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メタル色の瞳  作者: 空蝉
31/37

31 意思


「俺の――プログラムを調べてほしい」


 延原は目を見開くと、湧き上がる嬉しさを隠すようにぐっと顔を引き締めた。

 そして次の瞬間、険しい表情で問いかけてきた。


「なんで急に、調べたいと思ったんだ?」

「……急じゃない。ただ踏ん切りがつかなかっただけだ。それに……信頼できる人間がいなかった」

「僕のことは信頼してくれるのか?」


 延原は苦笑いを浮かべながら、俺の目を見つめた。

 俺もまっすぐその視線を受け止め、答える。


「あぁ。それに……あんたは施設の人間じゃない」

「施設の人間は危険なのか?」

「内部にスパイがいるらしい」

「なるほどな……」


 顎に手を当て、じっと床を見つめて考え込んでいた延原だったが、閃いたように顔を上げた。


「よし、取引だ! 君もその方が納得がいくだろ?」

「……いいが、俺に何をさせるつもりだ?」


 警戒を強めながら尋ねると、延原は気まずそうに部屋の中へ視線を泳がせた。


「お腹すいた……あと、洗濯してなくて着られる服がない」


 散らかった部屋を見回し、俺はため息をついて腰を上げた。


「了解です」

「やった!」

「それより……延原さん、会社は大丈夫なんですか? 今日は月曜日ですよ」

「やべっ!」


 延原は慌ててデスクの前に飛びつき、会社のシステムにログインしようとした。

 そのまま仕事を始めるのかと思いきや、思い出したように俺を振り向く。


「あ! そうだ、これ!」


 手渡されたのは二枚のカードだった。

 確認すると、一枚はクレジットカード、もう一枚は部屋のカードキーだ。


「えーっと……買い物もですか?」

「頼むよー。冷蔵庫も空だし、水もあと2本しかないんだ」

「分かりました」


 まずは洗濯機を回してから買い物だな――そう考えて動き出した。


 デスクに向かって仕事を始めた延原が、時折こちらを観察するように視線を送ってくるのを感じた。


◇


『捕まえろ!! 捕まえてスクラップにするんだ!!』


(え? スクラップ……?)


 怒号が耳に突き刺さる。

 目の前では、いつも俺に話しかけてくれていた『先生』の腹に、俺の握った包丁が深く刺さっていた。


 振り返ると、大きなバーナーを構えた先生の助手が立っていた。

 助手が俺に向かって容赦なく火を放つ。

 左肩と髪が激しく燃え上がった。

 俺が奪い取ろうと手を伸ばすと、助手はバーナーを捨てた。

 そして、机の上にあったナイフを掴んで頬を切りつけてきた。


『暗殺用のアンドロイドだ!! 危険だぞ、捕まえろ!!』


(スクラップは嫌だ……!!)


 施設内に怒号が飛び交い、大勢の足音が慌ただしく響き渡る。


 ビィィィィー―――――!!


 頭上からけたたましいサイレンが響き渡った。

 俺はがむしゃらに施設を飛び出した。


 とにかく走り、追っ手を振り切り、どこかの薄暗い路地裏にあったコンテナに身を潜めた。

 

 なんでこんなことになったんだ?

 分からない。

 何も、分からない。


 ――その時、女性の声が聞こえた。


『大丈夫ですか?』


◇


「ロイド? 大丈夫?」


 延原の家の家事を済ませて帰宅した。

 その後、俺はどうやらベッドでスリープモードに入っていたらしい。

 いつの間にか帰ってきていたアンが、俺に声をかけていた。


「アン……」


 俺は手を伸ばし、彼女を強く抱きしめた。


 アン――


 あの時、俺の沈んだ意識を救い上げてくれた。


 そして今は、俺の愛しい人。


「ねぇ、ロイド……私に何かできることはない?」

「――ずっとここに……俺のそばにいて」


 どうか、俺の過去を知っても――



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