29 糸口
日曜日。
風は冷たいけれど、温かな日差しが降り注ぐ、穏やかな日だった。
私とロイドは、少し大きめの公園で二人でピクニックをしていた。
まだ硬い蕾をつけた大きな桜の木の下で、並んで空を見上げる。
「アン、寒くない?」
「うん、大丈夫。ロイドは?」
「ん? 寒い。だから、もう少しこっちに来て」
そう言って、ロイドは自分の大きなコートで私をすっぽりと抱え込んだ。
急な距離の近さに真っ赤になりながら、私は彼の胸の中に収まる。
「もう! 不意打ち止めてって!」
「だって、すぐ真っ赤になるアンがかわいいから、見たくて」
「もう……」
背中にロイドのあたたかな温度を感じながら、私はもう一度桜の木を見上げた。
「桜が咲いたら――またピクニックに来ようね」
「うん。アンと一緒に桜が見たいな。今年も、来年も、その次も、ずっと――」
「ロイド?」
振り返ると、ロイドが優しい笑顔で私を見つめていた。
吸い込まれるように、ほんのりメタル色を帯びた彼の瞳を見つめ返す。
唇が重なる―――
ピクニックの帰り道。
いつものショッピングモールで春服を買い、私はロイドに鞄を預け、化粧室へ向かった。
けれど、口紅を鞄に入れたままだったことに気づき、引き返そうとしたとき――
誰かと話しているロイドの姿が目に入った。
あれは……宮本部長?
その瞬間、心臓が嫌な音を立てた。
思わず柱の影に隠れる。
以前から、あの二人はどこか繋がりがあるような気がしていた。
実際に、厳しい表情のロイドが宮本部長と話している様子を見ると、とてもただの知り合いには見えなかった。
嫌な予感が、じわじわと広がっていく。
いったい、どういう繋がりなんだろう?
何の話をしてるんだろう?
教えて欲しい――。
(私に何か、できることはないの?)
私はぐちゃぐちゃになった心を静めるため、化粧室の個室に駆け込んだ。
(落ち着け――落ち着け、私)
『少し喫煙室に寄ってから戻るね』
そうロイドにメッセージを送ってから、私は喫煙室に入り、たばこを深く吸い込んだ。
目を閉じ――静かに紫煙を吐き出す。
明日、会社に行ったら宮本部長と話してみよう。
◇
「相変わらず、君たちは仲が良いね」
「またあなたですか。暇なんですか?」
少しおどけたような口調で話しかけてくる声。
振り返らなくても、誰だか分かった。
彼はこうして、ちょくちょく俺の前に現れる。
「彼女に、俺のプログラムが書かれた冊子を渡したそうですね」
「おや? 誰からそれを聞いたのかな」
「……」
「確かに渡したよ。恋する乙女は強いからね。何か見つけてくれるかもしれないと思って」
嬉しそうに微笑む彼を、俺は強く睨みつけた。
「彼女を……巻き込まないでください」
「君がそれを言うのかね? ……まあ、彼女はもうアレを持っていないけどね」
「知っています」
「今は僕が持っている」
「え?」
確かあれは――
彼に目をやると、相変わらず余裕めいた笑みを浮かべていた。
「反対派のプログラマーの手に渡ったら危険だからね」
「……彼は違うと思いますよ」
「でも彼は天才だ。彼なら見つけてしまうだろう」
「何を……?」
問いかける俺に答えることなく、彼は背を向けて去っていった。
俺はその背中を見送りながら、宮本の言葉を思い返した。
(やはり、延原なら――)




