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メタル色の瞳  作者: 空蝉
28/42

28 不在


 考え事をしているうちに、いつの間にか宮本部長のデスクの前に立っていた。

 部長は驚くべきスピードで書類に目を通しながら、顔も上げずに「どうしたの?」と声をかけてきた。


「部長、少しお聞きしたいことが……」


 ちらりと顔を上げた部長は、相手が私だと確認すると手を止め、にっこりと微笑んだ。


「ああ、小川さん。どうしたの? さっきの案件?」

「あ……いえ、そうではないのですが」

「ん?」

「延原君が、ここ数日欠勤しているそうで……」

「そうなの?」


 部長はPCを操作して手早く出勤状況を確認すると、「本当だねえ」とつぶやいた。


「あ、でも仕事はオンラインでこなしているそうなので、業務上の問題はないのですが……」

「そう。ならいいんじゃないか?」

「そうなんですが――」

「まあ、彼は別部署の人間だから僕が口出しできる立場でもないんだけど……何か気になることでも?」


 一瞬言うべきかどうか悩んだが、宮本部長の冊子がからんでいる……


「休み始めたのが、さっきお話しした例の『冊子』を渡した翌日からなんです」

「……だから気になってるのかな?」

「ええ、まあ……」

「そうか。開発部のほうに聞いてみて、必要そうなら明日にでも家に行ってみるよ」


 穏やかにそう言ってくれた部長に安心して、私はホッと胸を撫でおろした。


「よろしくお願いします」


 深々と頭を下げてから自分の席に戻り、仕事を再開した。

 宮本はそんな小川の様子をチラリと確認すると、しばらくして席を立ち、喫煙所へと向かった。

 

 煙草を深く吸い込み、宮本は一人、愉しそうに目を細めていた。


「さて、どうするかなー」



◇


 延原は自宅に引きこもり、ずっと手と頭を動かし続けていた。


(面白い……! 楽しい……!)


 これほどまでに夢中になったのは子供のとき以来だ。

 月曜の夕方に冊子を手に入れてからは、それをひたすら読み込んだ。

 二日で一通り確認し、木曜には実際に『ロイド』から話を聞くこともできた。

 会社は繁忙期のため完全に放置するわけにもいかず、最低限の仕事はオンラインで済ませた。


 今日は土曜日。

 会社からの連絡もないはずだし、心ゆくまで研究に没頭できる。

 昼夜の感覚すら失われかけた部屋に、突如として玄関のインターホンが鳴り響いた。


「はい……」


 ぼんやりした頭のまま、何も考えずに応答モニターを覗くと、そこには思いもよらない人物が立っていた。


「法務部の宮本です」


 ギクッと体が強張る。

 なぜこの人がうちに……?


 宮本部長はニコニコとした笑みを浮かべたまま、インターホン越しに話しかけてきた。


「延原君? 大丈夫かな?」

「あ……はい」

「ここ数日休んでいるって女子たちが騒いでいてね。人気者は大変だねえ」

「いえ……そんなことは」

「それより、少し開けてもらえないかな? 話がしたいんだ。『冊子』の件でね」

「あ……分かりました」


 部屋の前までやってきた宮本を、ひとまず玄関の中へ通す。

 カチャリとドアが閉まると、彼は相変わらずの笑みを崩さないまま言った。


「小川君から借りた例の『冊子』――返してもらえないかな?」


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