52話 血の盟約と宝石
街とダンジョンを建設し始めてから、数週間。
今日は新たな旅立ちのため、重要な儀式の日である。
場所は、漆黒に包まれた城の大広間――
旅立つ事になる4名を囲むように、ヴァンパイア達の中でも優秀な精鋭が集まっている。
「レンディ様。準備万端、いつでも始められますぞ」
黒髪の守護者アルデバランが、落ち着いた雰囲気で開始を促す。
「それでは、旅立ちの儀式を始める……」
宣言と共に、マシロから聖杯とナイフを手渡されるマスター。
これから行われるのは……『血の盟約』と言われる――
マスターと、ヴァンパイアの絆を強化する儀式だ。
ダンジョンの領域内では、産みの親であるマスターを裏切ったり、殺そうとする事は出来ない。
しかし、領域外に出てしまうと……絆が途切れ、モンスターは野生化してしまう。その後の行動は、知能の低い魔物は本能にしたがって行動し、知能の高い魔物は理性によって、その後の行動を判断する事になる。
ヴァンパイア達は、非常に知能が高く、忠誠心も高いが……裏切られた場合のリスクは非常に高い。
そこで考えたのが、この『血の盟約』による絆の強化。
マスターの血の祝福を旅立つ者達に与えて、裏切られないように永遠の忠誠を誓ってもらう。
「旅立つ者達に、血の祝福を……」
特別に作られた、彫刻入りの綺麗なショットグラスサイズの器に、マスターの血が注がれ……周囲に血の匂いが広がる。
目が赤色に充血し、興奮するヴァンパイア達。
冷静なフリを保っているが、服を強く握りしめたり、息遣いが荒くなったりと、所々に興奮した様子が隠れ見える。
「シリウス、ベガ、スピカ、シャウラ。我らが主人に『永遠の忠誠』を。誓いと共に、盃を飲み干すが良い……」
順番に、マスターから盃を受け取るヴァンパイア達。
「「血の盟約と共に……我らが主人に、永遠の忠誠を捧げます!!」」
興奮した様子で誓いを宣言し、聖杯の血を飲み干す。
最初に血を与えたアルデバランの時と同様に、目が血走り……天にも昇る気分といった感じで、歓喜を顕わにするヴァンパイア達。
ハッキリと言えば、あぶない薬を飲んで、変な方向に狂ってしまったのかと心配する程の様子で、急に態度が変わってしまった。
普段は狩ってきた魔物などの血を飲んだりしているが、それとは比べるまでもなく、魂が震える程の別格の味らしい――
「ここに集まった他の者達にも、平等に儀式を行うチャンスがある。訓練を真剣に行い、自分自身の能力を高めるように」
「「我らが主人の為に!」」
マスターの言葉に……興奮した様子で、共に言葉を返すヴァンパイア達。
アルデバランの教育のおかげなのか、こちらが大丈夫なのかと心配する程の忠誠心――まるで、狂信者を増やしているみたいな感覚で、何となくやりすぎている感じはあるけど……切り札となる、ジョーカーのような存在。これなら領域外に送り出しても、安心して仕事を任せる事が出来そうだなぁ。
旅立つ者達は……ドッペルと共に活動をしたり、単独で様々な地方に赴いて、情報を集めながら資源・人材を確保してもらう予定だ。
いずれは、この世界を影から操れるような、そんな組織を作り上げていってほしいな。
◇
本拠地の近くにある、山頂の工房。
そこでは、煌めく物がどんどんと作り出されている――
それは特産とも言える『魔宝石』だ。
今日は工房に向かって、宝石の質を確認し、職人と混じって生産を行う日――
移動する最中にスキップをしたりして、 物作りが大好きなマスターは自然と笑顔が浮かんでいる。
「グレン。宝石の出来はどうだ……?」
「質の高い物は時間が掛かりますが、初級品であれば量産体制は整ってきました」
マスターの質問に、丁寧に答えるドッペルゲンガー。
グレンは最初期からの調査隊メンバーで、赤い髪色で火魔法が得意という特徴がある。安心して、重要な工房を任せておける、貴重な人材だ。
生産されているのは……土・火魔法を使った高温高圧法によって、人工で作り出される合成ダイヤモンドなど。筒状の物にグラファイトと食塩を入れて、宝石専用の密室の中で魔法によって作り出されている。
宝石は質によって分けられていて、神級・特級・上級・中級・初級の5段階で評価している。
膨大な魔力によって作られている宝石は、自然の物よりも色や形が綺麗で、加工もしやすい。さらに最近わかったのは、召喚するときに……素材として使う事が出来るという発見もあった。
魔宝石と魔核が合体し、通常召喚よりも能力が高いモンスターが産まれている。
財宝としての価値だけではなく、配下の強化にも役立つ事がわかって、需要がさらに高まってきている。現在は20名程で作っているが、魔法適正に応じて……どんどんと増員していく予定だ。
そして自然から採取した物や、生みだされた宝石は、そのままの形では……ただの石。
それを『光り輝く芸術品』とする為に、加工・細工をする宝石職人も増やしていかないといけない。コボルト達が頑張ってくれているが、まだまだ納得のいく作品が出来上がるまでは、時間が掛かりそうだ――
「よし。今日は実物を見ながら……簡単な彫刻を練習していくぞ!」
「わぅ。なんだか面白そうですね!」
檻に被せられた布を解き放ち、角ウサギの実物を、嬉しそうに見せるマスター。
「まずは粘土を使って練習してから、その後には宝石を実際に加工してもらうからな!」
「わぅ。思ったよりも難しそうですね」
コボルト達の様子を見回りながら、丁寧に彫刻刀などの使い方を教えるマスター。
ダイヤモンドとミスリルを合金した特別製の彫刻刀と、強靭な鋼よりも遥かに防御力の高い、アラクネの魔糸を使った手を守るグローブ。
前世を含めても……これ程の一品は見た事がない。という程の道具で、スムーズに彫刻を行っていく――
「よ~し。完成だぁ~! 名付けて……ウサギの歓喜のダンス!」
「わぅ。可愛いウサギが、まるで生きてるみたいです!」
デフォルメされた二匹のウサギ――
繊細に……骨格や筋肉まで計算されて、きれいに彫り込まれた宝石が、躍動感が溢れる様子で完成する。
マスターによって生みだされた芸術品は、工房に飾られる事となった。
芸術品を見て目を養い、更にやる気を出す職人達……。
こうして、新たな芸術に目覚めた職人が、どんどんと増えていくのであった。




