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メタル色の瞳  作者: 空蝉
21/37

21 気配


「えーっと……これは何?」


 ある土曜日の朝。

 いつものように煙草を片手に持ち、コーヒーを待っていた私の前に、小豆の入った温かいおかゆが置かれた。


「小豆粥。厄除けになるんだって」

「へー……」


 ロイドはお正月以来、どうやら季節行事にハマったらしい。

 ロイドが自分で色々調べて、ちゃんと準備をしてくれるのだ。


 正月明けには『七草がゆ』が出てきたし、先日は『鏡開き』もした。

 私の実家はあまり行事ごとをしない家だったため、『今を生きている』感じがして楽しい。


 そして今日はロイドの提案で、近くの神社へ『どんど焼き』を見に行くことになっている。

 目の前のお椀を覗き込み、ほかほかと立ち上る湯気を見つめていると、思わず顔がほころんでしまった。


「ふふふっ……」

「ん? なに?」

「ロイドとの思い出が増えていくなーって、思ったら嬉しくなっちゃって」


 私がそう言うと、ロイドは照れながら私を見て言った。


「俺も……嬉しい」


 そうして彼は私の向かいに座り、二人で小豆粥を食べた。


◇


 最近……アンが、すごくかわいい。


 出会った頃は、瞳孔の開き具合や熱反応を確認し、実際に肌に触れて脈拍を測り、彼女の感情を理解した。

 今では姿を見たり声を聞くだけで判別できるようになっていた。


 感情なんて触れなくても分かる。

 しかし不思議なことに『触れたい』と思う衝動は変わらない。

 ことあるごとに彼女に触れてしまうし、逆にアンから触れられると胸の奥が温かくなる。


 クリスマス、年末、年始……。

 今更だが、ハロウィンだって一緒にやりたかった。

 アンは季節の行事をするたびに、どんなに小さなことでも本当に嬉しそうに喜んでくれる。

 俺はただ、今のアンを楽しませたかった。


 不安や危険なんて……

 俺一人で抱え込んでいれば十分だ。


 たとえば……こんな話を、彼女に聞かせるわけにはいかない。


「君はどうして、彼女に近づいたんだ?」


 『どんど焼き』の帰り道。

 ショッピングモールで化粧室へ入ったアンを壁にもたれて待っていると、『宮本部長』と呼ばれる男が静かに声をかけてきた。


「別に……偶然ですよ」


 彼は年齢のせいか、あるいは職業柄のせいか、表情から感情が読み取りにくい。

 だが、まっすぐに視線を合わせると、その瞳孔の微妙な変化から強い『怒り』が読み取れた。


「あなたこそ……何の目的で、今俺に近づくんですか?」

「君の行動原理を知りたいんだよ」

「……知る必要がありますか? 俺のしたこと、知っているんでしょう? さっさと捕まえてスクラップにすればいいじゃないですか」


 一瞬、彼の中で怒りが膨れ上がったように見えた。

 だが宮本はそれ以上追及せず、俺の隣に立つと、同じように壁に背を預けて前方を見つめたまま言葉を重ねた。


「我々の研究には……批判の声も大きいし、強硬派もいる。

 だから『あれ』は事故として処理されたんだ」


 事故……?


「それに、君をスクラップにするとして……彼女はどうする? 何も知らないまま残されるあの子は……」


 宮本はおもむろにポケットから煙草を取り出して口にくわえたが、ここが禁煙エリアだと気づいたのか、煙草をギュッと手の中で握りつぶした。


「……あの子は寂しがり屋だ」

「……(知ってる)」

「彼女を利用しようとしているのか?」

「……俺にそこまでの機能はありませんよ」

「あの子は、君がアンドロイドだと知っているのか? 知らないのなら―――」

「知っています」


 宮本は俺の言葉に息を呑み、体を大きくこわばらせた。

 しばし絶句したあと、深く重いため息をついて左手で額を押さえた。


「……参ったな」


 宮本はそれきり黙りこくった。

 感情を殺した顔のまま、ただ前方を行き交う人波を見つめている。


「……彼女が戻ってきます」

「なぜ分かる」

「なんとなくです」

「なんとなく……そうか。また来る」


 そう短く告げると、宮本はそれ以上何も言わず、雑踏の中へ背を向けて歩き出した。

 居場所が知られてしまったのだ。近くに別の関係者が潜んでいる可能性も高い。

 ……けれど、アンの側を離れることなんて、今の俺にはどうしてもできなかった。



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