18 年末
「はぁー……年末だねぇ」
年末特有の忙しさからようやく解放され、私は丸テーブルに肘をついて朝の静かな一服を楽しんでいた。
紫煙をふーっと吹き出すと、ロイドが淹れたてのコーヒーを運んできてくれる。
「はい、コーヒー」
「ありがとう」
ニコニコと笑顔で受け取ると、不意に後ろからギュッと抱きしめられた。
「ねぇ。そろそろ、俺のシャツ返して欲しいんだけど」
「えー、ロイドのシャツ着るの、好きなのに」
「……なんか恥ずかしい」
「そうなの? じゃあ、脱がせる?」
ダボついたシャツの胸元をちょんと摘まんでニヤッと笑ってみせると、頬をギュッとつままれた。
そして、耳まで真っ赤にしたロイドが言った。
「やめなさい! これから買い出しに行くんでしょ?」
「んー、残念! コーヒー飲み終わったら準備するね」
ロイドは私の向かいに腰を下ろし、慣れた手つきでノートパソコンを開く。
そして、照れくさそうに私から少し目を逸らしながら、自分の分のコーヒーに口をつけた。
アンドロイドの彼に飲食の必要はないのに、最近はこうして付き合ってくれるのが地味に嬉しい。
「ねぇ、煙草はやっぱり吸ってみない?」
「んー……ごめん。それだけは良さが分からないや」
「そっかぁ、残念」
煙草の味までは共有できなかったけれど、別に禁止してくるわけじゃないから良しとしよう。
人間だって好き嫌いは分かれるのだから。
「ところで……パソコンで何してるの?」
「ん? 投資の勉強」
「え!?」
思わず立ち上がり、ロイドの横に回って画面を覗き込んだ。
「待って……なんか、お金増えてない?」
「少しね」
(少し!?ロイドさん……元金の1.5倍になってませんか?!)
これはアンドロイドの演算能力があるから?
それとも情報収集能力とか?
昔から数が苦手で、投資をしようとすら考えたことがなかった。
そんな私からすれば、異次元の技だった。
「何か買いたいものでもあるの?」
「少しでもアンの負担を減らしたくて……」
「気にしなくていいのに。私のために家事してくれてるんだから」
「ううん。けど……いま、一つだけ買いたいものがあるんだ」
「何?」
私が尋ねると、ロイドは一瞬だけ言葉を詰まらせた。
そして、頬をほんのり染めながら、私を見上げて言った。
「……指輪」
(契約の代わりに私と彼を繋ぐもの――)
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が熱くなった。
私は後ろからロイドの首に顔を埋め、その肩を涙で濡らした。
どうか――
明日も明後日も、その先も……
こんな穏やかで温かい朝を、二人で迎えられますように。




