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メタル色の瞳  作者: 空蝉
26/30

26 男同士


 延原の家は、いわゆる『タワマン』だった。

 真ん中あたりの階でエレベーターを降り、彼の部屋へと向かう。


「一人暮らしですか?」

「もちろん」

「結婚するつもりで買ったから無駄に広いけどね」


 あははっ、と延原は少し肩を落として笑った。


「あー、小川さんは来たことないよ。安心して」

「別に何とも思ってませんよ」

「そっかー? 明らかに動揺してたけど?」


 延原はそう言いながら、面白そうに俺の顔を覗き込んだ。


「まぁ……正直言うと、何回か誘ったんだけどね。一度も来てくれなかったんだよ」


 そんな言葉を、苦笑しながらつぶやいた。


 話しているうちに部屋へと着いた。

 リビングに足を踏み入れようとして、俺は思わずギョッとして足を止めた。


 汚い!!


 部屋中が、本や紙類で溢れかえっている。

 隅には弁当の空き箱や空のペットボトルがまとめて置かれ、そこから異臭が漂っていた。


「うわぁ……何ですかこの部屋は。泥棒でも入ったんですか?」

「入ってないよ!」


 延原がムッとした顔をする。

 

(いやいや……やばいだろ、この惨状は)


 見かねて足元に落ちている紙を拾い上げようとすると、慌てた声が飛んできた。


「触るなよ! こんな状態だけど全部把握できてるんだから。片づけられたら、どこに何があるか分からなくなる!」

「本気で言ってます?」

「おう!」


 アンも片づけは苦手な方だが、ちゃんと生活能力はある。

 これは次元が違う。


(あんたら――結婚しなくてよかったと思うぞ)


 嫌味ではなく、本気でそう思った。

 もしこの二人が結婚していたら、どんな家が出来上がっていたのだろう。

 想像するだけで頭が痛くなってくる。

 

 延原が「何だ?」という顔でこちらを見てきたので、俺は思わず小さくため息を漏らした。


 当の延原は部屋の惨状などまったく気にしていない様子で、らんらんと輝く目で俺を見つめてきた。


「そんなことより!」

「はぁ……」

「これ、君の中のプログラムだよな?!」


 そう言って、彼は分厚い冊子を提示してきた。


 答えるべきか一瞬迷ったが、延原の様子に悪意はなく、ただ純粋な興味だけのようだ。

 信用したわけではないが、とりあえず話してみることにした。


「施設で見たことがあるので……たぶん、初期設定のプログラムですね」

「やっぱり!」

「何でそんなに嬉しそうなんですか……」

「楽しいに決まってるだろ! こんな精巧なプログラムが組み込まれたアンドロイドを目の前にできてるんだ。嬉しいに決まってる!」


 少年のように無邪気で隠しきれない興奮を向けられ、俺は思わず後ずさった。


「それより、何であなたがその冊子を持ってるんですか?」

「あー、小川さんが教材として使っていたのを借りたんだ」


 思わずビクッとし、目を見開く。


「何で彼女が?」

「宮本部長に『教材』として渡されたと言ってたぞ。まぁ、社内の持ち出しは禁止だから、家には持ち帰っていなかったみたいだけど」

「あなたは何で持って帰ってるんですか? 規則は?」

「『社内の物』は持って帰っちゃいけないけど、これは明らかに違うだろ?」


 そう言って冊子を持ち上げ、延原はニヤリと笑った。


(こいつ――興味を持ったらトコトン突き進むタイプか)


 施設との直接的なつながりはないのだろう。

 だが、あの宮本所長め……アンに余計なものを渡しやがって。


「それで? 何で俺を部屋にまで呼んだんですか」

「君の中のプログラムを、直接見せてほしいんだ」

 

 そう言って彼は、手作りと思われる解析装置を指さした。


(やっぱりそう来るか――)

 

 俺は思わず、二度目のため息をついた。


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