3 拾い物
始業の1時間前にオフィスへ着き、窓際の席で朝食代わりの栄養ドリンクをあおる。
(私、なにやってるんだろ……)
昨夜、拾ってしまったアンドロイド。
……こともあろうか、一人暮らしの自宅へ連れて帰ってきてしまったのだ。
◇
「とりあえず臭いからシャワーでも浴びて。一人でできる?」
「……」
「もしかして無理?」
「……」
(……普通、質問には答えるはずなのに)
彼は何も答えず、ただじっと私を見つめていた。
彼からゴミ箱のドロリと重い腐敗臭が漂ってきた。
少し悩んで湯船にお湯を溜め、ボディウォッシュを混ぜて泡立てた。
(これで、裸を直視しなくて済むかな)
「服を脱いで、この中に入って」
指示すると、彼は言われた通り大人しく湯船に入った。
改めて彼をじっくりと観察する。
左頬から耳にかけてざっくりと切り裂かれていた。
肩の傷は思った以上にひどく、皮膚が焼けただれたようになっている。
髪も左側だけが焼けて短く焦げていた。
「じゃあ、まずこのタオルを右手に持って、腕からごしごしこすって……」
ひとつひとつ指示を出すと、彼は素直に従った。
全身をきれいに洗い流し、オーバーサイズの服を着せる。
長ズボンは七分丈のようになり、長袖の袖口も腕の途中で止まっていた。
「寒くない?明日、新しいのを買ってくるよ」
目の前に立つと、ちょうど目線の先に彼の喉仏があって、一瞬ギクッとした。
思ったよりも、しっかりと男の人の体格をしている。
「そこの、丸テーブルの前の椅子に座ってて」
彼は小さく頷くと、おとなしく椅子に腰掛けた。
「私、お風呂入ってくるね」
お風呂から上がると、彼は一ミリも動かずじっと座っていた。
「ごはん、何か食べる?」
「あ、一人だから適当にしか作らないよ。今日はお酒飲みたいから、つまみ出すね」
「ビール飲む?私はこのブランドが好き。季節ごとに缶のパッケージが変わって楽しいの」
「あー灰皿……前、捨てちゃったんだよね。缶詰の空き缶でいっか」
私は丸テーブルを挟んで彼の向かいに座り、一方的にひたすら喋り続けた。
飲んだくれて、彼に絡んで、最後はテーブルに突っ伏して寝てしまった気がする。
……けれど、朝になって目が覚めると、私はなぜかベッドの上で寝ていた。
彼は昨日と同じ場所で、じっと私を見つめていた。
目が合った瞬間、猛烈な気まずさが押し寄せてきた。
私はいつもよりずっと早い時間に家を飛び出してしまったのだ。
◇
「ほんと……何やってるんだか」
誰もいないフロアで頭を抱えていると、不意に声をかけられた。
「小川?」
「宮本部長! おはようございます!」
「何か急な案件でもあったか?」
「え?」
「ん?」
一瞬、沈黙が流れる。
思わず部長の眩しい頭を凝視して、ハッと気づいた。
「あ! 今日……土曜日、ですね……」
「そうだよ……大丈夫か?」
ガックリと肩を落とす私に、父親のような温かい気遣いの声をかける部長。
思わずクスッと笑いが漏れてしまった。
「あはは、なんだか色々ありまして」
「まあ……困ったことがあったら、いつでも話聞くからな」
「はい。あ! そうだ部長、アンドロイドの皮膚サンプルって、この前このあたりにありませんでしたっけ?」
「ああ、試作品な。あの辺に転がってないか?」
部長が部屋の隅にある廃棄用のダンボールを指さした。
「ありがとうございます! 見てみます」
そう言って頭を下げると、部長は奥のデスクで仕事を始めた。
私は廃棄箱をガサゴソと漁った。
すると、いくつかの皮膚サンプルが出てきた。
昨夜拾った彼の肌の色を思い出しながら、一番近い色のサンプルを数枚手に取り、こっそりカバンに忍ばせた。
(彼……ちゃんと家にいるかな?)




