪を指で撫で、そっと口元に寄せた。


 私は一人で、この住所に行ってみよう。

 明後日の金曜日に――


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