24 求知
定時後、あらかじめ予約しておいた社内の会議室で、一人教材を開いていた。
しばらくするとドアが開き、延原君がやってきた。
「遅くなってごめん」
「ううん、こちらこそ忙しい時に呼び出してごめんね」
お互いに仕事が忙しくなりつつある時期で、なかなか二人でまとまった時間を取ることができず、2月末になっていた。
「さて、始めますか」
「よろしくお願いします」
まずは市販の教材を使い、自分で予習してきた部分を彼に見せた。
そして、自力では解決できずに溜まっていた疑問を、一つずつ解説してもらう。
「ほんとにごめんね……全然分かってなくて」
「いやいや。初心者でここまで理解できてるなら、かなり頑張ってる方だよ」
「そうかなー?」
「うん。小川さんはコツコツ型だよね、ほんと」
「私はパッと直感で解けちゃう天才型になりたかったなー」
そんな冗談を言い合いながら、和やかに勉強を進めていく。
そしてついに、一番の難関である――宮本部長からもらったあの教材を開いた。
「これが、一番困ってるんだよね……」
ガクッと肩を落としながら息を吐く。
「何? そんなに難しいの?」
「最初の方はまだ分かったんだけど、途中からどの専門書やサイトを見ても載ってない記述ばかりで……」
「ふーん……どれどれ――」
延原君はその分厚い冊子を手に取ると、パラパラとページをめくった。
だが途中でぴたりと手を止め、私が「分からない」と言ったページから食い入るように読み始める。
読み進めるうちに、徐々に彼の目が大きく見開かれていく。
まるで息をするのも忘れたかのように、冊子に釘付けになっていた。
「……延原君?」
「……」
「ねぇ、いったい何が書かれて――」
いきなり冊子がパタンと音を立てて閉じられた。
何の表記もない表紙と裏表紙を確認すると、延原君は興奮を隠しきれない様子で私を見た。
「なぁ! これ……どこで手に入れたんだ!?」
「え? あ……宮本部長が『良かったら勉強に使いなさい』って、年初めにくれて……」
それを聞いた瞬間、延原君の表情が怪訝なものへと変わる。
「……宮本部長が?」
「ねぇ、その冊子がどうしたの? 何が載ってるの?」
深く考え込む延原君の横顔を見て、胸の中にざわつきと不安が募っていく。
答えを聞きたくて延原君を見ていると、彼は突拍子もないことを言い出した。
「ねぇ! これ、全部ちゃんと解読したいんだ! 数日間、僕に貸してもらえないかな!?」
「え……? でも――」
「ちゃんと解明できたら、小川さんにも分かるようにイチから説明するから!」
「あ、うん……数日なら。まぁ、しばらくは仕事が忙しくて勉強する時間もないし……」
(もしかしたら、彼なら―――)
◇
アンが仕事に出てから、一通り家事を済ませた俺は、壁のカレンダーとにらめっこしていた。
今日はおひな祭りだ。
俺の『お姫様』のために、ちらし寿司とお吸い物でも作ろうか。
買い出しに出かける準備をしていると、玄関のインターホンが部屋に響いた。
モニターを覗き込むと、そこには延原伸の姿が映っていた。




