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メタル色の瞳  作者: 空蝉
29/30

29 糸口


 日曜日。

 風は冷たいけれど、温かな日差しが降り注ぐ、穏やかな日だった。

 私とロイドは、少し大きめの公園で二人でピクニックをしていた。

 まだ硬い蕾をつけた大きな桜の木の下で、並んで空を見上げる。


「アン、寒くない?」

「うん、大丈夫。ロイドは?」

「ん? 寒い。だから、もう少しこっちに来て」


 そう言って、ロイドは自分の大きなコートで私をすっぽりと抱え込んだ。

 急な距離の近さに真っ赤になりながら、私は彼の胸の中に収まる。


「もう! 不意打ち止めてって!」

「だって、すぐ真っ赤になるアンがかわいいから、見たくて」

「もう……」


 背中にロイドのあたたかな温度を感じながら、私はもう一度桜の木を見上げた。


「桜が咲いたら――またピクニックに来ようね」

「うん。アンと一緒に桜が見たいな。今年も、来年も、その次も、ずっと――」

「ロイド?」


 振り返ると、ロイドが優しい笑顔で私を見つめていた。

 吸い込まれるように、ほんのりメタル色を帯びた彼の瞳を見つめ返す。


 唇が重なる―――


 ピクニックの帰り道。


 いつものショッピングモールで春服を買い、私はロイドに鞄を預け、化粧室へ向かった。

 けれど、口紅を鞄に入れたままだったことに気づき、引き返そうとしたとき――

 誰かと話しているロイドの姿が目に入った。


 あれは……宮本部長?


 その瞬間、心臓が嫌な音を立てた。

 思わず柱の影に隠れる。


 以前から、あの二人はどこか繋がりがあるような気がしていた。

 実際に、厳しい表情のロイドが宮本部長と話している様子を見ると、とてもただの知り合いには見えなかった。


 嫌な予感が、じわじわと広がっていく。

 

 いったい、どういう繋がりなんだろう?

 何の話をしてるんだろう?

 教えて欲しい――。


(私に何か、できることはないの?)


 私はぐちゃぐちゃになった心を静めるため、化粧室の個室に駆け込んだ。

 

(落ち着け――落ち着け、私)


『少し喫煙室に寄ってから戻るね』


 そうロイドにメッセージを送ってから、私は喫煙室に入り、たばこを深く吸い込んだ。


 目を閉じ――静かに紫煙を吐き出す。


 明日、会社に行ったら宮本部長と話してみよう。


◇


「相変わらず、君たちは仲が良いね」

「またあなたですか。暇なんですか?」


 少しおどけたような口調で話しかけてくる声。

 振り返らなくても、誰だか分かった。

 彼はこうして、ちょくちょく俺の前に現れる。


「彼女に、俺のプログラムが書かれた冊子を渡したそうですね」

「おや? 誰からそれを聞いたのかな」

「……」

「確かに渡したよ。恋する乙女は強いからね。何か見つけてくれるかもしれないと思って」


 嬉しそうに微笑む彼を、俺は強く睨みつけた。


「彼女を……巻き込まないでください」

「君がそれを言うのかね? ……まあ、彼女はもうアレを持っていないけどね」

「知っています」

「今は僕が持っている」

「え?」


 確かあれは――


 彼に目をやると、相変わらず余裕めいた笑みを浮かべていた。


「反対派のプログラマーの手に渡ったら危険だからね」

「……彼は違うと思いますよ」

「でも彼は天才だ。彼なら見つけてしまうだろう」

「何を……?」


 問いかける俺に答えることなく、彼は背を向けて去っていった。

 俺はその背中を見送りながら、宮本の言葉を思い返した。


(やはり、延原なら――)


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