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メタル色の瞳  作者: 空蝉
14/43

14 異質


 僕は栞の目の前に指輪を置いたまま、カフェを後にした。


(必ず……正月に栞を実家に連れていく)


 彼女の病気のことを考えると、両親どころか親族全員の反対は避けられないだろう。

 今のこの社会において、少子化を打破するための出産は半ば義務であり、強要に近い。

 そんな時代に、子供を産めない女性と結婚するなんて不合理極まりない選択だ。


 今のご時世、誰も彼女を選びはしない。

 きっと彼女も、このまま一生独身を貫くのだろうと、どこかで高をくくっていた。


 けれど――見知らぬ男に肩を抱かれ、大切に守られている彼女を見た瞬間、頭が沸騰するような激しい嫉妬を覚えた。

 彼女はあの男を『ロイド』と親しげに呼んでいた。

 おまけに同僚の杉田加奈によると、二人は同棲しているらしい。


 ロイドとやらとも直接話をするべきだな。

 そう心に決め、栞のマンションへと向かった。


 するとマンション近くの通りで、ひどく慌てた様子のロイドとすれ違った。


(アンドロイド……!?)


 振り返り、慌てて彼の後を追いかけた。

 彼は必死の形相で、誰かを捜し回っている。


 息を切らしている……?

 しかし、瞳の奥には確かにGPSのインジケーターが光っている。

 アンドロイドであることは間違いない。


 だが、我が社で開発しているアンドロイドとはあまりにも異質だ。

 うちの製品はあくまで『機械』に過ぎない。

 これほど人間的な動作をし、感情を露わにして焦るはずがないのだ。


 『アンドロイドを人間に近づけすぎてはならない』

 

 業界における絶対的ルール。


 僕自身、プログラマーとして、発汗や発熱、呼吸、偽装脈拍などを、行動や思考ロジックと連携させないよう厳しく制御している。


 最近も別部署から生殖機能の追加申請が出されていたが、倫理的な問題から却下されたばかりだ。


 なのに、あれは――。


 思考に没頭している間に、ロイドを見失ってしまった。


 焦って探し回った先で、ようやく彼の姿を捉えた。

 彼は栞を見つけ出していた。

 栞は泣きながら、嬉しそうに微笑んでいる。


 同じ髪色をした二つの影が、静かに重なり合った。

 『ロイド』――あれは、なんだ……?


(これは――とんでもないことが起こってるんじゃないのか?)


 急速に血の気が引いていくのを感じた。


◇


 翌朝、目を覚ますと隣でロイドが眠っていた。

 本人曰く、スリープモードという状態らしい。


 彼の綺麗な髪にそっと触れ、その唇に軽いキスを落とす。

 なんだか照れくさくて、少しだけ頬が熱くなった。


 素肌の上に彼のオーバーサイズなシャツを羽織り、丸テーブルの椅子に腰かけて、いつも通り煙草に火をつけた。

 ふうっと紫煙を吐き出す。


「おはよう」


 目を覚ましたロイドが、ベッドから起きてきた。

 そして、いつものように尋ねてくる。


「コーヒー、飲む?」

「飲む」


 ロイドは私の姿を確認すると、不思議そうに首を傾けた。


「……なんで俺のシャツ着てるの?」

「なんとなく……」


 少し頬を赤くして答えると、ロイドは私の顔を覗き込んで揶揄うように聞いてきた。


「もしかして、それも『憧れ』だった?」

「……っもう!」


 気恥ずかしさに思わず目を逸らす。

 ロイドは、そんな私の頬に優しく手を添えて自分の方を向かせた。

 そして、静かに唇を重ねてきた。


 ――とても、幸せな朝だった。



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