19 新年
低い位置でお団子に結んだ髪に、房の飾りが揺れる椿の髪飾りを挿す。
耳元には赤と白の水引ピアス。
そして左手の薬指には、年末にロイドと一緒に選んだシンプルなペアリングをつけて――よし、完成!
「ふふっ」
鏡に映る自分を見て思わず自画自賛していると、ロイドが横からそっと覗き込んできた。
私が振り返ると、ロイドは左手で優しく頬を撫で、耳元に垂れたおくれ毛を指先でくるくるといじる。
彼の左手薬指にも、私とお揃いのペアリングが光っていた。
「今日は少し雰囲気が違うね」
「初詣だしね」
「そんなものなの?」
「そんなものなの!」
「ねぇ。それよりどぉ?」
「ん……かわいい……」
赤くなりながらそう呟くロイドを見て、胸の奥がくすぐったくなる。
恋人と一緒に年末年始を過ごすなんて、人生で初めてのことだから、実は少し浮かれていた。
せっかくの元旦だからと、電車に乗って少し離れた大きめの神社へと足を運んだ。
「人が多いね」
そう言ってロイドは、混雑の中で小さな私を庇うようにしっかりと肩を抱き寄せ、人の流れに乗って前へ進む。
たったそれだけのことで、私の頬は一気に熱を帯びて心臓がドキドキと騒ぎ出した。
(うわぁ……なんかすごく嬉しいけど、少し恥ずかしい!)
身長差のせいもあって、完全に守られている感じがする。
私を抱き寄せていたロイドの左手が、赤くなった頬にそっと触れた。
その瞬間、ビクッと肩が跳ねた。ロイドも動きを止める。
「ちょっと……そんな可愛い反応されると、俺まで照れるんだけど」
「ロイドのせいだもん……」
(私たち、完全にバカップルだ……)
ロイドの手の力が増し、ぎゅっと抱き寄せられる。
思わず見上げると視線がぶつかり、二人で顔を見合わせてくすっと笑い合った。
本殿の前でしっかりとお祈りを済ませ、そのままおみくじ売り場の方へ移動した。
引いたおみくじを、二人で同時に開く。
「私は中吉だー! ロイドは?」
「吉」
ロイドが後ろからすっぽりと包み込むように覗き込んできて、二人でおみくじを見せ合っていると、不意に前から声をかけられた。
「おや、小川さん?」
ハッと顔を上げると、ニット帽を深めにかぶった同じ部署の宮本部長が、奥様と並んで立っていた。
私が呼ばれたと気づいた瞬間、ロイドは私を守るように背後からぎゅっと抱きしめた。
「あ、宮本部長! あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとう」
あいさつしながら、思わず部長のニット帽に視線を向けてしまう。
「ははっ、頭が寒いからね」
部長は気まずそうに、しかし気さくに笑った。
私もくすくす笑いながら、ロイドをなだめるように彼の腕を小さくトントンと叩く。
ロイドは私を抱える腕を緩め、そっと手を繋ぎ直した。
「デート中だったかな? 小川さんのそんな無防備な感じ、新鮮だね」
「そ、そうですか……?」
「ああ、すごくいい顔してる。で? 彼が噂の?」
「う、うわさ!?」
「そう。『会社に迎えに来る新しい彼氏にメロメロらしい』って、ちょっとした話題だよ」
思わず顔が真っ赤になり、視線を泳がせた。
「はっはっは!」と豪快に笑ったあと、部長は眼鏡の奥から、ロイドを観察するような鋭い視線を一瞬だけ向けた気がした。
すると、隣にいた奥様が部長の腕を軽く引っ張った。
「若いっていいわねぇ。あなた、お邪魔だから行きましょう」
「おっと、そうだな」
部長ご夫婦は仲睦ましく笑い合い、「また会社でな」と軽く手を挙げて混雑の中へ去っていった。
私は慌てて頭を下げ、その背中を見送る。
ふと見上げると、ロイドは去っていく部長の背中を、じっと険しい目つきで見つめていた。
「ロイド、どうしたの?」
「……いや、なんでもないよ」
そう言うと優しい笑顔を私に向けて、握っていた手を離し肩を抱き寄せた。
「さ、帰ろうか」
「うん……」
もう一度前を見ると、部長の姿はもう人混みの向こうへと消えていた。




