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メタル色の瞳  作者: 空蝉
30/37

30 依頼


 月曜日の朝一、管理本部長から集合がかかり、緊急朝礼が開かれた。


「急なことで申し訳ないが、3月6日をもって宮本法務部長が退職された」


(え……?)


「彼の抱えていた案件だが、すべて完了している。次の法務部長はまだ決まっていないが、今月末までには就任する予定だ。以上」


(退職? こんな時期に?)


「栞? 大丈夫?」

「え? あ……うん」


 朝礼が終わっても、私は言葉をどう受け止めていいか分からず、その場で呆然と立ち尽くしていた。

 加奈ちゃんが近寄ってきて、驚いたような声を漏らす。


「なんか、急だねー」

「……そうだね。でも、なんで急に……?」

「本職が忙しくなったんじゃない?」


 確か……部長の本職は弁護士だ。

 あの人畜無害な笑顔からは想像もつかないが、凄腕の弁護士だという話を聞いたことがある。


「あと最近、なんか国家がらみのプロジェクトの顧問弁護士をしてるって噂もあるよ」

「え……何それ?」

「よく分からない。まあ、ただの噂だけどね」


 国家がらみのプロジェクト――


 部長と話をしたいと思っていた矢先のことだった。急に足元が崩れ去ったような感覚に襲われ、立っていることすら辛くなる。


「小川さん」


 振り返ると、管理本部長が持っていた封筒を私に差し出していた。


「宮本部長から、君に渡してくれと頼まれてね」

「あ……ありがとうございます」


 震える手で封筒を開けると、住所と一緒に短い手紙が入っていた。


 ――君が気になっていることを教えてあげよう


◇


 アンが会社へ向かったあと、俺は意を決して延原のマンションへと向かった。

 普通に考えたら彼も出社している時間だ。

 けど、あの冊子を取り上げられたとなると気になって仕方がなかったのだ。


 ピンポーン


 マンションのエントランスでインターホンを鳴らす。

 一回……二回……三回。


(冷静になって出社したか)


 そう思い引き返そうとしたその時、「はい……」と、インターホン越しに力のない声が聞こえた。


「あ……ロイドだけど」

「あぁー、どうぞー」


 解錠の音が響き、エントランスのドアが開いた。

 エレベーターで上がり、部屋の前でもう一度インターホンを鳴らすと、すぐにドアが開いた。

 現れた延原は、前に会った時よりもさらに顔色が悪い。

 俺の顔を確認した途端、彼は糸が切れたように倒れこみ、そのまま気を失ってしまった。


「なっ……おい!?」


 仕方なく彼を抱き上げ、部屋の中へと運んだ。

 体温・脈拍・呼吸を確認したが、異常はない。

 頬を軽くたたくと、うっとうしそうに俺の手を払った。


(これは……普通に寝てる?)


 ほっとため息をつき、延原をソファに寝かせてから部屋を見渡す。

 以前来た時よりもさらに資料や紙くずが溢れかえり、ひどい有様だった。


 ペットボトルや栄養補助食品のゴミがあちこちに転がっているが、部屋の隅にある弁当の空箱は増えていない。

 まともに飯も食べていないのだろう。


(仕方ないな……)


 資料と思われる紙類には触れず、ゴミだけをまとめて軽く掃除した。

 少し悪いと思いながらも冷蔵庫を開けてみたが、中はほぼ空っぽだった。


(どうやって生きてたのやら……)


 ふと、部屋の隅に置かれた巨大なサーバーに繋がるデスクトップ画面を覗き込み、俺は息をのんだ。

 確か、俺の初期設定プログラムが書かれた冊子は、宮本が延原から取り返したはずだ。


(……完璧に再現されている?)


 驚愕し、画面をスクロールしながらコードに見入っていると、背後から声がした。


「宮本部長が来てさー。冊子を取り上げられたから、再現してやったんだよ」


 驚いて振り返ると、横になったままの彼とバッチリ目が合った。

 得意げな笑みを浮かべている。


「……お前、本当に天才だったんだな」

「なに? 疑ってたの?」

「まあね」


 延原がゆっくりと体を起こし、何かを探すように視線を彷徨わせたため、手近にあった水を差し出す。

 彼は「サンキュー」と言って一気に飲み干した。


「この研究、ルール違反じゃないのか?」


 尋ねると彼は、ははっと軽やかに笑い、開き直ったように言った。


「別に法律で禁止されてるわけじゃないし。それに法律の専門家である宮本部長も噛んでるんだ。ってことは、もう公認でしょ!」


 思わず言葉を失い、彼を見つめた。


「で? お前は何をしに来たんだ?」


 問いかけてきた彼に対し、俺はここへ来た本来の目的を口にした。


「俺の――プログラムを調べてほしい」


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