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第8章・人望と言う名の力

 ――ツグミは、渡された歌詞を見て考え込んだ。


「どうかな……それ」


「うーん、そうねぇ……」


 太一は唾をのんで判定を待つ。


「よっし! 合格!」


「ホ、本当ですか!?」


「上出来よ。やっとウチのバンドもオリジナル曲がつくれるようになったかぁ……」


 歓喜の声でツグミが息をつくと、頭にバンダナを巻いた男――隆二――が言った。


「作曲は俺に任せろ。タイチ、いい仕事をしてくれるな」


「い、いえそれほどでも……」


「タイチ。別に敬語で話さなくてもいのよ? 仲間なんだから」


 仲間。太一にとっては、その一言がどんな褒め言葉よりも嬉しかった――




「おっはっよ! ヨキ」


 月曜の朝。雛子は教室に入ると同時に、クラス中に聞こえるほどの大声で夜季に声をかけた。


「ヨキって学校にはちゃんと来るんだよね〜」


(声でけーんだよ、バカ……)


 周りの生徒がチラチラと二人の顔を見比べる。どちらかというと排他的な夜季と、性格は人なつっこいが白髪のせいで敬遠されやすい雛子。この二人の組み合わせはかなり奇異に見えるのだろう。


「今日から、あたしとミオちゃんも生徒会室でお昼食べることにしたからね」


 席について後ろを向き、にこやかに話しかける。


「……勝手にしろよ」


「もー、朝っぱらからテンション低いよ〜? 冷たいなぁ……」


 雛子はふくれっ面になるが、朝っぱらからやたらとテンションが高いのもいかなものか。


「んで、お昼食べ終わったら、映画に協力してくれそうな人探すからね」


「オレは一人見つけたからいいだろ?」


「だーめ! みんなでやるの!」


 この声で、またも周囲の視線が集まる。


(うるせぇな。もう)


 夜季はとにかく会話を終わらせたかった。好奇の視線から解放されたかった。


「全員参加だからね。ヨキ、わかった?」


「……」


 夜季は無視して机に顔を伏せた。が、会話終了を要求する合図は雛子には通じなかった。


「ヨキ〜、聞いてんの〜?」


 夜季の逆毛に手を突っ込み、もしゃもしゃとかき乱す。


「や、やめろ! バカ!」


「うひゃっ ゴメーン……」


 激しく雛子の手を払い、怒りの目で睨みつけると、ようやく雛子も大人しくなった。


 ――あの二人、なんかあったの? 仲いいね。


 そんな内容の話し声が、教室のあちこちから聞こえてきた。


 昼休み。生徒会室に、メンバーが集まる。


「ミオちゃん、小学生のころから演劇やってたって本当?」


「はい」


 いつもは男3人の部屋が、女子2人が入ったおかげで華やかだ。


「見たいな〜、小学校のミオちゃんの演技」


「昔の演技はちょっと……今見ると恥ずかしいです」


「ウチにビデオあるから、今度見る?」


 凛が口をはさむ。


「ホント!? 見たい、見てみたい!」


「ちょっと、兄さん……」


「照れなくてもいいのに」


 困った顔の壬織を凛がからかい、笑みを浮かべる。


 一方、雛子たちが盛り上がるほど、不機嫌で無口になるのは夜季と夕紫だ。いや、夕紫は別に不機嫌なわけでなくいつも無口なのだから問題はない。


 問題は、夜季だ。ここ数日、自分の思い通りにならないことばかりが続いているからだ。その元凶である雛子が楽しんでいるのが気にくわない。


(面倒くせぇ、とっとと逃げるか)


 会話に夢中になっている雛子に見つからないよう、夜季は静かに移動してドアを開ける。その時……。


「あっあの〜……」


 ドアを開けると、廊下に3人の女子が立っていた。学年章を見ると、いずれも2年生だった。


「映画つくってるのって、ここですか?」


「あぁ?」


「あ、ヨキ。その人たち中に入れて」


 夜季がイラついて睨みつけるとその生徒は一瞬おびえた表情になったが、部屋の中から凛の声がして安堵の色を浮かべた。


「失礼します」


 おずおずと足を踏み込む。


「リン、どしたの? この子たち」


「昨日、先生に許可をもらいにいったついでに、部活をしていた人達に声を掛けてみたんだ。興味があったら、昼休みに生徒会室に来てって」


「あの、私たちの部活って大会とかないんで……もしよかったら」


 一人がそう言うと、後の二人もよろしくお願いします、と頭を下げた。


「うひゃ〜、一気に3人も!?」


 雛子が目を丸くして驚きつつ、喜びの表情をつくる。


「おいおい、なんかゾロゾロ来たぞ……」


 夜季の声に反応して一同が廊下を見ると、さらに数人の生徒がやってくるのが見えた。中には男子もいるが、大半は女子だ。


「あのー、俺たちも映画、いいッスか?」


「私も……」


 その後も続々と数は増え、20人近い生徒が集まった。


「けっこうヒマな奴がいるもんだな」


 夜季も生徒会室に戻っていた。自分で探しに行く仕事をしないですんだからである。


 有志者たちを部屋の片側に集め、凛が前に出る。


「それじゃ、まずはリーダーからあいさつをもらおうかな」


 そう言って雛子の方を向くと、全員の視線がそっちに集まる。


「副会長さんがリーダーじゃないんだ」


「あの……髪の白い人?」


 ざわつく生徒達の前に雛子が立ち、オホン、と一つ咳払いをする。


「えーと、今回の企画はそもそもあたしが出したもので……リンはまぁ、いわば助っ人でして……」


(本人よりもいい仕事してるけどな)


 夜季は心の中で思った。


「今こうしてみんなが集まっているのも、あたしが提案したからなのであって……」


(おいおいおいおい……集めたのはリンの人望だろーがよ……)


 もはや怒るのを通り越して呆れてしまっている。


「まあ、とにかく! 毎年毎年地味ぃーな文化祭を、みんなの手で思いっきり盛り上げてやりたいわけでして! それと同時にこの素晴らしい小説・『神の唄う街』をもっと多くの人たちに知ってもらいたいわけで! そのためにみなさん、頑張りましょう!」


 おお〜、と感心する声が聞こえる。もっとも、雛子の本当の目的はこのどちらでもないのだが……それがわかるのは、まだ後のことである。

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