17 愛
「あれはアンドロイドだぞ!」
延原の苛立つような怒声が響き渡り、俺の身体が一瞬凍りついた。
「危険だ! どんなプログラムが組まれているか分からないんだぞ! 極秘の指令だって仕込まれているかもしれないんだ!」
……その通りだ。
否定できない。
俺の心拍数が跳ね上がり、内部の冷却ファンが激しく唸る。
視覚センサーの奥で、涙腺の機能がエラーを起こしかけていた。
俺は下を向き、必死にその衝動に耐える。
「決めたの」
静かだが、凛としたアンの声が響く。
「それでも、彼と一緒に生きていくって」
その言葉で、理解できないほどの感情が、身体の奥から一気に溢れ出す。
全身が激しく震えた。
これは――歓喜
パッと顔を上げる。
苛立ちを募らせた延原が、アンへ強引に手を伸ばそうとしているのが見えた。
もう、黙って見ていることなんて出来ない。
俺は思わず飛び出し、アンを庇うようにその身体を抱え込んだ。
「彼女は――俺のものだ」
気付いたら、そんな言葉が思考を通り越して声になっていた。
◇
(俺……なんてことを言ってしまったんだろう――)
俺はそっと横目でアンを見る。
俺の視線に気づいた彼女が、こちらを向いて微笑んだ。
彼女の頬はほんのりと熱を帯び、重なる手からは少し早い脈拍が伝わってくる。
どうして? 『俺のもの』なんて、所有物のように扱ってしまったのに……。
胸の奥が締め付けられて苦しい。
彼女の温かい手をギュッと握ると、アンも優しく握り返してくれた。
「ただいまー。お腹すいたー。あ! おでんだー」
自宅に戻ると、アンはそう言って嬉しそうに鍋の蓋を開けた。
俺は、そんな彼女の背中に探るような声をかける。
「アン」
「ん?」
「俺は……アンドロイドだ」
「……うん」
「なのに『俺のもの』なんて言って、ごめん」
振り返った彼女は、驚いたように目を丸くした。
「本当は、アンが俺の所有者であるべきなのに……」
すると、アンの表情がふわりと蕩けるような笑顔に変わる。
「ふふふっ」
そんな彼女を見て、俺は思わず聞いた。
「どうして……? アンドロイドの俺が、人間のアンを所有物みたいに言ったのに……」
「だって……『ロイド』だから」
そう言って笑うアンの顔を見ていると、目元がみるみる熱くなり、涙があふれ出てきた。
いくら制御しようとしても、止めることができない。
「俺……なんで泣いてるんだろう?」
アンは優しく微笑む。
「さぁ……どうしてだろうねー」
そう言ってアンは、ツギハギだらけの俺の身体をギュッと抱きしめてくれた。
俺も必死で、ただただアンを抱き返した。
「アン……アン……」
「ん?」
「ごめん」
「謝らなくていいんだよ」
胸が詰まって、声がかすれる。
言わなければいけないことが、まだたくさんあるのに――
「何も……話せなくてごめん」
そう呟くと、彼女は一瞬、動きを止めた。
そして俺の胸に顔をうずめてつぶやいた。
「愛してるわ――」
「……俺も、愛してる」




