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メタル色の瞳  作者: 空蝉
27/37

27 予兆


「はい、いいですよ。なんて言うと思いますか? プライバシー侵害もいいとこじゃないですか」

「んー、やっぱりダメかー」

「当然です」


 延原は少しがっくりと肩を落としたが、予想内だったのか食い下がることはなかった。


「じゃ、話だけでも聞かせてよ。ここ座れよ」


 そう言ってソファーの上にあった書類を床に避け、座れるスペースを作った。


「水しかないけどいい?」


 そしてソファーの横に置いてある段ボールから、新しいペットボトルを投げてよこした。


「俺は別に飲まなくても――」

「でも、飲めるだろ?」

「そのまま出るだけですよ」

「知ってるよ」


 そう言うと彼は「わははっ」と大きく笑った。

 似たような会話をアンともしたことがあるな、と思い出し、少し頬が緩んだ。


(まぁ、せっかく用意してくれたしな)


 とりあえずソファーに座り、ペットボトルの蓋を開けて一口飲んだ。


「そういえば『ロイド』って元からの名前?」

「いえ」

「小川さんがつけたの?」

「はい」

「……なぁ。まさかと思うけど、アンドロイドだから?」

「そうです」

「うわー、安直。彼女らしいけど」


 少し呆れたように笑う延原に、思わず同意してこちらも苦笑いを浮かべた。

 無意識に、左手にはめた指輪をなぞる。

 そんな俺を見て、延原が尋ねてきた。


「なぁ。いつから好きになったんだ?」

「……はっきり『ここから』というのは無いですよ。気がついたら、という感じです」

「へー」

「人間もそんな感じじゃないんですか?」

「そんな感じらしいね」

「『らしい』……って」

「だって僕、誰かを『好き』とか『愛してる』とか、はっきり意識したことないから……」


 彼は少し寂しそうにそう言うと、横にある一人掛けのソファーに深く腰掛け、ペットボトルの水をあおった。


「お前は小川さんのこと、『愛してる』ってはっきり言えるんだろ?」

「当然です」

「そして小川さんからも、その言葉をもらったんだろ?」

「……もちろん」

「少し羨ましいよ」


 延原は気持ちを振り払うように大きく伸びをしながら、「うぉー」と声を上げた。

 読めない彼の行動に少し引きつつも、なんだか面白くなってきた。

 彼はグッと体を起こすと、好奇心に満ちた目をこちらに向け、本格的に質問を重ねてきた。


「で、そういう『意思』っていうの? 自分で『こうしよう!』って意識的に思ったきっかけとかあるの?」

「……まぁ」

「いつ?」

「彼女に出会う少し前です」

「どんなきっかけ?」


(きっかけ――それはたぶん)


「人間的に言うと『命の危機』かな……」


 そう言うと、彼は深く考え込んだ。


「それは、どこで? もしかして、この冊子を見かけたという『施設』?」

「……」

「そこって、何してるの? 目的とか……」

「知りませんよ。俺はプログラマーでもないし……何も――分かりません」


 本当に、何も分からない。

 けれど、避けては通れない。

 アンと―――未来を生きるためには、踏み込んでいかないといけないが、決心がつかない。


 延原はそんな俺の様子をじっと見ていた。


 それから小一時間ほど話し込み、俺も用事があるため帰ることにした。


「また来いよ。いつかプログラム見せてくれたら嬉しいな」


 屈託なく笑う彼に変な奴だなと思ったが、嫌な気はしなかった。

 思わずこちらも笑みがこぼれる。


「そうだな……考えておくよ」


◇


「ねぇ。延原君、ここ2・3日会社に来てないらしいんだけど、何か知ってる?」


 仕事がひと段落した休憩中、加奈ちゃんが尋ねてきた。


「そうなの?」

「うん。仕事だけはオンラインで完璧にこなしているらしいけど」

「珍しいね」


 ここ2・3日……。

 延原君にあの冊子を貸したのは、3日前――。


 胸の奥の染みが、じわじわと広がっていく。

 気がつくと、私は宮本部長のデスクの前に立っていた。


「部長。少し聞きたいことが――」


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