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メタル色の瞳  作者: 空蝉
24/42

24 求知


 定時後、あらかじめ予約しておいた社内の会議室で、一人教材を開いていた。

 しばらくするとドアが開き、延原君がやってきた。


「遅くなってごめん」

「ううん、こちらこそ忙しい時に呼び出してごめんね」


 お互いに仕事が忙しくなりつつある時期で、なかなか二人でまとまった時間を取ることができず、2月末になっていた。


「さて、始めますか」

「よろしくお願いします」


 まずは市販の教材を使い、自分で予習してきた部分を彼に見せた。

 そして、自力では解決できずに溜まっていた疑問を、一つずつ解説してもらう。


「ほんとにごめんね……全然分かってなくて」

「いやいや。初心者でここまで理解できてるなら、かなり頑張ってる方だよ」

「そうかなー?」

「うん。小川さんはコツコツ型だよね、ほんと」

「私はパッと直感で解けちゃう天才型になりたかったなー」


 そんな冗談を言い合いながら、和やかに勉強を進めていく。

 そしてついに、一番の難関である――宮本部長からもらったあの教材を開いた。


「これが、一番困ってるんだよね……」


 ガクッと肩を落としながら息を吐く。


「何? そんなに難しいの?」

「最初の方はまだ分かったんだけど、途中からどの専門書やサイトを見ても載ってない記述ばかりで……」

「ふーん……どれどれ――」


 延原君はその分厚い冊子を手に取ると、パラパラとページをめくった。


 だが途中でぴたりと手を止め、私が「分からない」と言ったページから食い入るように読み始める。

 読み進めるうちに、徐々に彼の目が大きく見開かれていく。

 まるで息をするのも忘れたかのように、冊子に釘付けになっていた。


「……延原君?」

「……」

「ねぇ、いったい何が書かれて――」


 いきなり冊子がパタンと音を立てて閉じられた。

 何の表記もない表紙と裏表紙を確認すると、延原君は興奮を隠しきれない様子で私を見た。


「なぁ! これ……どこで手に入れたんだ!?」

「え? あ……宮本部長が『良かったら勉強に使いなさい』って、年初めにくれて……」


 それを聞いた瞬間、延原君の表情が怪訝なものへと変わる。


「……宮本部長が?」

「ねぇ、その冊子がどうしたの? 何が載ってるの?」


 深く考え込む延原君の横顔を見て、胸の中にざわつきと不安が募っていく。


 答えを聞きたくて延原君を見ていると、彼は突拍子もないことを言い出した。


「ねぇ! これ、全部ちゃんと解読したいんだ! 数日間、僕に貸してもらえないかな!?」

「え……? でも――」

「ちゃんと解明できたら、小川さんにも分かるようにイチから説明するから!」

「あ、うん……数日なら。まぁ、しばらくは仕事が忙しくて勉強する時間もないし……」


(もしかしたら、彼なら―――)


◇


 アンが仕事に出てから、一通り家事を済ませた俺は、壁のカレンダーとにらめっこしていた。

 今日はおひな祭りだ。

 俺の『お姫様』のために、ちらし寿司とお吸い物でも作ろうか。


 買い出しに出かける準備をしていると、玄関のインターホンが部屋に響いた。


 モニターを覗き込むと、そこには延原伸の姿が映っていた。


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