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メタル色の瞳  作者: 空蝉
3/30

3 拾い物


 始業の1時間前にオフィスへ着き、窓際の席で朝食代わりの栄養ドリンクをあおる。


(私、なにやってるんだろ……)


 昨夜、拾ってしまったアンドロイド。

 ……こともあろうか、一人暮らしの自宅へ連れて帰ってきてしまったのだ。


◇


「とりあえず臭いからシャワーでも浴びて。一人でできる?」

「……」

「もしかして無理?」

「……」


(……普通、質問には答えるはずなのに)


 彼は何も答えず、ただじっと私を見つめていた。

 彼からゴミ箱のドロリと重い腐敗臭が漂ってきた。

 少し悩んで湯船にお湯を溜め、ボディウォッシュを混ぜて泡立てた。


(これで、裸を直視しなくて済むかな)


「服を脱いで、この中に入って」


 指示すると、彼は言われた通り大人しく湯船に入った。

 改めて彼をじっくりと観察する。

 左頬から耳にかけてざっくりと切り裂かれていた。

 肩の傷は思った以上にひどく、皮膚が焼けただれたようになっている。

 髪も左側だけが焼けて短く焦げていた。


「じゃあ、まずこのタオルを右手に持って、腕からごしごしこすって……」


 ひとつひとつ指示を出すと、彼は素直に従った。

 全身をきれいに洗い流し、オーバーサイズの服を着せる。

 長ズボンは七分丈のようになり、長袖の袖口も腕の途中で止まっていた。


「寒くない?明日、新しいのを買ってくるよ」


 目の前に立つと、ちょうど目線の先に彼の喉仏があって、一瞬ギクッとした。

 思ったよりも、しっかりと男の人の体格をしている。


「そこの、丸テーブルの前の椅子に座ってて」


 彼は小さく頷くと、おとなしく椅子に腰掛けた。


「私、お風呂入ってくるね」


 お風呂から上がると、彼は一ミリも動かずじっと座っていた。


「ごはん、何か食べる?」

「あ、一人だから適当にしか作らないよ。今日はお酒飲みたいから、つまみ出すね」

「ビール飲む?私はこのブランドが好き。季節ごとに缶のパッケージが変わって楽しいの」

「あー灰皿……前、捨てちゃったんだよね。缶詰の空き缶でいっか」


 私は丸テーブルを挟んで彼の向かいに座り、一方的にひたすら喋り続けた。

 飲んだくれて、彼に絡んで、最後はテーブルに突っ伏して寝てしまった気がする。


 ……けれど、朝になって目が覚めると、私はなぜかベッドの上で寝ていた。

 彼は昨日と同じ場所で、じっと私を見つめていた。


 目が合った瞬間、猛烈な気まずさが押し寄せてきた。

 私はいつもよりずっと早い時間に家を飛び出してしまったのだ。


◇


「ほんと……何やってるんだか」


 誰もいないフロアで頭を抱えていると、不意に声をかけられた。


「小川?」

「宮本部長! おはようございます!」

「何か急な案件でもあったか?」

「え?」

「ん?」


 一瞬、沈黙が流れる。

 思わず部長の眩しい頭を凝視して、ハッと気づいた。


「あ! 今日……土曜日、ですね……」

「そうだよ……大丈夫か?」


 ガックリと肩を落とす私に、父親のような温かい気遣いの声をかける部長。

 思わずクスッと笑いが漏れてしまった。


「あはは、なんだか色々ありまして」

「まあ……困ったことがあったら、いつでも話聞くからな」

「はい。あ! そうだ部長、アンドロイドの皮膚サンプルって、この前このあたりにありませんでしたっけ?」

「ああ、試作品な。あの辺に転がってないか?」


 部長が部屋の隅にある廃棄用のダンボールを指さした。


「ありがとうございます! 見てみます」


 そう言って頭を下げると、部長は奥のデスクで仕事を始めた。


 私は廃棄箱をガサゴソと漁った。

 すると、いくつかの皮膚サンプルが出てきた。

 昨夜拾った彼の肌の色を思い出しながら、一番近い色のサンプルを数枚手に取り、こっそりカバンに忍ばせた。


(彼……ちゃんと家にいるかな?)




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