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メタル色の瞳  作者: 空蝉
17/37

17 愛


「あれはアンドロイドだぞ!」


 延原の苛立つような怒声が響き渡り、俺の身体が一瞬凍りついた。


「危険だ! どんなプログラムが組まれているか分からないんだぞ! 極秘の指令だって仕込まれているかもしれないんだ!」


 ……その通りだ。

 否定できない。


 俺の心拍数が跳ね上がり、内部の冷却ファンが激しく唸る。

 視覚センサーの奥で、涙腺の機能がエラーを起こしかけていた。


 俺は下を向き、必死にその衝動に耐える。


「決めたの」


 静かだが、凛としたアンの声が響く。


「それでも、彼と一緒に生きていくって」


 その言葉で、理解できないほどの感情が、身体の奥から一気に溢れ出す。

 全身が激しく震えた。


 これは――歓喜


 パッと顔を上げる。

 苛立ちを募らせた延原が、アンへ強引に手を伸ばそうとしているのが見えた。


 もう、黙って見ていることなんて出来ない。

 俺は思わず飛び出し、アンを庇うようにその身体を抱え込んだ。

 

「彼女は――俺のものだ」


 気付いたら、そんな言葉が思考を通り越して声になっていた。


◇


(俺……なんてことを言ってしまったんだろう――)


 俺はそっと横目でアンを見る。

 俺の視線に気づいた彼女が、こちらを向いて微笑んだ。

 彼女の頬はほんのりと熱を帯び、重なる手からは少し早い脈拍が伝わってくる。


 どうして? 『俺のもの』なんて、所有物のように扱ってしまったのに……。


 胸の奥が締め付けられて苦しい。

 彼女の温かい手をギュッと握ると、アンも優しく握り返してくれた。


「ただいまー。お腹すいたー。あ! おでんだー」


 自宅に戻ると、アンはそう言って嬉しそうに鍋の蓋を開けた。

 俺は、そんな彼女の背中に探るような声をかける。


「アン」

「ん?」

「俺は……アンドロイドだ」

「……うん」

「なのに『俺のもの』なんて言って、ごめん」


 振り返った彼女は、驚いたように目を丸くした。


「本当は、アンが俺の所有者であるべきなのに……」


 すると、アンの表情がふわりと蕩けるような笑顔に変わる。


「ふふふっ」


 そんな彼女を見て、俺は思わず聞いた。


「どうして……? アンドロイドの俺が、人間のアンを所有物みたいに言ったのに……」

「だって……『ロイド』だから」


 そう言って笑うアンの顔を見ていると、目元がみるみる熱くなり、涙があふれ出てきた。

 いくら制御しようとしても、止めることができない。


「俺……なんで泣いてるんだろう?」


 アンは優しく微笑む。


「さぁ……どうしてだろうねー」


 そう言ってアンは、ツギハギだらけの俺の身体をギュッと抱きしめてくれた。

 俺も必死で、ただただアンを抱き返した。


「アン……アン……」

「ん?」

「ごめん」

「謝らなくていいんだよ」


 胸が詰まって、声がかすれる。

 言わなければいけないことが、まだたくさんあるのに――


「何も……話せなくてごめん」


 そう呟くと、彼女は一瞬、動きを止めた。

 そして俺の胸に顔をうずめてつぶやいた。


「愛してるわ――」


「……俺も、愛してる」


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