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メタル色の瞳  作者: 空蝉
16/30

16 不安


 クリスマスからの二日間、アンは『延原』という男との話を打ち明けてくれた。

 彼女はもう結婚する気がないこと。

 そして俺の存在とは関係なく、すでに二人の関係は破局していたのだと……。


 月曜日の朝。

 アンは俺の頬を両手でそっと包み、じっと目を覗き込んで微笑んだ。


「今日、ちゃんと指輪返してくるからね」

「……うん」


 そう言って見つめ返す。

 少し息が苦しくなって、訳もなく涙腺が緩みそうになった。

 俺の顔色の変化に気づいたのか、アンはクスッと小さく笑う。


「そんな不安そうな顔しないで」

「……」

「会社が終わってから返すつもりだし……不安なら、見に来てもいいんだよ?」

「でも……」

「会社出る前にメッセージを送るね」


 俺はただ頷き、出勤していくアンを見送った。

 腕の中から彼女の体温が消えると、急に部屋が冷え込んだような気がした。


 一人残された俺は、等身大の鏡の前に立つ。

 服を脱ぎ、じっと映し出された自分を観察する。

 一見すると、どこにでもいる普通の人間だ。


 しかし、左肩から首にかけて色の違う人工皮膚が継ぎ合わされ、左の頬にはわずかに縫い目が残っている。

 髪の色はアンが染めてくれたダークブラウン。

 眼鏡を外すと、黒目の色が薄く、白目の部分がわずかにメタル調の光沢を帯びているのが分かる。


 ――アンドロイド。


 たぶん、知識のある人間が見たら一目で分かるんだろうな。


 アンに出会った頃の俺は、思考プログラムで確認してから、表情や身体変化を作っていた。


 それがいつの間にかアンの言動に連鎖して、勝手に表情が変わり動悸がする。

 そして、その変化のあとに自分の思考が追いつく。


(さっきの胸の締め付けは『不安』だったのか……)


 『ロイドが笑うと嬉しいよ』

 『離れると寂しい』

 『一緒に料理すると楽しいね』


 アンはそんな何気ない一言で、俺に『喜怒哀楽』を教えてくれた。


 アンと離れたくない。

 ずっと傍にいたい。


 けれど、俺にはアンを自分のもとに引き留める権利なんてない。


 だってアンと俺の間には、正式な『所有契約』がない。

 そして――交わすことすらできない。


 そう思った途端、胸の奥がさらに強く、痛いほどに締め付けられた。


「……苦しい」


 俺は思わず、胸元で右手を握りしめた。


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