↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メタル色の瞳  作者: 空蝉
19/30

19 新年


 低い位置でお団子に結んだ髪に、房の飾りが揺れる椿の髪飾りを挿す。

 耳元には赤と白の水引ピアス。

 そして左手の薬指には、年末にロイドと一緒に選んだシンプルなペアリングをつけて――よし、完成!


「ふふっ」


 鏡に映る自分を見て思わず自画自賛していると、ロイドが横からそっと覗き込んできた。

 私が振り返ると、ロイドは左手で優しく頬を撫で、耳元に垂れたおくれ毛を指先でくるくるといじる。

 彼の左手薬指にも、私とお揃いのペアリングが光っていた。


「今日は少し雰囲気が違うね」

「初詣だしね」

「そんなものなの?」

「そんなものなの!」


「ねぇ。それよりどぉ?」

「ん……かわいい……」


 赤くなりながらそう呟くロイドを見て、胸の奥がくすぐったくなる。

 恋人と一緒に年末年始を過ごすなんて、人生で初めてのことだから、実は少し浮かれていた。



 せっかくの元旦だからと、電車に乗って少し離れた大きめの神社へと足を運んだ。


「人が多いね」


 そう言ってロイドは、混雑の中で小さな私を庇うようにしっかりと肩を抱き寄せ、人の流れに乗って前へ進む。

 たったそれだけのことで、私の頬は一気に熱を帯びて心臓がドキドキと騒ぎ出した。


(うわぁ……なんかすごく嬉しいけど、少し恥ずかしい!)


 身長差のせいもあって、完全に守られている感じがする。

 私を抱き寄せていたロイドの左手が、赤くなった頬にそっと触れた。

 その瞬間、ビクッと肩が跳ねた。ロイドも動きを止める。


「ちょっと……そんな可愛い反応されると、俺まで照れるんだけど」

「ロイドのせいだもん……」


(私たち、完全にバカップルだ……)


 ロイドの手の力が増し、ぎゅっと抱き寄せられる。

 思わず見上げると視線がぶつかり、二人で顔を見合わせてくすっと笑い合った。


 本殿の前でしっかりとお祈りを済ませ、そのままおみくじ売り場の方へ移動した。

 引いたおみくじを、二人で同時に開く。


「私は中吉だー! ロイドは?」

「吉」


 ロイドが後ろからすっぽりと包み込むように覗き込んできて、二人でおみくじを見せ合っていると、不意に前から声をかけられた。


「おや、小川さん?」


 ハッと顔を上げると、ニット帽を深めにかぶった同じ部署の宮本部長が、奥様と並んで立っていた。


 私が呼ばれたと気づいた瞬間、ロイドは私を守るように背後からぎゅっと抱きしめた。


「あ、宮本部長! あけましておめでとうございます」

「あけましておめでとう」


 あいさつしながら、思わず部長のニット帽に視線を向けてしまう。


「ははっ、頭が寒いからね」


 部長は気まずそうに、しかし気さくに笑った。

 私もくすくす笑いながら、ロイドをなだめるように彼の腕を小さくトントンと叩く。

 ロイドは私を抱える腕を緩め、そっと手を繋ぎ直した。


「デート中だったかな? 小川さんのそんな無防備な感じ、新鮮だね」

「そ、そうですか……?」

「ああ、すごくいい顔してる。で? 彼が噂の?」

「う、うわさ!?」

「そう。『会社に迎えに来る新しい彼氏にメロメロらしい』って、ちょっとした話題だよ」


 思わず顔が真っ赤になり、視線を泳がせた。


 「はっはっは!」と豪快に笑ったあと、部長は眼鏡の奥から、ロイドを観察するような鋭い視線を一瞬だけ向けた気がした。

 すると、隣にいた奥様が部長の腕を軽く引っ張った。


「若いっていいわねぇ。あなた、お邪魔だから行きましょう」

「おっと、そうだな」


 部長ご夫婦は仲睦ましく笑い合い、「また会社でな」と軽く手を挙げて混雑の中へ去っていった。

 私は慌てて頭を下げ、その背中を見送る。


 ふと見上げると、ロイドは去っていく部長の背中を、じっと険しい目つきで見つめていた。


「ロイド、どうしたの?」

「……いや、なんでもないよ」


 そう言うと優しい笑顔を私に向けて、握っていた手を離し肩を抱き寄せた。


「さ、帰ろうか」

「うん……」


 もう一度前を見ると、部長の姿はもう人混みの向こうへと消えていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。