31 意思
「俺の――プログラムを調べてほしい」
延原は目を見開くと、湧き上がる嬉しさを隠すようにぐっと顔を引き締めた。
そして次の瞬間、険しい表情で問いかけてきた。
「なんで急に、調べたいと思ったんだ?」
「……急じゃない。ただ踏ん切りがつかなかっただけだ。それに……信頼できる人間がいなかった」
「僕のことは信頼してくれるのか?」
延原は苦笑いを浮かべながら、俺の目を見つめた。
俺もまっすぐその視線を受け止め、答える。
「あぁ。それに……あんたは施設の人間じゃない」
「施設の人間は危険なのか?」
「内部にスパイがいるらしい」
「なるほどな……」
顎に手を当て、じっと床を見つめて考え込んでいた延原だったが、閃いたように顔を上げた。
「よし、取引だ! 君もその方が納得がいくだろ?」
「……いいが、俺に何をさせるつもりだ?」
警戒を強めながら尋ねると、延原は気まずそうに部屋の中へ視線を泳がせた。
「お腹すいた……あと、洗濯してなくて着られる服がない」
散らかった部屋を見回し、俺はため息をついて腰を上げた。
「了解です」
「やった!」
「それより……延原さん、会社は大丈夫なんですか? 今日は月曜日ですよ」
「やべっ!」
延原は慌ててデスクの前に飛びつき、会社のシステムにログインしようとした。
そのまま仕事を始めるのかと思いきや、思い出したように俺を振り向く。
「あ! そうだ、これ!」
手渡されたのは二枚のカードだった。
確認すると、一枚はクレジットカード、もう一枚は部屋のカードキーだ。
「えーっと……買い物もですか?」
「頼むよー。冷蔵庫も空だし、水もあと2本しかないんだ」
「分かりました」
まずは洗濯機を回してから買い物だな――そう考えて動き出した。
デスクに向かって仕事を始めた延原が、時折こちらを観察するように視線を送ってくるのを感じた。
◇
『捕まえろ!! 捕まえてスクラップにするんだ!!』
(え? スクラップ……?)
怒号が耳に突き刺さる。
目の前では、いつも俺に話しかけてくれていた『先生』の腹に、俺の握った包丁が深く刺さっていた。
振り返ると、大きなバーナーを構えた先生の助手が立っていた。
助手が俺に向かって容赦なく火を放つ。
左肩と髪が激しく燃え上がった。
俺が奪い取ろうと手を伸ばすと、助手はバーナーを捨てた。
そして、机の上にあったナイフを掴んで頬を切りつけてきた。
『暗殺用のアンドロイドだ!! 危険だぞ、捕まえろ!!』
(スクラップは嫌だ……!!)
施設内に怒号が飛び交い、大勢の足音が慌ただしく響き渡る。
ビィィィィー―――――!!
頭上からけたたましいサイレンが響き渡った。
俺はがむしゃらに施設を飛び出した。
とにかく走り、追っ手を振り切り、どこかの薄暗い路地裏にあったコンテナに身を潜めた。
なんでこんなことになったんだ?
分からない。
何も、分からない。
――その時、女性の声が聞こえた。
『大丈夫ですか?』
◇
「ロイド? 大丈夫?」
延原の家の家事を済ませて帰宅した。
その後、俺はどうやらベッドでスリープモードに入っていたらしい。
いつの間にか帰ってきていたアンが、俺に声をかけていた。
「アン……」
俺は手を伸ばし、彼女を強く抱きしめた。
アン――
あの時、俺の沈んだ意識を救い上げてくれた。
そして今は、俺の愛しい人。
「ねぇ、ロイド……私に何かできることはない?」
「――ずっとここに……俺のそばにいて」
どうか、俺の過去を知っても――




