15 決意
明日から長期休みに入る、年内最終勤務日。
昼休み、私は少し浮き立った心で、職場の食堂で明日からの予定を立てていた。
ロイドと一緒に行きたいところや、したいことが山ほどある。
こんなにも心が躍っているのは数年ぶりだった。
そこへ、加奈ちゃんが声をかけてきた。
「栞……この前はごめん!」
そう言うなり目の前で、勢いよく頭を下げてきた。
「あー……ほんとマジで」
私はムスッとした顔で腕を組み、わざと冷たく答えた。
「ほんとーに……ごめんなさい!!」
加奈ちゃんの余計な一言のせいで延原君が出てきて、事態がややこしくなったのは事実だ。
だけど、結果的にはロイドと一歩進むことができたわけで……。
まあ、今日のところは機嫌がいいから許してあげよう。
「もう! 次はないからね!」
「うん。ほんとごめんね」
「もう分かったから顔を上げて」
「……正直言うとやっぱり心配だけど、栞が選ぶことだもんね」
私は加奈ちゃんの言葉に、ひとつ頷いた。
「決めたの、私。詳しくは話せないんだけど……」
「うん。それでいいよ」
優しい声に、私は加奈ちゃんを見つめ返した。
「だけど――いつか私のこと『友達』だって思えたら、その時は話してね」
驚いて目を見開くと、彼女は優しく微笑んでいた。
(ああ……私が誰にも本心を見せてないこと、ばれてたんだ。加奈ちゃんには敵わないな)
私はただ目を逸らし、苦笑するしかなかった。
◇
仕事帰り、延原君と待ち合わせ一緒に会社を出た。
周囲に話を聞かれたくなかったので、少し歩いて街灯が規則正しく並ぶ遊歩道のある川沿いまでやってきた。
「ごめんなさい。正月、ご実家には行けない」
そう告げて、延原君に指輪の箱を差し出した。
「あれを選ぶのか?」
「うん。私にとって、大切な人なの」
延原君は指輪の箱をじっと睨みつけたあと、顔を上げて私を強く見つめた。
「人……?」
「……」
「あれはアンドロイドだぞ」
(さすが天才プログラマー――やっぱり気づいたんだ)
「……知ってる」
延原君が驚きで目を見開いた。
「知ってて……知ってて『あれ』を選ぶのか!?」
「『あれ』って言わないで」
「しかもっ! ただのアンドロイドじゃない!」
「知ってる」
「危険だ! どんなプログラムが組まれているか分からないんだぞ! 極秘の指令だって仕込まれているかもしれない!」
延原君は私を説得し、諭すように言葉を重ねてくる。
私は彼の必死な言葉を、正面から冷静に受け止めていた。
「決めたの……それでも、彼と一緒に生きていくって」
「なんでそんなに……」
私の揺るぎない眼差しに、彼はハッとしたように問いかけてきた。
「栞。『あれ』にどこまで許したんだ……?」
「……」
「あいつと……あいつにっ――」
震える声を絞り出す延原君に、私ははっきりと答えた。
「抱かれたわ」
淡々と答える私に、延原君は声を荒げ縋るように言った。
「どうして……! 僕とは二年間一度も――っ!」
「長さじゃないよ」
「じゃあ……何でっ!」
「延原君が、私のこと……愛してないと感じたからだよ」
「そんなわけっ!」
「愛は……結婚することだけで、完結するんじゃないんだよ。きっと」
「……っけど!」
延原君が私の腕を掴もうと手を伸ばした、その瞬間――
後ろから力強い腕でギュッと守るように抱きしめられた。
「その辺にしてほしいな。彼女は――俺のものだ」
ロイドは私の手から指輪の箱をそっと取り上げると、呆然とする延原君の手に押しつけた。
「……延原君。ごめんなさい」
それだけを言い残し、立ち尽くす延原君を置き去りにして、私たちは二人で夜の街へと歩き出した。




